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「孤愁ノ春」~居眠り磐音江戸双紙~

2010年05月20日 08時25分16秒 | ☆本☆
佐伯 泰英 著
双葉文庫 シリーズ33巻


以下、ネタバレありです。未読の方はくれぐれもご注意くださいませ。






「更衣ノ鷹」から後、いつも心のどこかにひっかかったままでいたこの物語。
ようやく続巻が出て。
改めて思う。
このシリーズ。私はとても好きだ。


家基の暗殺から数ヶ月。季節は冬から早春に変わり、磐音とおこんが小梅村の今津屋の御寮にひっそりと暮らすところから物語は始まる。
前半は「更衣ノ鷹」で散っていった家基、玲圓、おえい夫妻の供養、西の丸暗殺に関わって戦った人々のその後への不安を軸に、丁寧に丁寧に描かれていく。
目をそらさずに、がらりと変わってしまった世界を見詰め直すために。
気付いたら、息をするのも憚られるような気持ちになりながら読んでいて、
これが今までの居眠り磐音シリーズか?と思うほどに重く、ずっしりと世界のトーンが変わっていることを身をもって実感させられた。

磐音の食事の仕方が変わったことを告げた一文。
それがとてもとても。辛かったし切なかったし哀しかった。
また、たぶん初めて、おこんが磐音に対して感じた不満。でも相手の辛さをお互いに判っているがためにぶつけられない黒い思いもまた。
それでも。
やや子への愛情は当然で、ひっそりと逼塞して生きる中に、おこんの中に芽生えた命を磐音さんとふたり話題にする場面はほんの少し温かいものも感じたのに。

それもまた、今後田沼側に知られれば、更に苦境に立たざるを得ないことなのだ。

重い、とても重い荷を背負った2人。そして周りの人々。
弥助さんを道案内に巡礼のように江戸のお世話になった人々を廻る前半は、もうどこをとっても涙がこらえられなくて。
それは温かい時代を登場人物たちと同じように「記憶」しているからなのだろう。
長編だからこそ描ける・・・読者と物語を繋ぐ太い絆。

それでも。
旅に出た2人の物語は、少し明るさ、楽しさも加えられ。

おこんさんが活躍する今切りの渡しの場面。
あそこは楽しかった。
久々に、江戸っ子おこんちゃんのてきぱきとした動きと仕切り。
弥助さんと霧子ちゃんも忙しく立ち回る中、ただ待っているしかない磐音さん。
田村の小者2人を倒して酔いつぶれさせた場面なんて、何にもすることないからこの位やらせてくれ~っなんて、どことなく愛嬌の見え隠れする磐音さんのように感じられてつい笑ってしまう。

どこかひっそりと息を詰めていざるをえない今回の物語に、たった一度、皆が生き生きとくっきりとした存在感で動いた場面。
本当に楽しかった。
そうそう。おこんさんはそうでなくっちゃ!
そう思ったら。
やっぱり磐音さんの隣にはおこんさんだったなあ、と思う。
この苦境の中でも、武家ではない町方の明るさをふいに見せる彼女は、磐音さんにとって本当に救いになっていくだろう。
下町深川の明るさ。
最後のほうでみせる金兵衛さんの明るさに通じる、強い心。

玲圓、おえい夫妻の弔いをひとまず終えて。
1つの区切りを心の中でつけて。
坂崎磐音に戻った彼。
いつか、心の底から笑えて、いやそれは無理でもいつか。
磐音さんがまた、無心に食べる姿を見られることを祈りつつ。

まだまだ果てのない旅路を見守ろうと思う。
まだまだ気が抜けない厳しい時代のまま。田沼政権っていつまで続いたっけ?なんてとても気になったりしつつ。



memo
再読後に感想完了。初読の時と微妙に違う感覚もある。
旅の空の下で赤子は誕生する訳か。霧子ちゃんがいるのはすごく心強いけれど、でも願わくば・・・2人の赤ちゃんが誕生するときは束の間でも平穏な日々でありますように・・・


コメント (2)
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