ふぶきの部屋

皇室問題を中心に、政治から宝塚まで。
毎日更新しています。

韓国史劇風小説「天皇の母」205(無理してフィクション)

2016-03-03 07:30:00 | 小説「天皇の母」201-

ご入園おめでとうございます

キコは小さなアイコにそう言った。

マコもカコも深くお辞儀をした。

制服を着たままのアイコは無表情で体をくねらせるとすぐにマサコの陰に隠れる。

皇族なんてつまらないわ。学習院じゃないといけないなんて

マサコは取り繕うようにそういうと、さっさとアイコの手を離した。

一緒に遊びましょう

カコが声をかけると、アイコは嬉しそうににっこり笑い、後をついていき、

女官がその後を追いかける。

あら、カコちゃんのいう事なら聞くのね。アイコ付きの女官になってほしいわ

キコが答えに窮すると

マサコははははと笑い出した。

冗談よ。それよりねえ、これみて頂戴

マサコは女官に銘じて、いくつもの袋をテーブルに乗せると

ばさっと中身を出した。

そこにはねずみの耳の形のカチューシャやマグカップ、

SサイズやMサイズのカラフルなパーカー、バスタオルが何枚も

さらにバッグや財布などがこれでもかという程に広がった。

どれもこれも、キャラクターグッズであったが、キコにはあまり

よくわからない。

これは・・・

ランドのお土産よ」

ランドの土産・・・つまり、先日、マサコ達が豪遊したあの・・・・

これを全部買われたのですか?」

思わずキコは言ってしまい、はっと口をつぐむ。

そりゃあそうよ。まさか盗んできたとは思わないでしょう。

アイコがマコちゃんとカコちゃんの為に選んだのよ。貰って頂戴

まあ」

キコは答えに窮し、でも思い切って言うしかなかった。

ありがとうございます。でもこんなには頂けません。どれか一つで」

何を言うの?全部私達が買ってきたのよ。あなた達の為に。

私、ランドは10年以上ぶりだけど、結構楽しかったわ。シーは初めてだったの。

あなた、行った事ある?」

いいえ。私も宮様もございません」

そうでしょうね。私はアメリカで本場のランドへ行ったのよ。スケールが

違うわよ。本当はアイコにも本物を見せたかったけど、しょうがないから

日本で我慢したの。

グッズも昔に比べたら種類も増えたし、可愛いし。思わず一杯

買ったの。子供達も喜ぶでしょう」

といい、女官に子供達を呼ばせた。

マコとカコの間に挟まれて歩いてきたアイコはさながら「妹」のようだった。

一瞬にして、カコの目が輝いたが、母の目を見て、はっと下を向く。

マコはテーブルの上に広げられたものの可愛らしさに思わず

顔をほころばせる。

これ、二人におみやげよ。全部上げるわ」

え?」

マコ達は顔を見合わせる。

キコはためらいがちに

トシノミヤ様があなた達の為に選んでくださったそうよ。でもこんなに

沢山いただくわけにはいかないわね。どれか一つになさい」

マコとカコは素直に「はい」といい、それからマサコ達に向かって

ありがとうございます」と頭を下げた。

マサコはふふんと鼻を鳴らし

私がいいと言っているんだから全部貰って

と言い募る。

あなた達、ランドに行った事ある?」

「いえ、ありません」とカコが言った。

だったらちょうどいいじゃない。このバスタオルは普通のより大きいのよ。

それにこのパーカーの柄がいいじゃない?あなた達、アリエルは好きでしょ?

そう思って買ってきたの。アイコはもう十分持っているから」

そこまで言われたら断れない。

キコは「では頂きます。本当にありがとうございます」といい、

侍女にグッズの山を片付けさせると、子供達を部屋にやり、お茶を出した。

私達にまでお気遣い頂いてありがとうございます」

いいのよ。昔は月1で行ってたものだけど。ランドは年パス買わないと

トシノミヤ様の幼稚園生活はいかがですか?」

話題を変えようと紀子は話を振った。

 

入園式以来、マサコは保護者会にも顔を出しているが

もっぱら送り迎えは皇太子がしているという話だ。

おまけにアイコは5月になってからというもの、幼稚園を休んでばかりいる。

今日の訪問も、病み上がりで行った遠足の帰りなのである。

ゴールデンウイークも飛び石部分を全部休み、やれ微熱だ下痢だと

次々理由をつけては休んでいる。

しかし、今日のアイコは元気そうだった。

幼稚園の話題をふられると、途端にマサコは不機嫌になった。

学習院幼稚園ってちょっとおかしいんじゃないの?」

え?」

まだ4歳の子供に箸を使えとか、送り迎えは母親がやれとか。

スプーンだって箸だっていいじゃない?何か問題ある?

箸が使えるからなんだっていうの?

送り迎えだってやれる人がやればいいじゃない?

それを殊更に母親に拘るなんて男尊女卑だわ」

そうですか。妃殿下はお加減がお悪いのですから、女官に

お任せになれば・・・・」

私もそう思ってるけど、信用できないのよ。あの幼稚園

は?」

「絶対、裏で私達の悪口を言ってそうじゃない?根性が悪いっていうか。

母親達もよ。今日の遠足だって私達を無視して敷物を敷き始めて

うちは女官がいるからと黙って立っていたら雨が降り出してね。

しかも女官が来ないのよ。私、びしょぬれになるかと思ったわ。

そもそも何でお弁当を外で食べないといけないのかしら。

ママ同士で、あのおかずこのおかずって・・・バカみたい」

マサコはマシンガンのようにしゃべり続ける。

キコは先ほどからずっと背筋をぴんと張って座っていたのだが、

妊娠しているせいなのか、背中が痛くなっていた。でもそれを

顔に出すわけにはいかず、じっと耐えている。

遠足は子供達の楽しみですし。でも雨が降ったのは残念でしたね。

トシノミヤ様はお風邪を召しませんように」

などと話している所に、マコが部屋から出てきた。

「お母さま、アイコちゃん、お咳が出るんだけど」

最初に立ち上がったのはキコだった。促されてマサコも立ち上がった。

子供部屋ではカコの手作りおもちゃで遊んでいるアイコは

げほげほと咳をしている。顔も多少赤い。

お熱かしら?」

キコが額に手をあてると、結構熱かった。

まあ、すぐにお医者様に見せた方がよろしいのでは?」

え?そうなの?いやだ・・・」

マサコはアイコを抱き上げる。結構体が熱かった。

また休み・・・ああ。少し楽させてくれたっていいのに」

車を玄関に。それから毛布を出してちょうだい」

キコはてきぱきと侍女に命じ、待機していた東宮家の車が

車寄せに到着するまでにはすっかりアイコは毛布に包まれ

マサコに抱かれていた。

子供はよく熱を出すものです。お大事になさいませ」

見送ったキコはほおっとため息をついた。

 

「妃殿下。トシノミヤ様のお風邪が移ったらどうなさるんですか?」

侍女長が少し厳しい顔で言った。

「大丈夫。妊婦は免疫力高いから。でも少し疲れたわ。横になっていいかしら」

「もちろんでございます」

侍女長に付き添われてキコは宮邸の中に戻った。

お母さま。これ、全部頂いていいの?」

沢山のおもちゃを目にして喜んでいたのはカコだった。

気持ちはわかるが・・・と、キコはあえて厳しい顔をする。

いいえ。これはお返しするのよ。宮家がこんなに沢山おもちゃを持っては

いけないわ。どれか一つ頂いて、あとはお返ししましょう」

どうして?アイコちゃんが買ってくれたんでしょう?」

カコちゃん、私達がこんなキャラクターがついた服を着て外に出たら

どうなると思う?」

マコが優しく言い含めるように言った。

メーカーの宣伝になるような事はしちゃいけないのよ」

そんな事言ったって、どれも可愛いし。私だってランドに行きたい。

なんでアイコちゃんは行けたの?」

アイコちゃんは皇太子殿下のお子だから」

・・・・私だって行きたいもの

大きくなったら一緒に行きましょうよ」

マコがなだめるが、カコはぷいっと横を向く。

今、行きたいもの」

無理を言ってはダメよ。お母さまの御具合が悪くなるでしょ」

マコの声も段々高くなる。

いいもん。どうせいつも連れて行ってもらえないもの。

カコちゃん。私達皇族の仕事は遊びではないのよ。それに私達が

動くと多くの人が足止めされたり迷惑することもあるから。警備の人達も

いつも以上に気を遣うし。私的な事でそんな風にはね」

「じゃあ、なんでアイコちゃんはいいの?」

カコは叫ぶように言った。

アイコちゃんだって皇族じゃない。だけどあちらはお父様とお母さまと

3人で一緒に行ったわ。いつもそうよ。お母さまたちは私やお姉さまに

我慢ばかりさせるけど、不公平よ」

「いつ我慢ばかりさせましたか?」

キコは声をあらげた。

させたわよ。私のスケートはお金がかかるし、大会に出るのは最後にしましょうって

おっしゃったけど、アイコちゃんはスケート場を貸し切っているのよ。

私の方がスケートが好きなのに」

いつの間にかカコの瞳からぽろぽろ涙が出てくる。いつもは

こんなにぐずったりしないのに。

立場が違うと言ったでしょう?何度言われたらわかるの?」

知らないもん

カコは目を大きく見開いて、そして

大人なんて汚い。大嫌いよ

わあっとカコは廊下を走って行った。

呆然とするキコ。そしてマコ。

キコは少し貧血気味になってへたへたと座り込み、

慌てて侍女とマコに支えられた。

一体、カコちゃんに何があったの」

キコはただただそれだけ言い、不覚にも涙が出てしまった。

大人が汚いって・・・なぜ?ねえ、マコ、何か知らない?」

マコは視線をそらし・・・「なんでもないわよ。カコが悪いの」と言った。

何か知っているなら教えて頂戴。どうしたの?」

それでもマコは黙っている。

こういう所は自分に似ていると思いつつもキコは問い詰めた。

言いなさい。マコ

仕方なく、マコは話始めた。

「男と女の話よ。どうして赤ちゃんが出来るかって」

え?何?それ?学校で習ったの?ああ・・習うわね。そうよね」

お母さまのご懐妊が・・・その・・・」

マコは渋った。こんな事を言ったら母がどれだけ傷つくかと思うと言えない。

「私が何?どうしたの?大事な事でしょう?」

・・・わざとじゃないかって。つまりその

マコは顔を真っ赤にした。それでキコも何をいわんとしているかわかった。

お母さま。カコちゃんを叱らないで。カコちゃん達はまだ子供なの。

興味本位であれこれ言う人がいるの」

あなたも言われているの?」

マコは視線をそらした。キコは絶望的な気持ちになった。

なんてこと

妃殿下・・・妃殿下」

倒れそうなキコをささえ、侍女長はすぐにベッドの用意をさせた。

妃殿下、お部屋でお休みくださいまし。あとは私が全部引き受けますから

でもカコが・・」

妃殿下。今はご自分のお体を第一にお考え下さい。お若い頃とは違うのです

そういわれてキコは仕方なく侍女長の言葉に従った。

皇后陛下から賜ったトマトジュースをお持ちしましょう。心をゆるりと

お持ちください」

お母さま・・・・」

いつもは元気で明るい母が真っ青な顔をして寝室に入った様子を見て

マコは罪悪感に背中が凍りそうだった。

 (アキシノノミヤ家ってそうまでして天皇になりたいんだって)

(エッチしたの?いやーーいやらしい)

(アイコちゃんでいいのにね)

直接にはぶつけられないけど、陰でこんな風に言われている事は

マコは知っていた。

そうでなくても週刊誌の報道は常軌を逸脱している。

そんな雑誌の表紙をみない中学生などいるものか。

 そして、そんな言葉はカコにも。

なんだって東宮家は、あんなこれみよがしにお土産を持ってきたんだろう。

自慢・・・だったのかな。おばさま達ってそういう人なのかしら?

理想で生きようとする宮家と現実として矛盾を抱える東宮家。

もうすぐ15歳のマコと12歳のカコには理解できない事ばかりだったのだ。

そしてただ・・ひっそりと傷つくしかなかった。

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」204(悔しくてフィクション)

2016-02-16 07:00:00 | 小説「天皇の母」201-

どうしてもぬぐえない敗北感に包まれ、マサコはイライラしていた。

弟の嫁が3人目を妊娠した事がどうしてこんなに気に障るのか。

たかが妊娠ではないか。しかも40歳になろうとしている。

女性の仕事は子供を産むことではない。学歴とキャリアを積み

やりがいのある仕事を一生かけてやる事。

それが「私」にとっての幸せの筈だった。

しかし、回りが結婚していけば何となく負けたような気がするし。

カレシがいるだけじゃ何の自慢にもならないのだと知った時、皇太子と知り合った。

本当に結婚したかったわけじゃないが、それもステイタスの一つだと。

そして、今、娘がいる。

義弟の家よりもうちの娘の方が格上だ。

幼稚園に入るアイコはそろそろ補助輪なしで自転車に乗らなければならない。

教える役をあっちの二人の娘にさせようと思って、宮邸に行ったら

お手伝いしたのは山々なのですが、うちの娘たちはそんなに自転車には

乗りませんのよ。馬の方は少しいけますけど。なんなら乗馬を?」

などと張り付いた笑顔の妃に言われたし、おじちゃまにも

さすがに内親王殿下を女官のように扱うのかいかがかと」と注意されたのでやめた。

それにしても、あのキコという妃はなんだっていつも穏やかに笑っているんだか。

女官達がいうには

お二人の内親王様達の時と違って、今回はそうとうつわりがひどいようです」という事だったが

アポなしでいつ行っても、顔色が悪いわけでもないし、機嫌が悪いわけでもない。

感情の起伏がないのだろうか?

暫く乗馬もテニスも出来なくて辛いでしょう?」と聞いたら

「そうですね」と笑う。

お腹が大きくなると外に出るのも大変になるわね」と言ったら

ええ。でも大きな荷物を持たなければならないわけではありませんし」と笑う。

我慢すると体に毒じゃない?」って言ったら

お気遣い頂き、ありがとうございます」と来たもんだ。

一体何様なんだろう?彼女の顔は妊娠する前よりずっと輝いているではないか。

つわりがひどいならひどいって言えばいいのに。娘に女官みたいな役はさせたくないと

思うならそういえばいいのに、何が乗馬だよっ!

荷物を持とうが持つまいがつらいものはつらい筈。

なぜ言葉に出さないの?なんで優等生面してにっこり笑えるの?

ほんと、大嫌い!とマサコは心の中で毒づく。

生まれる子が女でも、こんな風に落ち着いて笑っていられるのか?

鳴り物入りで妊娠しといて、やっぱり女だった・・なんてことになったら

どんだけ笑われるか。

なんたって内閣の閣議を通す寸前に棚上げにしてしまったんだから。

その責任は宮家にあるんだから。

あの余裕の顔は、生まれる子が男だって知ってるの?

巷で言われているように「産み分け」して妊娠したのか?

マサコは思わずぶるぶるっと体を震わせた。

「そんな筈ないわ。私だって失敗したのに・・・・あの時、担当したのは

日本一の不妊治療の権威だったのよ。絶対に成功するって言われたのに

生まれてみたら女だった」

あの時の失望感がよみがえって来て、思わずベッドに突っ伏してしまう。

体中から力が抜けるような敗北感。

小さい頃から度々襲われてきた絶望感。

気まぐれに東宮職員を総動員して勤務時間内いソフトボールをやってみても

真夜中に森を散策してもおさまらない。

悔しさに身もだえしてしまうのだ。

ああ・・・あの女が本当に男子を産んだらどうしよう。 

そんなことを思うといてもたってもいられなくなる。

巷では「もし、キコさまが男子を産んだらマサコさまへのプレッシャーが

軽くなる」と言われている。

冗談じゃない。その男子は「皇太子妃の子」でなくては意味がないのだ。

もし、生まれるのが男の子だったら、自分が子供を産んだ意味がなくなってしまう。

そんな事にはしない」と父は太鼓判を押してくれたけど。

 

あれやこれや考えると頭が痛くなるので、マサコはとにかく娘の

入園準備に専念することにした。

とはいっても、お道具袋は既製品に女官が刺繍したものだし

制服も女官が容易したものだし、日々のお弁当は大膳が作る。

母であるマサコがするべき事は何もない。

マサコはアイコを連れて出歩く事が「仕事」だと思い込んだ。

3月には幼稚園のひな祭りにアイコと一緒に行き、時間をオーバーして楽しみ

知り合った何人かを東宮御所へ呼んだ。

彼らはひどく恐縮し、そして信じられないというような目で自分を見つめる。

そんな視線が嬉しくて、次々と「お友達候補」の親子を誘った。

通常、親王や内親王の学友は宮内庁が決めるものなのだが、

マサコは思いつくままに誘った。

当然誘われるべきなのに誘われない親子もいるわけで、そういう彼らが

失望したようにうつむく姿が快感だった。

マサコはこの手の快感がたまらなく嬉しいのだ。

テーマパークで長い行列を無視し、特別な入口からアトラクションに乗る時の歓び。

食事だって買い物だって、みなお金の心配をしながらやっているのだろうが

こちらはそんな必要はない。

自分達は特別なのだ・・・・と思える瞬間こそ幸せだった。

 

皇居にはたくさんの馬がいるのに、わざわざ公園のポニーに乗りに

「お友達親子」を引き連れて行く時の快感ったらない。

馬を貸し切りにしておやつも飲み物も全部「東宮家のおごり」

特権にはみな弱いのだから。

 

アイコの入園式があるので両陛下の結婚記念日の夕食会はキャンセルして頂戴。

それだダメなら前倒しにして」

と言ったら東宮大夫は慌てて千代田に連絡し、記念日の二日前になった。

だから

入園準備が忙しくて料理を決めたり出来ないからキャンセルした方がいいと思う

と言ったら、今度は宮家の方から

それは私達でやりますので」と言ってくる。

優等生はどこまでも優等生。

いいけど。でも東宮御所には当日まで来ないで欲しい」

と言ったら、キコは電話やメールを駆使し、さらに降嫁したサヤコも巻き込んで

てきぱきと夕食会の準備を始めたではないか。

疲れて流産でもなんでもすればいいわ。

だが、しぶといキコは倒れもせず天皇と皇后の好きな、体によい料理を取りそろえ

さらに子供達にまでデザートを作らせていた。

そういういい子ぶりっこが許せないのに。

結婚記念日の夕食会の主役は、ある意味アイコの筈だった。

何といっても幼稚園に入園するのだから。

皇太子はアイコの話しかしないし、天皇も皇后もアイコが見せる幼稚園の制服などを

楽しそうに見ていた。

大きくおなりね。頑張って幼稚園に通いましょうね」と皇后はアイコの手を取って

感慨深げに言った。

しかし、食事会の後、天皇と皇后は時間通り席を立ち、その際、天皇が

宮妃は体を大事にするように。今日は疲れたろうから」と言った時は

ああ、この人達はしれっとした顔しながら、実は宮妃の方を気遣っていたのだと

知り、猛烈に腹が立って来た。

誰かが「夕食会の準備は宮妃とサヤコがした」とチクったのかもしれない。

東宮内はこれだから信用できない。どこにスパイがいるかわかったもんじゃない。

せっかくの記念日なのに、結局、マサコは一度も笑わなかった。

自分に対するねぎらいの言葉がなかったことに腹を立てていたのだ。

今日はありがとう」とお礼は言われているのに、そんな事はすっかり忘れ去っていた。

 

天皇と皇后の本当の結婚記念日。

マサコは国民的有名デザイナーの展覧会に嬉々として出かけて行った。

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」203(オランダコネクションフィクション2)

2016-02-10 07:00:00 | 小説「天皇の母」201-

外務大臣は突然の面会申し込みに戸惑って、もう一度名前を聞いた。

誰だって?」

秘書は

ヒサシ・オワダ。国際司法裁判所の所長です」と答えた。

国際司法裁判所の所長?何だってそんな人が・・・」

アポイントもなしに。

今の所長は・・・チャイナか?」

いえ、日本人です」

ふうん・・・」

日本人か。大臣はちょっと面倒になった。

先の大戦以来、日本とオランダは敵同士だ。

インドネシアを巡っての攻防。そしてアジアの弱小国のくせに

次々と近隣諸国を侵略していった・・・・と思っていた。

そもそも、オランダはインドネシアを領土として侵略していた事は頭の片隅にもなかった。

要はアジアのくせにという気持ちが強い。

そうはいっても、今の時代、あからさまな反日態度はタブーである。

一時の勢いはないにしても、日本はいまだに経済大国であり、重要な貿易国だ。

日蘭友好の懸け橋には皇族がついているし、オランダ王室との仲も良好だ。

しかし、なぜにアポイントなしに?

日本人はそういう礼儀をしらないのか。

とりあえず通せ。5分だけなら会えると伝えて」

大臣は書類を片付けた。

秘書に案内されて入ってきた老人を見て、大臣は一瞬心がひるむのを覚えた。

青ざめた肌の色。落ちくぼんだ目、頬骨が出た顔。真っ白な髪に長く伸びた眉毛。

まるで妖怪のような顔。

落ちくぼんで見えた目はすぐにギラギラと光を放ち、こちらを威圧してくる。

慇懃無礼とはこういう場合をいうのだろうか。

これは・・・」

大臣は言葉に詰まった。

ヒサシはにっこり笑って、手を差し伸べた。

国際司法裁判所の所長であるオワダです。マイドーターイズプリンセス

プリンセス。

ではこの、品のかけらもなさそうな、いかにもずるがしこそうなこの男が

日本の皇太子妃の父なのか?

(マキシマの父の方がよほど真人間に見えるかもしれんな)

大臣は黙って握手した。

歳のわりには強い手だ。

お仕事中に申し訳ない。ぜひお願いの案件がございましてね

願い?では、秘書に伝えて頂ければ」

いや、この件は直接でないと。何といっても皇室が絡んでいるので

ほお」

大臣は5分では終わらないなと思いつつ時計を見た。

ヒサシは相手が忙しいとか、嫌がっている風などお構いなしにどっかりと

椅子に腰かけ足を組んだ。

皇室が絡むとは穏やかではありませんね。私に何が出来るのでしょうか

さあ、それは大臣次第ではないかと思います」

その物言いに大臣はムカっとして、思わず立ち上がろうとした。

それを制するでもなくヒサシは続けた。

実は私の娘が。いえ、日本の皇太子妃。つまり未来の皇后なわけですが

そのセリフに大臣は浮きかけた腰を下げる。

旧弊な皇室のしきたりやいじめに耐えかねて、心の病になってしまいましてね。

娘はそもそもは外務省で働いておりましてね。将来は優秀な外交官。または

日本初、女性総理大臣にもなるのではと言われた程で

「ええ。それは存じていますよ」

外務大臣はかすかな記憶をたどった。

日本の皇太子夫妻が結婚した時の報道。マサコ妃は外務省勤務で外交官の娘だった。

何か国語も操り、政治的にも優秀だと聞いた。

もっともと、そのあと、日本にいるオランダ大使館の連中に話を聞く機会があったが

誰もその「優秀なお妃」を話題にした事はない。

あのマサコという女性は本当にこの男の娘なんだろうか。

色が黒くて目が大きく、歯並びの悪い女性だった。

上目使いに見る目線が好きではなかったが、優秀な女性とは高飛車なものだろうと

単純にそう思っていた。

大使館に一度だけ「日本の新しい皇太子妃はどうか」と尋ねた事があった。

誰もまともに答えられなかった。

理由は「会って貰えない」という、信じられないものだった。

日本の皇太子夫妻は結婚以来、二人の世界に閉じこもっているようだ」とも聞いた。

仲がいいなら素晴らしいではないかと、その時は思ったものだ。

その割にはなかなか子供に恵まれず

日本の皇族方はやきもきしているだろう。なんせあちらはこっちと違って女帝は

認められていないのだ」と思った。

オランダを始め、ヨーロッパ諸国では今や王位継承順位は「長子相続」になっている。

男か女かではなく、先に生まれた者が継承権1位だ。

スウェーデンのビクトリア王女なども、弟がいるにも関わらず皇太女になっている。

しかし、日本ではそうではない。

よその国の事だし、別段関心もないので、ほっておいたのだが。

(つまり、心の病というのは男子を得られなかったからなのだろうか

ロイヤルファミリーになるというのはなかなか大変な事ですな」

全くです。ロイヤルファミリーというのは、伝統やしきたりを大事にする。

それはそれで構わないが、人ひとりの人生を狂わせてしまう程の力を持つなどと

いうのはどうかと。まるで伏魔殿です。

そんな所だとわかっていたら娘を嫁がせたりしなかったのですが、あの当時は

そんな風には見えなかったもので。

本当に騙されましたよ」

そんなに厳しい世界とは。禅の世界でしょうか」

いやいや、いるかどうかもわからない神々を祀る家ですよ。

生きた人間より、神に祈る方を優先する。それもキリストや釈迦ではない。

日本中、そこらへんに神がいると信じているんです。そしてそれに対して

祈るというのだからこれはもう完璧に非科学的です」

シャーマニズムですか」

そうですね。想像の世界に外なりません。教義というものがない。

ただ怖れるだけ。そんな神に祈ることを24時間要求されたら誰だって

おかしくなりますよ。現在の皇后も昔、それで心を病んだのです。

あの当時は私も同世代でしたがね。やつれてやせて・・・ひどいものでした。

まさか自分の娘が同じ状況に陥るとは思いませんでした。

あの時、気づいていればと」

「はあ・・・」

皇后というと、あの民間人から始めて皇太子妃になったと言われる。

そういえば、旧皇族や貴族の連中に随分いじめられたと聞く。

それで痩せたという話も聞いた事があるのだが。

娘は男子を産む義務を課されておりました。男尊女卑の最たるシステムですが

日本では男子しか天皇になれないのです。それに比べるとオランダは素晴らしいですな。

今も女王陛下。その前も女王陛下。そして将来も女王陛下だ」

まあ・・しかし、私達は国王陛下の誕生するのを待つ気持ちもあるんですよ」

確かにヨーロッパでは「女王」が普通になりつつある。誰も何も言わないが

本当は「女王が続くと国の格が落ちる」と思ってる人達が多い。

別段、意味はないのだが、何となく女王・・・というと「王位継承者がいないので

やむなく」のイメージが強いのだ。

2代続いて女王のこの国も、本当は貴族社会からあれこれ言われているに

違いないと思っている。

ヨーロッパに厳然と存在する貴族社会は、家柄や血筋の高貴さで成り立っている。

貴賤結婚はタブーだ。そしてナチスも。

だからこそマキシマは父親と縁を切らざるを得なかった。

日本は男系で2000年以上も続いているという。

正直、それを羨ましがっている王室も多いのではないだろうか。

いやいや、男だから女だからと差別するのはよくない。それこそ神の領域を

汚すようなものですよ。戦前までの日本は非常に男尊女卑で、女は

産む機械だと思っていました。ほら、韓国の従軍慰安婦問題。あれにも通じますが

女性を人間だと思っていない。

時代は変わったというのに、皇室だけはいまだに男尊女卑。妃の役目は

子供を、男子を産むことだと思っている。今時の女性、つまり妃でも、どこぞの

政治家よりずっと立派に国の役に立つのに」

妃殿下に政治的な役割を?」

もののたとえですよ」

ヒサシは笑った。出されたコーヒーをぐいっと飲み干し、それでもしゃべり続ける。

大臣はふと

日本人はこんなに饒舌だったろうか」と思ってしまった。

自分が知っている日本人は理論的であるが寡黙、どちらかというと言葉より行動。

言い訳もしないし、理由づけすらしない。朴訥すぎるイメージがあった。

だが、目の前にいるこの男は、さっきから延々とまくしたてる。

娘の自慢なのか、日本の文化否定なのか、とにかく一方的にまくしたてるのだ。

ただ、女性が子供を産む義務を持つというのはどうかと。日本は多様な生き方が

許される真に民主的な国になったはずなのに、私の娘は結婚以来、男子を産めと

それはそれはひどいプレッシャーを受け続け、本人は嫌がりましたが私は

これも皇族の務めと思い、娘に子供を産ませました。

そしたらその子が女だったために、さらに子供を産めというのです。

こんな理不尽な話があるでしょうか。

娘はすっかり自分に自信をなくし、部屋にひきこもり自殺を考える毎日になりました。

そんな風に心を病んでも、天皇も皇后も一切助けようとしなかったし、

宮内庁も動かなかった。追い打ちをかけるように、皇太子の弟に子供を産めと

言い出し、さらに落ち込んだ娘は、今や生きる屍です」

そ・・・そんなに」

外務大臣は息をのんだ。

そんな大変な状況なのですか

大使館の連中はそんな話はしていなかった。

何でも「適応障害」とかいう、聞いたことのない病名をつけられて、それ以来

公の席には出てこなくなった。

一人娘の王女は、ドイツかどこかの新聞で「自閉症ではないか」との

疑惑をもたれている・・・らしい。

ええ。本当にひどい。こういうのをなんていうんでしょうね。

モラル・ハラスメント。そう。下世話に言えば舅姑からの執拗な

モラル・ハラスメントを受けたという事なんです」

離婚したらいかがですか」

大臣は思わず口に出した。

そんなに大変な状況なら離婚すればいい。

今時、王族の離婚など珍しくもない。

離婚ですって?そんなことは出来ません。日本では認められていないのです。

一旦王家に嫁いだら絶対に離婚は出来ません。

なぜなら皇室には戸籍がないんですからね

ああ・・・そう」

それで一体、この男は何を言いたいのだろうか。

「娘は今も公務には出られません。恐怖感が募って出られないのです。

宮内庁が動かなかったので、私達家族がいい医者を見つけ、主治医にしました。

その医者が「自由に行動させるように」というので、娘は最近、やっと

外に出始め、レストランや遊園地でリラックスした時間を過ごしていたのですが

雑誌や新聞が「皇族らしくない」とバッシングするのです。

それを真に受けた天皇や皇后もまた、娘を軽んじているのです」

ヒサシは目頭を押さえた。

私は親として、そんな皇室に娘を嫁がせたことを後悔しない日はありません。

あの娘の能力を考えたら、あのまま外務省で働かせていた方がよかった。

結婚などしなくてもよかったのだと。

女は結婚するべきだと思っていたのは私の偏見であったと」

いや、父親としては当然の感情では」

そういって頂けるとありがたい。大臣。あなたはいい方だ。

日本にもそんな人がいたら、もっといい国になったでしょう。

敗戦国として地道に誠実に迷惑をかけた国々に謝罪し、完全に

許されるその日まで謙虚に謝り続けていたら。

今の慰安婦問題も起きなかったかもしれないというのに」

外務大臣は頷きながらも、自国をここまであしざまにいう男とは

一体何者なのかと思った。

無論、国際司法裁判所に籍を置く者としては公平性が求められるのだが。

それは建前である筈なのに。

自国の罪を認める謙虚な男と思うべきなのだろうか。

それで、私達に何が出来るのでしょう

それを待っていたとばかりにヒサシは身を乗り出した。

私は娘を呼び寄せたいと思っています。このオランダに」

では宿泊先のホテルをお探しで?」

私の娘は皇太子妃ですよ」

ヒサシは大きく首を振って言った。

将来の皇后になる者が、そうそうお忍びで外国旅行などできません。

ましてや家族連れでは」

ご家族・・・ああ、つまりそちらの皇太子殿下と王女様も」

ええ。娘の主治医が言うのです。娘は独身時代、毎年のように海外にで

出ておりました。ええ、私達の仕事の関係でアメリカやロシア、スイスなどに

行き、成長してからはハーバードにオックスフォード。スキーでスイスへ行く

というような生活をしておりました。

だから一つの国に閉じ込められるというのが苦痛でならないのだそうです。

だから・・・その主治医が言うには、自由に外で空気を吸えるような

環境に置くべきだと。そしたらきっとよくなるだろうと」

「なるほど」

ええ。しかし、再三申し上げているように娘は皇太子妃です。

自分が行きたいからといってあっさり外国旅行を許される身分ではない。

まるで籠の鳥、幽閉された王妃ですよ。

皇室予算は全て税金ですから、私的に使うというのには限界があるのです。

自分たちが崇めている皇室の人間が何をしようといい筈なのですがね。

そこでお願いがあるのです」

「何でしょう?」

オランダ女王から正式な招待を頂きたい。このオランダに」

「え・・・・」

外務大臣は言葉を失った。

招待?

招待・・・公式にオランダを訪問されるとおっしゃるのですか」

何か記念の行事があったかと考える。

日蘭友好の名誉総裁はアキシノノミヤだった。

何かあればそっちを先に招待するのが筋だが。

目をぱちくりさせる大臣にヒサシはうんざりしたように、また少し

いら立ったように話し続ける。

何度も申し上げますが、私の娘は今、公の席に出られない程

心を病んでいるのです。それでもけなげに幼稚園に入る孫の

為に何とか起き上がり、壁に手をついて入園準備をするなど

しているのですが。

そんな娘に何とか、完全プライベートな旅をさせてやりたいのです」

公式行事無しの訪問ですか。非公式ならまあ、我が国としては・・・」

さらに申し上げたように、我が国では皇族が自由に海外に行く事は

出来ません。ましてや皇太子や皇太子妃の立場になればなおさら。

相手国からの招待という体裁をとる必要があるのです」

「なるほど。では王室顧問に聞きましょう。女王陛下から招待状を

出し・・・しかし、通常、招待状は陛下あてに出されるという話で」

ええ。ですから女王陛下じきじきに陛下あてに。皇太子一家を

城に招待したいという招待状を出して頂きたいのです

しろ?城ですか?王城に招待せよと?」

外務大臣は思わず立ち上がった。

何を言っているのか。この日本人は。

ヨーロッパの王族ならわかるが(結果的に親族が多いから)

なんの関係もゆかりもない日本の皇族を完全プライベートで

城に招待せよというのか。

なんと。何と厚顔無恥な。

ええ。女王陛下からのじきじきの招待なら日本の皇室も

断れますまい。理由はそうですね。確か女王陛下のご夫君は

うつ病を患って亡くなられたそうですな。

そんな体験をされた女王陛下にとって、日本の皇太子妃の病気は

他人事ではない。だからひどく同情されて、ぜひともオランダで

心行くまで過ごすようにとのお墨付きがほしいのです」

しかし、日本の皇室とわが王室はそこまで親密な関係ではありません。

先帝が訪蘭された時は反日運動が起きたほどで」

もう時代が違いますよ。むしろ、そんな国の皇太子一家を

女王陛下が寛大にも可哀想に思召して城へ招待したとなったら

きっとオランダ王室の印象もよくなるでしょう。

そうすれば」

ヒサシはにやりと笑った。

そちらの国にも大きな利益が転がるのではありませんか?

我が国の総理大臣のコイズミはアメリカにも顔が利きますし

官房長官とも知り合いでね。私が口添えすれば今そちらの

国が抱えている悩みの一つくらいは解決できるかもしれませんよ」

外務大臣の顔色が変わった。

ヒサシはゆったりとした顔で、「コーヒーをもう一杯いただけますかな」と

言った。すでに2時間が経過していた。

 

 

 

 

 

 

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」202(オランダコネクションフィクション1)

2016-02-04 07:00:00 | 小説「天皇の母」201-

おじいちゃま、見て。アイコよ

娘の背中をぐいっとおして、ベッドに横たわる老人によく顔を見せようとする。

老人は目を大きく見開いて、息をぜいぜいと言わせながら力のない手を

4歳の孫の方へ伸ばす。

その娘は怯えてささっと母の背中に隠れ、それを母がまだ押し出そうとした。

ユミコはそんなアイコを抱き上げ、より一層父の顔の前に出す。

どう?未来の女帝の顔は」

ユミコは自慢げに言い、アイコを下ろした。

アイコはたたたっと病室の隅に走っていくとしゃがみこんで何事かぶつぶつ言いだした。

マサコは女官を呼んで、娘を病室の外に出す。

全く腹立たしい。余命いくばくもない老人に少しは愛想よく出来ないのか。

あの子は本当に可愛げがない。

いつまでこんな生活が続くのだろう。

ハーバードを出た自分の娘がこんな風だなんて、恥ずかしくて誰にも言えやしない。

この先ずっと隠しおおせるのか。それを考えると夜も眠れない。

なのにあのバカは・・・(彼女は自分の夫をそう思っていた)

のんきそうに嬉しそうに娘と遊んでいるばかり。

本来なら学習院ではなく慶応幼稚舎くらいに入れたかった。自分の娘なら

それくらいがふさわしいと思った。

だけど、あれは・・・あの娘は入園試験すらまともにできず、お目こぼしで学習院に

入れて貰えただけ。

マサコはそれが遠い昔の自分の姿だとは思ってもいなかった。

ユミコはこっそりと「まあちゃんそっくりだけど、いずれはハーバードよ」と本気で

考えていた。

ああ・・・ああ

祖父が何か言った。

かつて日本一の公害を出した企業の社長。

その公害を告発しようとした記者を半身不随にして死なせてしまった男。

腐った魚を食べるから悪い」

「この貧乏人どもめ」

と公害訴訟を起こした国民に言い放った男。

しかし、今は富士の裾野の療養所で寂しい最後を迎えようとしていた。

もう誰も見舞いにも来ない。

実の娘も、実の孫達もめったに来ない。

でも彼にとっては幸せだった。

孫娘が皇太子妃になった。いずれ皇后になるのだ。この自分の孫娘が。

すでに黄泉の道を半分歩いている老人の脳裏に浮かぶのは

アイボリーのドレスに身を包み、郷かなティアラを被ってパレードする孫娘の姿。

被差別と呼ばれたところ出身の自分の血筋が、日本最高の家に嫁いだのだ。

あの時の誇らしさはどうだろう。

世界中に「ざまあみろ」と言ってやりたかった。実際テレビの前で言ってやった。

そうだそうだ。

自分達を差別し、貶め、散々悪口を言った連中に目に物見せてくれるのだ。

貧乏人どもよ。お前たちはこんな事はできまい。

結局、運と金がなければ何も出来ない。

貧乏人は一生貧乏なままひがんでいればいい。

俺は皇太子妃の、将来の皇后の祖父として死んで行く身なのだ。

ひ・・・ひ孫がそく・・即位するまで・・生きたいのお

やっとのことでそういうとユミコは大声で笑い出した。

ええええ。長生きして頂戴。そして天皇陛下の曽祖父になって頂戴。

私だって頑張るわよ。でもそれもこれもヒサシさんのお蔭よ。

それを忘れないでね」

やあね。お母さまったら」

マサコもつい笑った。

言ってるの。おじいちゃまがお父様に会わせてくれなかったら

今のあなた達はないんだから。それをよく考えなさいよ

それはそうだけど・・・・」

その偉大なる父の手で皇室という日本最高の家に嫁いだ。

しかし、今の自分のみじめったらしさはどうだろうか。

「お母さま、帰りは送るからコンラッドラムゼイでお食事しない?

個室をとってあるのよ。アイコも一緒に」

あら、いいわね。随分贅沢じゃない?そりゃそうよね。皇太子妃なんだもの」

「あんなところ、そんなにいいとも思わないけど・・・アイコがパスタを

食べたがるから」

まあ、小さい頃からいい味を知るのはいい事よ。幼稚園の入園式も近いし

そのお祝いもかねて」

それはそれでまた別よ。その日の夜は中華がいいわよね。だからお母さま

まだオランダへは帰らないでね」

「しょうがないわね。外ならぬまーちゃんの頼みだもの

ユミコは、マサコの感情が落ち着いていることにほっとした。

高級なレストランへ行ったり、遊園地で遊んだり・・・その程度で病気が治るなら

安いものだと思っているのだった。

 

暫く空位だった東宮大夫に外務省出身のノムラが就任したのは

4月に入ってすぐだった。

このところ、手に負えない状態になってきた娘の欲求を叶える為に

ヒサシが裏で手を回した人事であった。

ノムラは外務省時代からチャイナスクールにおいてヒサシの下で働き

マサコからは「おじちゃま」と呼ばれているほど親しい間柄だった。

オワダ家の娘たちの性格などをよく知る人物であったし、また内実も知っているので

ヒサシとしてはこれ以上の人事はなかった。

またノムラにとっても、最後の宮仕えが宮内庁である事は箔がつくので

快く引き受けた。

厚生省事務次官出身の宮内庁長官もまた、心はヒサシと繋がっていた。

そもそも官僚というのは長いものに巻かれる存在であり、

強いものには従うという習性を持っている。

長官もまた思想的には相当な左巻きであり、宮内庁長官でありながら

心の底では皇室制度に疑問を呈していた。

加えて次長はヒサシとは同郷であり、学会を通じての繋がりが深い。

そういう意味では、皇室そのものがヒサシの手で包囲されているも同然だった。

 

君の最初の仕事はわかっているだろうね」

東宮大夫就任の電話を受けたヒサシは、ひどく丁寧に礼を述べる

ノムラに向かってにこやかにそう言った。

私としては君が適任だと思ったから推薦した。あの娘を御す事が出来るのは

君だけだ。だから」

無論、わかっております。何でもお言いつけ下さい

ノムラの声は上ずっていた。声からでも内心の恐怖が見て取れる。

逆らったら安泰な老後はないだろうと察しがつく。

いやいや。私はね。申し訳ないと思ってはいるんだよ。

不肖の娘を押し付けてしまったことにね。本来なら私が傍で目を光らせ

妃殿下の欲求を叶えて差し上げるのがいいと思う。

しかし、オランダにいる身ではなかなかそうはいかなくて」

ええ。無論でございます。私は身命をかけて妃殿下にお仕え致します。

お小さい頃から妃殿下を知る者として、僭越ながらもう一人の父のような

気持ちでおりますから」

それを聞いて安心したよ。では頼みを言おうか

ヒサシは電話を切ってほくそ笑んだ。

それから意を決したように立ち上がると側近を呼んだ。

外務省に行く。外務大臣に会う」

車はすでに用意されていた。

ここからは国際司法裁判所所長としてのコネを有効に使わねばなるまい。

これから前代未聞の大勝負に出るのだ。

 

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韓国史劇風小説「天皇の母」201 (バッシングフィクション)

2016-01-26 07:00:00 | 小説「天皇の母」201-

キコはだるさに耐えていた。

懐妊して以来というもの、前2回に比べて体が言う事をきかないのだ。

妃殿下。正直、これは高齢出産でございますから。ご自分の体力を過信せず

十分にお休みにならなければいけません」

医師からはそう言われているので、多少は公務を休む事はある。

皇太子の誕生日食事会も休んだ。

というか「懐妊中のキコが食事会に来ては、マサコが傷つく」という

東宮からの暗黙の圧力があったため、遠慮したというのが現状だ。

宮邸ではすでに春が来たかのような明るい風が吹いている。

マコもカコも「赤ちゃんが生まれるの?」と言って大はしゃぎ。

カコはちょっとだけ「お姉さまになったら甘えられないわね」と愚痴を言ったが

私に甘えていいわよ」というマコの言葉にすぐ笑顔になった。

じゃあ、赤ちゃんのお世話は私がするわ。私、得意よ。きっと」とカコは早速

あれこれ計画を立てようとする。

ベビー服はどんなのを着せたらいいかとか、オムツはどうしようとか。

まるで人形遊びの延長のようだったが、それでも家族はみな笑いさんざめきあった。

 

元々は丈夫なたちのキコである。

つわりに悩まされることもあまりなかったし、むくんだりもしなかった。

今までは。

でも今回は何となく体が重い。毎日すっきりしないし、食欲もあまりない。

眠いし気分は落ち込むし。

どうにもならなかった。

「今時は40代で産む方はたくさんいますけどね。昔と違ってみなさん、若いというか。

でもそれでも20代で産むのとはわけが違う。運動は大事です。しかし余計なストレスは

極力避けて、ゆったりとお過ごし下さい」

と医師は言うのだが。

 

懐妊を報告した時、天皇は素直に喜びの表情を見せてくれた。

孫が3人では寂しいと思っていたんだよ。この歳でもう一人恵まれるとは」と。

皇后も「おめでとう。体を大事に」と労わってくれた。

今回の事は本当に喜ばしい事ね。思いがけない慶事に

歓びもひとしおでしょうね。でも、世の中にはそうではない人達も沢山いるのだから

自慢気な顔をしたり誇らしげに歩いたりはしないように。

キコちゃん。私は心配なのよ。

いまだに信じられないわ。

私達の若い頃には考えられない事でしたものね。

高齢出産という事はリスクも覚悟しておかなくてはね

「無論、どのような子供も受け入れます」

それに答えたのは宮だった。

せっかく両陛下からお許しを頂いたので

天皇はうんうんと頷いて笑っていたが、皇后の方はやはりうかない顔で

キコをみつめていた。

サーヤにもこんな慶事があったら

呟くような一言が、かなりキコの胸に突き刺さった。

 

マコを懐妊した時は、誰もが手放しで喜んだものだった。

マコを見つめる世間の目はやさしさにあふれていた。

だが、カコを懐妊した時は、それが皇太子妃ではなかったという事で

随分とバッシングされた。

あの時は皇后に泣いて訴えたこともある。

「宮家に子供が増える事の何がいけないのでしょうか」と。

皇后は優しく慰めつつも、「東宮妃も気の毒なの」とおっしゃった。

皇太子妃が入内してからというもの、「ご懐妊」の話題は常に妃に集中しており

誰も宮家の事など考えていなかったのだ。

先を越した形になったキコに対する風当たりは強かった。

皇后はそれを「気の毒な皇太子妃の為に我慢してね」と言った。

悪い事をしたわけではないのだが・・・・マコの時とは違う空気に戸惑いつつも

キコはただただ母としての歓びを享受しようとした。

生まれたのが内親王であった事が、刺々しい空気を変えてくれたのだったが。

そういえば、夏にマコちゃんがホームステイをするんですって?」

はい」

オーストリアでしたか?」

はい。私の古い友人がおりまして。そこに滞在させようと思っています

そう。キコちゃんは長い事オーストリアに住んでいたのだったわね。

よろしいわね。広い交友関係があるというのは」

ありがとうございます」

サーヤにも留学を勧めたかったけれど、本人は行きたくないというし

当時は皇位継承権のない内親王が留学することに意味がないと思われていた

から。サーヤも今10代だったら」

なるべく目立たぬように行かせますので

マコちゃんは幸せね

皇后の何気ない言葉にとげがあると感じるのは、きっと自分が今妊娠中で

ホルモンバランスが崩れているせいなのだ。

 

キコは気持ちをふるいたたせた。

今はお腹の子を大事に産むことが最優先だ。

何を言われても何をされても耐えるしかない。

とはいえ、懐妊発覚直後から始まった雑誌のバッシングには

さすがのキコも傷つかずにはいられなかった。

キコさま満願の懐妊と皇太子妃マサコさまの心情」

そこまでして男子」

時期が時期だけに素直に喜べません」

きっと皇室典範改正もキコさまの出産まで延びますよね。

いろんな思惑が交錯して嫌な感じ」

何だか釈然としません。マサコさまの心情を考えると素直に喜べない。

結局女は「後継ぎを産んでなんぼ」なんでしょうか」

「素直に喜べません「作為的な何か」を感じるから」

女は生まれちゃいけないんですか?がっかりされるんですか?」

皇太子殿下はアイコ様に聞こえないようにそっとマサコさまにキコさまの

ご懐妊をお話になったそうです。マサコさまは「え」と一言おっしゃって

大変驚かれたそうです

皇太子と宮 壬申の乱は起こるのか」

妊娠が明らかになってたった一月や二月でこのような見出しや記事が踊り

まるでキコの妊娠が

「作為的」で「わざわざ仕組んで」「男子を産むことに必死」

「時代錯誤な女性蔑視」というようなムードであった。

東宮が何もしなくても、マサコが何も言わなくても、世間の同情は

男子を得られなかった事によって「長男の嫁」の役割を果たせない可哀想な

嫁の立場であるマサコさま」に集まってしまった。

元より覚悟していた筈なのに、心が次第にささくれだっていくのを

止められずにいる。

このお腹の中にいる子が女であるか男であるか・・・それが皇室の未来を

変えることになるのだ。

 

雑誌や新聞は読まない方がいい

すっと宮が新聞を取り上げた。

「目に悪い。僕も最近は目が近くてね

殿下、お帰りでしたか。研究会はいかがでした?」

うん。君の懐妊をお祝いされたよ」

そうですか。嬉しいですわ」

と言いつつ、涙が頬を伝うのを感じて、キコは慌てて顔をそむけた。

どうして不意にこんな事が起こるのだろうか。

自分では決して泣くつもりなどないのに。

今、お茶を・・・・

立ち上がろうとしたキコを宮はそっととめた。

いい。自分で呼ぶから」

宮は侍女にお茶をいいつけると、キコの目の前に座った。

体の調子はどうだい

ええ。大丈夫です。まだ目立ちませんもの

男の僕にはどんな風に体が変わっていくかわからないけどね。

きっと辛いだろうね。わかってあげられずに申し訳ないと思ってるよ

そんな事は・・・・」

今年は弟のシュウ君の結婚式が夏にある。マコのホームステイも夏だ。

今より大変だろうなと思うけど」

大丈夫です。私、丈夫なのが取り柄なので

「・・・・思えば、結婚してから苦労ばかりだね」

そんな事」

また泣かせた

「泣いてなんかいません

泣いてるよ

宮はそっとキコを抱きしめた。

今回の事は何も間違ってない。絶対に間違っていないから。

だから何をどういわれても我慢するしかない」

はい。わかっております

キコは宮の広い胸に顔をうずめた。

ぶっきらぼうで粋な言葉が出てこない・・・こんな宮を私は好きなのだ。

だからこそ、今の自分があるのだ。

キコは心が少し明るくなるのを感じた。

春はそこまで来ているのだった。

 

 

 

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