日焼けした肌を叩くように、一段と苛烈さを増した日差しが降ってくる。乾き切ったメキシコの大気だが、太平洋の潮風があってそれ程の乾きは覚えない。
1週間のプール・サイドの読書三昧もやがて半ば、シッカリと焼き込んだ肌が気持ちいいほどの照りを見せる。「無為の贅沢」が遊びにいざなう。その誘いに身を任せて海辺を離れ、荒野のアウト・ドアを楽しむことにした。
ロス・カボスから小一時間、一面サボテンと灌木だけが覆う海岸沿いの起伏を北に走り続ける。頂に十字架を立てた遠くの岩山に緑は全くなく、雨が降らない過酷な自然を垣間見せる。その頂近くを舞うコンドルだけが生き物の姿だった。
サンド・バギー。四輪駆動の大型バイクで荒野や砂丘を疾駆する初めての体験は、この旅の目玉の一つだった。サボテンの林の中で、英語だけの説明を受ける。スペイン語訛のブロークンな英語は殆ど聞き取れないが、耳でなく目で操作を覚えてサドルに跨った。
6台のバギーを連ねて原野にはいる。波打ち険しく登り下りする走路を、重いハンドルに苦しみながら走り始めた。華奢な腕にはあまりにも重いハンドルに路傍の灌木に突っ込んでしまった娘は、無念の思いでガイドの背中にしがみついて回る羽目になった。
もうもうと砂埃が立ちのぼり、下から突き上げるようにガタガタ道の振動が背骨を叩く。半ば腰を浮かせたままアクセルをふかせるうちに、こたえられない面白さが沸き起こってきた。全身でバランスを取りながら、登りではギアを落として身を伏せ、下りでは身を反らせる。ヘルメットを被り、バンダナを口に巻いて埃をよけ…しかし、日差しとハードなハンドル操作で息苦しく、埃にまみれるのも厭わずバンダナを首に落とした。サボテンの間から抜けてくる風が心地よい。
一時間後、海に出た。太平洋の弧を描く水平線から、真っ白な濤が寄せてくる。一気に急坂を下って砂浜に出た。洗濯板のように波打つ砂の上、障害のない砂を蹴立てて、最速の走りを楽しんだ。もう完全にペダルの上に立ち上がり、膝をクッションにしながら浜風にバンダナを靡かせる。
ふと、我が身の歳を思う。この歳で、もうそれほど新しい発見はないだろうと思っていた。「いい歳をして」と云われるのが厭で、日本にいたら或いは尻込みしたかもしれない。旅先の開放感のお陰で思いがけない醍醐味を味わうことが出来た。それは、病みつきになりそうなほどに豪快な3時間の経験だった。
幾つになっても野次馬でいたいと思う。つい身近な過去ばかりを見詰めてしまう歳だが、前を向いて好奇心に身をゆだねているからこそ、常に新しい発見があるのだから…。
散々揺り上げられた腹に、街の小さな店で食べた激辛のタコスがズシンとこたえた。
(2005年1月:写真:サンド・バギー)