処遊楽

人生は泣き笑い。山あり谷あり海もある。愛して憎んで会って別れて我が人生。
力一杯生きよう。
衆生所遊楽。

日没

2021-01-26 16:57:05 | 

著者 桐野夏生

出版社 岩波書店

 

 

恐ろしい内容の作品である。普段の生活が絡めとられてゆく。「何故だ!」。その理由が明らかにされぬまま、やがて「お前は悪だ!」と聞かされる。「改めろ!」と迫られる。抗うが敵の圧倒的な力の前に心身がボロボロになる。助かるために妥協するか自己を貫いて死の道を選ぶか。

理不尽に拘束された一人の作家が、国家権力によって次第に朽ち果てていく数か月の過程が、克明に刻まれていく。その描写は身の毛がよだつ。息苦しくなってくる。頁の先が怖ろしくて何度読むのをやめようと思ったことか。それは、私自身が同じ状況下に置かれた時、きっと、いとも簡単に転向してしまうであろう自分であることを知っているから。それが辛いし悲しい。とてもこのマッツ夢井のようには戦えないからだ。

著者は、朝日新聞への『不寛容の時代』と題した寄稿文の中で次のように述べている。「小説は、自分だけの想像力を育てる。言葉は目に見えないものだから、読者一人一人が想像することでしか、その小説世界を堪能することはできない」と。

その著者の想像力によって描かれる”療養所”の更生生活の凄まじいこと。その力の前に私はノック・アウトされてしまった。戦意喪失である。

世界も日本も、分断と差別が指摘されて久しい。自由の抑圧、思想の弾圧、人間性の破壊。近未来にあり得るかもしれない日本社会の姿。

数年前、誰かが新聞に書いていたのを思い出す。「大事なのは、なにかの仕方で、常に国家や戦争に対峙する姿勢を準備すること。観念の旗の大きさより、その底にある態度が重要だ」

著者に刺激されて、こちらも想像力を逞しくして未来への力を蓄えて行こうと思う。

 

 

 

 

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