『今度は愛妻家』
スランプで1年も写真を撮れず自堕落な生活を送る人気カメラマン・俊介(豊川悦司)と、元中学教師の妻・さくら(薬師丸ひろ子)。
健康食にこだわり、子どもをつくりたいと願うさくらだが、俊介は彼女の気持ちも顧みず浮気を繰返し、ついにはさくらから離婚を宣告されてしまう。
アシスタントの誠(濱田岳)や新宿2丁目でバーを営む文ちゃん(石橋蓮司)は俊介の身を案じるのだが・・・。
2002年に鴻上尚史率いるサードステージプロデュースにより上演された舞台の映画化。
ほとんどのシーンが俊介の自宅兼スタジオで進行する、戯曲らしいドラマ。
俊介は女好きでタバコ好きで健康にはほとんど関心がなく、妻のことはただ口うるさい母親代わり程度にしか考えていない、いってみれば日本人の既婚男性のごくごく典型的なふつうの夫でしかない。
さくらはそんな夫を献身的に支え、いつでも明るく振る舞うちょっとおっちょこちょいな可愛らしい妻だ。夫にどんなに冷たくあしらわれても、決して感情的になったり恨んだりはしない。
とてもいい奥さんなのだが、見ているうちに不思議なことに気づく。さくらが住んでいるはずの家なのに、俊介は自分でカップ麺をつくってひとりで食べているし、リビングには出前のピザの空パッケージや汚れ物が散乱し、雑然としている。
さくらはいったい何をしているのだろう。
この映画にはこの夫婦の他にもう一組のカップルが登場する。アシスタントの誠と、女優を夢みる蘭子(水川あさみ)だ。
誠は写真を撮れない俊介に代わって、チラシ撮影などの半端仕事を「意外と楽しいんです」などといいながら請け負う真面目な青年だ。俊介目当てにやってきた蘭子のオーディション写真を撮影してやり、蘭子は見事一次審査に合格する。蘭子の妊娠がわかったとき、自分の子ではないと知りながら結婚を申し出、中絶費用の負担もいとわない。こちらは社会が若い男性に求める理想像の典型のようにも見える。
教養のない蘭子だが、若さと美貌を武器にしたたかに夢に挑む強さは、社会が若い女性に見るまぶしさの投影のようだ。
言葉は厳しいが常に優しい文ちゃんの存在は、そんな登場人物たちの合間をつなぐ触媒のような役割を果たしている。
どのキャラクターも誰でも共感しやすい、非常に類型的な造形ではあるのだが、彼らの関係をなんでもない台詞で丁寧に構築していて、見ていてとても安らかな気持ちになれる。
オチは正直「それかい」と呆れてしまうようなお約束なんだけど、だからといってがっかりはしない。これはファンタジーなのだ。
ファンタジーでもなければ、人はほんとうに大事なものになかなか気づけないし、素直に愛を語ることすらできない、愚かな生き物だからだ。それは紛れもない事実だからだ。
いやそんなことはない、私は大事なもののことはよく知っているし、いつだってちゃんと愛を表現していますという人もなかにはいるだろう。それは素晴らしいことだ。けど、残念ながらおおかたの人は、たったそれだけのことができないで、力いっぱい悔やみながら生きていくしかない。
普段はほぼTVを観ない生活を送っているぐりですが、年末年始はつきあいでいろんな番組を観た。映画もたくさん観た。
最初から最後までちゃんと観れた映画の中では、これがベストでした。いい映画でした。
スランプで1年も写真を撮れず自堕落な生活を送る人気カメラマン・俊介(豊川悦司)と、元中学教師の妻・さくら(薬師丸ひろ子)。
健康食にこだわり、子どもをつくりたいと願うさくらだが、俊介は彼女の気持ちも顧みず浮気を繰返し、ついにはさくらから離婚を宣告されてしまう。
アシスタントの誠(濱田岳)や新宿2丁目でバーを営む文ちゃん(石橋蓮司)は俊介の身を案じるのだが・・・。
2002年に鴻上尚史率いるサードステージプロデュースにより上演された舞台の映画化。
ほとんどのシーンが俊介の自宅兼スタジオで進行する、戯曲らしいドラマ。
俊介は女好きでタバコ好きで健康にはほとんど関心がなく、妻のことはただ口うるさい母親代わり程度にしか考えていない、いってみれば日本人の既婚男性のごくごく典型的なふつうの夫でしかない。
さくらはそんな夫を献身的に支え、いつでも明るく振る舞うちょっとおっちょこちょいな可愛らしい妻だ。夫にどんなに冷たくあしらわれても、決して感情的になったり恨んだりはしない。
とてもいい奥さんなのだが、見ているうちに不思議なことに気づく。さくらが住んでいるはずの家なのに、俊介は自分でカップ麺をつくってひとりで食べているし、リビングには出前のピザの空パッケージや汚れ物が散乱し、雑然としている。
さくらはいったい何をしているのだろう。
この映画にはこの夫婦の他にもう一組のカップルが登場する。アシスタントの誠と、女優を夢みる蘭子(水川あさみ)だ。
誠は写真を撮れない俊介に代わって、チラシ撮影などの半端仕事を「意外と楽しいんです」などといいながら請け負う真面目な青年だ。俊介目当てにやってきた蘭子のオーディション写真を撮影してやり、蘭子は見事一次審査に合格する。蘭子の妊娠がわかったとき、自分の子ではないと知りながら結婚を申し出、中絶費用の負担もいとわない。こちらは社会が若い男性に求める理想像の典型のようにも見える。
教養のない蘭子だが、若さと美貌を武器にしたたかに夢に挑む強さは、社会が若い女性に見るまぶしさの投影のようだ。
言葉は厳しいが常に優しい文ちゃんの存在は、そんな登場人物たちの合間をつなぐ触媒のような役割を果たしている。
どのキャラクターも誰でも共感しやすい、非常に類型的な造形ではあるのだが、彼らの関係をなんでもない台詞で丁寧に構築していて、見ていてとても安らかな気持ちになれる。
オチは正直「それかい」と呆れてしまうようなお約束なんだけど、だからといってがっかりはしない。これはファンタジーなのだ。
ファンタジーでもなければ、人はほんとうに大事なものになかなか気づけないし、素直に愛を語ることすらできない、愚かな生き物だからだ。それは紛れもない事実だからだ。
いやそんなことはない、私は大事なもののことはよく知っているし、いつだってちゃんと愛を表現していますという人もなかにはいるだろう。それは素晴らしいことだ。けど、残念ながらおおかたの人は、たったそれだけのことができないで、力いっぱい悔やみながら生きていくしかない。
普段はほぼTVを観ない生活を送っているぐりですが、年末年始はつきあいでいろんな番組を観た。映画もたくさん観た。
最初から最後までちゃんと観れた映画の中では、これがベストでした。いい映画でした。