落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

黒い太陽

2007年05月25日 | book
『スコットランドの黒い王様』ジャイルズ・フォーデン著 武田将明訳
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映画『ラストキング・オブ・スコットランド』の原作本。
映画と全然違うやん。つか映画、べつもの。ストーリーも違うしキャラも違う。設定を借りてるだけですね。原作者はあんなんで納得してんのかな〜?これすっごいマジメな本なんだけど。
映画は1976年のパレスチナ解放人民戦線によるハイジャック事件で終わる。原作は1979年のアミン失脚までを描ききっている。アミン政権の光と影と、当時のウガンダという国の風土や文化、そこに暮らし、生き、死んだ人々を、実に丁寧に繊細にかつ克明に描いている。
映画と同じく原作もフィクションであり、主人公のニコラス・ギャリガンもやはり架空の人物であることには違いはない。だがリサーチに6年かけたというだけあってリアルさはハンパじゃないです。というか、少なくとも、ページの上では、ニコラスは実際に呼吸し、あたたかい皮膚に血の通った人間として存在している。

といっても、原作のニコラスもヘタレである(爆)。
もう見事!天晴れ!としかいいようのないヘタレっぷり。まずですね。モテない。すごくモテない。モテないのに惚れっぽい。滑稽なくらいすぐ女の人を好きになって、本気になる。アホか。
そして行動力がない。臆病で、事なかれ主義で、主体性がない。けどたぶん逆に、彼がちょっとでも小賢しかったり正義漢ぶったりしてたら、あの状況じゃ生き残れなかったんだろうと思う。そのくらい、アミン政権下の混沌は深かったのだ。
それはそれとして、ニコラスの無力さが強調されればされるほど、「無害の有害性」もまた印象深くなってくる。ニコラスは直接的には誰も傷つけない。誰も助けも救いもしない代り、盗みもしないし殺しもしない。でも彼が「何もしない」ことでむしろ惨劇はさらに拡大される。ある状況では、自分で罪を背負わないということは、誰かにその罪を背負わせることにもつながっている。アフリカに限らず、紛争地域にいる欧米人が知らずに犯す罪の性質が、この物語では実によく表わされている。

残酷な暴力描写も映画より原作の方が何十倍もむごい。まあ映像じゃなくて言葉だから、想像がついてかなくて却ってよかったけど。残酷表現だけじゃなくて、登場人物ももっと多いし相関関係やストーリー展開も多重的で複雑。映画はニコラスとアミンの関係を中心に物語を展開させてたけど、原作ではニコラスはあくまで傍観者になっていて、物語の世界観にもっと広がりと立体感がある。
非常に読み甲斐のある小説です。スコットランドの民族主義についてのあたりは不勉強でもうひとつぴんとこなかったですが。

あとこの本も訳文がスムーズじゃなくてかなりひっかかりました。読んでて肩が凝ってしょうがなかったです。
けっこーボリューミーな本なんで、もちっとつるっと読めるスタイルに仕上げてほしかったかも。