ふぶきの部屋

皇室問題を中心に、政治から宝塚まで。
毎日更新しています。

韓国史劇風小説「天皇の母」60(フィクションです)

2012-07-08 15:23:58 | 小説「天皇の母1話ー100話

アキシノノミヤ家に内親王が生まれた時、日本中、祝福ムードに包まれた。

丁度、オランダ女王が来日している時に産気づいた妃。

晩餐会で「ご心配でしょうから、ついてあげて」と女王陛下に言われたアキシノノミヤは

大急ぎで病院にかけつけた。

内親王は宮にしてみれば「私ににて可愛い」そうで、そんな親ばかぶりに

国民は共感し、心から祝福した。

天皇・皇后にとっては初孫。そして皇太子とノリノミヤにとっては初の姪っ子の誕生。

僕も伯父さんかあ」と皇太子はにっこり笑い

私、赤ちゃんのお世話をしたいわ」とノリノミヤも笑った。

名づけられたのはマコ。

皇族女子はコ」をつけるしきたりがあるが、漢字をそのままに読んでいるようで

実は旧字を使い現代的に読ませるというテクニカルな名前だった。

またお印は「モッコウバラ」

これは野生のばらで、非常に強い。

内親王は来日したブッシュ大統領夫人の腕に抱かれ

「ストロングベイビー」と呼ばれた。

カワシマ家でも初孫の誕生を喜んだけれど、公にする事はなかった。

病院へのお見舞いの順番も一番最後であったし、孫とはいえ皇族であるから

立場を弁えねばならない。

 

そんな国中の祝福ムードの中で誕生したのが親王でなかったことに

ほっとした人物がいた。

それはオワダヒサシである。

ヒサシは内心ひやひやしていた。

もし、誕生したのが親王だったら皇位継承順位が3位になる。

自分の娘が入内する前に親王が生まれてはならない。

継承権2位の親王を産むのは自分の娘だ。

その為に事を急がねばならない。

 

その1・・・外堀を埋めること

宮内庁の職員は現代は各省を回る国家公務員である。

どこからどこへ回るか決定するのは国の仕事。

戦前までの宮内省は天皇の言葉を伝える機関として大きな影響力を

持っていたが、戦後、特に先帝の晩年における宮内庁は

公務員が最後に「ハク」をつける場所となり果てていた。

先例主義における宮内庁の中で、騒ぎをおこしたり改革したりという事は

ご法度であり、全てがしきたり通りでなければいけない。

しかも、政治に関わる事はタブーであるから、トップにつく人間は

自分の発言に常に気をつけなければならなかった。

天皇家が目立ちすぎると右翼や左翼を刺激するので、なるべく目立たないように

批判の矢面に立たないように努力する。

気を遣う仕事のわりには、あまり評価されないというか、一種のお飾りだ。

誰もがあまり行きたがらない宮内庁の中に

外務省から人が異動するようになったのはこの頃。

オワダは自分が属する外務省の人間を宮内庁に送る事で、皇室内の情報を

把握。そして少しずつではあるが、他の職員を懐柔する手にでた。

皇太子殿下はいまだオワダマサコ嬢を忘れてはいない」

そんな噂が宮内庁の中に飛びかうようになり、それが外務省出身の職員の

口からこぼれれば、無視できない。

せっかくお妃問題を白紙に戻し、もう一度再考しようとしていた所に

そんな噂が流れれば、誰も積極的に皇太子妃候補に推す人間は

いなくなる。

さらに、そんな噂が立つ事で「やっぱり自分はマサコさんがいい」と思い込んだ

のは皇太子。

もはや何が原因でマサコが皇太子妃候補かた外れたか・・・などという事すら

皇太子は忘れてしまっていた。

チッソの孫だから駄目というのは差別ではないか。

あのように優秀な学歴を持つ女性が駄目な筈ない。

性格がどうであるか、相性がどうであるかなどという事は全く考えに

入っていなかった。

あのようjに優秀な学歴の女性が皇室に向かない筈はないと。

なぜなら、皇后がそうだからだ。

初の民間妃となった皇后にとって、血筋や家柄に代わるもの・・優秀な

成績や学歴を身につけていたからこそ、旧皇族や華族に苛められても

完璧な妃でい続ける事が出来たのだ。

大事なのは血筋や家柄ではなく、本人の「優秀さ」なのだと。

 

困ったのはフジモリ宮内庁長官だった。

あまりに皇太子にせがまれ、しかも「オワダさんじゃなければ結婚しない」

とまで言われてしまい、途方にくれてしまう。

自分が在任している間にゴタゴタは嫌だった。

ただでさえ、天皇の中国訪問の是非が問われている昨今。

皇太子が「報われない恋」に身を焦がし、反対した宮内庁が悪者にされ

ひいては天皇まで悪者にされたら皇室のイメージが著しく落ちる。

戦前なら家柄が伴わなければ妃候補にすらならない・・・という考え方を

現天皇自らが破ってしまったのだ。

今の天皇が「チッソの孫だから認めない」と言っても説得力がないのは

事実だ。

そんな時代の到来こそ、オワダは待っていたのだ。

 

天皇の中国訪問が実現すれば、日本と中国との関係に新たな一面が

開かれる」

オワダは本気でそう思っていた。

戦前、日本が中国に行ったあらゆる残虐な仕打ち(彼にとって中国と自分の

祖国は同一だ)

この謝罪を永遠にする事こそ、一番重要な問題。

天皇が中国へ行くという事は、それすなわち「謝罪の旅」になるだろう。

日本は公に中国共産党政権を認めることになるのだから。

そうなればチャイナスクール出身の人たちが権力を握ることになる。

 

その2・・・皇室内に味方を増やす

矛先はタカマドノミヤ家。

ミカサノミヤの末子でいわゆる「皇室の端っこ」であるタカマドノミヤ家は

アキシノノミヤ家の誕生に複雑な思いを隠しきれなかった。

3人の娘を抱え、皇族費だけで生活をするのは何かと大変であったし

宮家でありながら最も一般人に近い格下である事に一種の負い目を感じて

いたのだが、そこに若々しい筆頭宮家の誕生である。

タカマドノミヤ家は「文化交流」の仕事・・・主に外務省から来る「皇室外交」の

お飾りに担ぎ上げられていた。

特に韓国と日本の交流には積極的に使われ、サッカーのワールドカップの

時には皇族で初めて韓国入りを果たし、大いに話題になった。

本人は単にサッカー好きであり、特に外務省と繋がりをもって暗躍したという

意識はないようだが、日本と微妙な関係の韓国に親近感を持つ親王は

オワダにとって赤子の手をひねるように扱いやすい。

文化交流、とりわけサッカーにおける日韓の架け橋になるタカマドノミヤ

というステイタスは大いに気に入ったらしく父や兄がさめた視線を送る中、

タカマドノミヤ家は少しずつ外務省に取り込まれていった。

宮家にとって皇族費以外の「テープカット」収入は大きなものだったが、

今後、それをアキシノノミヤ家に奪われる可能性もある。

それを危惧した親王は、大公路線として皇太子の「恋」を応援する事にした。

なんせ皇太子は自分を「兄」のように慕ってくれている。

そんな皇太子の為にお膳立てをする事は難しくはない。

それゆえに数年前の最初のデートの場を提供したのだ。

今、消えかかったお妃候補にまたオワダマサコが浮上し始め、タカマドノミヤは

着々と自分の出番を待っていた。

 

宮内庁・皇室内に「お妃最有力候補はオワダマサコさん」の

雰囲気が漂い始めた事に天皇は不信感を抱いていた。

どこからそんな噂が飛んでくるのか。

けれど、気が付くと、それは確定事項のようになっている。真偽を調べようと

しても誰もが知らぬ顔をする。

フジモリはただただ「皇太子殿下のお考えが・・」というばかり。

諦めたんじゃなかったの?」

はあ・・そうと思っておりましたが・・・東宮侍従長のソガに言わせますと

殿下は色々な方とのお見合いを経まして、ますますオワダさんへの

思いを確実にしていらっしゃるという事で」

東宮はどうしてしまったんだ」

天皇は頭を抱え込んでしまった。

昔から一度思い込むと中々翻せない性格ではあったと思う。

でも、今回の執着は異常だ。

誰かがそそのかしているのではないか?

そそのかすなんて・・ありえません

フジモリは汗をふきふきそう答えた。

みかねた皇后が助け舟を出す。

陛下、長官を責めても仕方ありません。ここは東宮侍従長によく事情を聞き

また皇太子の意見を尊重すべきではありませんか」

全てにリベラルな性格の皇后の考えは、ある意味天皇と同じで。

ゆえに強く出られない弱みがあった。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」(59)(だってフィクション)

2012-07-04 16:06:02 | 小説「天皇の母1話ー100話

皇族には「内廷皇族」とそれ以外の皇族がいる。

天皇・皇后・皇太子・皇太子妃・ノリノミヤは内廷皇族の為、全てが国費で

賄われるが、アキシノノミヤ家・ヒタチのミヤ家・チチブノミヤ家・タカマツノミヤ家・

ミカサノミヤ家・タカマドノミヤ家ではそうではない。

年間、決まった額の報酬があり宮内庁より職員の貸し出し等はあるが、

基本は全て自費で賄わなくてはならない。

健康保険料は10割。御料牧場の牛乳も自費。宮邸で使われる光熱費等も

全て自費なら使用人の給料まで。

そう考えると、内廷皇族とそれ以外の皇族の間には厳密な壁がある。

それは「責任の重さ」というものだったかもしれない。

世継ぎを持っている天皇家・皇太子家は「公務」や「祭祀」の縛りが多いし

政府の要請で外国要人とも会わなければならないし、外国訪問もしなくては

ならない。

しかし、他の宮家は基本的に「義務」としてはない。

それゆえ、3親等以降の皇族は大学を出るとどこかに就職するのが普通

だったし、それに対して不満をもらす事もなかった。

所詮、宮家は血のスペアであるから、本当に必要になる時期というのは

限られている。

子供がいなかったり、未亡人になったり・・・というような宮家に関しては

血のスペアにすらならない。しかし、それぞれに明治以降から引き継いで

いる仕事があり、それを後世に伝えていくのが大事な役割だった。

 

アキシノノミヤ家の誕生は「宮家とはなにか」をあらためて

考えさせるきっかけになったと思われる。

それというのも、皇太子はいまだに独身。

さっさと見合いでも何でもして妃を決めるべきと誰もが思ったが

皇太子の心の中には「オワダマサコ」がしつこく居座り続けていて

だれも対処できずにいた。

6歳も年下の弟が、学生結婚してしまった。

相手は今時こんな女性がいるのか?という程よく出来た娘で

両親や妹うまくいっている。

アキシノノミヤは「キコちゃん」と結婚して株を上げたようで人気はうなぎのぼり。

それだけではない。

そもそもアキシノノミヤは動物学に興味があったものの、大学では法律を専攻。

大学院に入ってオックスフォードに留学し、初めて好きな学問に打ち込む

事が出来るようになった。

それからというもの。彼は水を得た魚のように次から次へと研究に手を出し

その為に外国へ行くこともしばしば・・・それは相手国王室との親密な

関係を築く上で非常に有益だった。

また、結婚し宮家を創設する事によって、民間からの「公務の依頼」も増えた。

多くは学問関係。それに妃の手話関係等、ライフワークに直結している。

そこから公務は枝葉のように分かれていくだろう。

しかし、振り返ってみると皇太子は、自分には好きな学問などない事に

気づいていた。

学習院で水運を学んだし、「テムズの・・」という本も出したし。

歴史に興味があるのも確かだったが、のめりこんでいく程の情熱があるかと

問われれば疑問だ。

それを「自分は東宮だから」と言い訳していた。

皇太子の役割は天皇の補佐。帝王学だ。だから専門的な学問をする

暇はない」と(父天皇がハゼの分類学に精通している事はこの際無視だ)

皇太子とただの弟では身分的に雲泥の差がある。

それが唯一の優越感に繋がっていたともいえる。

でも・・・・アキシノノミヤケの躍進は皇太子に焦りと悔しさがまじった

微妙な感情をおこさせた。

しかも、結婚からほどなくキコ妃は懐妊したのである。

もし、生まれてくる子が男子だったら、自分と弟についで皇位継承者になる。

そうなったら自分の存在意義はどうなるだろう。

自分などいなくたって天皇家は困らない。延々と続いていくのだ。

皇太子の心の中に宿った絶望感は果てしないほどに広がる気がした。

小さい頃、アヤノミヤがまだ生まれたばかりの時だった。

遠慮なく泣きわめき、おたあさまはそんな弟をいとしげに抱っこしてたっけ。

僕は何であんなに泣けるのかわからないと思った。

どうして弟だからって好き勝手に泣けるの?

僕は泣けなかったんだよ。色々我慢したんだよ。だって皇太子になるんだもの。

そして今、自分は結婚すら反対されているというのに、弟はさっさと結婚し

子供まで出来るという。

なぜそんな事が「彼」だけに許されるんだろうか。

 

皇太子だって一度はオワダマサコを諦めようと思った事もある。

何度か他の妃候補とも会おうとした事だってある。

でも、「お妃候補」になると、そうスクープされた女性たちはさっさと結婚を

決めて外れていったり、予期せぬスキャンダルに巻き込まれて外れていく。

週刊誌には毎日のように新たな「皇太子妃候補」の名前があがるが

本人達に会う前に話はなくなってしまうのだ。

天皇も皇后も出来れば民間から妃を・・・と思っていたらしいが、最後は

旧皇族・旧華族でも仕方ないと譲歩した。

その最たる相手がクニ家の令嬢。そう・・小さい頃から母をいじめていた

おばあさまの親族だ。

彼女は決して美人ではなかった。しかし賢かったし旧皇族出身であるから

皇室に対する嫌悪感がない。しかもしつけがきちんとされている

どこから見ても完璧な女性だった。

彼女の方も、見合いの話が来た時点である程度覚悟していたらしく

「私でよければ」と承諾してくれた。

しとやかで控えめで、それでいて芯が強そうな女性。

皇太子妃としてこれ以上ふさわしい女性はいないと誰もが思い

天皇も皇后も賛成の意を示した。

しかし・・・・・「僕は嫌です。じゃがいもみたいな顔なんだもの」と

皇太子は言い放った。

じ・・じゃがいもですって?東宮さん、本気でおっしゃってるの?」

皇后は顔色を変えた。今まで女性の容姿に関してあれこれ言った事など

なかった息子なのに。

一体これはどうしたことか。

だって本当にそうだから。顔は重要でしょう?それに旧皇族でおばあさまの

血筋なんて濃すぎませんか?」

「顔よりも資質でしょう?血筋は大事ですよ」

皇后の搾り出すような言葉に皇太子は言葉を失った。

クニ家の令嬢を選べば、皇后より皇太子妃の方が血筋的に上になる。

ただでさえ、「民間妃」と意地悪されてきた母なのに、自分の為にさらに

我慢するなんて耐えられない。

とにかくこの話はなかったことにして下さい」

家柄的に血筋的に、まさか皇太子の方がら断りを入れられると思って

いなかったクニ家の体面は丸つぶれになった。

なにせクニ家との縁談は、宮内庁を通してではあったが、天皇から直々の

「お願い」で実現したものだったからだ。

クニ家はもう皇族ではないし、天皇家と縁を結ぶなんて思ってもみなかったが

それでも皇太后の実家として皇室に尽くすべき事はつくさねばの思いで

縁談を受けたのに・・・・・どこから耳に入ったのか

「顔がじゃいも」発言もしっかりと伝わってしまった。

この事は天皇家と旧皇族にますます見えない溝を作るハメになった。

まだその事に気づいてはいないが。

 

クニ家の令嬢は、その後東大に入学。博士課程を修了し医学博士に。

いまだ独身であるけれど世界を飛び回って活躍したとか・・・・

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」58(まあフィクション)

2012-07-01 09:42:19 | 小説「天皇の母1話ー100話

マサコが外務省で誰かと付き合っているという噂はすぐに

ヒサシの耳に届いた。

それも年上の妻子もちと来ては黙ってはいられない。

すぐに誰か調査し何とか手を打たなければ。

それにしてもなぜ、マサコは妻子もちと? あの娘ならどんな独身者でも

寄って来るだろうに。

おつきあいしているわけじゃないけど」

父の問い詰めにマサコは言葉を濁した。

ただいい相談相手っていうか?私を理解してくれてるの」

理解してくれる男なら他にもっといるだろう

いないわよ。そんな

父は知らないのだ・・・マサコが北米2課で浮いた存在であることを。

みなが自分の才能に嫉妬し、オワダヒサシの娘という事で距離を置いている

事実に。でも、彼は違う。家庭を持った男性ならではの包容力があるし

余裕すらみえる。

自分が何か言ってもオタオタしないし、笑ってやりすごしてくれる。

要するにお姉様は不倫中?」

レイコがからかうのでマサコは「そんなんじゃないわよ」と憤った。

不倫なんて汚い言葉で語って欲しくない。

好きになった相手にたまたま妻と子供がいただけだ。誰が悪い?って?

それは彼の妻と子供の方。

運命というものがあるのなら私と彼こそが結ばれるべき運命であり

ゆえに出逢ったのだ。

だけど、運命のいたずらなのか嫌がらせなのか・・入って来てはいけない人が

入ってきてしかも「妻」の座に座ってしまった。

気の毒なのは彼だ。

勿論、彼はそんな悲劇的な顔はしない。けれど、本来結ばれるべき相手と

結ばれない彼を見ていると可哀想なのだ。

 

ヒサシにとってマサコのスキャンダルは命取りになる。

でも今、あからさまに相手の男をどこぞに飛ばすわけにもいかない。

そもそもその男はどういうつもりでマサコと付き合っているのだろうか?

調べるうちにそんなに悪い男でもないように思われた。

ただ・・・「優しさ」を愛と勘違いしたのは娘の方であると知ったとき

ある意味、絶望的な気持ちになった。

あの娘は・・・・同情と愛の違いもわからないのだろうか。

なのに有頂天になって自分こそ運命の相手だと勘違いしている?

 

オワダ君」

かつて自分が秘書をしていたフクダ家の長男、ヤスオに会った。

おぼっちゃまだから年下のくせに生意気な態度をとる。

どう?その後、娘さんは」

色々お聞きになっているのでは?」

いやいや、外務省にストレートで入ったハーバード大の才媛はよく

マスコミに追いかけられているからね。容姿がいいし、芸能人にもなれそうだ。

皇太子がひっかかる筈だな」

それはどうも」

宮内庁が皇太子妃候補から君の娘さんを外したのは知っている。

しかしそれでいいのかね?機密費の問題は特捜の方に回っているらしいぞ」

・・・・」

君がお縄になればこの僕だって。いや、あの頃そういう事に関わった人間が

芋づる式に捕まることになるんだ」

わかっています。しかし、どうしたらいいか皆目見当がつきません」

もう一度皇太子妃候補にすればいいんだ」

え?」

「皇太子はまだ君の娘さんを思っている。噂じゃ最近何度か見合いをしたそう

だが、どれもうまくいかなかったそうだ。皇太子のしつこさ・・いや一途な

気持ちには頭が下がるね」

いくら皇太子がマサコを思っていてもこればかりは」

どうにでもする

フクダはにやりと笑った。

まず君はオオトリ会のメンバーと会いたまえ。組織的に人を動かすのなら

やっぱり組織を使ったほうがいい。それから週刊誌の紙面を金で買う。

まずそこからだな」

随分と手のこんだやりかたで」

大衆というのは都市伝説が大好きなんだ。そして一旦広まった都市伝説は

決して消えない。たとえそれが嘘でも人の心の奥底に入り込み

「そういう事もあったかも」と思わせる。人の心理は面白い・・・だろう?」

そうやって皇太子妃候補を遠ざけようとするのですね。最終的には

うちの娘しかいなくなるように」

出来るかね」

ええ・・・」

ヒサシは大きく頷いた。

戦争が始まって、アメリカがドンパチやっている間、日本はPKOの派遣

で大騒ぎだ。伏線を引くなら今しかない」

ヒサシはそう言われて気持ちを強く持つ事にした。

今まで多少、娘の幸せを考えると本人が望まない結婚はどうかと・・

でも今はそんな事は言っていられない。

最終的には親が決めた結婚が一番幸せであるとわからせればいいのだ。

わからせれば・・・・・ヒサシは心を決めた。

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韓国史劇風小説「天皇の母」57(あらフィクション)

2012-06-17 09:58:24 | 小説「天皇の母1話ー100話

世の中は相変わらずキコちゃんブームが続いていた。

若くて可愛らしい宮妃の誕生は国民にとって大きな癒しになっていた。

あっちこっちの公務に引っ張り出され、ちょっとドジってしまう所も「可愛い」と評判。

どこかへ慰問にいけば一緒に泣いてしまうような未熟な妃。

でも夫婦仲はすこぶるよくて、どこへいっても幸せそうな二人は

回りから微笑ましくとられられていた。

皇室には次々行事が控えていた。

即位の大礼、大嘗祭、そして立太子の礼。新しい皇室が本格的に動き出す

時だったのだ。

戦争を引きずって一生涯「大元帥」のイメージを崩さなかった先帝。

けれど新帝は「日本国憲法を守り・・・皆さんと共に・・・」と民主国家の象徴として

役割を果たそうとしていた。

とはいえ、庶民にとっては「また皇室ファッションが楽しめる」くらいの意識しか

なかったのだが。

 

皇室で重要な儀式が続く中、マサコは帰国早々北米2課に配属され

本格的な仕事を始めた。

とはいっても、ヒサシのおかげで自分に意見する上司など一人もいなかったし

新人は禁じられているマイカー出勤も堂々と行っていた。

マサコにとって「規則正しく生活する」というのが、こんなに大変だとは思わなかった。

公務員だから、とにかく毎日同じ時間に出勤し、同じ時間に昼休みをとり

同じ時間に帰る・・・帰宅が遅くなる事はあっても早くなる事はない。

そういう生活に驚いたのだ。

学生時代は出たくない講義があれば休めばよかったし、風邪をひいたといえば

大体「お大事に」といってくれて終わった。

でも、仕事となれば話は別。

休みたくでも「何でどうして?いつ出てこられるの?」と来るし、そういう事を

一々説明するのが面倒。

昼休みも何できっちり1時間なんだか・・・自由になるのはトイレにいく時だけ。

仕方ないので、休みたくなったらトイレに駆け込むようになった。

文句など言える筈もない。

だって自分には父がいるんだから。

「マサコ、仕事はきっちりやれよ」

と父は言った。勿論だ。だって自分は将来父のような外交官になるんだもの。

ちゃんと外交官になって大使になったらお父様は自分を認めてくれるかも。

けれど、そんな希望は働き始めてわずか数ヶ月で挫折した。

仕事が面白くないのである。はっきりいって意義を見出せない。

北米2課といえば聞こえがいいが、マサコに与えられ仕事は事務処理。

それも初歩の初歩。

自分で大臣に意見が出来るわけではないし、アイデアを申し出ても相手にされない。

まだ新人だから重要な仕事を任せるのは回りの目があって出来ないのかも。

でもそれなら父が意見してくれる筈なのに、今回は何もいってくれない。

もしかして耳に入っていないの?と思って、相談したら

もう少しきちんと仕事が出来るようになったら」といわれた。

やりがいのある仕事をしただけなのに、コピーをとったり書類を回したり。

マサコのやる気はどんどんそがれていき、トイレにこもる回数も増える。

そのうち、段々気持ちも沈んできた。

上司も同僚も誰もかれも自分を理解していないような気がした。

私はもっと仕事が出来る。

私はオワダ家の娘なのだ。それなのに同期と同じレベルの仕事に甘んじる

必要性があるだろうか?

外務省は女性差別が激しい場所なのかもしれない。

私は普通の男より勉強だって出来るし仕事だって・・・・差別だとしたら許せない。

世の中、男女雇用均等法時代なのに。

「そうでしょ?お父様」

そりゃそうだな。国家公務員に男女差別があってはいけないな」

でも私、差別されているの。この間なんか、1課の人があまりに私に失礼な

態度をとるから・・だって1課のじゃなくて2課のコピー機を勝手に使うのよ。

だから「勝手に使わないで私に断って」と言ったの。そしたらすごく嫌な目つきで

はあ?っていうのよ。はあ?って。信じられる?

コピー機っってカウントされてるの知らないのかしらね。

私達の2課ばっかり使うと思われたら困るから言ってるのに」

わかったわかった」

ヒサシはうんざりと娘の言葉を聞いていた。

このまくしたてるような言い方とどうでもいい事に拘る性格。

何とかならんか。ユミコそっくりだ。これがレイコやセツコだったら

ここまで変な部分に拘ることはないのに。

 

マサコは父に胸のうちを吐き出すと少し気が楽になった。

でもそのうち、自分がこの先、外務省という場所でやっていけるのかどうか

不安になり始めた。

いうべきことを言ってるだけなのに、みんな「そんなに杓子定規に言っても」

といってとりあってくれないし、仕舞いには

オワダさん・・・そんなに考えすぎない方がいいわよ」と言われた。

言葉通りうけとったマサコは自分が孤高の戦士に思えてきた。

そんなとき

オワダ君は正しいよ。うん。絶対に正しい」と言ってくれる人が現われた。

ちょっとした酒の席でもぶちあげたマサコの言葉をにこにこ笑って聞いて

くれる人。

いや、僕の妻も君みたいに頭がよかったらな」

彼はそういって笑った。まるで父のような包容力に溢れた微笑だった。

自信を持つといいよ。君はあのオワダさんの娘なんだし。ハーバードも出て

他の人とはレベルが違うんだから」

そ・・そうかしら」

ああ。これからの女性はばんばん仕事をして人の上に立たないと。

早くおいついておいで」

その言葉にマサコは一目で恋をした。

 

 

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」56 (フィクションだってさ)

2012-06-03 17:01:18 | 小説「天皇の母1話ー100話

1990年6月。

マサコはオックスフォードから帰って来た。

留学生の中でただ一人修士論文を提出できないままだった。

マスコミが私を追い回したから」という言い訳をヒサシはむなしく聞いた。

これは妃候補として大きな汚点になるのではないかと心配だったのだ。

当の本人は別に気にする風でもなく、外務省に戻るなりちらほらと男性の噂すら

聞こえてきた。

 

そんな6月29日。たいそう寒い日ではあったがこの日、アヤノミヤとカワシマキコ嬢の

結婚の儀が盛大に行われた。

かねてからの「キコちゃんブーム」に沸く日本では、マスコミがキコ嬢に密着し、

マサコなら多分癇癪を起こしていそうなくらいしつこく質問したり、追い掛け回したり

していたが、キコ嬢は常に笑顔で常に物腰が柔らかだった。

朝の5時にピンクのワンピースに同色の帽子を被り、家を出る。

ありがとう存じました」という言葉が響き、母は涙ぐみ、父は笑顔で握手した。

赤坂御所ではアヤノミヤが笑顔一杯に車に乗り込んでいる。

天皇も皇后も皇太子もノリノミヤも満面の微笑み。

車の中から振り返って手を振るアヤノミヤは幸せ一杯の顔だった。

 

かつてショウダミチコが入内する時にはお古だった唐衣・裳や束帯が今回は

二人に合わせて新調された。

アヤノミヤは次男なので黒の束帯。

そしてキコ嬢は「萌黄」色の唐衣を身に着けた。

夏装束の萌黄は大層彼女に似合って、まるで平安時代から抜け出たように

輝いている。

背が高いアヤノミヤの束帯姿は現代版「光源氏」そのもので、そうならとりわけ

キコ嬢は「紫の上」という所か。

あまりにも十二単を普通に着こなしている姿をテレビで見たヒサシは心にざわめく

ものを感じずにはいられなかった。

あの衣装は本当に重い。

それなのに気負う風でもなくよろけるでもなく、絵巻のように歩く・・・・・

 

通常、皇族の結婚の儀には外国からの参列者はいない。

しかし、この日は特別にタイからシリントン王女が参列していた。

タイ王室と皇室は古くから仲がよかったが、とりわけアヤノミヤは生物の研究で

タイを訪れる事が多く、プミポン国王からは息子同様に扱われ、タイの国民もまた

アヤノミヤを皇太子と勘違いする程に親しんでいた。

シリントン王女は国王の次女で秀才で慈悲深い王女としてタイでは抜群の

人気を誇っている。

その王女が慣例を破って特別に

アヤノミヤの結婚の儀に参列した事の意義は大きかった。

しかし後にアヤノミヤの「親タイ」ぶりが陰謀に巻き込まれるとは

この時はまだ気づいていない。

 

短い「結婚の儀」が終わり、賢所から出てきたアヤノミヤに

与えられた宮号は「アキシノノミヤ

秋篠寺から取ったという話。天皇・皇后のネーミングのうまさは

群を抜いている。発音といい漢字といい、あまりにも上品で筆頭宮家にふさわしい。

皇太子が「春宮(とうぐう)」と呼ばれていたなら、弟は「秋」なのだ。

つまり天皇の次男への期待度はかなり大きいと考えざるを得ない。

アキシノノミヤフミヒト親王殿下・キコ妃殿下がここに誕生した。

弱冠25歳と24歳の初々しくも鮮やかな宮家の誕生だった。

やがて二人は「朝見の儀」に向かう。

美しいローブ・デコルテに着替えたキコ妃は、そのスタイルのよさといい

センスといい申し分がなかった。

立ち居振る舞いも緊張の中に堂々としたものがあり、立派な妃殿下ぶり。

アキシノノミヤ家の御栄えを祈ります」

天皇・皇后の瞳も輝いていた。

 

夕方には気温はぐっと冷えて、もうすぐ7月だというのに寒いくらいだった。

梅雨時の寒さなのか、後に宮家が直面する数々の困難を予感してなのか

この風の冷たさは異様だった。

デコルテにケープ状のコートを着てティアラを身に着けたキコ妃は

輝くばかりの美しさだった。

車は黒塗りで窓の中からのお手振りだったが、沿道には多くの人がつめかけ

キコさまーー」という声をかけた。

微笑みつつ手を振る姿も立派な妃殿下ぶりだった。

その様子を見るヒサシはますます危機感を募らせた。

たかが学習院の教授の娘と侮っていたら・・・これはとんだ食わせ者だ。

賢しいというか口元に広がる気の強さが気に入らない

ヒサシとて自分の娘は可愛い。

しかし、その娘が学歴以外の点ではかなり欠点が多い事に気づいていた。

元々の性格なのか、他人とうまく会話が出来ず、人に誤解を与えてしまう。

勉強は出来ても決して賢いとはいえない。

マサコではなくレイコやセツコだったらもう少しうまく立ちまわれるだろうが

皇室にとって双子は忌むべきものだろう。

ゆえにここは、何が何でもマサコでないといけないのだ。

 

ロンドンで記者達に「私は関係ありません!」と暴言を吐いた事で、マサコの

マスコミ受けは相当悪くなっている。

金で片付けるしかないだろう。

それから友人も一人もいないらしい・・・それも田園調布フタバでの同級生に

声をかけねばなるまい。

今までは外国暮らしが長かったし、エガシラの両親とのおりあいの点もあって

都内の自宅に手を入れてはいなかったが、この際は新築しよう。

それから墓を作って、マサコにいい服を着せて「恵まれた家のキャリアウーマン」

を印象つける。さらに料理と育児が好きな「家庭的な娘」を作り出さなくては。

キコ妃に負けてはならぬ。

貧乏な大学教授の娘とオワダの娘は格が違うのだから。

夜、テレビに映った新居でのアキシノノミヤ夫妻を見てヒサシはちょっと安心した。

二人が入った新居はとても「宮邸」などというものではない平屋建ての古い建物。

何でも宮内庁の職員用宿舎なんだとか。

宮家だから使用人も少ないし、学生結婚だしという事で

甘やかさぬ為にこのような家になったといわれている。

そう・・どんなに若くて人気があってもしょせん次男は次男。

正真正銘の皇太子とは違う。

 

宮内庁には外務省から流れているのが数名いる。

まずそれを懐柔する。

その手始めが・・・・・・

 

数日後、雑誌に「宮内庁からクレーム」という記事が載った。

それは朝見の儀に臨む直前、宮の前髪を直す初々しいキコ妃の写真について

宮内庁が新聞社に対し「不敬」であると差し止めを命じたというのだ。

かつて先帝のネクタイを直す皇太后の写真もあった事だし、普通は問題になる

筈のない事だった。

周りがうらやむ程の仲良しぶりの写真に、見た人の多くは微笑ましさで

一杯になったろう。

しかし、「恐れ多くも宮様の髪に触る妃殿下」というのはあまりにもまずい・・・と

宮内庁は新聞社にクレームを出したのだった。

釈然としないマスコミ。

そしてそのクレームの矛先は「宮の髪を直す生意気な妃」という方向に向いた。

その「不敬な妃」を演出したのが同じ宮内庁の中の人間だったという事に

マスコミはまだ気づいていなかった。

いや、世間がまだ気づいていなかった。

しかし、陰謀はちゃくちゃくと進んでいた。

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」55 (ふぃっくしょん)

2012-05-27 11:08:55 | 小説「天皇の母1話ー100話

新潟はそろそろ秋の気配が濃厚になっていた。

東京はこのところ、いつまでたっても夏が終わらず、特にビルに囲まれた

丸の内界隈はフェーン現象のせいで、なお一層暑い。

それでも暦上は秋なのだからと、人々はスーツの色を暗くしてみたり、早い者に

至ってはセーターなどを着てみたりする。

だから山から吹いてくる風が心地いい田舎は、東京から集まった人達にとっては

ほっとする一瞬なのだった。

ムラカミ市の自宅は、空き家になっている。

オワダ家の両親は共に老人ホームでの余生をよぎなくされていた。

子供達が何人いても結局面倒を見る人間は誰もおらず、兄弟が金を出し合って

高級有料老人ホームに入れたのだった。

外務省に務めるヒサシ以外はみな、金にならない学者ばかり。

(全く・・・不甲斐ないというか。そういう俺だって結果的には施設に親を送り込んだ

張本人なわけだけどな。俺は嫌だなあ。もし人生最後の日が訪れるとしたら

世界で一番高いレストランで最高級のステーキを食べ、ワインを飲んでから

死にたい。大理石の御殿の中で。施設で朽ち果てるなんざまっぴらだ)

 

法事に訪れた人々は僧侶の読経を聞きながら神妙な顔をしている。

考えてみると新潟にオワダの墓はない。

兄も弟も東京に墓を作った。自分は・・・・まだ、そんなものは必要ないと思っていたが。

こっちに墓を買うのは高いのかな」

ちらっと、隣に座る親戚の一人に言ってみる。

彼は声を潜めて「東京さ比べたら高いって事はないだろうけど、でも色々しきたりが

あるから。お寺さんに相談してみたら

そう・・檀家になれば毎年檀家料を払って、法事を定期的に行い、墓参りのついでに

寺に布施をして・・・と、面倒な事が多々ある。

しかし。あくまでもオワダの本拠地は新潟のムラカミ市という事になれば、墓の一つ

もなければ格好がつかないだろう。

それも兄達のよりも立派で威厳がある墓を。

 

こりゃ、珍しいこと。ヒサシ君が来るとは。仕事、忙しくねえのかい?

お父さん達は元気?奥さんは?お嬢さん、何人いたっけか」

法事の後の食事会で、古くからの親族に矢継ぎ早に尋ねられて、ヒサシは言葉を

濁した。

ユミコはまだ入院している。時々ヒステリーを起こす以外は別にどうってことは

ないのだが。

レイコとセツコはそれぞれスイスとパリに留学している。この双子が双子でさえ

なければ事はもっとスムーズに運んだかもしれない。

マサコちゃんは?」

ああ・・今、ロンドンの大学に留学していますよ」

前に雑誌に載ってたって。何でも外務省に入ったって?優秀なお父さんの子は

やっぱり優秀なんだなあ」

マサコちゃん、皇太子妃候補になったって?すごいねえ。美人で頭がいいと

いいねえ。そしたらあたしたちも親戚だわ」

いや、それは単なる噂で」

「そうよねーー皇室に入るのには3代前までさかのぼって調べられるっていうし

難しいってば」

キコさんみたいなおっとりしたお嬢さんの方が向いてるって」

その言葉にヒサシはカチンときた。それでも我慢して黙っている。

でも、嫁さんはどうしたの?何で来ないの?」

いや、ちょっと具合を悪くしておりまして」

そら大変だ。まあ、あんたは次男だからそれでもいいけど、長男の嫁ったら

ほら病気している暇もないから」

あんた、何いってるの。ヒサシ君の嫁さんは箱入り一人娘だ。婿養子とおんなじ。

気を遣ってるんだーーヒサシ君。今時流行りの逆玉?いやいや、それも大変だな」

ああ・・・くだらない。

いつもならこんな法事には顔を出さないものを。

 

なのに、なぜ来た?」

目の前で酒をついでくれたのは兄だった。

いや、爺さんの100回忌だから来ただけ」

お前にとって爺さんなんてどうでもいい事じゃないのか?それとも何か

利用できることでもあるのか?」

失礼だな。私だってオワダの人間だ。法事に来る権利くらいあるだろう」

ついかっとなってしまい、「兄さん・・・」と妹にたしなめられる。

いつも来ない人が来るから珍しがられているだけよ

そうそう、兄さんは外国暮らしで忙しいし、子供達もみな優秀で、私達とは

身分が違うから」

何が身分だよ。努力した結果がこうなっただけだ。ひがむ必要はあるまい」

ひがんでなんかないわよ。でも、新潟より近い静岡のホームにだって滅多に顔を

出さないじゃない?寂しがってたわよ。お父さんもお母さんも」

まるでうるさい雀のように妹達はなんやかやと言い出した。

回りは興味深げに見ている。

ここまで憎まれ口をきかれても仕方ない理由がヒサシにはあった。

 

ユミコと結婚して以来、付き合うのはもっぱらエガシラ家の人間ばかり。

ユミコはマサコが生まれた時の母の言葉をまだ恨んでいるらしく、絶対に

オワダ家と近寄ろうとはしない。

それを見て来た娘達もまたオワダ家には近寄らない。自然に親戚とは疎遠になる。

甥や姪達に会うこともなければ祝い事にも招かれない。

親族からすると、数年に一度会うか会わないかの我が娘達が奇異に見えると

言われたことがあった。

いつも姉妹で固まって他の人と話が出来ない」と。

季節の挨拶も、社交辞令も娘達には無縁だった。勿論ユミコにも。

他人とうまく関わりあう必要などなかったから。

頂点に立つのは常に自分達で自分達が基準だと思えば、たとえ周りと会話が

出来なくても落ち込む必要はないし、超然としていられる。

そう思ってやってきたのだ。

 

ヒサシにとって近いのは職場・政府の人脈であり、金であり、自分の部下だった。

お前どんな人生を生きようと知った事ではないが、オワダの名前を利用する

ようなことはするなよ。俺達を巻き込むな

「兄は憮然としていった。

どういう事だよ」

学者の一人としてはお前が唱えたハンディキャップ論には大いに反対だ。

そんな考えを弟が持っていた事自体ぞっとする。もう一つは機密費流用の話だ」

は・・兄さんも新聞報道を信じているのか

信じるも何も事実だろう。お前ならやりかねないさ。小さい頃から計算高くて

ケチなお前なら。どんな時も自分の利益しか考えない。お前が国会に引き出されても

たとえ逮捕されても俺達とは関係ないから」

へえ・・・全く寂しい話だな。身内が・・・それも兄弟が信じてくれないとは」

何が兄弟だよ。お前達のような汚い政治まみれの人間と一緒にするな。

お前が東京に出て以来、滅多に顔を合わさないし、親戚付き合いもしないし

ずっと無関心だったのに、今になってここに姿を現したという事実が、俺は不思議だ。

いや、不信感を持っている」

墓を買おうかと思っただけだ」

墓?お前の信じる宗教に墓なんぞ必要だったか?白地に題目書いたたすきと

長ったらしい数珠さえあればいいんじゃないのか?」

いい加減にしろ」

ヒサシは思わず兄の顔を殴りつけた。

殴られた兄は座ったまま倒れこんでしまう。一斉に回りが駆け寄ってきた。

どうしたの?今日は法事で大切な日だっていうのに」

いい歳してみっともない

叔母が仲裁に入った。

「ヒサシ君。お兄ちゃんに何を言ったの?」

悪いのは兄貴だろう。人を侮辱しやがって。たかが大学教授のくせに」

お兄ちゃんに向かってそれはないでしょ。ヒサシ君、謝りなさい。こういう時は

若い方が先に謝るの。お兄ちゃんは今日の法事の為に散々尽くしてくれた

んだよ。日を決めたりお寺さんにお礼したり食事の世話まで。そりゃあもう。

長男だから当たり前かもしれないけど、今時家族総出でこういう法事をきっちり

やってくれるってなかなかないんだよ。だからあたしらだってこうやって久しぶりに

集まって楽しい時間を過ごしているんじゃないの。ねえ?」

いいか、ヒサシ。無心論者のお前が今更ここに墓なんて、どんな企みが裏に

あるのかわからんが、たいがいにしとけよ。そうでないと今にオワダ家全体に

災いをもたらすようになる」

「どういう意味が・・・」

「お前んとこの長女。皇太子妃候補だと?いくら外交官の娘でも

由緒正しい家の娘しか皇太子妃になんかなれん。お前の娘にそんな資格が

あると思うのか?もし、こんな事が実現したら日本は終わりだ。お前の娘は

ミナマタ病を引き起こしたチッソ会長の血が流れているんだからな」

兄の言葉にヒサシは顔変え、ぶるぶると震え始めた。

ミナマタ病がなんだ。それと私達に何の関係がある?マサコはあんた達の

子供と違って出来がいいんだよ。え?ハーバード出の子供なんか、あんたらの

中にいるか?外務省勤めして東大に入ってオックスフォードに留学した奴が

いるか?皇太子なんか手の平に載せてやる。三顧の礼で迎えさせて見せる」

その台詞に一同はただ黙るしかなかった。

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」54 (フィクションよね)

2012-05-18 07:00:00 | 小説「天皇の母1話ー100話

皇室会議において全会一致で「カワシマキコ嬢をアヤノミヤ妃に内定」したのは

9月のことだった。

キコはその決定を運命の入り口だと思った。

自分はまだ若いと思っていた。

愛を信じるだけでは結婚生活は成立しない」と誰もが言うけど、今の自分の

よりどころは「愛」しかないのだ。

身分も財力もなく、ただアヤノミヤの愛だけを心の支えとして入内するのだ。

記者会見には紺色のワンピースで臨んだ。

かつて皇后が婚約記者会見で手袋についてあれやこれやとバッシングされた例も

あるので手袋は長めにした。でも、本当はワンピースに馬鹿でかい手袋はあまり

似合っているとはいえなかった。

髪は後ろで一部を束ね、りぼんをつけて帽子はなし。

ひたすら質素に目立たぬようにと気を遣った。

「質問を受けてわからなくなったら僕の顔を見て」

アヤノミヤはそう言って励ました。

 

ずらりと並ぶ記者と二人の間は随分と狭かった。

アヤノミヤは婚約が決まって笑顔が絶えず、そんな彼を見ていると自分まで

笑顔になった。でもすぐに緊張が戻ってきて硬くなる。

質問は型通りに思われた。

・アヤノミヤ様のどこが好き?

・どんな家庭を築きたいですか?

それらは予想していた事なのですらすらと答える事が出来た。

アヤオミヤはたえず自分を見てにっこり笑ってから答えるので、記者はそのたびに

フラッシュをたく。

でも・・・「キコさんに質問します。アヤノミヤ様は初恋の人ですか?」

この質問にはびっくりしてしまった。

思わずアヤノミヤを見ると、微笑んでいる。

お答えしてもよろしゅうございますか?」

どうぞ」

その自信ありげな彼の返事が心を決めた。

はい。そうでございます」

初めての恋。初めての愛を貫いて私は結婚するのだ。アヤノミヤが皇族だから

ではない。私がであった彼は学習院の大学の先輩。

私を「シャオチー(小さなキコちゃん)」と呼ぶ、私だけをみつめてくれる彼。

お子様は何人?」

何人にいたしましょうか

すかさずアヤノミヤが助け舟を出して皆大笑いした。

こんな風に突如、どきりとする質問をされるのが記者会見なのかしら?

何と答えたら・・・・

あの・・それも、殿下とよく相談して」

また笑いが起こった。

考えてみると、みんな笑顔だらけの記者会見だった。

 

上出来。緊張したけど大丈夫だったね」とアヤノミヤはそっとキコのほほに

手をあてた。真っ赤になったほほは熱くなっている。

今日はこれだけではない。

これから両親と参内して夕食を一緒にとる事になっている。

粗相をしないだろうか。テーブルマナーは大丈夫だろうか。

元々は鷹揚でのんびりとした性格なのに、今日はめまぐるしくあれこれ考える

自分がいる。

心配しなくても女官が全部教えてくれるから

はい・・・

まさか、もう結婚したくなくなった?」

もう、殿下ったら」

今日は綺麗だったよ。結婚の儀の時はきっと、もっともっと綺麗だろな

アヤノミヤは滅多にキコを褒めたり称えたりするタイプではなかったけれど

そんな台詞が出たという事は、内心はかなり心配だったのではないだろうか。

宮様もご心配だったの?緊張していたの?」

当たり前。慣れているわけじゃないよ

そうか・・・殿下もまたそうだったのか。

キコはほっとした。この人の背中を追いかけるしか出来ない。

先の事をあれこれ考えても仕方ない。

今は今出来る精一杯の事をするまで。

オールウエイズスマイル。父の教えが頭をよぎる。

そうだ。くよくよするのはやめよう。いつも笑顔で乗り切ろう。

そう思ったらこれから結婚の儀までの果てしない日々も耐えられると思った。

 

テレビで会見の様子を見ていた皇后は

皇室に春風が吹いてくるみたい」だと思った。

キコの回りはなぜかいつも春風が吹いている。それは参内しても同じ。

御所の庭の花々が一斉に咲きだすような明るさを持ってきてくれる。

そういう雰囲気は自分にはなかったと思う。

かなわない・・・・ちょっと皇后はそう思った。

 

テレビで会見の様子を見ていたヒサシは唇をかみ締めた。

今時、こんな前時代的な皇室にとって理想的な女がいたとは」

これではマサコの分が悪くなる一方だった。

もう嫌。皇室なんか大嫌い。マスコミが毎日追い掛け回して。

私達のまーちゃんは関係ないって言ってるのに」

ユミコはわめくように言った。

関係ない事はない。今後は」

何を言ってるんですか?まーちゃんは皇太子妃候補から外れているのよ。

なのにまたマスコミが騒ぎ出して・・まさか、あなたが手を回したの?」

さあな」

さあって・・・まーちゃんは皇室に向かない事くらい知ってるじゃないの。

あの子は一生外務省で働くって言ってるのよ」

それでは困る。色々な意味でマサコには何が何でも皇太子妃になって

貰わなくては」

いきなりドスンと音がした。

ユミコが泡を吹いて倒れている。

おい、しっかりしろ。ユミコ」

ヒサシは慌てて双子を呼び、救急車を呼んだ。

 

神経衰弱のようなもの・・・で、ユミコは暫く入院が必要になった。

ヒステリックですぐに興奮する様は娘とよく似ていた。

自分の頭の中で整理がつかなくなるとすぐにパニックを起こすのだ。

娘を思うゆえなのか。追い掛け回されることに疲れただけなのか。

ヒサシも娘の出来がそれほどいいとは思っていない。

けれど、とにかく、今の自分に残された手は娘の入内のみ。

機密費流用の件が表ざたになる前に。

そして皇太子妃、皇后の父として国連の大使に。

ヒサシの野心はどこまでも膨らむばかりだった。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」53(フィクション?)

2012-05-17 07:00:00 | 小説「天皇の母1話ー100話

アヤノミヤとカワシマキコ嬢の婚約が正式発表されたとき、

国民は皇室が時代とともに変わった事を認識した。

古い時代の人から見れば、何もかも「掟破り」のように見えたのだ。

・ 弟宮が兄宮より早く結婚すること

・ 発表が先帝の崩御から1年経っていなかったこと

・ カワシマキコ嬢は学習院の官舎住まい。一軒家に住んでいない。

・ 学生結婚であること

それでも、国民からもろ手を挙げて祝福された理由はいくつかある。

・ アヤノミヤが強い意志を持って愛を貫いたこと。

・ キコ嬢は今時珍しい程清楚で可愛らしいお嬢さん。しかも学習院出身。

・ 先帝崩御で何となく暗くなりがちな世相に明るい空気を吹き込んでくれたこと。

以後、「キコちゃんブーム」が起きる。

カワシマ家にはテレビがないらしい。お父様の躾の一環で、テレビよりも

家族のコミュニケーションを大事にする」

「カワシマ家は3LDKの官舎に住んでいて贅沢を知らない家庭」

学習院・常盤会は「アヤノミヤ様、よくぞお選びになって下さった。最高の女性を」

と褒め称えた。

実際の所、キコ嬢は素直で明るい性格。

どんなにマスコミに追われても嫌な顔一つせずにお辞儀をする。礼儀正しいその

態度や明るいしぐさが記者達を魅了した。

毎日、ジョギングの時も美容院に行く時もキコ嬢はマスコミに追い掛け回された。

そのうち、顔見知りになるとさらに笑顔が加わって何となく得をした気分になる。

けなげでいたいけで、でも笑顔が素晴らしい若い女性が筆頭宮家の妃になる。

それこそ20世紀最後のシンデレラ・ストーリーかもしれない。

そう、あの中古の官舎の中からアヤノミヤ王子はキコ姫を見つけ出したのだ。

 

天皇・皇后は婚約の発表と同時に、カワシマ夫妻を御所に招いた。

ミチコ妃の時には考えられない事だった。

あの時のような思いはさせない・・・との強い決意から天皇・皇后は結婚前の

嫁の実家と親交を持つ。それは大きな改革として受け入れられた。

それにカワシマ夫妻もよく応えた。

どのように招かれても決しておごることなく、地味に目立たないように行動する。

学者のカシマ教授と天皇は話が合った。

慣れ親しんだ学習院の教授という事で、一層親しみがわいたのかもしれない。

結婚の儀の事は何も心配しなくてよろしい。全て任せるように」と皇后は言った。

金銭的に余裕がない筈のカワシマ家には皇室から提供していくつもりだ。

派手には出来ないが体面を保つだけのものは持たせなくては。

皇后の頭の中でセツ君の台詞が蘇る。

入内する前から皇族に好かれているとは・・・・なんと幸せな娘であることか。

キコはノリノミヤともすぐに仲良しになった。

二人で喋っている姿はまるで姉妹のようだ。

アヤノミヤ・ノリノミヤ・キコと3人並ぶとそこだけほわっとした空気が流れる。

孤立しているような皇太子がまた不憫にも見えた。

皇后の心の中では気負いがないキコの心情がなかなか理解できないし

ちょっと可愛げがないと見える。

かつての自分もまたそうだったことは・・・あまり記憶にない。

でも、とにもかくにも認めたのだ。

私情を挟んではいけない。

 

そんなブームに危機感を覚える人間がいた。

オワダヒサシである。

まさかアヤノミヤが皇太子よりも早く結婚を決めるとは思わなかった。

でもどうせ大学教授ふぜいの娘だからとタカをくくっていたらとんでもない。

彼女はブームを巻き起こしてしまった。

田舎くさい娘だと思う。貧乏人の学者家庭のくせにと思う。

学習院ごときで何だというのだろうか。

それなのに国民は何を喜んでいるのだろう。両陛下との仲も良好?

何もかもオワダ家と違うその姿勢にヒサシは怒りを覚えた。

このままでは皇太子妃もキコ嬢のような娘を・・・という事になりかねない。

何とかしなくては。

外務省には独自のネットワークがあり、機密費も無論ある。

さあ・・誰に相談しようか。誰を取り込むべきか。

娘の妨げになる奴はどこまでも排除せねば。

ぐるぐるとアイデアが浮かんでヒサシはほくそえんだ。

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」52 (フィクションだった)

2012-05-16 07:00:00 | 小説「天皇の母1話ー100話

その年の夏、初めてマスコミがカワシマキコ嬢をカメラにとらえた。

彼女は学習院大学のキャンパスを父親と一緒にゆったりと歩いていた。

セミロングの髪と清楚なワンピース。

そのおっとりとした雰囲気に誰もが「今時、こんな女性がいるのか」と思った。

 

キコが決めたのだから、その通りに。でも責任は全部自分にあると思いなさい。

何よりも皇室を敬い、両陛下を敬い、殿下に尽くす事。出来るかい?」

父の言葉をキコはしっかりと頷きながら聞いた。

今後はお前を助けてやれないだろう。どんな辛い事があっても一人で耐えると

約束できるか?」

はい」

母はさめざめと泣いた。

まだ22歳なのに。皇室は私達には遠い所です。絶対に苦労します。

でも何もしてやれません。それでも結婚に賛成なさるの?」

キコが殿下との愛を成就させたいと言っているのだから」

そうは言っても。私は心配です。ミチコ妃殿下の苦労を私達は知っているのよ」

時代が違うさ。それにキコは選ばれたんだから。決して好き嫌いだけで決めている

わけではない。アヤノミヤ殿下の見識を信じよう」

まるで・・かぐや姫のよう」

泣く母の肩を父はそっと抱いた。

オールウエイズスマイル。この言葉を胸に頑張れば何事も耐えられる。キコの

幸せを祈ろうじゃないか」

キコはその時、両親が心配しつつも自分を尊重してくれている事を知った。

取り乱す事なく、自分と殿下を信じている。

そんな気持ちが嬉しかった。

姉さんは勇気があるなあ

弟のシュウがボソッと言った。自分が皇室に嫁いだら彼はカワシマ家のただ一人の

子供になる。もう頻繁に会えないし、昔のようにからかったりも出来ない。

そして姉が皇室に嫁ぐという事は、弟にとっても無言の圧力がかかる事だった。

今後は行動に注意しなくてはならない。

姉の名誉を傷つけないように。マスコミにおもしろおかしく取り上げられないように。

人を好きになるってすごい事なんだね

ごめんね」

え?別にいいよ。僕、反対してないよ。相手がアヤノミヤ様なら仕方ないや」

シュウはそう言って顔をしかめた。

 

そして学習院のキャンパスで初めてマスコミの前にさらされたとき、

寄り添ってくれている父の大きさが伝わり、緊張の中にも余裕を感じる事が

出来た。

何も怖がる必要はない。

家族はいつも一つなのだから。

キコはゆっくりと笑った。オールウエイズスマイル。今、自分が出来ることは

微笑むことだけ。

 

そしてその頃、マサコはベルギーを旅行して歩いていた。

もうそろそろ新学期が始まるというのにイギリスをでてヨーロッパ旅行に

あけくれていたのには、わけがある。

イギリスに来て以来、マサコは気が塞ぐことの連続だった。

授業についていけない。友達が出来ない。アメリカでは自由にやっていけたのに

何でロンドンでは無理なのか。

一緒に行った6人の仲間ともうまくいかない。

結局、大学の寮を出てアパートに引っ越した。

修士論文を書かなくてはいけないのに、どうしても書けない。誰が悪いって

自分?そんな筈ない。自分はハーバード出なのに。

いらつくロンドン生活。

そこにさらに日本からマスコミが押しかけてきた。

どうしてなのかわからないけど、一度脱落したヒロノミヤ妃の候補に挙がっていた。

「心配しないで任せておけ」

と父は言うけど、マサコには事情が飲み込めなかった。

誰が何の目的で自分を皇太子妃候補にしようとしているのか?

あんな男と本気で結婚しろって?冗談でしょ?いや・・冗談じゃないのかも。

妹達の報告によるとマスコミが勝手に盛り上がっているみたいだけど。

そんなある日。

ロンドンのアパートの前に日本人が数名待ち構えていた。

マサコさん、お妃候補にあがっていますが・・・

頭の中で何かがブチ切れた。

その件については私には関係ございません。私は今ロンドンに留学中で

ございまして今後も勉学を続けて行きたいと思っておりますので」

語気を荒くしたつもりはなかったけど、一瞬にして彼らがひるみ後ずさったので

そこでちょっと溜飲を下げた。

 

ヒサシは外務省事務次官を目指していた。それから国連大使も。

家柄もなく、学歴だけが命のこの男にとって「権力」はプライドそのものだった。

頭のよさでは兄にはかなわない。でも、外務省内で権力を掴めば・・・誰もが

自分の前にひれふすだろう。

「恨をはらしておくれ」という遠い日の言葉が思い出される。

そうだ・・・差別だ。身分が何だ、家柄がなんだ・・血筋がなんだというのか。

純粋な日本であることはそんなに偉いものなのか?

そもそも自分達をこんな風にしたのは誰だ?日本人ではないか?

日本という国を見返してやりたい。その為には自分が権力を持たなければ。

権力を持つには政治家と繋がること。

そして、最大限に利用できるものは利用すること。

その為にマサコは重要なポジションにいた。

今の皇室において「お妃候補」として最も重要な事はなんだろう?

家柄?いや違う。学歴だ。

そのもっとも代表格はほかならぬ皇后。

皇后がお妃候補にあがったとき、散々「聖心女子大を優等の成績で卒業した」

事が喧伝された。それはショウダ家がどんな家柄であるかとか、血筋はどうだとか

そんな事よりも重要で華やかな理由に見えた。

あの時から皇室に入るには「学歴」が必要になったのだ。

げんにタカマドノ宮妃だってそうではないか。

バイリンガル、留学経験、よい成績・・・・それがこれからの妃としての重要な

ポイントである。

マサコの持つ学歴はぴったり。

そして、娘を皇太子妃にすれば「父親」の存在もクローズアップされる。 

「プリンセスの父親」がどれだけ影響力があるかみせつけてやりたい。

娘がどう考えようとそれは関係がない。

あの娘は贅沢が出来て華やかに暮らせればそれでいいのだ。

ヒサシは夢に見た。

オワダの血が皇室に入り込み、永遠に「名家」として家門の栄光を極めることを。

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韓国史劇風小説「天皇の母」51(フィクションだってば)

2012-05-15 07:00:00 | 小説「天皇の母1話ー100話

皇后陛下にはご健勝のご様子、何よりです

セツ君はそう言って微笑んだ。

大葬からこっち、色々あってお疲れでしょうに参内をお許し下さって感謝しています。

ご大葬の日は大変寒くて、私などはぶるぶる震えてしまいましたが。

それも天が陛下をお連れになる為の儀式と思えばこそ・・・」

お風邪をひかれるのではないかと心配申し上げました」

まあ。丈夫なだけがとりえの私ですから。でも最近は足が弱くなりましたの。

公務に出るのも時々億劫に感じる事がありますのよ。それに今になって先帝陛下

や宮様との思い出が心を締め付けて、たまらなくなる事も。歳をとるというのは

そういう事ですわね。宮様と私は短い間でしたが幸せでした。貞明皇后様も

私にはお優しくてね。私もそれをいい事に、大変なことは全部皇后様・・いえ、皇太后

様にお任せして宮様の看病に日々を費やしておりました」

はい

皇后は何をどう答えればいいのかわからなかった。

突然始まった思い出話。それを延々としようというのだろうか?

あなたも・・・いえ、陛下もご結婚以来、慣れない環境で本当にご苦労されましたね。

その責任の一端は私にもあると思っていらっしゃるだろうけど」

いえ・・そんな。先帝両陛下を始め、宮様方のお導きがあればこそ務めを

果たしてこれたと思っております。いつもお優しく、時には厳しく叱咤激励して

頂き、本当に感謝しております」

相変わらず優等生でいらっしゃる」

セツ君はにっこりと笑った。

そんな風に隙がないと、お疲れになるでしょう。自然体でよろしいのよ。

気負わず、ただただお上をお支えしていけば。といっても陛下はやっぱり

全身全霊をこめてやってしまうんでしょうけど」

そんな・・・・私はそんな完璧な人間ではありません」

完璧。常にそうあろうとしていらっしゃるだけでしょう。私達のような者に

貶められる事のないようにと。5年10年ならまだしも30年もそれをお続けに

なるという事がどれほど大変だったかと思います。もう身についてしまって

同化しているのかもしれませんが。ヒロノミヤさんはそんな母君をずっと

見ていらしたんですものね。色々お考えがあるでしょうにね」

それはどういう・・・・?」

いえ。あの頃、私もキク君達も両陛下のご結婚には反対しました。

皇族の結婚は皇族・五摂家以下華族から選ばれるというのが基準として

ありましたからね。血筋と家柄が全ての皇室でその壁が崩れたらどうなるか。

多分、私達は本能的に危機感を持っていたのだと思います。

戦前までの価値観やしきたりを全て否定するような世の中にあって、皇后陛下の

存在は古い人間を否定する象徴として映ったのも本当の話です。

でもとにもかくにも皇后陛下はやり遂げ、見事にこの国の国母におなりになった。

素晴らしいことです。時代は変わったのだと。

私は会津松平容保の孫として生まれました。ご存知のように会津は賊軍。

私はその直系の孫。本来なら皇室に嫁ぐなど考えられませんでした。

父は直系としての責任を果たすべく爵位を辞退し、叔父が爵位を継ぎました。

私が小さい頃から聞かされてきた話は「会津は賊軍ではない。けれど薩摩や

長州の陰謀によって賊軍にされてしまった。それゆえに維新後の生活は

苦しいものだったし、会津の人々がどれほどの辛酸をなめたかわからないという

ものばかりでした。父は常に「会津の人々の心を考えて行動せよ」と申しており

ました。戊辰戦争で多くの人が死にました。白虎隊や娘子隊。城の中で外で

女や子供たちが自ら命を絶ち、あるいは戦って死に。生き残った人達もまた

流浪の日々を送り・・・その苦しみを思えば私は藩主の孫として心して生きて

いかなくてはならないと常に心に刻んでおりました。

そんな私にまさか淳宮様との縁談が持ち上がるとは。淳宮様は先帝陛下とは

年子の弟君。当時からスポーツの宮様として人気抜群の宮様でしたのよ。

でも私は、私達を賊軍扱いした皇室に嫁がないといけないなんてと、本当に

悲しくて苦しくて泣き明かしたのです。

当時の皇太子殿下のお妃はクニノミヤ家からと決まっていました。それは

明治帝が決めたこと。戊辰戦争の時に苦難の道を歩まれ、お手元不如意になった

クニノミヤ家を心にかけていらした明治帝は皇太子妃を出す事で名誉挽回されようと

したのです。

でも、貞明様は正直面白くなかったと伺っています。貞明様は九条家の出とはいえ

側室の子で里子に出されていた身であらしゃり、クニノミヤ家は皇族。そんな格上の

嫁を迎えることに抵抗がおありだったんでしょう。

でも貞明様は明治帝のご遺志通りになさいました。帝の意思とはそれだけ重いのです。

その代わり、私を会津松平家から、キク君を徳川本家から迎えたのです。

私はただ泣いていたけど、貞明様は貞明様なりに賊軍の汚名を着せられた家への

思いを強くされていて、皇室に嫁がせる事で本当の意味で薩摩も長州も会津も

徳川も一つになさりたかったんだなあと。

そんなお心がわかったからこそ、私も皇室と会津の架け橋になろうと努力しました。

宮様とは短いご縁でしたし、お子もなす事が出来ず、妃としては甚だ不調法で

出来が悪く、陛下に何か言えた義理ではないのですよ」

そんな事は」

陛下は男子を二人も上げられて、お役目をきちんとお果たしになった。

何よりもそれが一番ですし素晴らしいことでした。きっと八百万の神々のご加護が

あるのでしょう」

セツ君はそれだけ言うと、ちょっと時間をかけて立ち上がった。

老人の長々とした思い出話にお付き合い下さってありがとう。陛下もお忙しいのに

本当にごめんなさい。でも先が短い私の話を聞くのもたまにはよろしいのでは

ないかと」

もっともっと聞かせて頂きたいですわ。妃殿下は歴史の生き証人でいらっしゃる。

私達はみな妃殿下から教わらなくてはならない事がたくさんあります」

いいえ・・あの。一つだけ。カワシマキコさんというお嬢さんね。白虎隊の子孫なの。

そのお話を聞いた時ね、私は体が震えましたよ。今も明治帝のお心が

生きているのではないかと」

セツ君はにっこりと笑った。

コメント (2)
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