2022年11月30日の朝日新聞「天声人語」を読んで、戦争中の朝日新聞記事の国民への「書きぶり」とよく似ているのをふと思い出した。
天声人語には、「余計な明かりを消す。重ね着をする。すぐできる事はいくつもある」とあるが。さて、戦争中の朝日新聞の記事をいくつか紹介しよう。
➀昭和17(1942)年10月11日「食物総力戦、イナゴの食べ方」
「秋のハイキングにはイナゴを捕って大いに食べよう。蝗は虫偏に皇と字があてられて虫の中での王とされているのも、つまりは蝗が食べられるからである。エビに似た味でビタミンA、Dを多量に含んでいる。捕えた蝗はザルに入れ布をかぶせ熱湯をかけ、水洗いし、天陽で乾す。油で煎りつけて食べてもよければ、醤油で煮つけて食べるもよい。あるいは陽に乾してすり潰して粉にして御飯にふりかけたり、味噌汁の中へ入れて食べる。そのまま澄まし汁の中に入れたものは蝗の姿が見えて食べにくいが、粉にして味噌汁に入れれば十分食べられるうえ、蝗の全身を乾かして粉にしたものはカルシウムに富む。」〈陸軍航空技術研究所川島四郎大佐談〉
➁昭和17年10月25日「食物総力戦、砂糖代用に柿の皮」
「例年ほどではないが、今年も柿がいくらか出回りはじめている。柿の皮は多く捨てられて顧みられないが、柿の皮を砂糖代用として用いる事は古くから行われている事で、大変甘く糖分が約50%あるから砂糖の甘さが得られる。その最も簡単な方法は、むいた柿の皮から、そのまま甘味をとる事で、ニンジン、ごぼう、里芋などの野菜類と一緒に鍋の水の中へ柿の皮を入れ、出汁のようにして5分か10分煮出す。すると柿の皮の糖分がみんな湯に溶けてしまうから、大体溶けたところで柿の皮だけ出して、これに醤油などの調味料を加えて煮つければよい。柿の皮を出した後で調味料を加えないと柿の皮に味がついて、それだけ調味料が不経済になる。しかし、柿の皮は生の時よりも乾かした方が水分が少なくて甘味を感じるから、陽に乾してすり鉢ですって粉にして用いると保存もできて便利である。」〈日本女子大食物室〉
③昭和19(1944)年4月30日「〝藁うどん〟の腹でさあ出炭、鶴嘴戦士に贈る変わった決戦食」
「藁うどん、藁のパンといっても牛や馬の餌に用いる生の藁ではない。稲藁を粉末にして適当な科学的処理を加え、あらめ(こんぶ科の海藻)やかじきなどヨード分の濃厚な海藻や小麦粉を混ぜて作った新決戦食糧、名づけて「瑞穂麺」、「瑞穂パン」が炭鉱の北九州を舞台に代用食時代の脚光を浴びて登場した。原料藁の入手もこのほど試食をした内田信也農商相も「せめて九州の鶴嘴戦士だけでもうんと食べて貰いたい」と考慮を約したとあるから、栄養価値はともかく、文字通り米の成る木の牛飲馬食(多量に食べる意)で満腹感を味わえる日も近いものとみられる。」
という具合であるが、戦争末期には、「蝸牛(カタツムリ)や井守(イモリ)も結構戴けます」との見出しも登場した。
(2022年12月2日投稿)