のんびりぽつぽつ

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「手紙」

2007年02月16日 23時17分23秒 | ★★東野圭吾
弟の大学入学資金ほしさに盗みに入り、1人暮らしの老婆を殺害して「強盗殺人」の罪で捕まる兄、剛志。家族は兄しかいなかった弟直貴は、それからずっと、「強殺犯の弟」というレッテルを貼られて生きていくことになる。
始めは「兄は自分のために罪を犯したんだ」という立場にいた彼が、進学、就職、恋愛、音楽・・と次々とその「レッテル」のためにあきらめざるを得なくなり、「レッテル」のために、彼がようやく手に入れた安らかな暖かい家庭も脅かされるに至ってついに、1つの答えを出すまでの物語。

塀の中から月に一度、手紙をよこす剛志と、それを受け取ることを次第に苦痛に感じていく直貴。
二人の周りの状況のあまりの違いが、直貴に対する差別と重なって辛くなる。
兄は、刑に服しているとはいえ、塀の中という特殊な環境とはいえ、今現在弟が受けている苦痛をまったく知らないでいる。想像もできないでいる。そんな、手紙の内容。

手紙の文面と直貴の生活の描写の対比が、あまりにギャップがあって、それが更に直貴の受けている差別を浮き立たせる。

でも、ね。
内容はとても辛くて、読んでいても自分自身が苦痛になるのだけれど。
由実子と平野社長の存在が、そして寺尾と倉田の存在が私を物語に引き寄せた。
真実を知った後でも唯一態度を変えずに直貴のそばにい続ける由実子。
真実を知った後、あえて直貴に「これが現実だ。当然だ」と突きつける平野社長。
多分、ただ1人の友である、直貴の中の音楽を見つけ出し導いてくれた寺尾。
服役の経験がありながら、地道に大学に進学しようと努力している倉田。

どうしたって。
こういう差別を否定は出来ない。
私だって、きっと同じ立場になったら直貴から離れるだろう。
この物語の「その他大勢」には、読者である私も含まれる。心の中の、普段は隠している物を突きつけられる。

そんな人の冷たさ、弱さ、無情さの合間に、ほんの少しの暖かさ、強さを隠すように置く。
それが、読んでいて絶望しないですむ、先を思い描くことが出来る根本なのかもしれない。

そして。
直貴の答えと、その先のラストに号泣する。
嗚咽すら漏れそうで、ほんとに困ってしまった。(布団にもぐって読んでいたから、家族がびっくりしてしまいそうで・・・)
ラストシーンは、今思い描いても泣きそうだ。切ないのだ。とんでもなく、桁外れに・・・

手に取るまでにかなり勇気がいるんだけれど、読み始めると止まらなくなる作品。
読み終えても絶えず問われ続ける。
その先は、何が見えてくるのだろう?


2 コメント

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これこれ! (猫道)
2007-02-16 23:59:39
食指が動いてるのよ~
過度に感情移入して入り込んでしまうと、抜け出すのに難儀しそうな世界ではあるけど。
ゆきさんの保証付きなら安心だし。

柳は緑花は紅、覗いてくださってありがとうございます~ ついさっきweb拍手の解析を見に行ったらゆきさんが!
最遊記ってご存知ですか?もしわかんなかったら、サラッと見して頂けるだけでも充分嬉しいので。

↓Yahoo!の「秒速5センチメートル」まだ観てない。気になってるんだけど、ばたばたと落ち着かなくて。
まだ観てない映像と読んでない本だらけだよ
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猫道さん~ (ゆき@管理人)
2007-02-17 22:21:28
これはねー、感情移入するととっても怖そうな内容だよね。だから私もかれこれ半年くらい(爆)積読状態だったんです。
で、ね。
この前、「秘密」を読んだら、そこでも東野さんは加害者側の家族を描いていたのです。その表現に触れて、ようやく「手紙」を読む気になったのでした。

なんていうか、読んだ後「救いようがない」っていう状態になる作品っていう物もあって、それがとても怖かったんだけれど、この作品は違うような気がする。「博士の愛した数式」にも感じたんだけれど、未来が絶望ではない、そうどこかに感じさせてくれる作品だな、と。
ま、私の保証はかな~り当てになりませんが・・・読んでみて?(あ、この記事の最後を書き換えました。どうも昨日から気になっててねー

「秒速~」は、ほんとにヤフーで知りました。「雲の向こう~」が意外に良かったので・・(吉岡さん贔屓っていうのを差し引いても/^^;)ちょっとおもしろそうだな、って思う。
でも、3月公開なんだよねー。観にいくのは無理かもなあ・・・レンタル待ちになりそうな予感もしています・・・
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