第18場 王宮の廊下
長女と次女、去る。王様の臣下達が現れ、ベルを捕まえて舞台前面に連れ出す。
舞台転換が終わり、王様と妹君が現れる。
王様; ベル、久しぶりだ。相変わらず美しい。
ベル; 陛下、これはどういうことでしょう。
王様; 言うがいい。言葉を話す野獣はどこか。人をさらうとは危険極まりない。
ベル; さらわれたのではありません。望んで出向いたのです。
王様l; あなたの気持ちはわかる。野獣に連れ去られたので、自らを恥じているの
だろう。
ベル;恥じることなど何一つ。
妹君; 恥じる事はない、と。
ベル; 露ほども。
王様; ベルよ。よく考えて話せ。私は今でも、あなたと結婚したい。野獣と暮らした
あなたに他の誰が求婚する?
ベル; 誰に求婚されても、お受けするつもりはありません。
王様; 野獣を愛した、とでも?
妹君; 息子よ、この娘もまた危険です。
王様; 私の寛大さが伝わらなくて残念だ。一人で考えれば、わかることもある。
閉じ込めておけ。
臣下達; は。
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第19場 牢獄
臣下達、ベルを牢獄へ閉じ込める。
臣下達; ♪ 我等は見張りを続けた 二日経ち 三日経ち ♪
アンリ; ♪ この国を出るべきか 留まるべきか ♪
臣下達とアンリが去る。
ベル; 今日でもう二十日。約束の一週間はとうに過ぎてしまった。指輪はお邸を
示している。けれど牢獄に阻まれ行く事が出来ない。ようやくわかった。人間もまた
動物なんだ。あの王様も、いいえ、身分に関りなくこうして言葉を話す、この私だって。
人間は考えるから偉いという。でも良いこと、素晴らしいことばかり考えるわけでは
ない。会いたい。この牢獄を抜け出し、あなたに会いたい。
♪ 苦しい 切ない なりたい なりたい 牢獄を抜け出せる 可愛らしい動物に ♪
動物に。あなた。今だからわかる。野獣だから、何がいけなかったんだろう。あなたは
私を愛してくれた。それなのに私は思いをはねのけてしまった。愛と同情は違うという
何かの本で読んだ言葉のままに、自分ではろくろく考えもせず答えてしまった。
野獣の幻が現れる。
野獣 ♪ 生まれたての赤ん坊のように バラは言葉を話しません
その言葉にならない声を聞き 花咲く日を信じて育てるのです
野獣の幻消える。
ベル; 言葉にならない声お。それはあなたの声でもあったんだ。きっと言えない
思いがあったはず。その声を私は聞けなかった・・・
小鳥達が来る。
小鳥達; ベル様!
ベル; 小鳥さん!
ヒバリ; ベル様、ここでしたか。
ハチドリ; 大変です。このままではご主人様が飢え死にしてしまいます。
ベル; 飢え死にですって?
アオカケス; ベル様がいなくなられてから、何一つお召し上がりになっていません。
キツツキ; 私達、迎えに行ってはならないと止められていたのですが。
ベル; どういうことなの。
ヤマセミ; ご主人様の命令です。
ヒレンジャク; お邸に戻らなくても、迎えには行くなと。
ヒバリ; ベル様がお戻りになるのをひたすら待とうと。
ベル; ばかばか。何で信じてくれなかったの。必ず戻るって約束したじゃない。
ハチドリ; それは。
小鳥達、口をつぐむ。
ベル; 私が愛してないって言ったから?ちがう ♪ 私は あの方を ♪
清き仙女の声; ベル・・・・
高みに、清き仙女が降臨する。
小鳥達; 清き仙女よ。
ベル; あなたは夢に現れた・・・
清き仙女; ベル、私はあなたが、あなた自身に気づく時を待っていました。今こそ
その時です。さあ、行きなさい。
牢屋が開く。
ベル; ♪ あなたのもとへ ♪
ベル、小鳥達と逃げる。妹君が出る。
妹君; (清き仙女に)やはり、あなただったのね。ベルのあとを息子達に
追わせたわ。あなたも、あなたの息子も、今度こそ滅ぼしてみせる。
♪ 愛する息子の為 ♪
清き仙女と妹君消える。
↓
第17場 王宮の廊下
悪しき精霊の命令で王様の臣下達が現れ、ベルを捕まえて舞台前面に連れ出す。
王様もアンリと共に登場。
王様; 久しぶりだな。
ベル; 王様。
王様; お前をさらったという野獣はどこだ?私が見事に退治してみせよう。
ベル; さらわれたわけではありません。
王様l; そなたの父親は半狂乱になっていた。娘をたすけてくれと。
ベル; ほんの少し誤解があっただけです。
王様; 野獣の居場所を言え。
ベル; 知りません。
王様; 知らないだと?嘘を申すのか。
ベル; いいえ、本当に知らないのです。いつの間にかお邸に着き、いつの間にか
戻っているのです。
悪しき精霊; 危険な力を身につけてしまったのね。許せぬ。
王様; ベルを牢屋へ。
臣下達; は。
次景へ
第18場 牢獄
臣下達、ベルを牢獄へ閉じ込めて去る。アンリ、一人残る。
アンリ; ♪ これが果たして正しい道か それとも間違っているか
私もまたこの国の民 ♪
アンリが去る。
ベル; 誰か出して!お願い助けて。私はお邸に帰らなくちゃいけないの。
とっくに一週間は過ぎたわ。この指輪が導く場所に帰らなくては。
あの人は私が約束を破ったと思っているでしょう。きっと怒って悲しんでいるわ。
ああ、違うの。私は今すぐにも戻りたいのよ。人間の世というのは何と醜いの。
この国を治める王様は自分勝手に欲望のまま生きている。あの人たちの方がよっぽど
野獣よ。そう・・人は人の姿をしていても心まで人間とは限らないのね。
みかけに騙されてはいけないの。私にとってあの人こそ本物の人間だわ。
♪ もし許されるなら 私をあの人と同じ姿に ♪
あの人と同じになりたい。
野獣の幻が現れる。
野獣 ♪ 失った幸せを思い出すような 彼女の笑顔
それだけでいい 言葉などいらない
もの言わぬ動物になって その膝の上で眠らせて 永遠に ♪
幻が消える。小鳥達が来る。
小鳥達; ベル様!
ベル; あなた達。
ヒバリ; ベル様、こんな所に閉じ込められておいでとは。
ハチドリ; お可哀相に。どうしましょう。どうしましょう。
ご主人様も死にそうで・・・・
ヒバリ; こらっ!滅多なことを。
ベル; どういうことなの。なぜあの人が死にそうなの?
アオカケス; ベル様がいなくなられてから、部屋に閉じこもられ何も召し上がらず。
ベル; 何ですって。
キツツキ; お迎えにも行ってはいけないと。ベル様のお幸せの為に。
ベル; ああ、あの人はそこまで私の事を。
ヤマセミ; でも、こんな事になっているとは。
ヒレンジャク; 王様のせいですね。
ヒバリ; 早くここから出して差し上げないと。
ベル; お願い。ここから出して。
♪ もう一度会えたら 必ずいうわ あなたのこと・・・♪
清き精霊の声; 勇気ある娘よ。
高みに、清き仙女が降臨する。
清き精霊; 私はこの時を待っていたのです。さあ、行きなさい。
牢屋が開く。 ベル、小鳥達と逃げる。悪しき精霊登場。
悪しき精霊; お姉様に負けたりしない。私は必ずあなた達を滅ぼす。
♪ 愛する息子の為 ♪
清き精霊と悪しき精霊消える。