ふぶきの部屋

皇室問題を中心に、政治から宝塚まで。
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韓国史劇風小説「天皇の母」120 (考えてみればフィクション)

2013-07-12 07:00:00 | 小説「天皇の母」101-120

何っ!」

長官室の外まで声が聞こえた・・・かもしれない。ついでに机をバン!と叩く音も。

ついに懐妊かっ!」とカマクラの声が響く。

部屋にはカワグチ侍医長、フルカワ東宮大夫、タカギ女官長らが顔をそろえていた。

「そうか・・そうか・・・よかった・・・」

カマクラは今にも泣きそうな声を出す。誰にとっても感慨無量の筈だった。6年も待ったのだから。

しかし、明るい顔をしているのはカマクラ一人で、他の面々は厳しい顔つきで彼を見つめる。

「どうしたんだ?なんでそんな暗い顔を・・・?」

両殿下はベルギーに行かれるつもりです

東宮大夫の言葉にカマクラは一瞬「?」という表情をする。

両殿下?皇太子殿下の間違いだろう?ご懐妊されたんだから飛行機なんて乗るべきじゃない事は

男の私にだってわかる。宮内庁はそこまでして公務をしろとはいわんぞ」

違います。妃殿下がどうしても行きたいとおっしゃっているのです

たまらず女官長が口をはさむ。

カマクラはあんぐりと口をあけて、言葉を失った。

え?そんな・・・だって懐妊したんだぞ。皇孫殿下が生まれるんだぞ。そうなんだろう?侍医長」

ふられた侍医長は目線を泳がし、そして顔をそむける。

違うのか?」

「いえ、ご懐妊だと思います。ただ現時点では妃殿下の体調にはなんら変化もないという事で、いわゆるご自覚が

ないのです。また、現在7週目くらいかと思うのですが、まだ安心して発表できる段階ではございませんので。

非常に・・・その微妙な時期なんです。普通は10週目くらいまで気づかない場合もありますし。

せめてもう1週くらい経てば、エコー上ももう少しはっきりとその兆候が見えると思うのですが」

何が言いたいのかさっぱりわからん

カマクラは言い募った。

つまり」仕方ないのでタカギ女官長が続ける。

両殿下は何が何でもベルギー王太子殿下の結婚式に行かれるというのです

「それは無理だと言っている。あっちの慶事よりこっちの慶事の方が大事だろう。今回は皇太子殿下だけで」

ですから、妃殿下は承知されません・・・・と申し上げているのです」

さすがのタカギもカマクラの飲み込みの悪さに苛立った。

妃殿下は、ご結婚以来、中東訪問したきりで外国訪問をされておりません。その事にとても恨みつらみがあるのです。

フランスもドイツも行かせて貰えなかったと、それはそれはお怒りで。ヨルダンの国王葬儀は別ですが、

あの時はとんぼ帰りでした。それでも妃殿下はとても嬉しそうで・・・」

つまり、妃殿下は海外に行きたいと。懐妊しているがそんな事はお構いなくという意識なんだな」

全員、口をつぐんだ。

「ご自分の中に皇統が育っているというご自覚がないのか?」

「確かに検査で陽性反応もありましたし、エコーでも一応確認しましたが、妃殿下にしてみればお腹の中で

お子様が育っているという感覚がないのでございます。

自分には変わりがないから飛行機に乗っても大丈夫だと言い張るばかりで。もし、今度、海外旅行を中止させられたら・・・」

「されたら?」

・・・・死んでやると

カマクラはがっくりと椅子に腰をおろし、頭を抱え込んだ。

そこまでして外国に行きたい気持ちがわからん。というか、妃殿下に母性はないのか?殿下は何と?」

東宮大夫は首を振った。

マサコが大丈夫というならきっとそうだろうと

この時期に海外に出ても、飛行機に乗っても大丈夫なのか?」

侍医長は微妙な顔をした。

お勧めはしませんが、100%流産するのかといわれれば大丈夫な場合もあればダメな場合もあり。

そもそも流産は飛行機に乗っても乗らなくてもするときはしますので。私達は絶対にダメだとは言えないのです。

自己責任とでもいいましょうか。妃殿下に100%ダメだと言い切れるのかと迫られますと私としましても」

それに、ここで急にベルギー行きをやめたらまた「ご懐妊か」とい噂がたってしまいます。侍医としては安定期までは

秘密にしておきたい・・んですよね?」

タカギの言葉にカワグチは黙って頷いた。

今の時期が一番流産しやすい・・・という事はありますが、下手に騒がれたらまた・・・」

「ならどうすればいいのだ

カマクラは今度は怒りで机をたたく。

またも口をつぐむ全員。

カマクラは東宮職の戦々恐々とした顔つきにため息をついた。

結婚以来、東宮御所はすっかり変わってしまったという。誰もがマサコの顔色を見て行動するようになった。

それは夫である皇太子も同じで。皇太子自らが率先してマサコの言いなりになっているのだから、

他の職員が口を出せるはずない。

(ああまで気の強い女をお好みだったとは・・・・誰の影響なのか)と不思議に思うが、ふと思い当たる。

皇后だ。皇后の気の強さは並ではない。

だからこそ、民間出身と言われつつもここまで皇室で頑張ってこられたのだ。

しかし、皇后の強さは上昇志向によるもの。マサコ妃のそれは自分の殻に閉じこもろうとするマイナス面だ。

プラスかマイナスか・・・あの皇太子ならわからないだろうなあ。

そんな冷静に人を見る目があったら、今頃こんなていたらくは。

両陛下にご報告して・・・」

「それはダメです!」

言いかけたカマクラをタカギが遮った。

そんな事をなさったら、ますます状況が悪くなります。両陛下がこの事をお知りになったら、必ず両殿下をお止めになるでしょう。

そしたら妃殿下は何をなさるかわかりません」

「何をなさるって・・死ぬとかいうやつか?」

本当にそうなさりかねない怖さが妃殿下にはあるのです。信じて下さい。両陛下にはまだ・・・まだご報告しないで」

タカギの必死な形相にカマクラは言葉を失い、まじまじと見つめた。

どうやら東宮大夫も同じ意見のようだ。

カマクラは腕を組み、暫く考え込む。

この所の皇太子妃の「もしかしてご懐妊か?」報道は過熱気味だ。

理由は、マサコが太った事にある。

規則正しい生活をし、きちんと公務をやっていれば太る筈がないのだが、皇太子夫妻は夜型で間食も多いと聞く。

マサコは元々太りやすいたちなのだろう。

結婚当初こそ痩せていたが、それが元に戻ったという程度なのだろう。

しかし、マスコミはそれを「懐妊」と騒ぎ立てている。やれヒールの高さがどうのとか、お腹を隠すデザインの服を着ているとか。

それもこれも、国民が待ち望んでいる事だから・・・とおおらかに受け止められないのが皇太子妃の性格。

「プライバシーの侵害」といつも怒っているらしい。

ここで機嫌をそこねると、本当に何をしだすか。

わかった」カマクラは答えた。

両陛下への報告は12月。両殿下がベルギーに御立ちになってからにする。そしてベルギーへは侍医団を同行させよう。

あちらでのスケジュールは?」

はい。結婚式にご出席の他、プライベートでヂュルビュイという村に行かれる予定がありますが」

東宮大夫がノートを開いた。

その村には極力お出ましを控えるように・・・他に気をつける事は?侍医長」

飛行機の気圧は、しょうがないとして。とにかくお体を冷やさないようにしなくてはなりません。

刺激が強いものを召し上がるのも控えて頂きます」

わかった。では、その方向で・・・」

今の自分の判断が果たして正しいかどうか。それは・・・神のみぞ知る。

 

懐妊の兆候があったのが11月の下旬。

そして11月29日には、マサコの36歳の誕生日会見が行われた。

一見、普通の誕生日記者会見に見えたが、東宮職の気の使いようは並大抵ではなかった。

部屋の温度に気を配り、躓きそうなものが本当にないかどうか、入念に調べる。

東宮女官達はマサコの一挙手一投足に視線を配り、ぴりぴりとしたムードが漂う。

当の本人は、ベルギーへ行ける喜びで上機嫌のまま記者会見に臨んでいるのだが、

(何か変だ)と、マスコミは気づき始めていた。

マサコ妃が極秘に宮内庁病院に行ったそうだ)

(病気か?懐妊?どっちだろう)

(別に入院したわけじゃないし、病気なら侍医を呼ぶんじゃないか?)

(じゃあ、懐妊かも・・・・)

噂というのはこんな風に広がっていくものだ。その中にわずかな真実を掴めば、記者達は情報集めに動く。

すでに、東宮職内部にコネを持ち、情報を集めている新聞社があった。

それはアサヒ。そして国営放送・・・・

 

12月に入ると、慌ただしく皇太子夫妻は天皇・皇后へ出発の挨拶をした。

「懐妊」の「か」の字も報告しなかった。

二人はただただ早く日本の地を離れたかったに違いない。

そして12月3日。皇太子夫妻は真冬のベルギーへ旅立ったのだった。

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」119 (そりゃフィクション)

2013-07-10 07:00:00 | 小説「天皇の母」101-120

 ヒサシは娘達の不甲斐なさに、なぜ我が家には男子が授からなかったのかと神を(どの神かはわからないが)

恨んだ。自分には男兄弟が何人もいるのに。

マサコはまだ子供に恵まれない。これは絶対に皇室の「血」のせいだと思った。

しかし、セツコの男選びは?二股をかけられていたとは。全く。

本来なら孫の一人もいて、穏やかな老後を過ごしている筈が、いまだに娘達の尻拭いをさせられる。

娘など持つものではない。こんなにも手がかかるなんて。

女など、結婚して後継ぎを産むだけの存在なのに、その一つも果たせない皇太子妃。

やっぱり双子の片割れあたりにしておけばよかったのだろうか。

ヒサシの中にわきあがるマサコへの不信感。

 

普段はどんな事も察する事が出来ないマサコだったが、父が自分に向ける視線が厳しくなりつつある事は

わかっていた。

セツコも結婚の事で父を怒らせた。暫くの間、怒りの矛先はセツコに向いていたのでマサコはほっとしていた。

叱られないならまあいいと。でも、父の期待はレイコの婿に向けられている事を知ると、急に心がざわつきだす。

何でもセツコと同じ轍を踏まないようにと、レイコには外務省・オオトリ会を通じて国際弁護士を紹介したとか。

オオトリ会。外務省内にある新興宗教信者の集まりだ。

自分も以前、ここに出入りした事がある。父とオオトリ会の繋がりは深く、利害関係の一致というより

「信仰」ではないかと思う。

教義を聞いていると成程と思う部分も多いし、なぜ自分が今、このような理不尽な立場にいるのか

とてもよくわかる。全ては先祖からの「因縁」なのである。

「因縁」を断ち切る為には題目を唱え続けなくてはならないし、少しでも布教活動をして信者を増やさなくてはならない。

ただ自然の神を崇め奉る神道など、こちらの教えに比べると子供の「ごっこ遊び」に見える。

そもそも天照大神なんて存在するわけないのに、馬鹿みたいに賢所で毎日祭祀を行う神官達。

そして1年中、宮中祭祀に追われる天皇家はおかしいんじゃないかとすら思う。

マサコは新婚当初に伊勢神宮に行ったきり、足を向ける事はなかった。

結婚当初、「本当に神様なんていると思うの?」と皇太子に質問したら、当の皇太子は絶句していた。

そりゃあいるでしょう・・・」

本当に?どこにいるの?伊勢とか熊野とか色々神社があるけど、そもそも神道って偶像崇拝と同じよね?

そんなものをもうすぐ21世紀になろうとしている今も信じてやってるわけ?おかしいんじゃないの?」

そうなのかな。変・・なのかな」

絶対に変よ。本当に神が守る国だったら何で戦争で負けたの?」

これはいつも父が口にしていた事だ。 マサコはその世代の子供達の多くと同じように、太平洋戦争の事も

日本の立場があの時どうだったかについても、学んだ事がなかった。

学ばなかった代わりに父が教えてくれた。

日本が中国や韓国を侵略した為に戦争が起き、それに日本は負けたのだと。

だから日本はとても悪い国で、自分達がそんな国の国民である事を常に自覚し行動しなくてはいけないと。

常に自覚し、行動するとはどういう事か。

それは侵略された国の人達を思うという事だし、さらに自分は「多くの日本人とは違う」と思い込む事だ。

神道=神国日本。軍国主義の日本の象徴。

そういえば、いつかの総理大臣が「日本は天皇がおさめる神の国」と発言して大バッシングされたっけ。

国民主権の日本において「天皇がおさめる国」なわけないし、ましてや「神の国」だなんて、そんな言葉を聞いた

人達がトラウマに苦しむ事がわからないのだろうか。

いわゆる右翼の人達は本当にバカだと思う。

皇太子は、そんなマサコの言葉にうんうんと頷いて話を聞き、

でも、僕は神道の家の後継ぎだから、どんなに疑問を持ってもやらないわけにはいかないんだ。

両陛下も同じだと思うよ」

そんなの、やめちゃえばいいのよ。誰も反対しないわよ

いや、反対するよ。神社には神社庁というのがあって、天皇家はいわば総帥だから。マサコ、あのね。

僕はその神道の総帥の後継ぎなんだよ」

でもこの現代に無駄な事するのはおかしいわ。時間の無駄。何かを信じるなら自分にとって得になるものにすべきよ」

「それってなんだい?」

私の父が懇意にしているオオトリ会っていうのはね」

そこでマサコは自分の信じている事について話をしたのだが・・・おかげで、祭祀は「体調が悪くて」と休みがちになって

しまったのだが。そもそも、本当に信じる者であれば鳥居をくぐってはいけないのだ。

どんな宗教も、異教を認めるわけがなく。

それはともかくとして。

父がそのオオトリ会の教祖の親戚をレイコに紹介した事は、マサコにとって青天の霹靂というか、大変なショックだったのだ。

一見、そんな教祖の親戚より皇太子妃の立場の方が上に見えるが、父の肩の入れようは皇太子よりもそっちに見えた。

父は私よりもレイコが可愛いのだろうか。

レイコに期待し、レイコを大事にしている。

それを思うと、マサコは自分が「姉」である事を忘れてレイコに嫉妬した。

そのうち、セツコに子供が出来たら。その子が男の子だったら、父の愛情はそちらに向くかもしれず。

そんな事をほんの少し考えるだけでマサコの額には冷や汗が出てくる。

 

セツコの夫の不祥事には正直、ざまあみろと思ったけれど。

要領のいいレイコはさらっと手柄を奪っていくかもしれない。

マサコは一日も早く妊娠しなくてはならないと思った。

それを考えるにつけ、隣でへらへら笑っている夫が恨めしい。

 

そんな時に出てきたのがベルギー王太子の結婚話である。

ベルギー王室と日本の皇室の交友は深い。

当然、招待状が来る。そうなれば皇太子夫妻が出席する方向で行く筈だ。

葬式じゃない。結婚式だ。

本当に久しぶりの海外旅行なのだ。

それが正式発表になると、本当に海外旅行に行けるのだと小躍りする程嬉しかった。

ヨルダン国王の葬儀はすぐに帰って来たけど、今回は結婚式だ。

目出度い事だし、色々楽しい事があるに違いない。

東宮御所はいきなり、唐突に華やかなムードに包まれた。

慌ただしい結婚式出席の準備。皇太子妃の服や装飾品を選ぶ事。

マサコ自身はファッションなどにあまり興味はなかったが、女官達が嬉しそうにあれやこれや選ぶのを

見て、本人もとてもいい気持ちになった。

ただ、いつも自分の機嫌がよければ東宮御所も住みやすくなるという事実を、マサコは知ろうとしなかったのだが。

 

宮内庁では、マサコがきっちりと結婚式でプロトコロルに従って行動できるか否か、それが心配の種だった。

いまだに立ち位置すらきちんと守らない妃なのである。

ベルギーとの友好関係に水をさすような事になったら大変だ。

しかし、ここらで本当に外国に行かせないと何を言い出し、何をやらかすかわからない爆弾のような女である。

カマクラ長官は、東宮女官長にくれぐれも、マサコが逸脱した行動をしないように徹底して監視しろと

言うしかなかった。

 

季節は秋を迎え、やがて晩秋になろうとしていた。12月がくればマサコは36歳である。 

ヒサシの焦った顔が脳裏に浮かぶものの、やはり外国に行きたい誘惑には勝てない。

マサコは「懐妊」の二文字を心の中にしまいこんだ。

父の事はあとで考えよう。

そして、あと1週間程でベルギーへ・・・・という時である。

それは単に数値だった。妊娠反応に「陽性」が出た事。

確かに生理が遅れているような気がしたが、それはいつもの事であったし、特別体調が悪いとかそういう事はなかった。

いわゆる「つわり」もまだない。

この「陽性」反応はただの数値。全く自覚のない数値に他ならなかった。

しかし、東宮職はそうではなかった。

何度も「陽性」反応に目をこらし、それが夢ではない事を確認する。

いくら本人が「別に変った事なんかない」と言い募っても東宮大夫も女官長も

侍医団まで「いや、これは間違いなくご懐妊です。だるいとかめまいがするとか・・・微熱があるとかありませんか?」

と聞いてくる。

微熱といえば・・・確かにそんな気もするけど基礎体温なんか真面目にはからないし。

そもそももうすぐベルギーに行かなくてはならないのに、なぜ今「懐妊」なの?

「本当に?マサコが本当に懐妊したの?」

皇太子は珍しく声をうわずらせて言った。顔面に喜びがあふれている。

侍医はそんな皇太子に「いえ、まだはっきりとわかったわけでは。まだお喜びにならないでください。

詳しい検査をしなくてはなりません。まずはエコーを

うんうん。何でも早くやって下さい

正式に不妊治療を始めて、わずかな期間だった。それなのにもう結果が出るとは。

ちょっと待って。ベルギーはどうなるの

マサコの声は全然喜んでいなかった。

「もちろん、本当にご懐妊でしたら海外渡航はキャンセルに」

なんですって?」

マサコの目が医師をにらみつける。にらまれた医師達はびくっとして、思わず顔を伏せた。

待ちに待った懐妊だった。

日本で最も高度な不妊治療を施されている皇太子妃の懐妊は国民の希望の星だ。

医師団としても結果を出さなくては信用にかかわる事。

そんなあれやこれやの思惑の中。待ちにまった・・・いや、今まで一度も経験していない結果が出たのだ。

海外なんて言ってる場合じゃない。

マサコの睨みに恐れをなした医師団は

と・・とにかく、間違いかどうか。エコーで詳しく見てみましょう」というしかなかった。

皇太子はうきうきわくわくしながら、そしてマサコは不機嫌状態で宮内庁病院に極秘に行く。

とても子供が出来なくて悩んできた夫婦とは思えない、微妙な雰囲気が皇太子夫妻からは漂っている。

エコーの結果は。

はやり懐妊だった。まだ2か月の段階だったが、とりあえず「懐妊」は事実。

これから「つわり」も始まるだろうし、体調に変化が出てくるだろう。

おめでとうございます。ご懐妊です」

その言葉に皇太子は目を輝かせ「ありがとう」と答えた。本当にうれしそうだった。その表情に医師団もほっとする。

しかし、マサコの方はただただ呆然としているばかりだった。

「どうしたの?」

マサコが一言も発しない事に皇太子はちょっと不思議になって声をかけた。あまりの喜びに言葉を失っているのかも

しれない。

しかし、くるりと皇太子をみたマサコの表情は母になる喜びに輝いてはいなかった。

ベルギーはどうなるの

第一声はそれだった。

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」118(渾身のフィクション)

2013-07-04 07:00:00 | 小説「天皇の母」101-120

皇后の父が亡くなり、皇太子夫妻を始め、アキシノノミヤ、ノリノミヤもまた喪に服した。

しかし、それからわずか10日後のセツコの結婚式にマサコは嬉々として出かけたのだった。

本来は夫妻で出席する筈だったは、皇太子はさすがにまずいだろうとの判断だった。

結婚式なんですけど・・・」のマサコの申し入れに皇后は「せっかくだから行ってらっしゃい」と言ったのだが

普通はそれでも「辞退」するのが筋の皇室。

しかし、言葉通りにしか受け取れなかったマサコはお墨付きを得て、堂々と結婚披露宴に出席したのだった。

もっとも、会った事のない皇后の父親などはなから眼中になかったのだが。

 

披露宴において、マサコの服装が話題になった。

オワダ家側は何とも思わなかったようだが、対するシブヤ家ではみな、一様に眉をひそめる。

なんと、マサコは全身白づくめのスーツを着ていたのだ。

「花嫁じゃあるまいし、真っ白なんて・・・・・マサコ様ってそういう人だったのかしら」

「皇室の伝統なんじゃないの?」

などとひそひそと噂されるも、マサコは上機嫌だった。

なにせ、自分は皇太子妃なのである。数台の警備の車に守られながら超VIP待遇でホテルに入る時は胸が躍った。

両親も誰もかれもが自分に頭を下げて迎える。

みなの恐縮した様子をみる度に、心が震え、喜びで一杯になる。自分を見つめる両親も誇らしげだ。

そしてそれはセツコも同じだった。

姉の存在は、自分のステイタスを象徴するものであり、マサコの出席によって「セツコさんは皇太子妃の妹」という

いいようもない肩書を手に入れたのだから。

そんな「自分達一族だけ別格」オーラは会場全体に広がって、一部の人々をしらけさせた。

大学でもあまり友人のいなかったセツコ、就職するもあっさり挫折し「翻訳家になりたい」と結果的に「学校」に戻った彼女は

普通の学生たちからみれば「世間知らずで空気が読めない女」にすぎなかった。

マサコとよく似ていたのだ。

豪華な披露宴は女にとって最大の復讐劇だ。

ひそかに自分をあざ笑ったり、馬鹿にしていた学友どもに思い知らせるにはいいチャンスだった。

 

そんな幸せな時間からわずか1週間後、セツコは新聞の広告欄に載った女性週刊誌を見て

驚きのあまり、倒れそうになった。

わたしを捨てたシブヤさん 結婚おめでとう そしてさよなら」と大きな見出しが目に飛び込んできたからだ。

これ・・・どういうこと

セツコは思わず叫んだ。

朝から何を大きな声で・・と起きてきたケンジは新聞の広告を見るなり絶句してしまった。

どういう事。ねえ。これ、どういう事なの」

知らないよ。嘘に決まってるだろ」

嘘なの?本当に嘘なの?」

当たり前だって」

じゃあ、何でこの見出しなの?私の他に付き合ってた人がいるっていうの?」

・・・いなかったとは言わないよ。それは君だってそうだろ。お互い20歳やそこらじゃないんだから、色々あったさ。

きっとそれは、その中の一人が嫌がらせに書いたものだよ」

「お父様に言うわ

セツコは吐き捨てるように言った。ケンジは黙っていた。

 

週刊誌の内容は、ケンジがハーバード大に留学中、という事はすなわちセツコもハーバードにいた頃なのだが、

同じキャンパスで知り合った女性の手記だった。

彼女の学歴はケイオウ大出の才媛で、現在はキャリアウーマンとして働いている。

つまり、学歴だけはセツコとほぼそっくり・・・だったのだ。

話によれば二股をかけていたケンジはある時を境に連絡を絶ち、「鍵を返して」と言ってきたという。

ここで彼女は「相手は誰」と詰め寄り、セツコの名前がばれてしまう。すると彼女はあっさり「自分より皇太子妃の妹選んだのね」と納得し

別れたという。

セツコが怒ったのは、自分とほぼ同じ学歴を持つ同い年の彼女と二股していた事で、結果的に「皇太子妃の妹」という肩書が

結婚に至らせたという事実だった。

披露宴で散々、姉が堂々と「皇太子妃」として出席し、その恩恵に預かっておきながらこんな気持ちを持つのは矛盾に他ならない。

最初から互いに打算的な結婚だったのだと言えばそれですむ話なのだが。

それでも女としては・・・・そういうのじゃなくて、自分自身を愛してくれたのだと・・・信じたかった。

父があれだけケンジに問い詰めた時もセツコは杞憂だと怒ったではないか。

なのに、結果的には父の言う通になってしまった。

 

何て事をしてくれたの

東宮御所から直接の電話に驚くセツコに、マサコの声は恐ろしかった。

「びっくりしたわよ。東宮職でももう噂になってるし。みんな口に出さないけどきっとバカにしてるわよ。

ああもう・・・・もっと事前に身辺調査しなかったわけ?」

慰めの言葉よりも叱り飛ばす言葉の方が先で、セツコは押し黙った。

恥をかかされたのよ。私。この皇太子妃が。すぐに離婚しなさいよ。大体二股かける男なんてろくなもんじゃないわよ。

あんたも男を見る目がなさすぎ」

その言葉にかちんときたセツコは思わず「お姉さまに言われる筋合いないわよ」と言い返した。

彼も私も大人なんだもの、色々あったに決まってるじゃない。それはお姉さまも同じでしょう?もっともお姉さまのは

みんなもみ消したでしょうけど。こんな事で別れるわけないじゃない

さっき、ケンジが言ってたのと同じセリフを言ってしまった。

別れないわよ」とも。

 

俗称「コンクリート御殿」に呼び出されたのは、セツコ夫婦とケンジの両親、オワダ家側にはヒサシとユミコ、そしてレイコがいた。

ケンジの両親は憔悴しきって、まともに顔をあげられない状態だった。

つい先日まで優秀な息子が皇太子妃の妹を娶ったと鼻を高くしていたのに、今は見る影もなく、ただただ目を伏せているばかり。

ケンジ君、私があれ程身辺整理をしておけと言ったのに、これはどういう事なのかね

ヒサシの物言いは威圧的で、人を恐怖させる。

申し訳ありません。全部私の不徳の致す所です。悪いのは全部私です」

では週刊誌に書かれている事は全部本当だと思っていいんだね」

・・・・・まあ・・おおむね

おおむね?」

いえ、ほとんどそうです。でも誓って私はセツコさんを皇太子妃殿下の妹であるから結婚したわけじゃなくて、一人の女性として

好きになって・・・だから

そんな事はどうでもいい

ヒサシは声を荒げた。

「うちの娘が大恥をかかされた事に違いはない。そうでしょ?シブヤさん」

ケンジの両親は土下座せんばかりに頭を下げ続ける。

本当に申し訳ありません。息子の不始末は私達の責任で」

父はそういうのが精一杯。ここ数日でひどく痩せてしまった。母も狼狽し、目が真っ赤だった。

両親には関係ありません。全部私が悪いんです」

ケンジは両親を庇った。確かに過去の女性関係、二股を週刊誌に書かれた事は大恥であったけれど、なぜここに両親までもが

呼び出されるのか、彼にはさっぱりわからなかった。

そうだ。君が悪い。君が一番悪いんだ。しかし、君を育てたご両親にだって責任はあるだろう。なんせセツコはシブヤ家の嫁になったんだからね

そして鋭い目をケンジの両親に向けた。

息子さんの教育を間違えましたね。嫁の実家の権力欲しさに結婚を決めるというのはそちらの伝統ですか?」

なっ・・・なんて事を」

思わずシブヤ氏は叫んだ。

私達は何も存じませんでした。セツコさんとの結婚だっていきなり報告にこられて。知っていたら止めました」

ケンジの母は気丈にも言ってのけたが、ヒサシの「知らなかったですむと思っているのか」という恫喝の言葉に震えあがった。

それはセツコやレイコですら聞いた事のない物言いで、思わず「やめて」とセツコは言った。

お義父様やお義母様には関係ない事よ。私達の問題なの。私がいけなかったのよ

何て優しい娘だろう。お前は何も悪くないんだよ。私も、こんな事になって残念だよ。いいいい、家に戻ってくればいい

「そうよ。せっちゃん。ここは少し距離を置いて」

慰謝料は1億」

ヒサシはドスの聞いた声で言った。

一億?」

少なすぎるくらいです。何と言っても皇太子妃の妹に大恥をかかせたんですから。この事は皇太子妃もご存じだ。という事は両陛下の

耳にも入っているでしょうね。この件で妃殿下がお辛い思いをするかと思うと、私は胸をかきむしりたい程苦しいですよ。本来ならケンジ君、

君と刺し違えてお詫びするべき所、今はそんな時代じゃないから、金ですまそうとしているんじゃないか」

ケンジはがくがくと震え,額からは汗がたらたらと落ちた。「両陛下」と言われた途端に、これは本当に大変な事になったと

嫌でも自覚せざるを得なかったのだ。

私が死んでお詫びを」

シブヤ夫人は応接間の椅子から滑りおり、頭を床にこすりつけた。

息子の不始末は全て母である私の責任です。私が死んでお詫びいたしますから、どうかお許し下さい」

「やめないか」

シブヤ氏が止めたが夫人は土下座を続けた。

「うちに1億なんてお金、あると思いますか?私もシブヤ家の嫁です。婚家に恥をかかすわけには」

父さん、母さん、やめてください。責任は僕が・・・・オワダさん、いえ、お義父さん、確かに私はハーバードを出て医者になった。

世間一般から見れば裕福な方に入るでしょう。でも、そうはいっても1億なんてお金をいますぐ出せと言われても無理です。

私の給料から月々一定の慰謝料を払うという事でお許し頂きたい」

あなた、私と別れるっていうの?」

セツコは驚いて叫んだ。

「だって仕方ないだろう。事ここに至っては。君が悪いんじゃない。僕が悪いんだから」

嫌よ。何で結婚したばかりなのに別れなきゃいけないの?おとうさま、あんまりよ。私、最初は怒ったけど今は平気よ。

あの女、週刊誌に記事を売るなんて卑怯な真似した女には負けたくないわ。むしろ、あんな女にひっかからなくて

ケンジさんは幸いだったと思う。お願い、慰謝料なんて言わないで」

しかし、この結婚はお前だけのものじゃないんだよ。皇室にも関係があるんだ。皇室だよ、皇室。お前の大事な姉さまの嫁ぎ先だ。

お前の一件で姉さまが肩身の狭い思いをしてもいいのか?だったらあっさり被害者として別れてしかるべきじゃないか」

お姉さまの事なんて関係ないわよ。私の結婚よ。私の生活だわ」

一瞬、沈黙した。シブヤ夫妻はすっかり疲れ切って髪は乱れ、目からはぽろぽろ涙を流していたし、ケンジ自身ももうなげやりな

感じになっている。彼としては二股愛がここまでの騒動になるとは思っていなかったに違いないのだ。

時間を戻せたら・・・・それが今のシブヤ一家の切なる願いだった。

 

セツコはこう言っているが

ヒサシは居丈高に腕組みをしている。ユミコもレイコも口を挟む気力もなく呆然としている。

セツコさん・・・うちの息子を許して下さるの?でもそれではお可哀想です。ここはご縁がなかったことに・・・・」

「ケンジ君。外務省という所を知っているかね」

唐突にヒサシは言った。

君のような医者一人潰すのは何でもないんだよ・・・」

シブヤ夫妻の顔から血の気がひいた。そしてケンジはガクリと肩を落とした。

はい。おとうさん。私はどうしたらいいのでしょう

ヒサシはにっこりと笑う。

記事を書いた女を黙らせる事。二度とこのような事がないように。もし二度目があったらその時は」

はい

セツコの愛情に免じて今回は不問に付す。しかしね、これは貸しだ。大きな貸し。君はいつか借りを返さなくてはいけないよ」

ケンジは小さく「はい」と答えた。

 

コンクリート御殿を出た時、シブヤ夫人は歩けない程憔悴し、ようやく車に乗り込んだ。シブヤ氏も運転ができそうになかったし、

ケンジも呆けたような顔になっていたので、仕方なくセツコが運転する事になった。

セツコさん、許して。ケンジを」うわごとのようにシブヤ夫人は言い、セツコは返答に困った。

さすがに今回の父の態度に恐怖を覚えたのは娘であるセツコ自身だった。こんなにも怯えている義父母。そして夫。

セツコは正直どうしたらいいかわからなくなった。

フランスへ行こう。そういう話が来てた。暫く日本を離れたい。どうだい?」

ケンジはやっと言葉を発した。セツコに異存はなかった。今は父のもとを離れるのが一番かもしれない。

 

あなた、どうしてせっちゃんを別れさせなかったの

ユミコは不満げに言った。レイコは黙って両親の会話に聞き耳を立てている。

ヒサシは客が帰ったあと、普段着に着替えてどっかりとソファに腰をおろした。

今日ばかりはブランデーを飲みたい気分だ。

ユミコはせっせとチーズやアーモンドを出してやる。

あのままわだかまりなく夫婦を続けていけるのかしら

離婚なんて許せる筈ないだろう?戸籍を汚すなんて。どんな事があっても離婚なんてオワダの辞書にはない」

でも・・・」

大丈夫。あれだけ脅せばもう二度と浮気なんかしないさ。あいつだって自分の身が可愛いだろうし。

それに医者と弁護士は婿にもらっとくべきだというしな」

ヒサシは笑った。

レイコはひっそりと聞いていたが、自分の運命がわかったような気がした。

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」117(今やフィクション)

2013-06-28 16:30:00 | 小説「天皇の母」101-120

バブルがはじけて大分、時間が経っていた。

各地で続く大きな地震、大震災、噴火・・・加えて地下鉄サリンにサカキバラ事件・・・

今まで日本人が経験した事のないような事件の連続に、時が経つのも忘れる程だった。

そんな中で景気は緩やかに、そして静かに下り坂となり、蟻地獄のような穴にずるずると

落ちて行く国民は落ちて行く。

自民党は、そんな蟻地獄からどうやって這い出したらいいかわからなくなっていた。

なんせ地価は下がり、株価も下がり・・・・そのスパイラルは日々スピードアップしていくような

気がしたからだ。

オブチ政権の業績はあまり国民に正しく知らされる事はなかった。

赤字国債の発行による公共事業を増やす政策や、国歌・国旗法や男女共同参画、日米ガイドライン等、それなりに

評価されるものが多々あるのだが、彼の功績として後々有名になったのは

「ばらまき」と呼ばれた「地域振興券」だった。国民一人あたり2万円の商品券をばらまくもので、貰える方は嬉しいながらも

馬鹿にしていた人も多かったのではないだろうか。

それから、2000円札の発行である。沖縄の首里城の門や紫式部をデザインしたお札が来年発行になる・・・といっても

多くの日本人は「何で今さら?」と思ったに違いない。

正直、このころのオブチ首相のやる事なす事、すべて「ズレてないか」という意識があったのは事実。

多分にそれはマスコミによってつくられたイメージだったのだが、自分の事で精一杯の日本人はマスコミに巣食う

反日組織の介入に気づいていなかった。

そんなオブチ政権が何とか支持率アップに・・・・と考えた事が「マサコ妃の懐妊」だった。

36になろうとしているマサコにぜひ親王を産んでもらい、日本がもう一度「おめでたい景気」に沸いて欲しい。

そんな意識からだったろう。

それがカマクラ宮内庁長官らの思惑と一致し、政府あげての「プロジェクトチーム」が発足したのだ。

そこに名前を連ねたのがツツミだった。

しかし、高い不妊治療費はどこから出すつもりなのか?それには一切誰も触れない。

ツツミは医者としてやるべき事をやるだけだ・・・と思いつつも、湯水のように使われる費用の出所に疑問を持った。

 

プロジェクトチームを立ち上げられては皇太子夫妻といえども逆らえない。

渋々同意する。事ここに至ってもマサコには事の重要性がわかっていなかった。

マサコにすればフランスドイツに行けなかった事が「恨み節」として頭から離れなかったのだ。

そんな2月に、突如、ヨルダンのフセイン国王死去の知らせが届き、皇太子夫妻は急きょ葬儀に出席する事になった。

思えば、中東訪問時に世話になった国王で、それを思えばしんみりとする筈だったのだが、

久しぶりの外国訪問とあって、マサコは非常にうきうきしていたのだった。

「妃殿下、今回は葬儀ですから」と、回りは喪服を揃え、とにかく格式にのっとった支度をするのだ、

当の本人はにこにこと笑っている。

ただ一つの不満はすぐに帰ってこなくてはならない事だった。

出来ればもう一度ヨルダンで素晴らしく贅沢な接待を受けたい。マサコのもくろみはそこだった。

しかし、実際に行ってみると、とにかく退屈の一言でしかも回りはしんみり。

(当たり前だが)

観光もなく、マサコにとってはつまらない海外旅行にすぎない。

それでも行かないよりはましだった。

国王の葬儀に参加するだけでもいい・・・と思える自分が情けなかった。

その後、宮内庁は埋め合わせのように北海道公務のついでにスキー遊びを加えたり、四月には浅草観光なども

入れてくれたのだが、マサコの気はなかなか晴れなかった。

澱のように心の中にずしっとたまっている「懐妊」の二文字。

とにかくこれを果たさないと誰も認めてくれそうにない。

学歴とそれにともなう権力を後ろ盾にし、それだけを信じて生きてきたマサコにとって、どうしても理解できない

「懐妊」の二文字。

不妊治療を受ける度に敗北感がつきまとい、どうにもならない。

そう・・これは敗北だった。

自分は宮内庁と天皇に負けたのだ。そうでなかったらこんな嫌な事をする筈がない。

何よ。あなたは私を守るって言ったんじゃないの?なんでこんなにつらい事を強要するわけ?」

時々ブチきれて皇太子にあたってみるが、その度に皇太子はおろおろするばかりで要領を得ない。

でも子供がいないと・・・・」

どんな歴史ドラマでも女性が権力を得る為には世継ぎを産むというのは必須項目。

そんな簡単な歴史を知らないマサコは、自分が崖っぷちに立たされている事がわからないのだ。

しかし、皇太子は違った。仮にも生まれつき皇族である。

自分の母が「民間」出身であろうとも、地位を確立できたのは自分という「世継ぎ」を結婚直後に授かったからだ。

今まで、男系男子が継ぐという事に疑問を持った事はなかった。

自分は生まれた時から「世継ぎ」であり、天皇の孫であり、皇太子の長男であったから。

けれど、今、マサコが子供をなかなか授からない事で、そんな制度自体にちょっと疑問を感じ始めている。

皇室外交させてやると口説いたのはほかならぬ自分。

しかし、子供が出来ないばかりになかなか外国にいけないという事実。

自分がマサコにあまり愛されていない事はうすうすわかっていた。

この結婚は失敗だという事も。それでも皇太子はあっさりと彼女を斬って捨てる事などできなかった。

なぜなら、この一人の気の強い女性に執着したのはやっぱり自分なのだから。

あの時、天皇も皇后も弟も妹も親族みんなが反対していた。それを単独で押し切った・・・あの達成感たらなかった。

今まで弟に感じていたコンプレックスが一気に解消したような気がした。

キコよりも学歴が上で美人で金持ちの女性をめとった自分。

そしてマサコもまた日本一名家の長男と結婚するメリットを選んだのだ。それはわかってる。

だからこそ、自分達夫婦はこれからも「夫婦」でなければいけない。

やっぱり間違っていました・・・・とは絶対に言えないのだ。

マサコとてそれはわかって言っているのだろう。

あたる所が自分しかないならサンドバックになってやるしかない。

そこには皇太子としてのプライドもへったくれもなかった。

ただただ、現実を認めるのが嫌な自分がそこにいるだけだったのだ。

 

その年の梅雨時、皇后の父が亡くなった。

皇后は深い悲しみに打ちのめされた。

先年、母を亡くした時もそうだったが、自分が皇室に嫁ぐと決めた時の父の顔が忘れられない。

あの時、黙って私を見つめていたっけ。

ただただうろたえるばかりだった母の隣で、覚悟を決めたような・・・あまりにも厳しい父の顔。

それは娘の結婚が決まって喜んだり、ちょっと悲しんだりする普通の父の顔ではなかった。

あの日から、父は会社と自宅の往復しかしなくなった。

酒が好きだった筈なのに、クラブにもバーにも行かなくなり、他人との付き合いに慎重になった。

日本でも有数の大企業の社長なのに、ひたすら目立たぬように気を遣い、娘の名前を一切出す事もなく

孫が生まれてもすぐに会う事も許されなかった。

いくら民間人とはいえ、あんまりだ・・・と思う瞬間も多々あったろう。

ショウダ家にはショウダ家のプライドがあるし、歴史に誇りも持っている。ただ爵位がなかっただけだ。

でも、ついに先帝に目通りも叶わなかった。

唯一、ヒロノミヤ達が研究所に見学に来た時だけ。あの時の父の表情は本当に幸せそうだだった。

半生を娘の為に犠牲にした父の寂しい死だった。

葬儀には皇后、そして皇太子夫妻、アキシノノミヤ夫妻、ノリノミヤが出席。30日間の服喪に入る。

 

しかし・・・・

わずかその1週間後にセツコの結婚披露宴が行われ、皇太子妃が姿を現したのだった。

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」116(やりきれぬフィクション)

2013-06-20 10:40:00 | 小説「天皇の母」101-120

どうぞおかけに

サカモトはツツミを招き入れた。

宮内庁病院は古い。歴史があるといえば聞こえがいいが、時代から取り残されている感がいなめなかった。

先帝がいた時まではフルに活動していたが、どんどん機材は古くなり、建物も老朽化し、皇族方はみな

他の病院にかかるというのが現実だ。

しかし、産婦人科の分野ではまだ健在だった。

キコも宮内庁病院で産んでいるし、いずれマサコもそうなる筈だった。

「いやいや、本当に歴史を感じる建物ですね

とツツミは言った。運ばれてきたお茶。極上の玉露である事はわかるし、それが入っている茶器も一品物。

しかし・・・流行に乗り遅れているような?

アンティーク趣味があるわけではないツツミにとってはどうでもいい事だったのだが。

戦争で焼けてね。あの時はテルノミヤ様の出産があって・・・・東京に空襲があった時ですよ。防空壕でテルノミヤ様は

出産されました。その後、今の皇太子さまが生まれるときに改修中で・・・それから何も変わってないそうですよ。

皇族専用の病院でなくなったくらいでしたか。

ほら、ゴウヒロミ・・彼の娘はここで生まれたんですよ。格式は高い病院ですがね」

サカモトは軽い話で茶器をくるくると回した。

ところで」サカモトは続ける。

現在、ツツミ先生は非常勤でこちらにも関わって頂いていると思うのですが、もうすぐ正式に東宮職医師団の一人として

活躍して頂く事になるかと」

なるほど」

ツツミはちょっと嫌な顔をした。その表情を素早くとられたサカモトは頷く。

「お気持ちはわかりますよ。先年、基礎体温を出してくれと言っただけで逆鱗にふれた東宮職医師が結果的には辞表を

提出しました。妃殿下の度重なる無視とか、嫌味とか怒りとか・・・そういうのに耐えられなかったわけです」

基礎体温を測るなんて女性としては当たり前の事じゃないですか

それはそうです。しかし妃殿下は別な意識をおもちのようですね

世の中に一体どれほど不妊症に悩む女性がいると思っているんでしょう」

10人に一人・・・・」

いや、個人的には5人に一人、あるいは3人に一人だと私は見ています。表面化しないのは晩婚化の影響もあるでしょう。

今上の時代になってからディンクスという、結婚しても子供を持たない権利を主張する夫婦が現れた。

そして晩婚化が進み、少子化は歯止めがきかなくなる。みな、結婚しないから子供がいないと思っているが私はそうは

思っていません。一人産めば2人産みます。2人産めば3人産みますよ。でも、たった一人を産む事が難しくなっているのが

今の世の中なのです」

なぜなんでしょうね」

さあ・・・環境ホルモンとか言われていますが特定はできませんね。この空気中には有害物質がごまんとあるんですから。

日本は世界で唯一核を落とされた国ですよ。半世紀以上たってもその影響がないとはいえないのでは?」

「なるほど・・・・・」

「アメリカなどでは自閉症児が増えている事も報告されています」

なんと・・・・・」

自閉症児はその昔は親のしつけが原因とか言われていましたが、今は脳に機能障害がある立派な病気・・・障碍と

位置づけられています。しかしながらなぜ増えているのか・・・それはわかりません。でも、それは日本でも同じという事です」

日本でも増えているのですか?」

ええ、公にはされないでしょうが。ほら2年前に起こった例のサカキバラ事件を覚えていらっしゃいますか

覚えているも何も、いまだにあんな事件が起こった事自体信じられない思いで」

サカキバラと呼ばれる少年の脳にはわずかな障碍があった事が報告されています。自閉症・・・ではなく、アスペルガーという

名前の障碍にあたるわけです

「なんですか?それは」

さあ、私は専門ではないのでよくわかりませんが、もともと脳の発達段階で起きる障碍のようで、昔からあったそうですよ。

偉人の多くはこのアスペルガーだったと言われています。それがなぜ今、犯罪に結びついているのかはわかりませんが」

精神科の分野が今後発達しそうですな

「ええ。それはともかく、日本には不妊に悩む女性が多くいるのです。不妊検査にはパートナーの協力が絶対ですし、

その治療もまたしかりです。保険がきかないから費用だって莫大にかかる。それでも一縷の望みをかけて

不妊外来に通う夫婦は少なくない。私は、彼らの悩みも悲しみもとてもよくわかるのです。

ですから、日本で一番恵まれた環境で堂々と不妊治療が出来る皇太子妃がなぜ、基礎体温くらいで怒り狂うのかわかりません」

不妊検査を受けるまでがまた大変だったんですよ

サカモトはため息をついた。

結果的に妃殿下に問題があったわけですが、そうなったらそうなったでわめき散らして部屋に引きこもり・・治療がまた

さらにさらに大変で。妃殿下は学歴が全てと思っていらっしゃる。ハーバード大を出て外務省でご活躍されていた妃殿下には

子供を産めない自分を受け入れる事が難しいのでしょう」

なるほど・・・・・それはやっかいですな。あ、煙草を吸っても?」

「ええ」

ツツミはポケットから外国製のタバコをだし、火をつけた。

「高学歴の女はやっかいですか・・・」

プライドの高さは並大抵のものではありません。それが一旦傷つけられると100年でも200年でも恨みそうな勢いで。

私は精神科は専門外だと申しましたが、それでも妃殿下には何か精神的な問題があるのではないかと思っています」

というと?うつ病とか?分裂病のようなものですか?」

「さあ・・そこまでは。今までにない領域なんじゃないかと思う程ですよ」

サカモトはお茶をすする。タバコのいい香りが部屋に広がり鼻をくすぐる。

ツツミは正真正銘のエリート医師だ。

不妊治療の権威として日本中の女性の希望の星となっている。本人は全くきどらない人間だったのだが。

不妊治療はアメリカの方が進んでいる。その中でも顕微授精なる最先端の治療を施す事でも有名だった。

そんな妃殿下のお相手はとてもとても」

ツツミは苦笑いした。

「それに・・すでに治療に入っているんでしょう?」

ええ。排卵誘発剤を使っての治療を行っています。が・・これがなかなかうまくいかないのですよ」

まあ、すぐに結果が出るというものでは」

いや。それだけじゃありません」

サカモトの表情がこわばった。

「妃殿下は・・・喫煙と飲酒の癖がおありになるのです。通常、不妊治療の間は体の事を考えて、それらの事は

控えて頂くというのが常識です。しかし、妃殿下は全くお構いなしで。喫煙がどんなに妊婦に悪い影響を

与えるかわからないと何度申し上げても全く意に介さず」

要するに母親になる自覚がないなんでしょう」

ツツミはあっさりと斬って捨てた。

沢山の不妊になやむ 女性たちをみてきたツツミにはマサコの自己中心的な考え方には大きな反感を覚えた。

「しかしですね」

その表情をまたも素早く読み取ったサカモトが必死に懇願するように手をあわせた。

これは妃殿下の不妊云々の問題ではない。皇室の世継ぎに関わる話です」

「皇太子妃が産めないならアキシノノミヤ妃に産んでもらえばよろしいのでは?あちらは不妊じゃないみたいだし」

それが。産児制限されているようなのです

なんですって?」

思わず、ツツミは椅子から身を起こした。

信じられない。皇室って所は一体どんなしきたりがあるので?不妊の皇太子妃の為に弟は遠慮しろと?そういう話ですか」

・・・・・・

サカモトは黙った。

産める人間が産めばいい。そうでなければ少子化は止まらないですよ。まあ、私の所の患者でも、不妊症の女性が

目出度く妊娠した女性に対して意地悪をしたり、ひどく傷ついてうつになったりするケースはありますけどね。

でも、自分が産まないから弟も産むなって・・・そりゃあ。私は右翼じゃないですからね・・・正直、天皇家がどうなろうと

知った事ではありませんが、しかし、そちらにとって皇統を守る事は重大任務なんでしょう?

だったら産児制限なんかさせずに・・・」

そこでツツミあ「ああ」と頷いた。

それでやたら最近、雑誌に「女帝容認」記事が出るんですね。ちょっと待てよ。「女帝容認」というのは男系男子で2000年

繋いできた皇室の流れを変えるという事で、そうなったら皇室そのものの価値が変ってしまうという話ですね。

それくらい私にだってわかりますよ。そうか・・・それが狙いなんですね」

まあ、多分。両陛下がそこまで考えていらっしゃるかどうかわかりませんが。アキシノノミヤ家にも後継ぎは必要。

という事は一日でも早く皇太子妃にご懐妊頂かないといけないのです。どうか、ご協力を」

サカモトは深々と頭を下げた。

ツツミは煙草をけし、姿勢を正した。サカモトの熱意は十分に伝わって来たのだ。そして現在の皇室におけるおかしな

力関係も何となくわかった。

皇太子妃の妊娠がそこに風穴を開けるなら、やってみようではないか。

「わかりました。いつでもお声をかけて下さい。私はいつも待機しておりますから」

ツツミは自己の正義感からそう言ったのだった。

しかし、のちにその言葉を悔いる事になろうとは、その時は考えもしなかった。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」115(恐ろしい程フィクション)

2013-06-19 07:00:00 | 小説「天皇の母」101-120

マサコにとって妊娠など、どうでもいい事だった。

自分のような特別な学歴を持つ人間にとって、その「子供を産む」という誰にでも出来る事はしなくてもいいと思っていた。

優秀なDNAを残したいとは思わなかったのか? 普通の女性はそう考えるものだが、マサコにとって「子供」は

ある意味「トラウマ」になっている。

なぜなら、小さい頃から決してありのままの自分を認められた事がなかったから。

両親、とりわけ父にとって自分が「期待」であると同時に「失望」である事を十分にわかっていた。

まず、男でなかった事。父が考えるような優秀な成績をおさめる事が出来なかったこと。

そして父は「例外」を決して認めない事。

それでも小学校でデンエンフタバに編入したあたりから、自分だって多少は価値がある、父の期待に応えられる人間に

なれるのではないかと思った時期もあった。

自分なりに頑張って無理して、その結果、人間関係がぎくしゃくしてしまった事もあった。

父はある時から、しつこい程自分に寄り添ってくれるようになった。

高校生活に挫折しかかるとアメリカに呼んでくれたし、ハーバードにも入れてくれた。

論文の手伝いもしてくれたし、外務省にも入れてくれた。マスコミに華々しく紹介もしれくれた。

外務省では「オワダの娘」という事で、どれほどの恩恵にあずかったか。

今、自分が輝かしい「皇太子妃」という立場にいるのは全て父のおかげだ。

「将来、女性初の総理大臣になったかもしれない程優秀なマサコさま」というイメージを植え付けてくれたのも父だ。

それでも・・・と、マサコは悩む。

自分は父の「自慢の娘」たりえてない事に。

それはどうしてなんだろう。今も昔も自分はこれほど頑張っているのに、求められるのは次の段階そればかりだ。

気が付くと、一度も褒められていない。

そう。いつも「仕方ないな。任せろ」って言われて、いつのまにかストレスの元が消えているような状態。

それが父の愛し方なのだと思うようにしているけど、どこかで寂しい気がする。

自分が本当に子供を持った時にどのように接したらいいかわからなかった。

「愛する」という事がどんなものなのか、本当はわかっていなかったのだ。

 

マサコにしてみれば、皇太子妃になりたくてなったわけではない。

ナルヒト親王を愛しているか?と聞かれたら絶対に「違う」というだろう。

自分より学歴が下で背も低いしハンサムでもない。全く好みではない。

だけど、外務省時代、付き合う男性達とはどういうわけか「結婚」に至る前に終わってしまう事が多かった。

それが父の差し金であると知った時は、もうどうでもよかったのだけど。

好きで結婚したわけではない。そうしろと言われたから。

そりゃあ、おかげでいい思いもしているのは事実。

「世継ぎ」誕生を優先させて静養ばかりさせてくれる宮内庁。でもその下心が嫌だし、何で日本国内なのか?

自分は海外に行きたいのに。

ちゃんとやる事をやってるんだろうね」と父に睨まれた時、マサコは震えあがってしまった。

叱られてしまう。子供が出来ないと叱られるだけではすまないかも・・・・・

皇太子と寝室を共にする?しかも毎日?・・・・・・・もう生理的に受け付ける相手ではない。

だけど、それではいつまでたっても子供が出来ないのは明確。

 

それで。

仕方なくマサコは不妊検査を受ける事にした。

自然に任せもしていない事がばれたらそれはそれで大問題になりそうだったからだ。

(東宮職は知っていたかもしれないが)

マサコにしてみれば大変な屈辱だったし、敗北でもあった。

しかし、隠さねばならない事もあるのだ。

マサコの不妊検査に皇太子はほっとしたように笑った。彼もまた両親への言い訳探しに悩んでいたのだろう。

 

結果は予想もしていなかった。

「卵管狭窄の疑いが・・・・子宮内膜症などの既往はございませんでしたか」

医師にそう告げられた時、マサコのプライドは一旦めちゃくちゃになった。

卵管狭窄。

つまり不妊の原因は自分にあるというのか?

絶対に皇太子側に原因があると信じていたのに。

嘘よ。私が悪いんじゃないわ。原因はあっちよ。だって皇室って血が濃いんだもの。それで子供が出来にくいって

お父様だって言ってたわよ

マサコは思わず大声をだし、医師はちょっと後ずさる。

「皇太子殿下をお呼びしますか?」

ナースが心配そうに言った。診察室の前で座っている皇太子を呼んでどうするというのだ?

不妊の原因は自分にあるというのか?

「嘘よ。もう一回調べて。私が原因なわけないわよ。悪いのは私じゃない」

「妃殿下、落ち着いて下さい。妃殿下がお悪いのではありませんよ。結果がこうでも色々手をお尽くし致しますから」

手を尽くすってなに?私に不妊治療を受けろっていうの?」

「はい。妃殿下は日本で最高の医療を受ける事が出来ます。妃殿下が不妊を克服され、見事に親王を上げられれば

日本中の不妊に悩む女性たちの希望の星になります」

そんな事どうでもよかった。希望の星になんかなりたくない。

ただ、どんな馬鹿な女でもころころ子供を産む事が出来るのに、自分には出来ないという事実だ。

アキシノノミヤ家を見るがいい。

すでに二人も娘が生まれて、長女のマコは小学生に、次女のカコも幼稚園に入ってしまった。

あの夫婦が最初に子供を産んだのは結婚して1年目だった。

まるで犬や猫のようにあっさりと子供を産んだ・・・・・

それなのに、自分にはそれが・・たったそれだけの事が出来ないというのだろうか。

不妊治療には配偶者である夫の協力が不可欠なのです。皇太子殿下に事情をお話しし、これからの

対策を練りましょう」

ああ。たかが子供。でも皇太子にとって、皇室にとって「子供」は絶対必要条件なのだ。

その絶対必要条件を満たす事の出来ない自分。

努力をしてもどうにもならない体質。

マサコは呆けたように黙り込んだ。深い闇の中に沈んでいくような気がした。

 

本人の気持ちは別として。

結果が出た以上、宮内庁としても黙っているわけにはいかなかった。

すでに非常勤としているツツミにはぎりぎりまで待ってもらい、とりあえずマサコの気に入らない医者を

遠ざけ、独自の排卵誘発剤を使い、何とか妊娠へ持って行こうとしていた。

東宮医師たちは、マサコの逆鱗に触れて辞めて行かざるを得なかった医師の話はとうに伝わっているし

嫌いになると徹底的に意地悪をし、嫌がらせに走る皇太子妃を恐れてもいた。

だから、とにかく妃の機嫌をそこねないように、そっとそっと、秘密裡に事は進んで行ったのだ。

この頃から、マサコのアキシノノミヤ家に対する視線は冷たくなった。

小さなマコや可愛いカコが、天皇や皇后に「おばあさま」と甘える姿を見るのがひどく辛くなったのだ。

あの、小さな娘達は自然体で天皇や皇后に接するし、ノリノミヤを「ねえね」と呼んで全幅の信頼を寄せている。

時々はいたずらをして叱られることもあるが、二人は怯えるでもなく、わめくでもなく、一瞬だけしゅんとするけど

すぐに立ち直り、また笑顔を見せる。

そんな表情を見るのがひどく嫌だったのだ。

あまりにも自分が育って来た過程と違う。両親や祖父母や叔母まで入って、楽しそうに笑いあう・・・これが「家族」

皇太子もまた「伯父」なわけだが、マサコが嫌な顔をするので、そういう時はなるべく子供達に声をかけないように

してくれている。

でも、皇太子の「いいなあ・・・」というつぶやきを耳にした時、マサコの胸は本当に苦しくなった。

憎らしい。自分がこんなに憎らしいと思っている相手をみて、夫は「いいなあ」とつぶやいたのだ。

何がどうして「いいなあ」なのか。

幸せだと言いたいのか?キコ妃が子育てに疲れてやつれている姿が美しいとでもいうのか?

まとわりつく子供がうるさくてしょうがないのに、それが「いいなあ」なのか?

 

マサコの心の中の闇は深くなるばかりだった。

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」114(いかにもフィクション)

2013-06-12 10:00:00 | 小説「天皇の母」101-120

その年の3月、東宮御所の改築が終了した。

たった4年やそこらでの改築は例のない事だったが、東宮御所はバリアフリー化され、その費用には8億もかかってしまった。

それはひとえに、年老いたマサコの祖父、エガシラを迎える為のものであったのだが、

それでもヒサシは不機嫌な様子でイライラしていた。

国際司法裁判所への転任がマスコミに漏れた為になかなかうまく運ばない。

おまけにマサコがなかなか懐妊しない。

マサコの懐妊を望んでいるのは天皇だけではなかった。誰よりもをれを望んでいたのはヒサシの方だったのだ。

努力はしております

皇太子は会う度に意味のわからない微笑みを浮かべて照れたようにいう。

そして、その笑顔を見る度にヒサシは「馬鹿かこいつは」と思ってしまうのだ。

コウノトリはなかなか機嫌が悪くて」

皇族特有の間接話法か?それも馬鹿馬鹿しい。

皇族たるもの、コウノトリの機嫌をとってどうするというのだ?

せっかく不妊治療をしようという医者の言う事も蹴ったらしい。そうする事が男らしいとでも?

確かにマサコはわがままだ。わが娘ながら頑固で困る。

結婚に至るまでもごちゃごちゃと反抗し続けたが、やっと結婚したというのに、子供に恵まれないとは。

子供を産まなければ、男子を産まなければ自分の野望は半分も達せない。

そして子供のいない妃もまたみじめな存在なのだと、何度言い聞かせればいいのか。

「私は皇室外交をしに結婚したのに、なぜそれ以外の事を望むの?」

マサコの答えはいつもこればかり。

外務省という後ろ盾があってこそ「皇室外交」などというものが存在するのであり、マサコはその恩恵を

十分に受けた。もし、あのまま外務省にいたならそれも可能だっただろう。

しかし、今は皇室。

いくら回りを子飼いで固めようとしても一足飛びには無理だ。

宮内庁にはカマクラがいる。その他、保守派もまた多いのだから。

彼らが「世継ぎ」の誕生を望むあまり、皇太子夫妻に海外への道を閉ざしている事は確かだ。

だったらそれを「人権無視」だと訴えればいい、そして着実に「女帝」を認めるように社会に働きかける。

世の中はジェンダーフリー。男女雇用機会均等法がある。

女性も男性と同等の地位が保証されて当然の世の中なら、皇室のように男子のみに皇位継承権があるのは

男女平等の精神に反する。そのような旧弊で男尊女卑の皇室を責め続ければ、マサコも気が楽になるだろうと思い

海外のメディアを使い、大々的にキャンペーンを貼ってきた。

「不幸な妃」

「かごの鳥」

「閉じ込められた妃」などなどショッキングな文言を並べ立て、独身時代はあんなにも生き生きとして美しかったマサコが

結婚後は意気消沈している。それは「世継ぎ」のプレッシャーによる「本来の仕事である皇室外交」が出来ないからだ・・・と

そういえばいいのだ。

そこまでして助けてやっているのに、それでも不妊治療を拒むとは。

「しかし、殿下、このままお世継ぎが出来ないのは問題です。無論、我が娘の不徳の致す事とは思いますが」

「いえいえ。そんな

最近では男性にもいろいろ問題があって妊娠しにくいというような話も聞きますよ」

その言葉に皇太子はぽかんとヒサシを見つめる。

え?そうなんですか?」

ええ。昔はそういう事を調べるすべなどありませんでしたから、不妊は全部女性のせいだと言われていましたがね。

まあ、男がそういう状態になるのは大きくなってからおたふく風邪にかかった事がある・・・というような具合で」

「おたふく風邪ですか・・・小さい時にかかりました」

殿下、殿下がそうだと申し上げているわけではありません。ただ、殿下の叔父君も大叔父君方もお子様に恵まれなかった

という事実がございますし、まあ皇室の血というのは本当に古くて濃くていらっしゃるから」

皇太子は言葉を失った。一言も言い返す事が出来ない。

僕の責任かもしれないんですね

皇太子はうなだれた。隣のマサコはそれを慰める風でもなく、無関心といった感じで聞いている。

「マサコ・・いや、妃殿下、きちんと皇太子殿下にお仕えしているのですか。殿下の妻としての役目を果たす事こそが

妃殿下の御役目なんですよ」

はい。わかっています」

マサコは一応神妙な顔をして答えるが、それほど胸に響いているとは思えない。

とりあえず、調べてですね・・・一度はそういう検査とか治療とか、受けるべきでは?」

ヒサシの言葉に皇太子夫妻は顔を見合わせた。

「そうはいってもお父様、私はどうしても海外で仕事をしたいのよ。結婚してから外国へ行ったのって中東だけよ?

そんな約束じゃなかったじゃないの。この間のフランスはノリノミヤに決まって、その後のドイツもアキシノノミヤに

なったわ。宮内庁の奴、いやでも私達に海外に行かせない気なのよ」

それはどうにかするから・・・いや、しますから、早く世継ぎを」

お父様も宮内庁と同じなのね

マサコはぶんむくれにむくれてぷいっと横を向いた。そんな妻に頭があがらない皇太子。

それでも、その年はノルウェーからホーコン王太子とスペインのフェリペ王太子がやって来たので

マサコは上機嫌で接待役に回り、フェリペとは「熱い抱擁」まで交わしてしまったものだから、週刊誌にでかでかと

書かれる始末。

週刊誌を全部買収出来るものではない。どうしてこうも行動が軽いのか。こっちは尻拭いしてやっているのに。

「私だってね、殿下。孫の顔が見たいのですよ。両陛下にはすでに2人もお孫様がいらっしゃるが、こちらはまだ一人も。

そういう親心をもわかって頂かないとね」

はい・・・・」

皇太子は曖昧に答えた。

そんな婿を見、てヒサシはさらに苛立つ。この男は皇太子という地位を抜いたら何にも残らない。

頭も悪い、見た目も悪い・・・自分が女でもこんな男は嫌だと思う。

しかし、彼が持つたった一つの「皇太子」という肩書は何者にも代えがたい価値がある。

その血を受けた親王を自分の手にする為には、エレファントマンとだって寝るさ。

下世話な事を考えつつヒサシはマサコをにらみつけた。

睨まれたマサコはふてくされたようにぷいっと横を向いた。

 

問題なのはマサコの事だけではなかった。

セっちゃんが結婚したいっていうのよ」とユミコが切りだしてきたのだ。

結婚?誰と?」

「シブヤっていう人よ。ハーバード大で知り合ったんですって。お医者様なの」

ハーバードか・・・・それならまあ・・しかし、医者とは」

「医者はダメなの?」

ダメじゃないが・・・権力者に必要な3人の友人のうち二つは弁護士と医者だ。その一人がセツコの夫だと

いうならそれはそれでいいさ。要はどんな医者かという事だ。勝手に決めおって」

「だってセっちゃんだっていい歳よ。一々親に言わないでしょ

あいつはどうもつかみどころがない。従順でもないし反抗的でもない。自己主張がないように見えて突如

こういう事をやらかす」

やらかすなんて。おめでたい事じゃないの」

ユミコは何が不満なの?という顔をする。

セツコは帰国子女枠でどうにか東大に押しんだものの、当時から男がいた。ハーバードに留学したのはいい。

その後、ホンダに勤めたのにちょっと叱られたくらいですぐにやめ、突如「翻訳家になりたい」などと言い出す始末。

そしてまた東大に入りなおすという・・・何とも奇妙な人生を歩んできた。

どこか気まぐれで飽きっぽくてとりとめのない。そんな娘が結婚?

レイコにはこっちから相手を探さなくちゃならんな

ヒサシはぼそっとつぶやいた。

 

数か月後、ニューヨーク在住のシブヤケンジがセツコと共にオワダ邸にやってきた。

年齢はほぼ30.なかなかハンサムだし、仕事も出来そうだ。

お父さん、セツコさんを頂きにあがりました」

型どおりの挨拶。しかし、ヒサシはこの男が「皇太子妃の妹」という娘の立場に目がくらんでいる事を

すに察した。

身辺整理はすんでいるのかね」

「お父様!」

セツコが声を荒げる。せっかく目出度い報告をしに帰って来ているのにいきなりそういう言い方をするなんて。

ケンジさんは清廉潔白な人よ。いい人なんだから。ハーバードを出てお医者様でこれからだってアメリカに住むわよ。

何が不満なの?」

男というのもは30年も生きていれば色々あるさ。なあ?シブヤ君

は・・・はい」

シブヤは冷や汗をかいている。

娘のどんな所が気に入ったのかね

はい。非常に頭のいい人で賢くて何でもはきはきものを言う人で」

「皇太子妃の妹・・・」

ヒサシの呟きにシブヤは黙った。

何よ。お父様。どういう意味よ。お姉さまの事は関係ないでしょ。ケンジさんはそんな人じゃないわよ」

セツコは叫んだがヒサシは意に介さない。

セっちゃん。少し落ち着きなさいよ。別にいいじゃないの。あなたがまーちゃんの妹っていうのは事実なんだから」

「そんな。私がそれしか価値のない女だっていうの?」

とにかく」

ヒサシは遮った。これ以上無駄な会話はしたくない。

身辺整理を」

セツコの幸せ・・・というより、オワダの為にヒサシはそういったのだった。あとは彼がどこまで自分達の味方に出来るか。

弱みを握らなくては・・・・と。

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」113(毎回フィクション)

2013-05-30 07:00:00 | 小説「天皇の母」101-120

ノリノミヤの結婚話がまたもダメになってしまった事に、天皇も皇后もいたく失望していた。

確かにノリノミヤは美人ではないし、才気煥発というわけでもない。

けれど、親孝行で優しく、非常に頭のよい娘である。何よりも天皇の娘なのだ。

どんな名家にだって嫁げる資格を持っているし、夫となる人間は光栄と思うだろう。

それなのに、ことごとく断られてしまうのだ。

みな一斉に「とても内親王殿下をお迎えできるような家ではございません」と言い出す。

五摂家ですらそんな言い方をする。

なぜ?

これはある種の報いなのだろうか・・・・とは思いたくなかった。

皇太子は皇太后の実家に連なる娘と見合いをした。彼女は東大を出て医学部を目指す

非常に優秀な娘だった。また旧皇族の娘であるので、しつけや礼儀も完璧。

聡明な彼女は皇太子との縁組を「運命」と思い、受け入れる気持ちでいた。

しかし、そんな彼女を皇太子は無下に断ってしまったのだ。

ただ一つの欠点、彼女は美人ではなかった・・・・という一点において。

あの時、自分の息子がそんなに相手の容姿に拘る方だとは思っていなかったから

意外だったのだが、それだけオワダマサコへの執着が強かったのだろう。

けれど、断り方が問題だった。

あの時は大方決まりかけていた時に、再度マサコの登場となってしまったから。

多分、その後は旧皇族・旧華族連中に皇太子の「断り」のうわさがとんだ事だろう。

それについて、反応は目に見えている。

民間妃の息子のくせに、旧宮家の姫を断るなんて何様なのか」に違いない。

自分達が提唱してきたリベラルな考え方、「個人主義」「自由恋愛」等は今の時代、当たり前になっている。

なのに、いまだ彼らは自分がミチコを妻に迎えた事を許してはいないのか。

皇太子の結婚がことごとく遅れた事、ノリノミヤの結婚が決まらない事・・・全てが連動しているように見える。

でも、天皇としてはそれを認めるわけにはいかなかった。

自分達が結婚した事は間違っていない。

自分達が民主主義憲法下でやってきたことも。

旧皇族・旧華族らの何と意固地な事か。 時代が動いているのがわからないのだろうか。

 

今の天皇にとって唯一の慰めは、アキシノノミヤ家の孫達だけだった。

昔は色々問題児扱いされていたアヤノミヤが、結婚後はすっかり模範的な皇族になっている。

若いうちに悩んだ方が、いずれ成長するという見本のようなもの。

そういう意味では自分達は皇太子を甘やかしてきたのかもしれない。

自分達の心の中に「不憫」という二文字がなかったといえばうそになる。

元々が「共感する」という気持ちに乏しいヒロノミヤは、時々人を傷つける事を平気で言うし、

どことなく独りよがりの部分もあった。

それを正そうと皇后は心を砕き、細かすぎる程の育児法を側近に伝え、それが「ナルちゃん憲法」と呼ばれた。

あの「ナルちゃん憲法」は今思えば皇后の不安の裏返しだった。

最初の子で世継ぎだったからというだけでなく・・・・・

今、皇太子に子供が出来ないのも、一つの運命なのだろうか。

 

マコが卒園の挨拶に両親と参内してきたのは、3月。

卒園おめでとう

天皇も皇后も相好を崩す。

マコはにこにこ笑って「ありがとうございましゅ」と答えた。

きちんとお辞儀も出来る。ちらちらと大好きなノリノミヤに目配せしながらもちゃんと挨拶をするのだ。

小学校に入ったらお友達が増えるわね

皇后が優しく声をかけるとマコはぴょんぴょん飛び跳ねて「お友達沢山いるわよ、おばあさま」と言った。

さあ、ねえねと遊びましょう」

ノリノミヤはマコの手をとって別室に入っていく。

その様子を天皇は何とも言えない表情で見送った。

ノリノミヤにもあれくらいの子がいてもいいのになあ

陛下

皇后も頭を下げる。娘が可哀想で仕方なかったのだ。

断られた話を知っているアキシノノミヤ夫妻も黙っていた。

誰かいないかな。旧皇族や旧華族でなくてもいいのだがね

宮は「私が主催している「さんまの会」に顔を出すように言っているのですが、なかなか足が向かないようです」

宮様は奥ゆかしい方ですので、男性と気軽にお付き合いをするというタイプではございませんし」

キコの言葉に皇后はため息をついた。

一昔前なら、それは美徳だったのに」

もう一度、騙してでもテニスに誘いますよ。友人達にもあたりましょう」

うん・・・」

天皇はそれでも顔を曇らせる。

「まだ何かお悩みなのですか?」

「東宮家の事だよ。未だ懐妊のきざしすらない。医師を差し向ければ突き返し無視し、退官へと追い込む。

どうせマサコがそのように仕向けているのだろう。なぜそこまで拒むか私にはわからない。

引きずられている皇太子も全く理解できない」

半分怒りを抑えているような口調に宮夫妻は黙り込む。

「このままでは皇統は絶える。その事の重要性をあれらはわかっていないのだ」

陛下、私が東宮妃に直接話をしますから

皇后がなだめた。

不妊治療やそれに関わる問題は女性にとっては非常にデリケートですわ。だからもう少しお時間を」

時間がない」

天皇は言った。

マサコは34歳になったのだよ。一日一日が絶望への日々の始まりだ。しかし、こちらのノリノミヤもまだ

結婚していない。それを逆手にとって見下すような言い方をするのだ。本当はノリノミヤの結婚こそ早く決めて

子供の一人でも生まれれば、もっと大きな顔が出来るのだろうが。お前達にも苦労をかけて」

「もう少し我慢して下さい。きっと近いうちに東宮家に子供が生まれたら、そしたらきっと三番目も」

陛下。東宮家にお世継ぎが生まれれば別に私達は構わないのです。しかしながら、アキシノノミヤとしても

後を継ぐ者が必要です。キコも十分にそれはわかっているのです」

その通りだ。しかし、カコを懐妊した時のタカマドノミヤや東宮側近からの嫌がらせや雑誌のバッシングをみたろう。

あれをもう一度という気には」

私は耐えられます。陛下」

私達が耐えられないのだ。 もう歳なのだな。結婚して以来、私達は多多かい続けてきた。さまざまなものと。

どんなに風に言われようと、批判されようとも貫いてきたものがある。しかし、今の状態では・・」

気が弱くなっているのだな。と、宮夫妻は思った。

両親が年老いて行くのを見るのはつらい。

けれど、普通はもっと穏やかにそれを見守る筈なのに。

内奏があって。世継ぎの話になった。今年中に何とかならなければ強制的にでも不妊治療を始めようと。

政府もそれには賛成してくれたが。肝心の皇太子夫妻が乗り気ではない。とにかく嫌だ嫌だの連続で。

だから、つい、最終的にどうにもならなくなったら「マコがいる」と言ってしまった」

マコ?マコですか?」

叫んだのはキコだった。男系男子が後を継ぐのが皇室の伝統。それで2000年の歴史を守ってきた。

女帝は何人も出ているが、全員、未亡人か独身を通している。いわゆる女帝は立っても女系天皇は

存在した事がないのだ。

今、マコを女帝にしたとすれば、彼女は当然の事ながら一生独身を通さなければならない。

そんな・・・・」

いや、無論、一生独身でいろとはいえない

天皇はキコの不安を察したように続けた。

マコにはしかるべき配偶者を立てて結婚させる。その子供が世継ぎとなる」

それでは女系を認めるとおっしゃるのですか?」

今度は宮が声を荒げた。そんなつもりはなかったが、父親である天皇がそこまで追い詰められている事に

ショックを受けたのだ。

皇室2000年の歴史を変えようとするなど・・・・恐ろしくて口にもできないものを。

ヒタチ・チチブ・タカマツの3宮家は絶家。ミカサノミヤ家はトモヒト家にもカツラノミヤにもタカマドノミヤ家にも男子はいない。

いずれ絶家となる。つまり近い将来、宮家はアキシノノミヤだけになるのだ」

それはわかっております」

だったらなぜ自分達に産児制限をかけるのだ?もしかしてまた女児だったらと・・・失望したくないと?

「旧宮家復帰の話もあるが、現実的ではないと政府は言うのだ」

女帝を立て、配偶者を持つ事も現実的ではありません」

マコが旧宮家の男子と結婚すれば男系は保たれる。ノリノミヤも同じだ」

政略結婚・・・かつて、メイジの帝がどうしたように、内親王を宮家の次男なり三男に嫁がせて宮家を創設し

いざという時に備えた話だ。

当時、体の弱い皇太子を抱えた帝は、政府が宮家を減らそうという動きを察しながら、ほぼ強引に宮家を

作った。それがタケダ・キタシラカワ・アサカ・ヒガシクニの4宮家だった。

先帝の長女であるテルノミヤはヒガシクニノミヤ妃となり、男系男子を得た。

しかし、今の時代にそんな政略結婚が許されるものだろうか。

マコはもうすぐ21世紀になろうとしている日本で生きているのだ。どんなに従順な娘でも

親の言う通りに旧宮家との縁組が出来るだろうか。

いや、そういう話であるならノリノミヤの結婚はとっくに決まっていた筈だ。

だが、実際はどうだ?旧宮家も絶家になっている家が多く、適当な男子がいないという現実。

また、そんな話があっても決まらないのが現実だ。

戦後の動乱期の中で身分を奪われ、特権を廃され、艱難辛苦を乗り越えた旧宮家・旧皇族。

彼らのプライドの源は「皇室の藩屏」である事だった。

彼らとてGHQの措置が永遠になるとは思っていなかったに違いない。

今上・・当時の皇太子が結婚する時には・・・・と希望を持っていた筈。

それなのに、よりによって民間から、聖心女子大から皇太子妃を迎えた。

あの時の驚きと怒りは今もって旧宮家・旧華族を支配し続けている。

アキシノノミヤ家はそれを知りつつも、上手に彼らと付き合ってきた。彼らが宮家に優しいのは

キコの出自が和歌山の名士である学者一家であり、学習院育ちだったから。

そして亡きチチブノミヤ妃が大層可愛がっていたからだ。

今上は新しい皇室を作りたかったのだ。

旧家に頼らない、新しい天皇家を。

それなのに、東宮家が引き起こした問題で、さらに旧家とのつながりを求められるとは。

まあ、カマクラには叱られてしまったが。私の気持ちは変わらないよ」

天皇は険しい顔でそういった。

 

ノリノミヤの部屋からは笑い声が聞こえている。

どうやら人形を使って遊んでいるらしい。ノリノミヤの部屋には沢山のアニメのビデオもあり

子供には楽しい部屋なのだ。

天皇家の長女と、宮家の長女。

二人をとりまく運命はどこまでも厳しいものだった。

二人が・・・可哀そうで」

キコの頬を涙がつたった。部屋の無邪気な笑い声がなお一層胸に響いて涙が止まらないのだ。

何でも耐えると言ったろ」

「私自身の事なら何でも耐えられます。でも」

わかるよ

宮はそっとキコを抱きしめた。

何があっても、あの二人を守ろう。幸せな人生を送れるように

宮の指が涙をぬぐった。キコは慌てて目をしばたたかせ、にっこりと笑った。

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」112(辛いけどフィクション)

2013-05-24 08:04:24 | 小説「天皇の母」101-120

皇后が入院した事は大きなニュースになった。

皇室全体に不安が広がった。それでなくても失声症の前例もあるし。

今回はただの風邪から来たものなのか、それともストレスか。

今上もひどく心配し、それでも顔に出すわけにはいかず、ただ一人で公務に励むしかなかったのだが。

何と言っても御歳ですし。そろそろごゆるりとなさるべきでは

侍従長はそう進言したが、今上はただため息をつくばかり。

ゆっくりとしろ・・という事は公務の委譲を示していた。

先帝の頃に比べて今上の「公務」は増え続けていた。

そもそも今上の公務・・つまり義務は「祭祀」「と「国事行為」のみだ。

国会の開会式出席、全国戦没者慰霊祭、叙勲、国賓・公賓の接待、新年祝賀の儀及び一般参賀。それくらいでいい筈なのだ。

しかし、今上は皇太子時代から公務を「開拓」してきた。

民主主義時代の天皇の在り方とは何か・・・を考え続けて、その結果、障碍者福祉や老人福祉、ハンセン病などの

差別を受けてきた人たちへの慰問。それらを象徴する為にやってきた施設訪問。それに伴い、学術や芸術に秀でた

人へ励ましなど。

「ゆたかな海づくり大会」「学士員」こどもの日や敬老の日にちなんだ施設訪問。今上はさらに中小企業を訪問する。

晩さん会だけでなく、大使らを招いてのお茶会も開く。

本来なら、即位と同時に皇太子に大方譲るべきであったのかもしれない。

しかし、今上はそうはしなかった。

あの頃はまだ皇太子は独身であったし、いつ結婚するかもわからなかった。

結婚したらしたで「世継ぎ」問題が頭をもたげて、委譲は進まない。

今の東宮家は自分達の事で精一杯のような気がする。

現に皇后が入院しても見舞いに来なかった。

皇太子夫妻が来ないのに秋篠宮が来る筈もなく・・・・・結局は「大げさにする必要はない」としたが・・・

付き添ったのはノリノミヤだった。

「いいのよ。東宮のお兄様が来ないのが悪いんですもの。お兄様達はお忙しいのだから」

キコからの電話にノリノミヤはにっこりそう答え、ずっと付添つづけた。

失声症から皇后の看病と付添はノリノミヤの仕事になっている。

天皇も皇后もそれが一番嬉しいし、慰めにもなるのだが、一方で、こんな事を続けていると娘の婚期が遅れると

それはそれで心配になった。

幸いにして皇后の病状は軽く、すぐに退院出来たのだが、その後も咳が続き、「咳喘息」ではないかと言われた。

 

一方、皇太子夫妻の方は春から夏にかけて那須、裏磐梯、須崎と立て続けに静養していた。

なんせ、公務となるとすぐい「微熱」と言い出すマサコに東宮職もどう対処していいかわかりかねた。

地方公務においては、必ず県勢聴取と昼食会が決められていたが

私に何の関係もない人達としゃべったり食べたりするのは苦痛でとてもやっていけない」と言い出し

そういう時期になると「微熱」が出てくる。それをなだめる為に「じゃあ、お帰りに磐梯山で何泊かしましょう」

とか「須崎での静養が待っていますよ」とか、まるで子供をあやすように言い含めねばならない。

皇太子はそんな妻を扱いかねて、とうとう逃げ出し無関心になる始末。

皇后の見舞いにも行きたくないといえば「そうだね

微熱で人に会えない」といえば「そうだね」

あんなおじさん達と一緒に食事をするのは嫌だ」といっても「そうだね」しかないので、東宮職は機能不全に陥った。

最初のうちは皇太子の登山にもいやいやついて来ていたのだが、やがてそれもやめてしまった。

不思議な事にスキーだけは大好きらしく、そのころになると元気になる。

意味不明のマサコの体調は、東宮職を振り回し続ける。

そんなわけで、天皇も皇后も「公務の委譲」など考えられない事だった。

そのうち、もう少し慣れたらきっと」・・・それも後から考えれば「逃げ」だったのかもしれない。

 

一方、アキシノノミヤ家は、ひたすらひっそりと公務に励んでいた。

ひところに比べればマスコミに取り上げられることも少なくなり、子供達のプライバシーという点では

有難かったが、その代わり、どんな小さな針の穴でも突き抜けそうな見えない「監視」を感じる事が多くなった。

皇太子妃に対して「閉じ込められたキャリアウーマン」という報道が多ければ多い程、アキシノノミヤに関しては

次男坊の気楽さによる恋愛結婚。キコ妃は皇族になりたくて結婚したのだ」と噂を立てられる。

一体誰が?と思っても犯人を捕まえる事など不可能だった。

「したたかで張り付いた笑顔のキコ妃」

「オールウエイズスマイル」を信条とするキコ妃にとっては、たとえ皇后が病気であっても、公務が忙しくても

体調がすぐれない時でもにこやかな笑顔を向けなくてはならない。

それが皇族の役割というものだ。

しかし、無理な笑顔は時に「はりついた」と評されて「いい子ぶってる」などと陰口をたたかれるものだ。

回りが耳に入れまいとしても、それはどうしたって入ってくる。

それだけにキコはなお一層身を固くして、対処しなくてはならないと感じていた。

 

その年の秋、アキシノノミヤ夫妻は山形へプライベートな旅行にでかけた。

プライベートとはいっても、皇太子夫妻のような「静養」ではない。

アマゾン研究の第一人者であるヤマモトノリオ紙の講演会が山形で行われる。それに出席しようというものだった。

あわせて「月山のあさひ博物館」での「アマゾン ナマズ展」をみたいという、珍しくも希望を出した。

久しぶりの二人きりの旅行に宮もキコも新婚旅行時代を思い出していた。

今は子供達がいるから、そうそう二人きりにもなれない。

けれど、今回は宮の研究旅行とはいえ堅苦しい式典もなく、楽しい旅なのだ。

二人は予定通りに山形入りし、仲良く講演会を聴講しナカムラ教授とも専門的な話に花を咲かせ

それから月山に向かった。

9月も終わりの山形は空気が澄んでいて、景色も美しかった。

まだ紅葉には早い。けれど、東北特有の凛とした冷たい空気が頬をなでる。それが何ともいえず心地いい。

山の空気はさらに冷たくはあったが、いつもと違う景色が、二人を饒舌していた。

月山の名前の由来は何でしょうね」

農業の神である月読を祀っているからだよ

まあ、月読命を。そんな神話の時代からある山なのですね。殿下は天照大神の子孫でいらっしゃるから

ああ、なるほど。縁が深いのだね」

二人はにこやかに笑った。

月山は水がおいしいんだよ。だからいいお酒もある。兄様にお土産に買って行こうか」

それはよろしいですね

マコやカコにも何か。そうそう、あなたは何か欲しいものはある?最近、山形はラ・フランスという

洋ナシが有名になっているんだけど」

まあ、私は何も」

「そうだね・・いらないね」

そんな風に仲良く月山のアマゾン展を見て歩き、いよいよ宿泊施設に行った時だった。

夕食には有名な月山ワインが出てくる筈だったのに、それが出てこない。

無論、二人は酒のみではなかったから気にはしなかったのだが、迎える側の方がひどく恐縮しているので

どうしたのですか?」と質問してみた。

宿の主人は、知事や市長も引き連れて非常にひきつった顔で現れたので余計にびっくりする。

「実は、本日、両殿下には我が月山が誇りにしているワインをお召し上がりになって頂く予定だったのですが

それが出来なくなりまして」

うん。そうなの。何か事情があるの」

実は・・・5日前の事でございました。ワイン製造室の貯蔵タンクの中の傍にブログリックスLという農薬の瓶が

3本転がっておりまして」

え・・・・」最初に驚きの声を上げたのはキコだった。それを宮が目で制する。

ブログリックスLとは?」

除草剤の一種です」

それがワインの中に入ったの?」

いえ、貯蔵タンクの傍に3本ひっかけられておりました。中に液体が入れられた形跡はなかったのでございますが

いたずらにしてはあまりにも悪質で・・・いくら検出されなかったといえど、もしもの事がございますから、

付近の貯蔵タンクの中身は全部捨ててしまいました。そんなわけで、今回はワインをお出しする事が出来なくなりました。

申し訳ございません」

平謝りする彼らに対して宮は「何事もなくてよかった」といった。キコも「本当に」と答えた。

私達の事は気にせずに。他の料理は全ておいしく頂いたし。ありがとう」

宿の主人、ワイン関係者、知事や市長に至るまで、その言葉に安堵すると共に感動した。

それよりも捨ててしまったワインの損失の方が大きいのじゃないのかい?」

ええ・・・けれど、もしも、他のタンクに入られらたとしたら危険ですし。何か起こるよりはまだいいかと」

その通りだね」

これはもしかしたらいたずらではすまないかもしれません。とにもかくにも両殿下に何事もなく安堵いたしました。

このような話をして本当に申し訳ございません。どうか山形を、月山に悪いイメージを持って頂かないように・・・」

「心配しないで。あなた方に何もなかった事が幸いです。月山の自然、アマゾンの研究、今日出してくれた料理

全てが私達にとっていい思い出になりました。これからもよいワイン作りをして下さい」

その宮の言葉にどれ程救われた事だろう。

 

しかし・・・・・一体誰がこんな事を。愉快犯?それともテロ予告なのか?

何にせよ後味の悪い旅になった事は事実である。

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韓国史劇風小説「天皇の母」111(決意のフィクション)

2013-05-21 09:29:28 | 小説「天皇の母」101-120

皇后はこの所、体調がすぐれなかった。

咳が止まらなくなるのだ。

侍医は「少し御風邪のようで」といい、薬を処方してくれたが、それでもなかなか治らない。

年齢的に色々と不都合が出てくるのは当然でございます。少し休養をとられては」

わかっているけど、陛下がお休みにならないのに私だけが休むなんて出来ないわ」

そう言われたら侍医も何ともいえない。

夫唱婦随でやってきた年月を大事にしているのだ・・・と誰もが思っている。

けれど、皇后の心の中にあるのはそれだけではない。

心の片隅にある「引け目」なのだ。

自分は民間出身で、旧皇族でも華族でもない。

そんな自分が陛下に望まれて入内し、世継ぎをもうけ、この地位を不動のものにした。

この40年、いつも心がけていたのは「より皇族らしく、妃らしく」「完璧な皇后であるべき」という思いだ。

はからずも数年前のバッシング報道で感情的になり、声を失うというアクシデントがあったが、

それ以降は、どんな時も、何があっても冷静でいようと心に決めている。

 

しかし。

皇太子夫妻が結婚3年を超えても、なんら懐妊の気配がなく、対策も取らない事に対して

驚きと同時に衝撃を受けてしまったのである。

最近のマサコは、東宮御所で犬を飼い始めたらしい・・・ピッピとマリという犬は東宮御所に紛れ込んだ犬が

産んだ子犬だ。どうやら雑種のようだ。

大層可愛がられ、子犬が車にひかれたりしないようにと、東宮御所の一部を通行止めにしたりして、回りを混乱させた。

他にもたぬきをみつけたり。

つまり、散歩の時間が真夜中なのだと暗に言っている。

真夜中に一体何をしているのかしら

皇后はいぶかしんだ。

ああ・・マサコに関しては全てが理解不能である。

フランス行きがダメになってから、仕返しのように公務を休むようになった。

いくら東宮に注意をしても、一向に改める気配がない。

東宮御所は雰囲気がまるで違っています。まるで・・・・」と女官長がひっそりと話す。

そんな事は話半分で聞き流していたけれど、あながちウソではないのかもしれない。

それにしても子供が授からないというのに、あの二人は何もしてないのか。

アキシノノミヤに産児制限をかけている事を思えば、少しでも早く何とかすべきだ。

何でもかんでも「傷ついた」というあの嫁にどこまで気を遣わねばならないのだろう。

それでも言わねばならない。

 

皇后は、皇太子夫妻を呼びだすことにしたのだが、やってきたのは皇太子のみだった。

マサコは具合が悪くて」と笑いながら言う息子は、今までとちょっと表情が違うような気がする。

自分達が知っていた「ナルちゃん」じゃないような・・・・

それはともかく。

結婚して3年が過ぎました。でもまだ懐妊の兆候はないわね。皇太子妃は随分と公務を休んでいるけど

どこか悪いのですか?」

「ええ。体が弱くていつも微熱を出すのです」

悪びれもせず、息子はそう答える。

それならきちんと医師の診察を受けて」

診察は受けましたし検査もしたけど異常はないようですよ

ではどうして、そんなに体調を崩すのですか?」

「マサコは慣れない環境で苦しんでいるんです。皇室は僕たちが考えるよりも大変な場所なんだって。

だからなるべく無理はさせないようにしています」

そんな風に言われたら反論できないではないか。具体的に、何がどう慣れないのか聞きたいが、こちらも

体調が悪い。皇后は少し咳こんだが息子は気遣う様子もない。

「とにかく、3年をすぎても懐妊の兆候がないという事は、医師の判断をあおがないといけません。世継ぎを産む事は

東宮家の最大使命なのですよ」

でも、自然にしたいと思っています。子供を産むマシーンじゃないとマサコも言ってますし」

子供を産むマシーンですって?」

皇后はびっくりして、激しく咳をしはじめた。女官があわてて飛んでくる。

お水を」皇后はやっとそう言った。

「女性が子供を産む事がマシーンのようだというのですか?結婚したら子供が欲しいという感情は自然なことでは

ないのですか?なのに、女性を道具扱いしているというのですか?」

世継ぎを産むマシーンのように扱われているとマサコは傷ついています。だから、僕としては静かに見守りたいのです」

見守るって・・・

これでも夫婦なのだろうか?下世話な話、この二人はちゃんと夫婦なのだろうか?

いや、そんな事を聞くわけにはいかない。思っても言葉に出してはいけない。

東宮さん。夫としての責任もあるのですよ」

そういうのが精一杯。その言葉の意味を知ってか知らずか皇太子はにっこりと「はい」と答えた。

僕達で何とかしますから」

 

まてど暮らせど懐妊したという報告はない。

それなのに週刊誌は過熱気味に、マサコが太った、ヒールが低くなった、公務を休んだといっては「ご懐妊か」と

騒ぎ立てる。国民もどこかで不安になっているのではないだろうか。

不妊の二文字は国民にとっても他人事ではないのだ。

 

皇后はたまらず自分のかかりつけ医であり、今は宮内庁御用掛けの立場であるサカモト医師に相談した。

サカモトはキコの出産のときもお世話になっている、絶大なる信頼を置いている人物だ。

サカモトは皇后の悩みに

私が医師としてお聞きしましょう」と言ってくれた。

ところが、そんなサカモトを皇太子夫妻は門前払いしてしまった。

皇后の差し金でやってきた医者なんて信用できない」という理由だった。

その言葉を聞いた時、皇后は倒れそうになった。

何という事だろう。世の中に嫁姑の確執は多々ある。皇太后だって自分に優しかったとは言えない。

けれど・・・自分が姑になった時にそのような感情むき出しの言葉をあびせられようとは。

「皇后の差し金」とは一体どういう意味なのだろう。

自分が何をするというのだろう。彼女を貶める?侮辱する?そうではない。これは「協力」であり

最優先事項に対する「アドバイス」である。

普通なら皇后のかかりつけ医を紹介されたら喜ぶのではないか?

それこそ最高の医療を受ける事が出来ると。なのに「差し金」とは。

何かこちらが企んでよからぬ事をすようではないか。

マサコは自分達にそういう感情を持っているという事なのだろうか。そして皇太子はそれをいさめる事もしないと。

いやー皇太子妃の警戒感たるや半端じゃありません

サカモトは苦笑しながら答えた。

非常に怒っておられて。皇太子殿下はおろおろととりなされるので、気の毒で何も言えませんでした。

本当に力不足で申し訳ありません」

いえ・・こちらこそ。東宮妃が失礼な事を言ったそうですね。ごめんなさいね。嫌な思いをさせて」

何の。それは構わないのですが、皇太子妃殿下の疑い深さや回りを敵とみなす感情。あれは一種の病気ではないかと

心配しております」

え?」

皇后は「病気」という言葉に反応した。

心の病気だと。それは皇室に入ったからというわけではなく、もともと持っている性格のようなもので。

まあ、私は精神科医ではないので詳しい事までは申し上げる事を控えますが、普通はあそこまで人を悪く見たりは

しないと思うのです。皇太子殿下にすら攻撃的になられるので心配ですね」

心の仲が真っ黒になっていく・・・・我が皇太子は何という娘と結婚してしまったのか。

皇太子は小さい頃から、どこかぼやっとして人に取り込まれやすい子でした。行動も遅く、感情の起伏も少なくて。

やっぱりあの3分間が・・・」

皇后陛下」

サカモトは首を振った。

東宮侍医に見せる事に致しましょう。東宮侍医ならマサコ様のお体を見ている筈ですので抵抗も少ないのでは

皇后はため息をついて頷いた。

 

基礎体温を測って頂けないでしょうか?」

東宮侍医のこの一言がマサコの怒りに火をつけた。

基礎体温ですって?あなた、何様なの?何の権利があって私の基礎体温を測るっていうの?

私が頼んでもいない事を先回りしてやろうとするなんて不遜にも程があるわ」

「他人のプライバシーに口を挟むものではない」

マサコの怒りに皇太子も同調したために、東宮侍医は気の毒な程恐縮して引き下がり、

その後は、一切の診察を受けて貰えなくなり、用事がある時はメモを渡され、そうでない時は一切の無視をされ、

精神的にうつ状態に陥った彼はやがて辞表を提出した。

なぜ、そんな無礼な事をするのですか

皇后は皇太子を叱りつけた。

しかし、皇太子は「無礼はあちらですよ。基礎体温って女性にとっては微妙なものなんでしょう?」

くったくなく答える。

皇太子はどうやらマサコの言う事を鵜呑みにしているらしい。

確かに微妙な体温です。でも女性の体の周期をしる為に必要なものなんですよ。医師の判断に従うべきでは

ありませんか。妻の言いなりになって医師に対してぞんざいな対応をするとは何事ですか」

言いなりになんてなってません

口をとがらせて息子は言った。何という幼い態度なのか。本当に親が煙たいという顔をする。

まるで反抗期のようだ。

それ以後、皇太子夫妻はなかなか参内しなくなった。

皇后の不安はますます募り、咳もひどくなっていく。

公務の度に咳をするので、回りはハラハラ状態。それでも皇后は出かける事をやめなかった。

今は粛々と皇后の役割をこなす事が重要。それを皇太子妃に見せる事が大切なのだと。

 

カマクラ長官の申し出によって、「不妊特別プロジェクトチーム」が立ち上がった時、皇后は心から安堵した。

東大で腹腔鏡を使っての不妊治療の権威、ツツミ医師を非常勤に迎え、着々と懐妊に向けて走り出す筈だった。

もはや一刻の猶予もない。

マサコは33歳。これからは一年、一日が懐妊しづらくなっていく日々との戦いになるのだ。

それなのに・・・・・

再度、東宮御所を訪れ、「どうか不妊検査だけでも受けて頂きたい」と決死の覚悟で説得にあたったサカモトに

またも皇太子夫妻は「自分達でちゃんとやるから」と断ったのだった。

皇太子夫妻にとって、今や医師が誰であっても敵だった。無理強い、強制・・・そんな言葉で激しくののしる

皇太子妃を見てサカモトはあんたんたる思いを胸に抱いた。

 

そして、ついに。

春にルクセンブルクからブラジル訪問と、すさまじいスケジュールを強行したせいなのか

皇后は体調を崩し、入院した。

病名は「帯状ヘルペス」

高熱が続き、肋間神経痛のような痛みが体中に広がる、ウイルス性の病気だった。

精神的にボロボロだったのは皇后なのである。

コメント (26)
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