中東情勢対応に追われ、リバランス(アジア回帰)が希薄になっていたオバマ政権ですが、副長官時代にリバランス政策に深く関与した、カーター新国防長官がアジアを歴訪し、今後注力しいてく姿勢を示すことにしています。
【AFP=時事】
カーター長官は、来週7日から東京と韓国のソウルを訪問し、その後米ハワイ州で米太平洋軍司令官と会談する予定。5月に再びアジアを訪れ、シンガポールで開催されるアジア安全保障会議に出席し、その後インドも訪問する。カーター氏はかつて米国とインドの防衛協力強化に向けた作業に密接に関わってきた。
米国防総省は声明で、カーター長官による今後2か月で2度のアジア訪問は「同地域における同盟国との防衛関係を確かめ、リバランス政策の主な構想を作り上げる」だろうとしている。
読売が事前の書面インタビューを紙面を大きく割いて報道していますが、ポイントを備忘録として取り上げてみました。
【ワシントン=今井隆】カーター米国防長官は読売新聞の書面インタビューで、中国による南シナ海の現状変更の動きを厳しく非難した。ヘーゲル前長官も中国に直言を繰り返してきたものの、その一方的な活動を抑制できなかったのが実情だ。中国が行動をさらにエスカレートさせた時、カーター氏がどのように対処するかに周辺国の視線が集まりそうだ。
「中国が過去に東南アジア諸国連合(ASEAN)に対して行った約束と矛盾する」「我々は、地域での信頼を改善するため、中国に活動の制限と自制を促す」
カーター氏は書面インタビューへの回答で、中国が南シナ海で進めている岩礁の埋め立て工事を重ねて批判した。初めての東アジア歴訪を前にした毅然きぜんとした発言は、中国と相いれない問題では遠慮せずに批判する意思を鮮明にしたものだ。
一方でカーター氏は、これに先立つアリゾナ州での演説で、「米中は同盟国ではないが、敵となる必要はない」とも語り、対話や信頼関係の構築は引き続き重視する考えを示した。
米国が懸念しているのは、南シナ海などでの米中対立が先鋭化し、軍用機や艦船による不測の事態が発生することだ。カーター氏は演説で、昨秋の米中首脳会談で合意した偶発衝突防止に向けた軍当局間の信頼醸成措置を「歴史的な発表」と評価した。
カーター氏は、東シナ海の尖閣諸島(沖縄県石垣市)を巡る日中の対立が偶発的衝突を引き起こす危険性についても危惧している。書面への回答では、「不測の事態を回避するための危機管理メカニズム構築の合意を歓迎する」と強調し、日中防衛当局間の「海上連絡メカニズム」の早期構築を促した。
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アシュトン・カーター (Ashton Carter)第25代米国防長官。
今年2月、前任のヘーゲル氏に続き、オバマ政権で4人目の国防長官に就任。国防予算削減やアジア太平洋地域重視の国防戦略策定などで手腕を発揮してきた。安全保障など、著書は共著を含め10冊以上。理論物理学の博士号を持つ。
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現状変更 米で懸念広がる
【ワシントン=飯塚恵子】中国による南シナ海の現状変更に対する懸念は、米政府はもとより、政界やワシントンの政策研究機関などでも急速に広がっている。
政界では3月19日、共和党重鎮のマケイン上院軍事委員長や民主党のメネンデス上院前外交委員長らが超党派で、中国の動きに対する深い懸念を示す共同書簡をケリー国務長官とカーター国防長官宛てに送った。
書簡では、中国の動きは「この地域の米国の国益だけでなく、国際社会全体に対する挑戦だ」と指弾し、オバマ政権に対し、南シナ海と東シナ海に関する「包括的戦略が必要だ」と強く求めた。
また、有力政策研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」では、3月28日に開いた日米の安全保障専門家を集めた会議で、中国の南シナ海での動きを特別に議論。CSISが独自に入手した過去1年間の急速な岩礁の変化を示す画像が次々紹介されると、会場から驚きの声が上がり、対策が急務だとの声が相次いだ。
米国の安保専門家は中国の狙いについて、南シナ海沖に軍事拠点をつくることでベトナムやフィリピンに対する領有権主張を強める根拠とすることに加え、日本や韓国、台湾などの海上交通路(シーレーン)妨害も視野に入れていると分析している。
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米国防長官書面インタビュー全文
カーター米国防長官が読売新聞に寄せた書面インタビューの回答全文は次の通り。
■新ガイドライン
「日米同盟は形を変え、切れ目なく協力できる機会が増える」
――米国がアジア太平洋地域へのリバランス(再均衡)政策を進める中、新たに見直す日米防衛協力の指針(ガイドライン)は、日米同盟強化にどんな役割を果たすと期待するか。集団的自衛権の限定行使に向けた日本の動きをどう評価するか。
私は訪日に先立ち、オバマ大統領のアジア太平洋へのリバランス政策、そして、日米同盟を含むこの地域の未来がすべての米国民にとってなぜ重要なのかを、アリゾナ州立大で学生や教職員らと話した。米国防長官として私は、リバランス政策の次の段階を、自ら監督することを確約する。これは、この地域と日本に対する米国の関与を深め、多様化させるものとなる。
日米両政府による日米防衛協力の指針見直しの共同作業ほど、その確約を示す格好の例は少ない。新たな指針は、日本の平和と安全を今後も確かなものとするため、日米両政府が世界中でいかに協力を続けるかを具体的に示すものだ。見直しにより、日米同盟は形を変え、米軍と自衛隊が切れ目なく協力できる機会が増える。訪日中に、安倍首相や中谷防衛相ら日本政府高官と指針について協議するのを楽しみにしている。
米国は、日本がこの地域と世界の平和と安全に貢献するため、より積極的な役割を果たそうとする努力を歓迎し、支持する。ただ、集団的自衛権を含む安保法制に関する決定は、日本国民のものであることを理解し、尊重する。
■沖縄・尖閣諸島
「日中間で不測の事態を回避する危機管理メカニズム構築を歓迎する」
――日中間の緊張は尖閣諸島をめぐって高まり、誤解が不測の事態に発展しかねない状態だ。緊張緩和に向け、日中両国はどう向き合うべきだと考えるか。
米国は、関係改善に向けた日中間の理解、特に不測の事態を回避するための危機管理メカニズム構築の合意を歓迎する。アジアの2大経済大国として、日中の関係が安定し、生産的であることは、この地域のみならず、世界の平和と繁栄にとって不可欠である。
日米同盟は引き続き、アジア太平洋地域の平和と安全の礎石であり、我々は同盟の責務をしっかり果たす。特に、尖閣諸島に関しては、オバマ大統領が昨年の東京訪問で「米国の政策は明確だ。尖閣諸島は日本の施政下にあり、それ故、日米安全保障条約第5条の適用範囲内にある。我々は、これらの島々における日本の施政を阻害するいかなる一方的な試みにも反対する」と述べた通りである。
■南シナ海
「我々は、岩礁埋め立てによる軍事化の可能性を懸念している」
――中国は現在、南シナ海で岩礁を埋め立て、実効支配の既成事実化を進めている。このような行動は、中国が南シナ海で防空識別圏(ADIZ)を設定するとの懸念を高めている。最近のこうした動きを踏まえて、中国の行動をどのように考えるか。
米国と多くの国々は、中国が行っているいくつかの活動を深く懸念している。南シナ海のような場所での中国の行動は多くの深刻な疑問を提起しており、我々はこれらの動きを注視している。こうした懸念について、我々は中国側に2国間と多国間の場で日ごろから提起している。我々は、中国が過去に東南アジア諸国連合(ASEAN)に対して行った約束と矛盾する埋め立て活動の範囲と速度を懸念している。我々は特に、こうした前哨地の軍事化の可能性を懸念している。こうした活動は緊張を深刻に高め、外交解決の可能性を減らす。我々は、地域での信頼を改善するため、中国に活動の制限と自制を促す。
■北朝鮮問題
「日米韓の連携で、北朝鮮の核とミサイルの脅威に対する抑止力が強まる」
――北朝鮮の核、ミサイル計画への懸念が高まっている。北朝鮮の挑発に対処するうえでの日米韓3か国の連携の重要性についてどう考えるか。
3か国の安保協力の強化は、米国のアジア太平洋地域へのリバランスの主要要素であり、日本はこの重要な取り組みで極めて重大な役割を果たす。それが、我々も日米韓3か国の協力促進を表明している理由である。昨年12月、この重要な両同盟国と今までに類のない情報共有の取り決めをまとめ、我々はその機会を得たと信じている。私は東京とソウル双方の訪問時に、この問題を議論するつもりだ。
我々3か国は将来に目を向けねばならない。米国はこの関係における歴史的な敏感さは十分理解するが、協力の潜在的利益、すなわち我々の長年の同盟国である両国と地域全体に存在する好機は、過去の緊張や今日の政治よりも重要であると信じている。日米韓は共に連携することによって、北朝鮮の核とミサイルの脅威に最善の対処を行い、抑止力を強化し、地域の安定を確保することができる。
■普天間移設
「辺野古に移設することが、普天間飛行場の返還をもたらす唯一の解決策だ」
――沖縄の新知事が昨年12月に就任後、日本政府と沖縄県は米軍普天間飛行場の移設計画をめぐり、対立を深めている。日本政府と沖縄県はこの問題にどう取り組むべきだと思うか。普天間飛行場の名護市辺野古への移設の意義をどう考えるか。
米国のアジア太平洋へのリバランスの一環として、我々はこの地域での防衛態勢全般を、より広範に、より順応性があり、より長く持続できるように変化させている。我々は、米軍基地再編を進めることと、我々の作戦が地域社会に与える影響を認識することを含めて、良き隣人であることを誓約している。それが2013年に米国と日本が、沖縄県の約2500エーカー(約1011万7250平方メートル)の土地返還の詳細に関する2国間の整理統合計画を発表した理由である。この計画は時機を逃さずに継続して実施されると確信している。
私は日本政府と県がどのように協力すべきかについてはコメントできないが、安倍首相、菅官房長官、中谷防衛相が我々2国間の再編への取り組みを力強く支援していることには心から感謝している。我々は米軍キャンプ・シュワブ、辺野古湾における普天間代替施設の建設の進展を歓迎する。この施設は、日本と沖縄での我々の駐留を長期間持続可能にするための関与の主要部分である。そして、それが米海兵隊普天間飛行場の返還をもたらす唯一の解決策である。
我々はこの重要な取り組みについて、両国ですでに進展を目にしている。日本では西普天間住宅地区が先週、日本側の地権者に返還され、昨年夏にはKC130の部隊が普天間飛行場から米軍岩国基地に移駐された。さらに我々は、ワシントンで、グアムでの(施設)建設のために日本が提供した予算をすべて執行するための議会承認を得た。沖縄からグアムへの米海兵隊移転に向けた大きな一歩である。
媚中派のスーザン・ライス大統領補佐官等と対立していたとされる、比較的アジア情勢に理解があったヘーゲル長官の後任は難航しましたが、リバランス政策策定時に副長官として深く関与したカーター長官が誕生しました。
一時、パンダハガーが勢力を増したオバマ政権でしたが、中東での続発する課題への対応に追われたせいもあり、リバランス政策はすっかり忘れられ、色あせた感がありました。
しかし、中国の南シナ海や東シナ海での力を背景にした覇権の拡大に気付いた最近は、再びリバランスに注力する方向を打ち出した様です。
ただ、中国包囲網といった対立を強めるものではなく、カーター長官が述べている様に「敵として対立する必要はない」といった姿勢も示しています。
しかし、ケリー長官や、スーザン・ライス大統領補佐官とは明らかに異なる姿勢に見受けられるカーター長官。
政権のリバランス政策の復活の狼煙を揚げるためのアジア歴訪が、どのような新しい流れを産み出すのか、期待をいだきつつ注視していきたいです。
有力政策研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」が開いた日米の安全保障専門家を集めた会議で、中国の南シナ海での動の、CSISが独自に入手した過去1年間の急速な岩礁の変化を示す画像が次々紹介されると、会場から驚きの声が上がり、対策が急務だとの声が相次いだとの話にはがっかりです。
日本では、素人の遊爺でさえ知っている中国の南シナ海での基地建設埋め立て工事。安全保障専門家が驚きの声を上げるなんて、専門家の資格はないでしょう。ことほどさように、アジアの情勢は知られていないのですね。
米国でこれなのですから、英国や独仏に中国の覇権拡大の危機感が希薄で、出資比率に応じて発言権が制約されるAIIBに、発言権が薄いと知りながら参画してしまった無知さが哀れに思えます。出資が少なくしか出来ないので、痛手も少ないと、気軽に参加したのかもしれませんね。
ニッポン放送のザ・ボイスで、高橋洋一氏が、AIIBは中国主体では格付けが低く、資金調達コストが高くなるので、先進国や日米の参画を求めていると説明しておられました。英独仏は、まんまと中国の策略に乗せられ、発言権は制約されているのに、格付けアップや資金負担とリスク分散に利用されてしまったのですね。
2015/04/08 ザ・ボイス 高橋洋一 ニュース解説「日米防衛相会談 ガイドライン見直しへ加速」「2月の経常収支 8ヶ月連続の黒字」など - YouTube
余談が長くなりました。
繰り返しになりますが、カーター長官のアジア歴訪を注視してみましょう。
# 冒頭の画像は、アシュトン・カーター国防長官
この花の名前は、ツンベルギア・フォーゲリアナ
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