『永い言い訳』
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バス事故で妻(深津絵里)を喪った作家の幸夫(本木雅弘)は、妻の友人で同じ事故で亡くなったゆき(堀内敬子)の夫・陽一(竹原ピストル)と知りあい、ある出来事がきっかけで彼のふたりの子ども(藤田健心/白鳥玉季)の面倒をみるようになる。
自身に子はなく、友人もなく、作家としてのキャリアにさえ自信を失いかけていた幸夫にとって、多感な子どもたちとの生活は新鮮な体験だったが・・・。
『ゆれる』『ディア・ドクター』『夢売るふたり』の西川美和監督作品。
人の人生に、あって当たり前のものは何もない。
今日手にしていたものが、明日もそこにあるとは限らない。
明後日になったらなおさらだ。
でも人は、失くしてみなければそのたいせつさにはなかなか気づかない。愚かだけれどそれが人間だし、その愚かさを受けいれて初めて感じることができる幸せだってある。
幸夫は妻を亡くしてもうまく悲しむことができない。悲しみ方なんか忘れてしまったのか、もともとそんな感情すらもってなかったのか、おそらく自分でもよくわかっていない。ただ、自分が悲しめないことには戸惑っている。どうして涙が出てこないのか。どうして彼女との思い出すら心に浮かんでこないのか。単にひとでなしなのはしかたのない事実だとしても、では彼女との20年はいったい何だったのか。
世間では「突然の事故で妻を奪われた不幸なセレブ夫」をしらじらしく演じながら、そんな虚像ともっと醜悪な実像とのギャップを自嘲する以外にどうすればいいのかもわからない幸夫。
わからないのに、わかっているような顔をしてなくちゃいけない彼が偶然、陽一の家に癒しを見いだす。長距離トラックの運転手で理屈っぽいことが苦手でただただ素直な陽一や幼い子どもたちの前では、わかっているような顔はしなくていい。なぜなら彼らは、幸夫がどんな顔をしていても当然「わかってる人」として評価してくれるからだ。そういうのってすごくラクなんだろうと思う。人間関係としては不健全かもしれないけど、病的なええかっこしいの幸夫にとっては、かっこつけなくてもかっこいいことになってしまう環境はさぞかし心休まる空間だったのではないだろうか。
不健全でもなんでも、幸夫にも陽一にも子どもたちにも、そういうモラトリアムは必要だった。なにしろ彼らは家族を亡くしたのだ。どんな関係にあったにせよ、生活の一部分だった存在を失った人間には、その欠落から回復するだけの時間は必要で、その時間がどんな形であるべきかという決まりなんかどこにもない。
幸夫の人物造形がとにかくもうあり得ないぐらい最低で。
身勝手で、器が小さくて、下品で、傲慢で、低俗で、自意識過剰で、酒癖が悪くて、女癖も悪くて、短気で、一貫性がなくて、絶望的に底が浅い。男女問わず年代問わず、あらゆる人間のイヤな部分をぜんぶ引っかき集めてぎとぎとに煮出したみたいなキャラクターです。これがめちゃめちゃリアルです。何より悪人ですらないってところがリアル。生々しい。
そんなのが主人公でずっぱりなのに、観ていて楽しくてときどきほっと癒されてしまうのは、彼の欠点のいくつかには誰しも心当たりがあって、その彼が陽一一家と楽しそうに幸せそうにしているだけで、自分まで「いいよだいじょうぶだよ、そのままでいいよ」と受け入れられているような気持ちになれるからだろう。
人間誰だってイヤな部分はある。それでも、どんな人にだってそれぞれの幸せを追求する権利はある。悲しくても涙が出ないこともある。いちばん身近な存在にさえ誠実でいられないこともある。人生をともに過ごした家族でもわかりあえないこともある。すぐそばにいても互いの愛がみえないこともある。
それでもいいじゃないか。大丈夫だよ。そんなの一生続くわけじゃないよ。だって明日どうなってるかなんて誰にもわからないんだから。
撮影に9ヶ月かけたというだけあって、出演者のビジュアルの変化がスゴイです。
主演のモッくんは冒頭から中盤にかけてぷよぷよと太っていって、後半は反対にげっそりと痩せていくというスゴ技を見せつけてます。亡き妻が切っていたという設定の髪もボサボサに伸ばして、その髪の長さが彼が持て余している孤独感をよく表している。芝居もスゴいと思いました。こんな最悪な人をここまでチャーミングに演じられる人ってなかなかいないです。映画出演は多くないけど、この前に出た『天空の蜂』の芝居もよかったしもっと出てほしいですね。
この作品は主演以外のキャスティングも完璧です。出色はマネージャー役の池松壮亮。要所要所の数シーンしかでてこないんだけど、もう魅せる魅せる。まず無茶苦茶セクシーです。無駄にセクシー。ぜんぜんそんな役じゃないのに。台詞もどっちかといえば陳腐なのに、彼がいうとなんか深遠に聞こえちゃうという不思議キャラでした。
あとはやはりほとんど演技経験がなかったという陽一一家を演じた3人。感情過多で単細胞なおとうさんと、異常にしっかりして頭のいい長男と、まだ小さいけど末娘らしいお姫様気質の妹という絶妙なバランスの家族関係が非常にリアル。子どもがただ可愛いだけじゃない、厄介でめんどくさくてそれでも愛おしいという描写が、他の日本映画ではなかなかない表現かなと思いました。インテリセレブ男と非インテリ中流一家という対比は西川監督の師匠にあたる是枝裕和監督の『そして父になる』そっくりだけど、より写実的に描写されるディテールがよろしい。
公開されて4ヶ月も経ってるし春にはDVDもでるのに、映画館はがっちり補助席も出るほどぎっちぎちの満席。大人気です。
評価も悪くないみたいだけど、2016年度の賞レースではなんかもひとつ。なんでだろう。私は好きですけどね。
なにより安易に愛を語らないことで、愛の実像を再現してるのがオシャレです。夫婦だからとか親子だからとか兄妹だからといって単純にべたべた愛を語り倒せばいいってもんじゃない。語れない愛の欠落があるから、二度と手が届かない距離があるから、愛のややこしさやどうしようもなさがものすごく伝わる。
原作もそのうち読んでみようと思います。
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自身に子はなく、友人もなく、作家としてのキャリアにさえ自信を失いかけていた幸夫にとって、多感な子どもたちとの生活は新鮮な体験だったが・・・。
『ゆれる』『ディア・ドクター』『夢売るふたり』の西川美和監督作品。
人の人生に、あって当たり前のものは何もない。
今日手にしていたものが、明日もそこにあるとは限らない。
明後日になったらなおさらだ。
でも人は、失くしてみなければそのたいせつさにはなかなか気づかない。愚かだけれどそれが人間だし、その愚かさを受けいれて初めて感じることができる幸せだってある。
幸夫は妻を亡くしてもうまく悲しむことができない。悲しみ方なんか忘れてしまったのか、もともとそんな感情すらもってなかったのか、おそらく自分でもよくわかっていない。ただ、自分が悲しめないことには戸惑っている。どうして涙が出てこないのか。どうして彼女との思い出すら心に浮かんでこないのか。単にひとでなしなのはしかたのない事実だとしても、では彼女との20年はいったい何だったのか。
世間では「突然の事故で妻を奪われた不幸なセレブ夫」をしらじらしく演じながら、そんな虚像ともっと醜悪な実像とのギャップを自嘲する以外にどうすればいいのかもわからない幸夫。
わからないのに、わかっているような顔をしてなくちゃいけない彼が偶然、陽一の家に癒しを見いだす。長距離トラックの運転手で理屈っぽいことが苦手でただただ素直な陽一や幼い子どもたちの前では、わかっているような顔はしなくていい。なぜなら彼らは、幸夫がどんな顔をしていても当然「わかってる人」として評価してくれるからだ。そういうのってすごくラクなんだろうと思う。人間関係としては不健全かもしれないけど、病的なええかっこしいの幸夫にとっては、かっこつけなくてもかっこいいことになってしまう環境はさぞかし心休まる空間だったのではないだろうか。
不健全でもなんでも、幸夫にも陽一にも子どもたちにも、そういうモラトリアムは必要だった。なにしろ彼らは家族を亡くしたのだ。どんな関係にあったにせよ、生活の一部分だった存在を失った人間には、その欠落から回復するだけの時間は必要で、その時間がどんな形であるべきかという決まりなんかどこにもない。
幸夫の人物造形がとにかくもうあり得ないぐらい最低で。
身勝手で、器が小さくて、下品で、傲慢で、低俗で、自意識過剰で、酒癖が悪くて、女癖も悪くて、短気で、一貫性がなくて、絶望的に底が浅い。男女問わず年代問わず、あらゆる人間のイヤな部分をぜんぶ引っかき集めてぎとぎとに煮出したみたいなキャラクターです。これがめちゃめちゃリアルです。何より悪人ですらないってところがリアル。生々しい。
そんなのが主人公でずっぱりなのに、観ていて楽しくてときどきほっと癒されてしまうのは、彼の欠点のいくつかには誰しも心当たりがあって、その彼が陽一一家と楽しそうに幸せそうにしているだけで、自分まで「いいよだいじょうぶだよ、そのままでいいよ」と受け入れられているような気持ちになれるからだろう。
人間誰だってイヤな部分はある。それでも、どんな人にだってそれぞれの幸せを追求する権利はある。悲しくても涙が出ないこともある。いちばん身近な存在にさえ誠実でいられないこともある。人生をともに過ごした家族でもわかりあえないこともある。すぐそばにいても互いの愛がみえないこともある。
それでもいいじゃないか。大丈夫だよ。そんなの一生続くわけじゃないよ。だって明日どうなってるかなんて誰にもわからないんだから。
撮影に9ヶ月かけたというだけあって、出演者のビジュアルの変化がスゴイです。
主演のモッくんは冒頭から中盤にかけてぷよぷよと太っていって、後半は反対にげっそりと痩せていくというスゴ技を見せつけてます。亡き妻が切っていたという設定の髪もボサボサに伸ばして、その髪の長さが彼が持て余している孤独感をよく表している。芝居もスゴいと思いました。こんな最悪な人をここまでチャーミングに演じられる人ってなかなかいないです。映画出演は多くないけど、この前に出た『天空の蜂』の芝居もよかったしもっと出てほしいですね。
この作品は主演以外のキャスティングも完璧です。出色はマネージャー役の池松壮亮。要所要所の数シーンしかでてこないんだけど、もう魅せる魅せる。まず無茶苦茶セクシーです。無駄にセクシー。ぜんぜんそんな役じゃないのに。台詞もどっちかといえば陳腐なのに、彼がいうとなんか深遠に聞こえちゃうという不思議キャラでした。
あとはやはりほとんど演技経験がなかったという陽一一家を演じた3人。感情過多で単細胞なおとうさんと、異常にしっかりして頭のいい長男と、まだ小さいけど末娘らしいお姫様気質の妹という絶妙なバランスの家族関係が非常にリアル。子どもがただ可愛いだけじゃない、厄介でめんどくさくてそれでも愛おしいという描写が、他の日本映画ではなかなかない表現かなと思いました。インテリセレブ男と非インテリ中流一家という対比は西川監督の師匠にあたる是枝裕和監督の『そして父になる』そっくりだけど、より写実的に描写されるディテールがよろしい。
公開されて4ヶ月も経ってるし春にはDVDもでるのに、映画館はがっちり補助席も出るほどぎっちぎちの満席。大人気です。
評価も悪くないみたいだけど、2016年度の賞レースではなんかもひとつ。なんでだろう。私は好きですけどね。
なにより安易に愛を語らないことで、愛の実像を再現してるのがオシャレです。夫婦だからとか親子だからとか兄妹だからといって単純にべたべた愛を語り倒せばいいってもんじゃない。語れない愛の欠落があるから、二度と手が届かない距離があるから、愛のややこしさやどうしようもなさがものすごく伝わる。
原作もそのうち読んでみようと思います。
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