落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

ローラの国の21世紀

2009年11月19日 | book
『チャイナフリー 中国製品なしの1年間』 サラ・ボンジョルニ著 雨宮 寛/今井 章子訳
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今はどうかわからないけど、ぐりが子どものころ、おもちゃを買ってもらえるのは誕生日とクリスマスに限られていた。
ごくまれに親戚や親の友人などの大人がお土産をくれることもないこともなかったけど、誰かがおさがりにおもちゃをくれるといっても、ぐりの両親は断っていた。
代りに本だけはいくらでもねだれば買ってくれていたし、手づくりの服や小物はよくつくってもらっていた記憶がある。母は洋裁・和裁もふくめて手芸が得意で、お稽古通いに使うバッグからフリルたっぷりのローンドレスや浴衣、セーターまで何でもつくってくれた。
なので大きくなって誰かにプレゼントをするときも、できる範囲内では手づくりのものをあげる習慣がいつの間にかついていた。十代のころまではペンケースやポーチ、マフラーや焼き菓子などはよくつくった。

この本を書いたボンジョルニはとくに中国が嫌いで中国製品を拒否したわけではない。
ただあるクリスマスの後で、ふと、中国製品がこんなに多過ぎるのはなにかおかしいと感じただけだ。いつからアメリカにこんなにメイドインチャイナが溢れかえるようになったのかは彼女も覚えていない。でも以前はこうではなかった。少なくとも、中国製品なしに暮せないなんてことはなかったはずなのだ。
そこで1年間、中国製品を買わないで暮せるか試してみることに決める。家族の承諾もとり、それをドキュメンタリーとして記録する。
ルールとしては、既に家にある中国製品は捨てたりしない。プレゼントとしてもらうのもOK。単に、中国製品とわかっているものを買うのだけはNG。

すると驚くべきことが次々にわかってくる。
アメリカでは子ども用のスニーカーはまったく生産されていない。市場に流通しているのはほとんどが中国製である。アメリカ人の子どものほぼすべてが中国製の靴をはいている。
衣料品はいうにおよばず、ビーチサンダルやサングラスなどバケーションシーズンの必須アイテムも現実的な価格帯のものはすべて中国製。でなければ高額なブランド品になってしまう。
おもちゃやパーティーグッズも大抵は中国製。国民単位でお祭り好きで、お祭りのたびにしこたまこの手のガラクタを買いまくるアメリカ人の年中行事には中国製品は欠かせない、ボンジョルニ家ではハロウィーンが大ピンチとなる。
パソコンも含め電化製品も中国製が多い。そうでなくても、部品には中国製品が使用されているものばかりである。
国土の広いアメリカでは通信販売が盛んだけど、カタログには生産国が明記されていないことが多い。サラはいちいちカスタマーサービスに電話をかけて聞いてみるのだが、すぐに答えられるオペレーターは存在しない。アメリカ人は自分が買う品物がどこでつくられていても気にしないのだ。

ヘンな話だ。
アメリカ人だって初めから今のように豊かだったはずはない。ぐりのうちのように、買うのは最低限で我慢して、贈り物は心をこめた手づくりのものを用意していた時代があったはずだ。そうして手に入れたものを、愛情をもって大事に使って、壊れたら修理するのが当り前だったはずだ。
ところが今やアメリカ人は何もつくろうとしていない。何でも買ってすませるのが当然になってしまっている。そして飽きたらすぐに捨ててしまう。
どこで誰がつくっていようが、安くてどこでも手に入るから大事にする必要がない。そんな生活がほんとうに豊かだといえるだろうか。

この本のおもしろいところは、しっかりした経済書でありながら同時に、ある一家の1年を主婦の目線でとらえたエッセイとして書かれているところだと思う。
サラには小さな子どもと夫がいる。彼女は自分がいいだした中国製品ボイコット生活が家族を苦しめているのではないかと何度も自問自答する。とくに興味深いのは離れて住む彼女の母親のキャラクターだ。ボランティアに熱心で人権意識に篤い母親だが、娘のやっていることには露ほども理解を示さない。そんなクールな母親を登場させることで、著者のボイコット生活の意味が不思議に客観的に見えて来る。

読み物としてすごくおもしろいし、アンチ中国派にとっても親中派にとっても楽しい本だと思います。
オススメ。