エドワード・ルトワック著、奥山真司訳の文春新書に「中国(チャイナ)4.0」という本があり、文末で最近時々リンクを貼り紹介させていただいています。中国の国家戦略の変遷を、1.0 ~ 4.0 に分けて説明し、指導者が戦略の過ちをおかし続けていて、国を亡ぼすことになりかねないと説いています。
共産党中央政治局常務委員と言う、中国共産党の意思決定に携わる委員が現在は7人とされていることから、この7人を、「チャイナ・セブン」と呼ぶことは諸兄がご承知のとおりですが、その「チャイナ X」とはことなります。
「中国(チャイナ)2.0」の政策誤りで、中国は周辺国を敵に回す原因を創るのですが、これを戦略で言う「逆説的倫理(パラドキシカル・ロジック)」と著書は説明しています。平和的手段ではなく、大国が勢力を拡大すると、反比例して周辺国の敵対を増やすと言うものです。
著者は「中国(チャイナ)4.0」の段階を危惧しているのですが、「逆説的倫理(パラドキシカル・ロジック)」も進んでいて、その様子を石平氏が書いておられました。
Amazon.co.jp: 中国4.0 暴発する中華帝国 (文春新書): エドワード ルトワック
毛沢東の後、改革開放経済を導入して今日の経済大国へのスタートをさせた小平は「韜光養晦(とうこうようかい)」でひたすら経済発展に注力しました。
ルトワックは、この後の江沢民の時代を、更に豊かになり、更に近代化し、その経済規模は日本を越え、いつの日にか米国に迫るという、未だ「平和的台頭」の時代とし「中国1.0」の時代としています。GATTに参加するなどして国際ルールを守る姿勢を打ち出して独自のルールを諸外国に押し付けたりせず、脅威を与えない平和的な国の路線を打ち出していたと言うのです。
日本に学んで経済発展を進めた、小平、胡耀邦の時代と異なり、国内に芽生え始めた社会問題(天安門事件で火を噴きました)をかわすために「反日教育」を始め、国民の不満の矛先を「反日運動」へ向ける政策をとった江沢民の政策は、ルトワック氏には見えていない様ですが。。
それが、リーマンショックによる世界経済の混乱が生じる中で、中国がお金の力で台頭し、米国に追いつき追い越して世界一になるのは、25年はかかると思っていたのが、10年で可能になると思いこんで、視野の狭い、反知性的で短絡的な「金は力なり」との考えにとらわれ、外交も経済力で押し切れると考え始めたのです。
更に、米国の経済力の低下と中国の成長は、「線的な予測」という誤った単純な考えの、永遠に直線的に右肩下がりと右肩上がりが続くと思い込む過ちを犯してしまいました。この時代が「中国2.0」
しかし、平和路線から強行路線に転じて台頭する姿勢は「逆説的論理」の法則で、台頭に反比例して周辺に警戒心を産み、立場が弱くなる現象を産むのです。
太平洋地域で「反中同盟」が産まれて、「中国2.0」の誤りに気付いた指導者は、「選択的攻撃」の「中国3.0」に進み、抵抗がないところには攻撃に出て、抵抗があれば止めるという行動にかえたのです。
ところが、ルトワック氏は最悪の戦略と評価し、フィリピンやインドとの関係悪化を例にあげておられます。
そして、その解決策としてルトワック氏は「中国4.0」を提唱されるのですが、「九段線」の廃止による周辺国との領土問題の解消や、「冊封体制」の世界観の脱却などを求めておられますが、習近平にとっては最悪のシナリオとルトワック氏自身が述べてとうてい受け入れられないだろうと認めておられます。
「中華の夢」を前面に掲げる習近平に受け入れられるはずはありませんし、受け入れるということは、習近平政権の崩壊、共産党の独裁体制の瓦解を招くことに繋がりますね。
余談ですが、ルトワック氏は、こうした現状の中で、日本の対中政策で、日米同盟の重要性も認めるが、先ずは日本が単独で中国の侵略を防衛・抑止する体制を整え、尖閣等の離島への侵略があれば、予め準備された行動計画を、いちいち相談・協議するのではなく素早く実行し排除することが肝心と、フランスの例をあげて説いておられます。納得です。
横道の話ばかりになりましたが、石平氏の記事は、まさに「逆説的倫理」の発症に焦る習近平の姿を描かれたものですね。
「中国2.0」から「中国3.0」に転じたにも関わらず、事態が悪化する一方で、その深刻さを自認しているからこその、G7(周辺の小国ではなく、世界のビック7)外相会議への反発なのですね。 石平さんが書かれている通りで、四面楚歌の習主席の中国は今後一体、どこまで世界と敵対していくつもりなのでしょう。ルトワック氏提唱の、「中国4.0」の世界を受け入れるしかない?
# 冒頭の画像は、G7外相会議で広島に集まった各国・EU外相等
この花は、日本水仙
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共産党中央政治局常務委員と言う、中国共産党の意思決定に携わる委員が現在は7人とされていることから、この7人を、「チャイナ・セブン」と呼ぶことは諸兄がご承知のとおりですが、その「チャイナ X」とはことなります。
「中国(チャイナ)2.0」の政策誤りで、中国は周辺国を敵に回す原因を創るのですが、これを戦略で言う「逆説的倫理(パラドキシカル・ロジック)」と著書は説明しています。平和的手段ではなく、大国が勢力を拡大すると、反比例して周辺国の敵対を増やすと言うものです。
著者は「中国(チャイナ)4.0」の段階を危惧しているのですが、「逆説的倫理(パラドキシカル・ロジック)」も進んでいて、その様子を石平氏が書いておられました。
Amazon.co.jp: 中国4.0 暴発する中華帝国 (文春新書): エドワード ルトワック
覇権国家の四面楚歌 (4/21 産経 【石平のChina Watch】)
今月11日、広島市で開かれた先進7カ国(G7)外相会合は、中国が進める南シナ海の軍事拠点化を念頭に、「現状を変更し、緊張を高め得るあらゆる威嚇的、威圧的、または挑発的な一方的行動に対し、強い反対を表明する」とする声明を発表した。
名指しこそ避けたが、中国が取った行動を「威嚇的・威圧的・挑発的な一方的行動」だと厳しく批判した上で、7カ国の総意として「強い反対」を明確に表明した。それは、中国の暴走に対する世界主要国の未曽有の危機感の表れであると同時に、中国に対する国際社会の強い圧力にもなったはずだ。
翌12日、中国外務省の陸慷報道官は、さっそく「強烈な不満」を表明した。13日には中国政府がG7メンバー国の在中国大使館幹部を呼び出して「中国側の立場を厳粛に説明した」ことを認めた。
G7外相声明が「中国」という具体名を挙げたわけでもないから、中国政府には知らん顔して黙殺する対処法もあったはずだ。声明が批判する対象国に自らを当てはめて過剰反応したことは逆に、習近平政権が、かなり焦っていることの証拠である。
習政権はなぜ焦っているのか。この1、2カ月、南シナ海周辺の各国の一連の動きを見れば一目瞭然だ。
3月9日、米国がB1などの戦略爆撃機をオーストラリア北部ダーウィンの空軍基地に巡回駐留させることを同国政府と協議していることが判明した。
同14日、マレーシアのヒシャムディン国防相は、南シナ海での中国による軍事拠点構築に関し、「一国では(中国の)攻撃的行為を止めることはできない」とし、オーストラリア国防相と会談して連携を模索する考えを示した。
同31日には、インドネシア政府が、「海賊」対策のため、南シナ海南端のナトゥナ諸島に戦闘機F-16を配備する意向を示したことが、報じられた。本当に単なる「海賊対処」のためであるなら、戦闘機F-16の配備など要らないであろう。
そして、今月1日(現地時間)、安倍晋三首相が米ワシントンでインドのモディ首相と行った会談では、両首脳が中国の南シナ海進出への「懸念」を共有した。一方、ベトナム国境警備当局は、ベトナム領海を侵犯した疑いで中国船を摘発した。
同3日には、米国の原子力空母ジョン・C・ステニスが南シナ海に展開し、中国に対する警戒監視活動を行っていることが複数の日本政府高官によって明らかにされた。
8日、カーター米国防長官は、ステルス性能を持つ最新駆逐艦全3隻を、太平洋とインド洋を管轄する太平洋艦隊に配属する方針を表明した。配備される最新型の駆逐艦全3隻が今後、どこの国の海軍への抑止力となるのか、は明白だろう。
そして12日、日本の海上自衛隊の護衛艦「ありあけ」と「せとぎり」が、南シナ海に面するベトナムの軍事要衝カムラン湾の国際港に初めて寄港した。翌13日、今度はカーター米国防長官がフィリピンを訪問して、米・フィリピン両軍による定例軍事演習「バリカタン」を視察した。
このように、今春に入ってからの短い期間内に、日米と南シナ海周辺諸国は、「南シナ海問題」への対処として慌ただしい外交的・軍事的動きを展開している。
その矛先が向かうところはすべて、かの覇権国家の中国であることに疑念はない。関係諸国は今、米国の動きを中心に、政治的・軍事的「中国包囲網」を着々と構築している最中なのである。
その仕上げの一つが冒頭のG7外相声明なのである。
四面楚歌(そか)の習主席の中国は今後一体、どこまで世界と敵対していくつもりなのか。
今月11日、広島市で開かれた先進7カ国(G7)外相会合は、中国が進める南シナ海の軍事拠点化を念頭に、「現状を変更し、緊張を高め得るあらゆる威嚇的、威圧的、または挑発的な一方的行動に対し、強い反対を表明する」とする声明を発表した。
名指しこそ避けたが、中国が取った行動を「威嚇的・威圧的・挑発的な一方的行動」だと厳しく批判した上で、7カ国の総意として「強い反対」を明確に表明した。それは、中国の暴走に対する世界主要国の未曽有の危機感の表れであると同時に、中国に対する国際社会の強い圧力にもなったはずだ。
翌12日、中国外務省の陸慷報道官は、さっそく「強烈な不満」を表明した。13日には中国政府がG7メンバー国の在中国大使館幹部を呼び出して「中国側の立場を厳粛に説明した」ことを認めた。
G7外相声明が「中国」という具体名を挙げたわけでもないから、中国政府には知らん顔して黙殺する対処法もあったはずだ。声明が批判する対象国に自らを当てはめて過剰反応したことは逆に、習近平政権が、かなり焦っていることの証拠である。
習政権はなぜ焦っているのか。この1、2カ月、南シナ海周辺の各国の一連の動きを見れば一目瞭然だ。
3月9日、米国がB1などの戦略爆撃機をオーストラリア北部ダーウィンの空軍基地に巡回駐留させることを同国政府と協議していることが判明した。
同14日、マレーシアのヒシャムディン国防相は、南シナ海での中国による軍事拠点構築に関し、「一国では(中国の)攻撃的行為を止めることはできない」とし、オーストラリア国防相と会談して連携を模索する考えを示した。
同31日には、インドネシア政府が、「海賊」対策のため、南シナ海南端のナトゥナ諸島に戦闘機F-16を配備する意向を示したことが、報じられた。本当に単なる「海賊対処」のためであるなら、戦闘機F-16の配備など要らないであろう。
そして、今月1日(現地時間)、安倍晋三首相が米ワシントンでインドのモディ首相と行った会談では、両首脳が中国の南シナ海進出への「懸念」を共有した。一方、ベトナム国境警備当局は、ベトナム領海を侵犯した疑いで中国船を摘発した。
同3日には、米国の原子力空母ジョン・C・ステニスが南シナ海に展開し、中国に対する警戒監視活動を行っていることが複数の日本政府高官によって明らかにされた。
8日、カーター米国防長官は、ステルス性能を持つ最新駆逐艦全3隻を、太平洋とインド洋を管轄する太平洋艦隊に配属する方針を表明した。配備される最新型の駆逐艦全3隻が今後、どこの国の海軍への抑止力となるのか、は明白だろう。
そして12日、日本の海上自衛隊の護衛艦「ありあけ」と「せとぎり」が、南シナ海に面するベトナムの軍事要衝カムラン湾の国際港に初めて寄港した。翌13日、今度はカーター米国防長官がフィリピンを訪問して、米・フィリピン両軍による定例軍事演習「バリカタン」を視察した。
このように、今春に入ってからの短い期間内に、日米と南シナ海周辺諸国は、「南シナ海問題」への対処として慌ただしい外交的・軍事的動きを展開している。
その矛先が向かうところはすべて、かの覇権国家の中国であることに疑念はない。関係諸国は今、米国の動きを中心に、政治的・軍事的「中国包囲網」を着々と構築している最中なのである。
その仕上げの一つが冒頭のG7外相声明なのである。
四面楚歌(そか)の習主席の中国は今後一体、どこまで世界と敵対していくつもりなのか。
毛沢東の後、改革開放経済を導入して今日の経済大国へのスタートをさせた小平は「韜光養晦(とうこうようかい)」でひたすら経済発展に注力しました。
ルトワックは、この後の江沢民の時代を、更に豊かになり、更に近代化し、その経済規模は日本を越え、いつの日にか米国に迫るという、未だ「平和的台頭」の時代とし「中国1.0」の時代としています。GATTに参加するなどして国際ルールを守る姿勢を打ち出して独自のルールを諸外国に押し付けたりせず、脅威を与えない平和的な国の路線を打ち出していたと言うのです。
日本に学んで経済発展を進めた、小平、胡耀邦の時代と異なり、国内に芽生え始めた社会問題(天安門事件で火を噴きました)をかわすために「反日教育」を始め、国民の不満の矛先を「反日運動」へ向ける政策をとった江沢民の政策は、ルトワック氏には見えていない様ですが。。
それが、リーマンショックによる世界経済の混乱が生じる中で、中国がお金の力で台頭し、米国に追いつき追い越して世界一になるのは、25年はかかると思っていたのが、10年で可能になると思いこんで、視野の狭い、反知性的で短絡的な「金は力なり」との考えにとらわれ、外交も経済力で押し切れると考え始めたのです。
更に、米国の経済力の低下と中国の成長は、「線的な予測」という誤った単純な考えの、永遠に直線的に右肩下がりと右肩上がりが続くと思い込む過ちを犯してしまいました。この時代が「中国2.0」
しかし、平和路線から強行路線に転じて台頭する姿勢は「逆説的論理」の法則で、台頭に反比例して周辺に警戒心を産み、立場が弱くなる現象を産むのです。
太平洋地域で「反中同盟」が産まれて、「中国2.0」の誤りに気付いた指導者は、「選択的攻撃」の「中国3.0」に進み、抵抗がないところには攻撃に出て、抵抗があれば止めるという行動にかえたのです。
ところが、ルトワック氏は最悪の戦略と評価し、フィリピンやインドとの関係悪化を例にあげておられます。
そして、その解決策としてルトワック氏は「中国4.0」を提唱されるのですが、「九段線」の廃止による周辺国との領土問題の解消や、「冊封体制」の世界観の脱却などを求めておられますが、習近平にとっては最悪のシナリオとルトワック氏自身が述べてとうてい受け入れられないだろうと認めておられます。
「中華の夢」を前面に掲げる習近平に受け入れられるはずはありませんし、受け入れるということは、習近平政権の崩壊、共産党の独裁体制の瓦解を招くことに繋がりますね。
余談ですが、ルトワック氏は、こうした現状の中で、日本の対中政策で、日米同盟の重要性も認めるが、先ずは日本が単独で中国の侵略を防衛・抑止する体制を整え、尖閣等の離島への侵略があれば、予め準備された行動計画を、いちいち相談・協議するのではなく素早く実行し排除することが肝心と、フランスの例をあげて説いておられます。納得です。
横道の話ばかりになりましたが、石平氏の記事は、まさに「逆説的倫理」の発症に焦る習近平の姿を描かれたものですね。
「中国2.0」から「中国3.0」に転じたにも関わらず、事態が悪化する一方で、その深刻さを自認しているからこその、G7(周辺の小国ではなく、世界のビック7)外相会議への反発なのですね。 石平さんが書かれている通りで、四面楚歌の習主席の中国は今後一体、どこまで世界と敵対していくつもりなのでしょう。ルトワック氏提唱の、「中国4.0」の世界を受け入れるしかない?
# 冒頭の画像は、G7外相会議で広島に集まった各国・EU外相等
この花は、日本水仙
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