落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

괜찮아요

2015年07月18日 | movie
『夜間飛行』

中学時代の同級生ギウン(イ・ジェジュン)に密かに想いを寄せるヨンジュ(クァク・シヤン)だが、進学校で成績トップの彼にとって、誰からも恐れられる番長グループの中心人物になってしまったかつての級友はあまりに遠かった。個人面談で親友ギテク(チェ・ジュナ)がいじめられていることを担任(ヒョンソン)に相談したところ、成績以外のことは考えるなと一蹴されてしまい・・・。
『後悔なんてしない』のイソン・ヒイル監督2014年の作品。東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で鑑賞。

『後悔なんてしない』を観たのは2008年。そんなに前だった気がしないのは印象があまりにも強烈だったからか。
韓国映画といえば個人的な最大の特徴はクドさ。こんなにクドい映画つくれるの韓国人だけでしょってくらい、クドい。しつこい。たまにホ・ジノみたく(比較的)あっさり系の監督もいるにはいるみたいですけど、だいたいがコテコテである。そしてそのコテコテ具合が韓国映画にしかない良さでもある。と思う。
この『夜間飛行』に関していえば、途中まではそこまでクドくない。純朴だけどハンサムな優等生が、学校をサボって怪しげな深夜バイトに明け暮れるアウトサイダーに淡い恋心を抱く、ありがちな青春映画風である。やたらに教師が高圧的なわりに、バカみたいにタバコばっかり吸いまくる番長グループが幅を利かせる学校の荒廃ぶりは寒々しいけど、主人公がなんだかいつもニコニコして気楽そうな態度を貫こうとするのがいいコントラストになっている。母(パク・ミヒョン)ひとり子ひとりの家庭でさえ、苦労は絶えないはずなのに、常に軽口ばかりたたきあっていて深刻さがない。

だが儒教の国=絶対的家父長制の国である韓国で、同性愛者として生きるのは厳しい。どんなに仲が良くても、ヨンジュは親友はおろか親にもほんとうの自分をさらけ出すことができないでいる。唯一本心を打ち明けることができたチュヌ(イ・イクチュン)も学校を去りいよいよ孤独になっていくヨンジュだが、一方のギウンにも誰にも心を開くことができない重い過去があった。
つまりこの物語はセクシュアルマイノリティの話というよりは、人生を勝ち負けだけで評価する社会から排除され差別されることを恐れる若者同士が、互いの孤独感によって引き寄せあい、信じあっていく友情の物語といった方があっているかもしれない。
そういう図式でいうと、互いに社会的弱者である少女とチンピラの心の交流を描いた『息もできない』とよく似ている。観ててすごくデジャヴュを感じました。

韓国映画なのでこの作品も途中からお約束的にだんだんクドくなってくる。そもそも物語の展開が全然読めない。とくに主人公であるヨンジュが目立って意外性のある行動をしないのに対して、ギウンの背負っているらしい重荷の設定がなかなかみえてこない。クレヨンしんちゃんがなにを示唆しているのかもわからない。ヨンジュとギウンの出会いもかなりあとの方になってわかってくる。
勉強に追われる大抵の十代と同じように、彼らの世界もとても小さい。学校と家族と友だちだけの要素で、よくここまでひねりまくれるものである。このストーリーテリングのしつこさはマジ上等です。
そしてクライマックスのやり過ぎ感はやはり期待通り。やってくれちゃってるね。スゴイね。素晴らしいよ。気持ちいい。

演技がうまいなあと思って観てたけど、あとで調べたら主役ふたりはモデル出身で演技経験はあまりないみたいです。全然そんな感じしない。目の動きやさりげない仕草で心情を表現する繊細な演技が非常に魅力的でした。人の良さそうな笑顔が印象的なクァク・シヤンは雰囲気が妻夫木聡によく似てます。ショートヘアに無精髭を生やして、ぱっと見ワイルドなイ・ジェジュンは意外に幼い口元の寂しそうな表情に萌えます。スラッと手脚が長くてアクションが超キマッてた。
音楽の使い方も素敵だったし、ライティングも凝ってるし、途中ときどき挟まれる情景描写がまた絶景で、映像も芸術的な映画。物語は複雑だけど、いいたいことはものすごくストレートに響いてくる。
ちょっともう一回観たいですね。一般公開されないかなー。