東京の下町、決して緑豊かな街とは言えないわが町の、しかも、集合住宅6階のベランダに4・5年前からヤモリが姿を見せるようになった。夏場の夜、少し涼しくなると、窓ガラスにへばりついて足の吸盤の状態をしっかり観察させてくれることもあるが、最近は鉢植えのライムやレモンの木に生っている実を、抱え込むように張り付いていることが多い。遠くから飛んでくる訳ではないだろうし、毎回地上から這い上がってくる訳でもないだろうから、我が家のベランダに住んでいるのであろうと推察する。ベランダにはオリーブを初め雑然とたくさんの植物が鉢植えで置かれているが、現れるのはライムかレモンの木である。ヤモリは柑橘系が好みなのかもしれない。
たぶん、同じヤモリでも自然公園のような所で偶然見つけたのならば、気持ちが悪いといって大騒ぎになるのではないかと思われるが、妻は、「何となく愛嬌があって可愛い」と珍客の来訪を歓迎している様子である。私はベランダの住人を「弥之助」と命名し、家族の一員に加えた。彼が歓迎されるのは、自然環境としては良くない、こんなところにも生き物が生活してくれていたということに対する喜びの思いもあるのかもしれない。
これからもずっと「弥之助」の来訪が続き、我が家族を楽しませて欲しいものだ。 【戸田常忠】