OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

クリムゾン・スキッツォイドな恐怖の五連発

2011-10-06 16:55:12 | Rock Jazz

Schizoid Man / King Crimson (Virgin = CD)

自分の好きな歌や演奏だけを集めたテープやCDを作った経験は、音楽愛好者ならば必ずやあるはずです。

それは様々なミュージャンや歌手のオムニバスである場合と同じく、楽曲単位というか、ひとつの歌や演奏を様々なバージョン&テイクで集めて聴くという行為にも繋がるわけですから、本日ご紹介は、なんとっ!?!

今に至るもキング・クリムゾンの代名詞となっている「21st Century Schizoid Man / 21世紀の精神異常者」だけを集めた偏執者向けのCDで、もちろん1969年のオリジナルバージョンから1974年のライプ音源までという、キング・クリムゾンが最も「キング・クリムゾンらしかった」時期の5トラックを収録しています。

 01 1969年オリジナルバージョンの短縮編集版
 02 1969年オリジナルバージョン (「クリムゾン・キングの宮殿」より)
 03 1969年5月6日のBBC音源 (発掘編集盤「エピタフ」より)
 04 1972年2月11日のライプ音源 (「アースバウンド」より)
 05 1974年6月28日のライプ音源

まずトラック「01」~「03」まではイアン・マクドナルド(sax,fl,key,vo,vib,etc.)、ロバート・フリップ(g,key)、グレッグ・レイク(el-b,vo)、マイケル・ジャイルズ(ds,per)、そして曲作りやステージの演出を担当する詩人のピート・シンフィールドによる公式デビュー時の音源です。

ただしトラック「01」は「02」のスタジオバージョンを短く編集したもので、おそらくは1976年頃に何故かイギリスで発売されていたシングル盤に収録のものでしょうか? 残念ながらサイケおやじは件のシングル盤を未聴なので、確かは事は言えませんが、「02」を存分に堪能した自分にとっては、物足りないことが否めません。

ですからキング・クリムゾン名義としては、現存する公式ライプソースの中で最も古いとされるトラック「03」が興味深いのは当然でしょう。

そして期待に違わず、激しく混濁しながら狂気と妄想の世界を強烈に構築していくバンドの演奏が唯一無二!

もはやサイケおやじの稚拙な筆など不要であり、まさに聴かずに死ねるかですよ。

気になる音質も、流石はBBCでのスタジオセッションですから、ブートで流出していた頃からの優良保証が、ここでは更なるリマスターで迫力が増していますし、メンバー各々担当パートの分離も素晴らしく、そこから噴出される強烈なアドリブとバンドアンサンブルのスリルはオリジナルバージョンを凌ぐ瞬間さえあると思います。

ですから公式ライプ音源としては「アースバウンド」でお馴染みの「04」が、ロバート・フリップ(g)、メル・コリンズ(sax,key)、ボズ・バレル(b,vo)、イアン・ウォーレス(ds,per) という暴力的なメンバーで演じられた事が賛否両論であったとしても、例によって終盤での緊張感あふれるキメのリフの意思統一作業があるかぎり、それぞれにバラバラだった演奏者が収斂していく様は痛快!

ちなみにこの「04」はアナログ盤時代は些かモコモコした音でしたが、ここに収められたリマスターバージョンはスッキリして聴き易く、それゆえに失われてしまった重量感との引き換え差異は十人十色のお好みでしょうか……。

個人的にはアナログ盤を支持したくなりますが、これはこれで楽しめる事は言うまでもありません。

さて、そこでオーラスのトラック「05」は、記載データを信ずれば、おそらくは一般流通として、このCDが発売された1996年夏の時点では、ここでしか聴けないというライプ音源でした。

メンバーはロバート・フリップ(g,key)、ジョン・ウェットン(b,vo)、ビル・ブラッフォード(ds,vo)、デイヴィッド・クロス(vln,key,vo) という4人組で、ファンの間ではメタル期と称されるほどの硬質な演奏が繰り広げられ、中でもドラムスとベースの突出した大暴れは、それまでのキング・クリムゾンというバンドイメージを壊しかねないほどのアンバランス感!?!?

そして反逆を許さずに抵抗するロバート・フリップとデイヴィッド・クロスの思惑違いが露呈したアドリブの応酬も、これまた大白熱!?!?

ですからグループの歴史の中のライプ音源としては、この時期が最も多くのファンに求められているものとして貴重極まりないのですが、現在では他にも様々なルートで出回っているようです。

ということで、やはり曲そのものの構成が凄いというしかありませんし、実演すれば緊張感が必須の怖さ満点! そんなものばかりを五連発で満喫出来るのは、自虐的幸福感の極みといって過言ではありません。

ただし、車の運転中には絶対に禁物ですよ。

思わず耳を集中させてしまう後には、軽い目眩さえ覚えますからねぇ~。

好きなものは本当は危険という、この世の倣いを痛感させられるのでした。

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何をやってもイエスはイエス

2011-05-18 15:45:01 | Rock Jazz

究極 / Yes (Atlantic)

サイケおやじの趣味志向は昭和40年代、つまり1965年からの10年間に形作られて今日に至っていますから、以降はなかなかリアルタイムで夢中になれる事象がなく、それは音楽でも同様でした。

平たく言えば、1970年代後半には自分の好みに合うレコードがそれほど出なくなったという事なんですが、しかし、なんとか追いかけていこうと決意していたバンドのひとつが、当時は既にプログレの王者に君臨していたイエスです。

ところが、流石に本日ご紹介のアルバム「究極 / Going For The One」を最初に耳にした時は驚きましたですねぇ~~~~!?!▲◎!?▼?!

 A-1 Going For The One
 A-2 Turn Of The Century
 A-3 Parallesl
 B-1 Wonderous Stories
 B-2 Awaken

発売されたのは1977年の夏で、その頃は我国でも外盤アルバムは比較的リアルタイムで安く入荷するようになっていた事もあり、サイケおやじも頻繁に輸入盤店に出入りする日々を送っていたんですが、そこで新譜として鳴らされていた冒頭の「Going For The One」を聴いた時、これは絶対にイエスの影響を受けたバカテクのポップス系ロックバンド!? と思った記憶は今も鮮明です。

なにしろリラックスしたイントロのカウントから軽快なスライドギターが唸り、アップテンポで明るい曲メロとハイトーンボイスに爽やかコーラスという展開は、それまでの良い意味で勿体ぶったイエスの音楽性を無理に歪曲したような雰囲気でしたからねぇ~~◎▼??◎

しかし、これは聴いていて実に気持良く高揚させられるツボが確かにあるという名曲名演ですから、サイケおやじは思わず店のカウンター横に飾られていたジャケットを凝視して再び仰天!

掲載した画像でも一目瞭然だと思いますが、そこにはイエス特有のロゴがあるにもかかわらず、ジャケットデザインそのものが、それまでの路線と大きく異なっていたのですから、まさに呆気にとられるとは、こういう事を言うんだなぁ~~!

と心底、痛感させられましたですよ……。

ご存じのとおり、ここまでのイエスのイメージをひとつ決定づけていたのは、1972年の大名盤「こわれもの」から前作「リレイヤー」まで続いていた幽玄神秘なイラストのアルバムジャケットでしたから、この新譜での冷たく幾何学的なデザインは???

しかも男の尻が写っているのは大減点でしょう!?!

今となっては結局、イエスというバンドの有意変転性を顕著に示した1枚という歴史的な評価も確立されているようですが、確かに当時のイエスはデビュー当時の真性アートロックから3作目で独自の個性を目指しつつ、ついに「こわれもの」と「危機」においてプログレの頂点に屹立し、以降はグループとしての超絶技巧を証明せんがためのライプ盤「イエスソングス」、あるいは大作志向の極みとなった2枚組「海洋地形学の物語」、さらには堂々のフュージョンを演じた「リレイヤー」まで意欲的に作った後の煮詰まり状態だったのでしょう。

それが証拠(?)に、メンバー各人のソロアルバムプロジェクトも同時並行的に行われていましたし、継続して人気のライプ巡業があったにしろ、バンドメンバーの出入りは相当にありました。

また当時の業界の新しい動きとしては、例のパンクの流行や所謂ニューウェイヴの台頭があって、その中では大仰な姿勢を変えようとしないイエスやピンクフロイドといったプログレの大富豪が常に標的とされていたのですから、穏やかではありません。

当然ながらプログレというジャンルそのものの衰退も……。

ですからイエスがイエスとして生き残っていくためには、大きな変化も必要だったのでしょう。そしてイエスが上手かったのは、新コンセプトのジャケットに象徴される外見的なイメージの方向転換を産業ロック的な楽曲で具象化しながら、実は安易なコピーなんか絶対に不可能な高い演奏技術と音楽性を維持していたということです。

しかも黄金期のメンバーとして人気の要になっていたリック・ウェイクマンが復帰していた嬉しい驚きも、単なる迎合作品では無いという確信をファンに与えるものだったと思います。

そこでジョン・アンダーソン(vo,per)、スティーヴ・ハウ(g,vo)、リック・ウェィクマン(key)、クリス・スクワイア(b,vo)、アラン・ホワイト(ds,per) からなる真・イエスによる演奏は、既に述べたアルバムタイトル曲「Going For The One」が象徴するように、ライトタッチの産業プログレと言ってはミもフタもありませんが、気軽に聴けてしまう中にも、ハッするほど凄まじいイエス伝来のサウンドが高密度で凝縮されていて、やはり圧巻!

実はこうした傾向のサウンドは、当時のアメリカで流行っていたプログレ系のハードロックバンドに幾つか散見されていたので、ここにイエスがあらためてやるとすれば、それは哀しきパクリの誹りを免れないわけですが、そこは本家の底力というものでしょう。

続く「Turn Of The Century」はスティーヴ・ハウの繊細なアコースティックギターを前面に出した十八番の美メロ主義が全開する、これぞっ、イエスの真骨頂ですからジョン・アンダーソンのハイトーンボイスも冴えまくりですし、幽玄のキーボードとコーラスのミックスも素敵ですよ♪♪~♪

また「Parallesl」はLP片面の流れを見事に構成して締め括るに相応しい、これまた如何にもの歌と演奏がびっしりで、大袈裟なキーボードと目眩がしそうなギター、さらに重厚なリズムとピートに決して負けないボーカル&コーラスという、イエスならではの世界が堪能出来ますよ。

まあ、このあたりをマンネリとするか、あるいは安心感と身を委ねるかによって、このアルバムの評価と存在価値は十人十色だと思いますが、もちろんサイケおやじは後者の立場ですから、B面最初の「Wonderous Stories」の爽やか世界の提供には歓喜悶絶♪♪~♪

この欧州クラシック趣味の臆面も無い利用方法があってこそ、イエスはプログレの王者という証明は、これまでの大作主義を期待通りに継承した「Awaken」でも見事に健在で、それはイントロから披露される華麗なピアノや厳かなムードが躍動的に広がっていく曲展開があってこそ成就されるものでしょう。

実際、この「Awaken」はメンバー全員の緊密なコラポレーションが超絶的なテクニックで支えられ、それでいて妙に親しみ易いという、ある意味での中途半端さが快感の秘密じゃないでしょうか。

ということで、イエス本隊としては前作「リレイヤー」から2年数か月ぶりの新作として、全く新しいものを狙ったのかもしれませんが、ファンの気持と耳は意地悪ですから、ちゃ~んとイエスの本音を分かっていたと思います。

それはジャケットコンセプトの変更も含めて、いくらスリムで現代的なスマートさを目指したとしても、既に流行遅れになっていたプログレというジャンルからは決して抜け出せない、抜けだす気持も本当は無いであろうメンバーの商売優先主義に対するクールな反応であって、所謂どっちもどっち……?

ですから当時のライプ音源を探求すると、きっちり往年の人気曲をやっているイエスの律儀な姿勢に感動すら覚えるんですよねぇ~♪

ご存じのとおり、イエスは名前だけを優先させるかのように、以降はメンパーチェンジと音楽性の進化後退を繰り返しつつ、今日まで多くの作品を残していきますが、どの時期の味わいも実は「究極」を起点に聴くことが可能という、意味深な逆説さえ成り立ってしまうような気がします。

ですから、「究極」という邦題を命名した我国の担当者の先見性は流石!?

聴く度に、そんな事を思ってしまうのでした。

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こんな粗雑なロックジャズもクリムゾン

2011-05-14 16:47:26 | Rock Jazz

Earthbound / King Crimson (Island)

キング・クリムゾン初のライプアルバムであり、音の悪い公式盤としては歴史に残る1枚でしょうが、サイケおやじは愛聴して止みません。

しかし当然ながら初体験時の完全なる肩すかし! あるいは痛切な失望感と裏切られた気分は今でも忘れられません。

と言うのも、キング・クリムゾンに対する当時の一般的な認識は、繊細な美しさと暴虐的なエネルギーを併せ持った唯一無二のグループであり、それは不滅の名盤「宮殿」以来の神聖でしたから、アルバム毎に変遷するバンドメンバーの顔ぶれが如何になろうとも、全ては許容出来るプログレの様式に収まっていましたし、来日公演の噂も、噂の段階で終わっていた当時であればこそ、ライプ盤が渇望されたのですが……。

 A-1 21st Century Schizoid Man
 A-2 Peoria
 A-3 The Sailors Tale
 B-1 Earthbound
 B-2 Groon

上記の収録演目は全て、1972年2~3月に敢行されたアメリカ巡業からの音源ですが、既に述べたように劣悪なクオリティの真相は、ミキサー卓に直結したカセットレコーダーを使用したがゆえの事です。

しかも当時はロバート・フリップ(g)、メル・コリンズ(sax,key)、ボズ・バレル(b,vo)、イアン・ウォーレス(ds,per) という4人組がキング・クリムゾンを名乗っていた時期で、つまりオリジナルメンバーはロバート・フリップ唯ひとり! さらにグループのコンセプトを大きな比率で担っていた作詞家のピート・シンフィールドも去っていたと言われていますから、必然的に演奏は現場主義になっていたのでしょうか……?

結論から言えば、全篇が歪みまくった、ヤケッパチのロックジャズ!

ですからキング・クリムゾンに対する先入観念としての荘厳な様式美を期待すれば、外れて当然だったのです。

ちなみに、このアルバムは本国イギリスでは1972年の初夏に廉価盤として世に出ながら、その劣悪な音質の所為でしょうか、我国では発売されず、それはキング・クリムゾンの人気がリアルタイムで最も高かったアメリカでも同様でしたから、日本の熱心なファンは必然的に当時は殊更に高かった英国盤を買うしかなく、それなのに前述の如き音の悪さと演奏そのものの粗雑な暴虐があったのですから、全く無慈悲な仕打ちというのが正直なところでしょう。

ですから翌年あたりからは中古盤市場にも頻繁に出回る状況中で、サイケおやじもどうにか入手は叶ったのですが、それでも冒頭に述べた不条理な気持は否定出来るものではありません。

しかし、だからと言って、ここに収録されている演奏が嫌いな種類かと問われれば、かなり好きなんですねぇ~~♪

まず初っ端の「21st Century Schizoid Man」からして、オリジナルバージョンで象徴的だった歪みまくりのボーカルが、ここでは意図的に作られた部分に加えてナチュナルな響きが既に歪んでいますから、それが素晴らしく良い方向に作用していると思います。

加えて暴虐的なアドリブ合戦から、例の目眩がしそうな最終パートのバンドアンサンブルも、まさにライプならではの緊張感を孕んでスリル満点! 誰かがどっかでミスるんじゃないか!? 心底、そう思わされる目論見が完全に成功していると思います。

団子状の音質が逆にド迫力を生み出している結果も、実はロバート・フリップの深淵な企みかもしれません。

ですから、続く「Peoria」が重い8ビートで起承転結も無く演じられるロックジャズなインストであったとしても、また前作アルバム「アイランズ」に収録されていた「The Sailors Tale」が、これまた中途半端なジャム系演奏と感じられても、それはそれで相当に熱いエネルギーが圧倒的!

その要因は、リーダー格のロバート・フリップが置き去りにされたかのような黒人音楽系のグルーヴとジャズっぽいアドリブ中心主義だと思いますし、その中でメル・コリンズのサックスがフリーな音色とモードジャズの語法を多用すれば、ドカドカ煩いイアン・ウォーレスのドラムスはハードロックとモダンジャズのゴッタ煮であり、ボズ・バレルの意味不明なシャウトやアドリブスキャットにはR&B風味も濃厚という、なかなか闇鍋的な楽しさが満喫出来ますよ♪♪~♪

そしてB面では、それらがますます煮詰められ、ほとんど怖いモダンジャスになってしまう「Earthbound」からフリージャズと現代音楽が激しく対峙したような「Groon」と続く流れにグッタリと心地良い疲労さえ覚えるんじゃないでしょうか。

また何れのトラックも、中途半端なフェードアウトや強引な繋ぎがミエミエの編集を施されているあたりが実に意味深で、現実的に廉価盤だったとしても、ちょい聞きにはブートよりも悪質商売の如きアルバムを作ってしまったロバート・フリップの意図を、少しは擁護出来ると思わせるのが、真の狙いなんでしょうか……。

ご存じのとおり、この後のキング・クリムゾンは、またしてもロバート・フリップ以外のメンバーが入れ替わり、新展開を模索していくのですが、こういうロックジャズがど真ん中の演奏スタイルが洗練へと向かう結果を知っているだけに、このアルバムが妙に愛おしく感じられます。

特に「21st Century Schizoid Man」は、これまでに幾つものバージョンやテイクが残されていますが、個人的には途中での誰かの感極まった叫び声も含めて、このアルバムでの演奏が一番好き♪♪~♪

ということで、決して万人向けではありませんし、プログレ王道の様式美からも無縁の仕上がりですが、ロックジャズが大好きな皆様であれば、納得の1枚だと思います。

そして音の悪さが、だからこそ、良い!

残念ながらリマスターのCDは聴いたことが無いんですが、本当にそう思える数少ないレコードと確信しているのでした。

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キャラバン4作目の絶妙な位置

2011-05-01 16:00:34 | Rock Jazz

Water Lily / Caravan (Deram)

様々なイメージの中で、最も「らしい」事を演じてくれれば、それはそれでファンが喜ぶというのが芸能界のひとつの仕来たりでしょう。

それはロックの世界でも例外ではなく、例えば今日では「カンタベリー」なんていう特殊なジャンルに押し込められているキャラバンというグループにしても、その基本姿勢はプログレというよりもロックジャズ!

それがサイケおやじの認識ですから、結果的にコアなファンからはイマイチと評価されたとしても、個人的には完全にOKなのが本日ご紹介のアルバムです。

発売されたのは1973年春らしく、あの傑作「In The Land Of Grey And Pink」に続く通算4枚目のLPではありますが、当然ながらサイケおやじはリアルタイムではなく、後追い鑑賞でシビレたというのが真相です。

 A-1 Water Lily
 A-2 Nothing At All
     - It's Coming
      - Nothing At All
(reprise)
 A-3 Song & Sings
 B-1 Aristocracy
 B-2 The Love In Your Eye
      - To Catch Me Brother
      - Subsultus
      - Debouchement
      - Tilbury Keeks
 B-3 The World Is Yours

上記演目からもご承知いただけると思いますが、やはり組曲形式のメドレートラックではアレンジの妙と如何にも1970年代前半っぽいロックジャズなアドリブが混然一体の魅力となっています。

しかし今回のセッションではバンドに前作「In The Land Of Grey And Pink」以降のメンパーチェンジがあり、パイ・ヘイスティングス(vo,g)、リャード・シンクレア(vo,b,g)、リチャード・コフラン(ds) に新参加のスティーヴ・ミラー(key) の4人が、ここではキャラバンを名乗っています。

つまりサイケおやじをキャラバンに導いたデヴィッド・シンクレア(key) が抜けたという、個人的にはちょいと悪い予感に満たされた作品だったんですが、ところが新メンバーのスティーヴ・ミラーが全く正統派のロックジャズに拘ったキーボードを聴かせてくれたんですから、たまりません♪♪~♪

さらにその所為でしょうか、これまであまり前面に出ていなかったパイ・ヘイスティングスのギターパートも大幅に増え、リャード・シンクレアの弾力性に満ちたべースワークも縦横無尽に楽しめるという結果オーライが眩しいほどです。

また肝心の楽曲も当時のプログラムピクチャーに使われても違和感の無いグルーヴィな部分、時には元祖AORといって過言ではないフィール・ソー・グッドな雰囲気の良さ、そして躍動的なフュージョン系の演奏まで包括的にやってしまった音楽性の幅広さは、今に至るも「隠れ名盤」の称号が相応しいばかり!

そうです、これは所謂「名盤」ではなく、「隠れ」という一言がその前に冠されて初めて評価される1枚だと思いますねぇ。

何故ならば既に述べたように、この前作には真の名盤「In The Land Of Grey And Pink」があり、そしてご存じのとおり次作が今日に至るキャラバンの評価を決定づけた「Fat Girl Who Grow Plump In The Night」とあっては、如何にも立場があやふやでしょう。

しかし所謂過渡期らしい模索が当時流行の元祖フュージョンとも言うべきクロスオーバーへの接近に繋がったようでもあり、結果的に普通に近いロックジャズへ傾斜した事で、とても聴き易い仕上がりになっているのです。

そのあたりが頑固なキャラバンファンにはイマイチ、面白くないところかもしれません。それはキャラバンという秘宝的なグループは自分達だけのものにしておきたいという、マイナー保護主義の独占欲なのでしょうか。

しかし、それはそれとして、実際にこのアルバムを聴いてみれば、まず全篇でしなやかに躍動するリャード・シンクレアのペースに腰の強さを感じるはずです。もう、個人的にはそれだけ聴いていれば、この作品の存在価値があると思うほどなんですが、加えて
スティーヴ・ミラーのピアノやエレピ、そしてオルガンやシンセがモロにジャズっぽいんですから、たまりません♪♪~♪

もちろん楽曲そのものの魅力も絶大で、例えばB面2曲目の「The Love In Your Eye」は生半可なAORはお呼びじゃないというほど心地良く、しかも組曲形式で進行する流れは予めアレンジされた部分とアドリブパートのバランスも上手く出来上がっていますよ。

また如何にも英国産ロックジャズらしいアンサンブルとアドリブが炸裂する「Water Lily」、映画サントラ音源としても利用価値がありそうな「Nothing At All」はウェザー・リポートさえ連想させられるクロスオーバーなモダンジャズですし、ヒネリの効いたブリティッシュポップスの裏街道的な「Song & Sings」は、これぞっ、キャラバンの真骨頂かもしれません。

その意味で躍動的ながら、どこかしら醒めている「Aristocracy」で堪能出来るリャード・シンクレアを核とするリズムとビートの出し方は要注意でしょうねぇ~♪ このファンキーでロックっぽい方向性は、我国でもティンパンアレー系のバンドに流用されたグルーヴの源泉ですからっ!? 当然ながらアメリカで既に実践されていたニューソウルやファンキーロックの影響下にある事は否定出来るものではありませんが、それを「カンタベリー」というドメスティックな感覚でやってしまった事が、結果オーライの素晴らしき偶然というところでしょうか。

ですからオーラスの「The World Is Yours」が妙に歌謡フォークしている感じが面映ゆいんですよねぇ~。まあ、そんな事を書いてしまうと激怒の皆様が大勢いらっしゃる事は百も承知の暴言、ご容赦下お願い致します。

それと最後になりましたが、このアルバムにはサックスやフルート等々の管楽器、そしてストリングアレンジ等々で優秀な助っ人が数名参加しており、ロイ・コクスヒル(ss) やジミー・ヘイスティングス(fl,sax) の熱演がキャラバンのサウンドには欠かせない真実を確認出来ると思います。

ということで、これもサイケおやじの日常的な愛聴盤のひとつで、極言すればキャラバンの諸作中、一番にターンテーブルに乗せられた回数が多いかもしれません。

そして繰り返しになりますが、「In The Land Of Grey And Pink」と「Fat Girl Who Grow Plump In The Night」という二大傑作盤に挟まれた位置ゆえに、そのどちらへも進むことが可能という存在価値が天の邪鬼なサイケおやじを夢中にさせるのでしょう。

もしかしたら、このアルバムがキャラバン入門用にはジャストミート!?

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アージェントの深み

2011-03-17 16:11:27 | Rock Jazz

Argent In Deep (Epic)

1960年代後半より、ロックもLPで聴くことが主流になり、つまりはシングルヒットが出せなくとも優れたアルバムを作っていれば、そのミュージシャンは大物と認められたのですから、まさに人生楽ありゃ、苦もあるさっ!

本日ご紹介の1枚は、基本的にはアルバムで勝負していたアージェントの最高傑作と認知される人気盤と書きたいところなんですが、天の邪鬼なサイケおやじにとっては、アージェントが大好きなバンドだけに、可愛さ余って憎さ百倍というところでしょうか……。

 A-1 God Gave Rock And Roll To You
 A-2 It's Only Money Part 1
 A-3 It's Only Money Part 2
 A-4 Losing Hold
 B-1 Be Glad
 B-2 Christmas For The Free
 B-3 Candles On The River
 B-4 Rosie

これが世に出た1973年春といえば、アージェントが「Hold Your Head Up」のシングルヒットを放ち、同曲収録のアルバム「オール・トゥゲザー・ナウ」も広く一般のロックファンから認められた後ですから、ようやく苦節から抜けだしたグループの意気込みが半端ではない時期でした。

しかしロッド・アージェント(vo,key)、ラス・バラード(vo,g,key)、ジム・ロッドフォード(b,vo)、ロバート・ヘンリット(ds,per) という4人のバンドメンバー、及びプロデューサーとして関わっているゾンビーズ以来の盟友たるクリス・ホワイト、それぞれの音楽性が、それゆえにバラバラになりかけていました。

もちろんそんな内部事情をサイケおやじが知ったのは、かなり後の事なんですが、そう思って聴けば、アルバムを構成する各楽曲の要素や仕上がりが纏まっていません。

結論から言えば、初めてこのアルバムに接するお若い皆様には、EL&Pとクイーンの折衷スタイルのように感じられるかもしれません。

しかし、決して安易なパクリや物真似ではなく、それこそがアージェントならではの個性だと主張するのは、贔屓の引き倒しでは無い! そう、サイケおやじは確信するのです。

例えば後にキッスがカパーしたことでロック史に残る名曲となった「God Gave Rock And Roll To You」は、いきなりの大団円的な名演でもあり、厳かにして胸が熱くなるようなロック的メロディ展開と欧州教会音楽の素晴らしき融合♪♪~♪

本当ならばアルバムのクライマックスに配置されて然るべきだと思うほどですが、それをあえてド頭に持ってきたところに、このアルバムの信憑性が疑われるほどです。

なにしろ、続く「It's Only Money Part 1」が如何にもパワーポップ全開のハードロックながら、その変奏とも言うべき「同 Part 2」では、なんとビートルズのモータウンカパー「Money」のリフとアレンジを借用する稚気やフュージョン前夜祭のようなギターアンサンブル、そしてキーボードのクールなアドリブがニクイばかりなんですねぇ~♪ しかもそれが良いところでフェードアウトし、矢鱈にポップなコーラスパートが追加されてフェードインしてくるという、洒落になっていない裏ワザがっ!?!?

ですからA面の締め括りに置かれた「Losing Hold」の勿体ぶった様式美が、なんだかなぁ……。正直、出来の悪いゼップのようでもあり、クイーンの亜流のようにも聞こえてくる始末なんですが、もちろんそれはアージェントの先見性の表れが、見事に裏目に出たという気がしますし、極言すれば同時期のイエスが作ったデモテープ? と言われても納得するかもしれません。

ところがB面トップの「Be Glad」になると一転、これぞっ、見事なアージェントロックの代表格に仕上がっている事実には溜飲が下がります。そこには強い存在感を示すピアノとオルガン、情熱のボーカル&コーラス、さらに多彩なビートをミックスさせるドラムス&ベースという、まさに当時の最先端が主張され、これをEL&Pの二番煎じと断じるのはバチアタリだと思いますよ。

しかも、これはサイケおやじの妄想ではありますが、クイーンだって、きっとこれを聴いていたに違いないと!?

また「Candles On The River」が、これまた強力なキーボードロックの決定版で、重厚なリズムとビートを背景に暴れるオルガンや巧みに組み立てられたギターアンサンブル、そこへ同時進行する熱血のボーカルと華麗なコーラスは、EL&Pと似て非なる素晴らしい世界じゃないでしょうか。この手が好きな皆様ならば、必ずや納得させられる名演でしょう。

しかし、ここまでの流れの中には既に述べたように、メンバー各人の目指す音楽性の違いが微妙ですが明確に浮かび上がっているように思います。

例えばラス・バラードはパワーポップ、ロッド・アージェントはプログレ&ロックジャズ、またジム・ロッドフォードはフュージョンであり、ロバート・ヘンリットはハードロック&ジャズという感じでしょうか。

もちろんそれらがジコチュウで表現されているわけではなく、ちゃ~んとバンドとしての機能の中に活かされているのは言うまでもありませんが、それを担うはずのプロデューサーのクリス・ホワイトが前作アルバム「オール・トゥゲザー・ナウ」のヒットで妙に欲を出したのかもしれません。サイケおやじには、このLPの曲の並びが、どうにもしっくりこないんですよねぇ……。

それは相当にシブイながらも、実は素敵なメロディが秀逸な「Christmas For The Free」というクリスマスソングの隠れ名曲が、その存在感を強くアピール出来ないという事実にも顕著だと思いますし、オーラスの「Rosie」が陽気で楽しい分だけ、逆に煮え切らないというあたりが、実に勿体無いと思うのです。

そして個人的には「God Gave Rock And Roll To You」をメインに据えたトータル的な構成こそが、アルバム中心のロック時代に相応しかったんじゃないか?

このLPを聴く度に、それほど不遜な事を考えてしまいます。

しかし、これは絶対に駄作という事ではありません。

同時代に作られた夥しいロックアルバムの中で、プログレやロックジャズに特化しなくとも、なかなか立派な作品であることに違いはないのです。ただし、そこには思い込みによる好き嫌いが確かに存在する!?

そんな屁理屈が強く滲み出る名盤(?)だと認識するだけなのでした。

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キャラバンに出会えた幸せ

2011-03-02 15:38:56 | Rock Jazz

In The Land Of Grey And Pink / Caravan (Deram)

ロックと言えばエレキギターが、そのジャンルの成立過程に大きな役割を果たし、さらにはギタリストがスタアになるほどの重要性が認められますが、それが1970年代ともなれば、今度はキーボードが同等か、もしかしたら、それに代わるほどの地位を得るようになりました。

例えばEL&Pのキース・エマーソン、イエスのりック・ウェイクマン、ディープ・パープルのジョン・ロード、ブライアン・オーガーあたりは説明不要だと思いますし、他にも大勢の個性的なプレイヤーが登場したことで、ますますロックは多様化の道を歩んだと思います。

さて、そこで本日ご紹介の1枚は所謂「カンタベリー」なぁ~んていうジャンルに分類されるキャラバンというイギリスのグループが1971年に発表した、同バンドにとっては通算3作目のアルバムなんですが、結論としては我国も含め、決してリアルタイムでヒットした作品ではありませんでした。

それをサイケおやじが何故に気にしたかと言えば、初期キャラバンの中核メンバーだったデヴィッド・シンクレアというキーボード奏者が聴きたかった事で、実はマッチング・モウルというロックジャズバンドが出したアルバム「そっくりもぐら」での活躍に感銘を受けていたからに他なりません。

そこで各方面に探りを入れ、辿りついたのがキャラバンであり、このアルバムでした。

演奏参加メンバーはパイ・ヘイスティングス(vo,g)、デヴィッド・シンクレア(key)、リャード・シンクレア(vo,b,g)、リチャード・コフラン(ds) という4人が、一応はキャラバンというグループを名乗っていたようですが、他に重要な働きを示すジミー・ヘイスティングス(fl,sax)、デヴィッド・グリンステッド(per,etc) 等々の助っ人がジャケットに記載されていますので、おそらくは流動的な編成のバンドだったんじゃないでしょうか。

 A-1 Golf Girl
 A-2 Winter Wine
 A-3 Love To Love You
 A-4 In The Land Of Grey And Pink
 B-1 Nine Feet Underground

やはり、なんといってもアナログ盤B面を全部使った組曲形式の長尺トラック「Nine Feet Underground」があることで、これは如何にも当時が隆盛期だったプログレを先入観念させられてしまう印象です。しかし、まずはA面に針を落とせば、そこから流れてくるのは英国田園地帯の長閑なムードが横溢したホノボノロックとでも申しましょうか、これが実に快適なんですねぇ~♪

個人的にはリンゴ・スターのボーカル物を連想さられてしまうんですが、同時にインストパートのジャズっぽい充実度も素晴らしく、「Golf Girl」ではノンクレジットのトロンボーン奏者がサウンドのキメを演じていたり、淡々としたリズム隊が実は力強いグルーヴを醸し出していたり、さらにはキーボードの味わい深い音の組み立てやフルートの微熱なアドリブとか、全く一筋縄ではいきません。

そして続く「Winter Wine」は、このアルバムを代表する名曲にして大名演!

アコースティックギターによる導入部から前半の曲メロの爽やかさは、コーラスパートも含めて実に気分は最高なんですが、いよいよ本篇に入ってからのパワフルなリズム隊の動きとキーボードの多彩なオカズとアドリブの連なりは、まさにロックジャズの天国でしょう。実際、ここで聴かれるリングモジュレーターやファズオルガンとしか表現しようのない独得の鍵盤使いは、デヴィッド・シンクレアの真骨頂だと思います。もろちん歌心優先主義の中に過激なフレーズや熱いビートを潜ませる手法が、たまりませんよ♪♪~♪

ですからクールなメロディとリズム処理が、まさにキャラバン風ポップソングとなった「Love To Love You」やアルバムタイトル曲「In The Land Of Grey And Pink」の疑似ウエストコーストサウンドが英国トラッドやモダンジャズ、そしてサイケデリックロックを調味料として煮詰められていく過程は、所謂プログレの概念と微妙にズレているというか、全体の構成の緩さがアドリブの入る余地を広げている感じに、キャラバンの魅力があるんじゃないでしょうか。

まあ、それはあくまでもサイケおやじだけの感性ではありますが、B面をぶっ通して展開される「Nine Feet Underground」が、一応は幾つかのパートに分かれていながら、その場面展開が何処かしら場当たり的!?

う~ん、ファジーと言うかなぁ~。

しかしデヴィッド・シンクレアのキーボードが大部分で主役を演じるアドリブパートは、しっかりとバンド全体をリードして、約23分弱を全く飽きさせません。もちろん全体を俯瞰した仕掛けの妙も楽しめるんですよねぇ~♪

ということで、このあたりのレコードはリアルタイムの我国でも発売されていたようですが、売れていなかったので中古も出ないという悪循環でした。

そこでサイケおやじは必然的に海外盤の中古を漁るわけですが、それが突如として静かなブームになったのは、1980年代からでしょう。

それについては個人的な当て推量にすぎませんが、まずプログレファンの執拗な要望があった事はまちがいなく、既に欧米では死滅寸前だったジャンルに拘泥する執念がキャラバンやソフトマシーンといった英国系ロックジャズバンドをマニアの世界でブレイクさせたように思います。

また同時にフュージョンから入り込んできた新しいファン、そしてパンクやニューウェイヴの台頭によって鑑賞する対象を失った古くからの音楽好きが、所謂「カンタベリー」に桃源郷を求めた現実もあったでしょう。

当然、サイケおやじにしても、フュージョンよりは正統派ロックジャズやソウルジャズが好きですから、キャラバンに夢中となるのには、それほど時間は必要ありませんでした。関連人脈を辿りつつ、忽ちに増えいてくレコードの数々は、明らかに周囲からの冷たい視線と重なっていたわけですが、そんなの関係ねぇ~~!

好きなものを素直に聴けることこそ、幸せであり喜びだと思います。

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イエスの超絶ライブ盤

2011-02-27 15:24:55 | Rock Jazz

Yes Songs / Yes (Atlantic)

洗練された様式美!

そうしたイエスの音楽性を支えているのは、メンバー各人の超絶的なテクニックであることは言うまでもありませんが、しかしそれでもスタジオで作られた作品群を聴けば、そこには音源編集やオーバーダビングの多用が明白でした。

しかも最初の黄金期とされる1970年代前半にやっていた楽曲は、従来の曲メロ~間奏アドリブ~曲メロという構成ではなく、最初から忽せに出来ない骨組みがあり、それを複雑なアンサンブルや基本のメロディで彩る方法論の中にアドリブパートをも組み込むという、実に恐ろしい目論見が追及されていたのですから、これを観客を前にしての実演ライプで、レコードどおりに再現するのは、それを発展させる事も含めて、現実的に不可能だろうというのがリアルタイムの思い込みでした。

ところが実際は、それが出来ていたんですねぇ~、イエスには!

そして1973年に世に出た本日ご紹介のアルバムこそ、その最初の証明となった驚愕のアナログ盤3枚組LPです。

 A-1 Opening (excerpts from Firebird Suite) / 「火の鳥」から抜粋
 A-2 Siberian Khatru
 A-3 Heart Of The Sunrise / 燃える朝やけ
 B-1 Perpetual Change
 B-2 And You And I / 同志
 C-1 Mood For A Day
 C-2 Excerpts From“The Six Wives Of Henry Ⅷ”/ ヘンリー八世の6人の妻
 C-3 Roundabout
 D-1 I've Seen All Good People
 D-2 Long Distance Runaround ~ The Fish
 E-1 Close To The Edge / 危機
 F-1 Your's Is No Disgrace
 F-2 Starship Trooper

既に述べたように、これはイエスの最初の黄金期とされる1971~1972年という、あまりにも短かった時代の記録ですから、上記演目もその間に制作発表された「サード・アルバム」「こわれもの」「危機」という3枚のアルバムから採られています。

しかし既に演奏メンバーは流動し、ジョン・アンダーソン(vo,per)、スティーヴ・ハウ(g,vo)、リック・ウェィクマン(key)、クリス・スクワイア(b,vo) に変動は無いものの、ビル・ブラッフォード(ds,per,vib) がアルバム「危機」の制作セッション完成直後に脱退してしまったので、この1972年に録音された音源の大部分にはアラン・ホワイト(ds,per) が急遽参加!

それでも全く揺るぎない演奏をやってしまうところに、イエスの真骨頂が痛感出来るという、これぞっ、逆もまた真なり! もちろん、それは既にセッションミュージシャンとして場数を踏んでいたアラン・ホワイトの物凄い力量があっての成果ですし、実際、イエスから突然の参加要請があって後、僅かの間に複雑怪奇(?)なバンドのライプ演目を覚えたというは奇蹟だと思いますが、そこに妥協を許さないグループの厳しい姿勢こそが、このアルハムを発表出来たポイントでしょう。

ちなみにそんな経緯もあり、ここでは「Perpetual Change」と「Long Distance Runaround ~ The Fish」の2曲でビル・ブラッフォード在籍時の音源も聴けるのが興味深いところです。

そこで肝心の内容ですが、まず初っ端がストラヴィンスキーの組曲「火の鳥」からの抜粋という事で、これはテープによるオーケストラ演奏の最終部分にバンドとしてのイエスがライプで加わり、そのまんま「Siberian Khatru」へ突入するという仕掛なんですが、観客からの期待のざわめきやイエスのメンバーが登場した時の拍手歓声等々が雰囲気満点に録られているのは結果オーライ♪♪~♪

ですから後は怒涛の超絶演奏が展開され、特に「Perpetual Change」は、何時の間にか天空に飛翔して燃え上がるスティーヴ・ハウのギターソロ、極めて自然発生的に炸裂するビル・ブラッフォードのドラムソロも含め、まさに圧巻!

しかし後任のアラン・ホワイトの奮闘も素晴らしく、そのタイトなドラミングはジャストでドライヴするクリス・スクワイアのベースワークと相性も良く、完璧さを求められるアンサンブルが必須というイエスの音楽性を決して壊していません。

またライプならではの楽しみというか、「ヘンリー八世の6人の妻」はリック・ウェイクマンの人気ソロアルバムからのサービスであり、そこから引き続いて始まる「RoundAbout」のヒット性感度の高さも侮れません。

こういうファンの気持を大切にするところが、プログレという頭でっかちに陥り易いジャンルで絶大な人気を集めたイエスの信条じゃないでしょうか。

ですからギリギリの緊張感が音楽的な快楽へと変換されていく後半は、例えばサイケおやじがリアルタイムで諦めの境地に追い込まれたスタジオバージョンの「危機」にしても、このライプバージョンでは、意外と素直に楽しめるんですよねぇ~♪

もちろん既に述べたように、レコードと生演奏の差異は無いに等しいのですから、これこそ不思議なイエスの魔法!?!

と同時に、スタジオバージョンとは似て非なるライプ用のアレンジや自然に置かれたアドリブパートも実は相当にあって、このあたりはスタジオバージョンに馴染んでいればこその楽しみが、ちゃ~んと仕込まれているんですねぇ~♪

そして全篇をリードし、纏め上げるジョン・アンダーソンのボーカルとバックコーラスの存在感の強さも流石だと思います。

あぁ、イエスは恐るべし!!

まさにプログレとイエスの蜜月を堪能出来るベスト盤でもあり、プログレというジャンルがリアルタイムでどのように成立し、受け入れられていたかを検証出来る最高のドキュメントでもあるわけですが、ちょうどこの3枚組アルバムが発売される直前の昭和48(1973)年春、イエスは待望の初来日を果たし、絶賛の嵐を巻き起こしています。

そして追い撃ちの如く登場した大作ライプ盤によって、イエス黄金期の伝説は確立されたのですが……。

個人的には、もっと暴れていると思ったクリス・スクワイアのペースが、そのショウケース的な即興パートの「The Fish」も含めて、以外にも基本に忠実というか、堅実さと調整能力の高さを示しているのは予想外でした。

その意味で安定感抜群のドラミングで忽ちイエスに馴染んだアラン・ホワイトとのコンビは、スリルとサスペンスが不足している気も致しますが、既に煮詰まりが表面化しつつあったプログレが、新たな段階へ進む方向性を提示していると感じます。

ご存じのとおり、イエスは次作アルバムで2枚組ながら4曲しか入っていない「海洋地形学の物語」を発表し、さらにはフュージョンど真ん中の人気盤「リレイヤー」を出すという進化を遂げた後、ついには些か長いお休みに入ったのですからっ!

結局、イエスの凄いところは、充実して完成度の高いスタジオ録音の作品群を出しつつ、活発なライプ活動も並行してやっていた事に尽きるのではないでしょうか。

つまりライプの現場で再現出来ないような演奏は作らないという主義が徹底しています。

そして、そう思って過去のアルバムを再鑑賞するという楽しみも、このライプ盤は与えてくれたのでした。

願わくば所謂アーカイヴ音源として、この第一期黄金時代のライプが蔵出しされますようにっ! これは全てのイエスファン、共通の祈りだと思います。

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ザ・ナイスの老い易さ

2011-02-17 17:08:23 | Rock Jazz

少年易老学難成 / The Nice (Immediate)

洋楽の邦題は様々ありますが、中には充分に納得するものから笑ってしまう???のタイトルまで、話のネタは尽きません。

例えば本日ご紹介の1枚は、ご存じEL&Pで大ブレイクを果たす前のキース・エマーソンが率いていたナイスというバンドのセカンドアルバムで、その原題は「Ars Longa Vita Brevis」ですから、もちろん「芸術は永く、人生は短し」とするのが本当なんでしょうが、それをあえて漢文にしたところが、たまりません。

実は、その発売が本国のイギリスでは1968年末頃でありながら、日本では既にナイスが解散状態にあった1970年ということは、前述したEL&Pの人気爆発と絶妙にリンクする時期でした。

しかし、この邦題にして、このジャケットですから、直ぐに売れたということでは決してなく、EL&Pの前身バンドとしての興味が優先されていたと思います。

その始まりは1966年末、ストーンズのマネージャーだったアンドルー・ルーグ・オールダムが設立した新レーベルの「イミディエイト」に所属していたP.P.アーノルドという黒人女性歌手のバックバンドとしてキース・エマーソンが集めた人脈の発展形であり、いよいよナイスと名乗った時のメンバーはキース・エマーソン(key)、デヴィッド・オリスト(g)、リー・ジャクソン(vo,b)、ブライアン・デヴィソン(ds) の4人組でした。

ちなみに前述したP.P.アーノルドのバックバンド時代は、当然ながらメンバーも流動的であったにも拘らず、キース・エマーソンはド派手なアクションでオルガンやピアノを弾きまくる自己主張をしていたそうですから、独立は時間の問題だったというか、ついに1967年晩秋には公式レコードデビューを果たしたことになっています。

ところが今日の歴史でも明らかになっているとおり、メンバー間の音楽性の違いや時代の流行との折り合いの悪さ、さらには人間関係のあれこれがあって、このセカンドアルバム制作時には抜群のテクニックを誇ったギタリストのデヴィッド・オリストが脱退しており、その所為でしょうか、サイケデリック&ブルースロックの味わいが一気に薄れた感があります。

そして結果的にロックジャズからプログレに向かって変貌していった当時の英国ロック最先端の音作りの萌芽が、このアルバムに記録されたのです。

 A-1 Daddy Where Did I Come From / 何処から来たのだろう
 A-2 Little Arabella
 A-3 Happy Freuds' / 陽気なフロイド
 A-4 Intermezzo From The Karelia Suite / 間奏曲
 A-5 Don Edito El Gruva
 B-1 Ars Longa Vita Brevis / 芸術は永く、人生は短し
       Prelude
       1st Movement Awakening
       2nd Movement Realisation
       3rd Movement Acceptance“Brandenburger”
       4th Movement Denial
       Coda-Extension To The Big Note
 
上記した収録演目からして、まずはアナログ盤LPの片面全て使った組曲が注目されますが、どっこいっ! A面はボップなロックジャズが並んでいるという二面性が凄いところです。

まず、キース・エマーソンのピアノが本当に楽しげな「何処から来たのだろう」が途中から様々な効果音や多重録によってサイケデリックな展開となる中で、ロックジャズなオルガンが炸裂するという仕掛けが、既にしてアルバム全体の構成を予告しています。

そして続く「Little Arabella」はクールなオルガンとピアノがジャズぽく響き、浮ついたボーカルが曖昧なメロディを歌うという、ほとんど後期マンフレッド・マン風味であったり、なんと「陽気なフロイド」に至っては、初期ピンク・フロイドがキンクスをやってしまったような、実にミョウチキリンな結果になっているんですが、今の耳で聴けば、これは1980年前後に中途半端なポップスをやっていたEL&Pのプロトタイプかもしれません。

しかしシベリウスの「カレリア組曲」からの抜粋「間奏曲」では、いよいよキース・エマーソンが狙っていたロックとクラシックの融合が、この時代ならではの試行錯誤的なスタイルで演じられ、それは後に十八番となる「展覧会の絵」の予行演習として、興味津々♪♪~♪

ですから、いよいよB面への期待が高まる前の露払いとして演じられる「Don Edito El Gruva」も、なかなか用意周到だと思います。

ちなみに演目は「間奏曲」を除いてメンバーの共作であり、アレンジとプロデュースも同様なんですが、部分的に使われるオーケストラのパートはロバート・スチュワートという人物が手掛けているようです。

そして、そのコラボレーションが全開となるのが、いよいよアルバムタイトル曲にしてB面をぶっ通す大作「芸術は永く、人生は短し」で、極言すればプログレでもあり、モダンジャズでもあるという、なかなかガチンコな演奏が披露されています。

特にドラムスのブライアン・デヴィソンが披露するプレイは、ジャズ味が実に濃厚ですよ。

また同様にクラシックのハードロック化を目論むキース・エマーソンにしても、随所にジャズっぽい本音が出てしまったり、それをなんとかロックに繋ぎとめようと奮闘するリー・ジャクソンが些か弱みを感じさせる自らのボーカルの所為もあるんでしょうか、かえってバンド全体を迷い道に進ませる如き……。

まあ、このあたりがナイスというバンドの限界かもしれませんねぇ。

ちなみにキース・エマーソンのプレイは当然ながら、未だムーグシンセさえ実戦では使用出来なかった時代ゆえに、ピアノやハモンドでの演奏が尚更に古めかしさを印象付けてしまいます。

しかしサイケおやじには、そこがまた味わい深く、バンド全員の頑張りに好感が持てるほどっ!

結局、ジャズとロックとクラシック、それぞれの味わいが演奏パート毎にクッキリと分離しているのが、悔しいところであり、そんな未完成なところに大いなる魅力を感ずる作品というわけです。

ご推察のとおり、サイケおやじがこのアルバムを実際に聴いたのはEL&Pが大ブレイクした後の事ですから、あちらこちらに同じ味わいを発見してはニヤリとしていたのが本音です。

そしてキース・エマーソンが何故にナイスを解散させ、EL&Pを結成したのかという答えが、共演者の力量の方向性と集中力にあった事も明瞭だと思います。

その意味で、ナイスの諸作を鑑賞する時の先入観はどうにもならないのかもしれませんが、その反面的な面白さが抜群なのも、また事実だと思います。

う~ん、確かに「少年易老学難成」という邦題は、深いところで当たっていたと思うばかりなのでした。

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妖怪列車の快楽グルーヴ

2010-12-25 15:14:02 | Rock Jazz

■Straight Ahead / Brian Auger's Oblivion Express (Gohst Town / RCA)

一般的にブライアン・オーガーの人気を確定したアルバムではありますが、いきなりの個人的な結論を述べさせていただければ、これは決して最高傑作ではありません。

しかしフュージョンブームが上昇期の1974年に制作発売された意義は本当に大きく、それまでに立脚していたロックジャズの地平から、ニューソウルやクロスオーバーといった当時のアメリカが最先端の新分野を見据えた演奏には、なかなかの魅力があることは確かでしょう。

ここまでの流れでは、前作として人気を集めたアルバム「クローサー・トゥ・イット」が充実した内容共々、特にアメリカを中心にライプの評判も高かったことから新作への期待も大きかったわけですが、そこで快演を披露していたドラマーのゴッドフリー・マクレーンが突如の脱退!?!

必然的にメンバーの交代があり、このアルバム制作セッションはブライラン・オーガー(org,el-p,key,vo)、ジャック・ミルズ(g)、バリー・ディーン(b)、レノックス・レイトン(per)、そして新参加のスティーヴ・フェローン(ds) にゲスト扱いのミルザ・アル・シャリフ(per) という布陣になっています。

A-1 Beginning Again
 重いビートと軽やかなパーカッションが彩るブラジリアンフュージョン的な演奏ですが、もちろん英国産ロックジャズのフィーリングが決して忘れられていないという、これは素敵な傑作トラック! フワフワしたボーカル&コーラスが幾分明確ではない曲メロにジャストミートし、タイトなドラミングに煽られて突っ走るグルーヴが、なんとも心地良い限りなんですねぇ~♪
 そしてブライアン・オーガーのエレピがフュージョンの醍醐味というか、実はロックジャズ王道のアドリブを堪能させてくれますし、続くジャック・ミルズのB級ギターソロも良い感じ♪♪~♪
 こういう分かり易さが、頭でっかちになるプログレや既成のクロスオーバーとは明らかに異なる、まさにオブリヴィオン・エクスプレスの持ち味だと思います。
 
A-2 Bumpin' On Sunset
 ご存じ、ウェス・モンゴメリーの代表作であり、それゆえに濃密なアドリブと腰の据わったアンサンブルが求められる名曲として、このアルバムが世に出た当時から評論家の先生方も挙って絶賛したトラックではありますが、個人的には些か冗漫な感じがしないでもありません。
 確かにレイジーなムードが心地良い倦怠感を呼ぶという雰囲気はするんですがねぇ……。
 オルガンが妙に重苦しく、またリズム隊の一本調子なビートの出し方がイマイチの刺戟では、なんだかなぁ……。
 ちなみにブライアン・オーガーは以前にトリニティを率いていた時にも同曲の録音を残し、それは2ndアルバム「デフィニットリー・ホワット」に収録されていますから、聴き比べも一興かと思いますが、個人的にはそっちが好きです。
 似て非なる演奏ではあるんですけどねぇ……。

B-1 Straight Ahead
 ニューソウルのビートに浮ついたボーカルという、この頃から流行し始めた所謂AOR風の演奏なんですが、やはりブライアン・オーガーのエレピが良いですねぇ~♪ そしてドラムスとベースの躍動的なグルーヴ、さらに如何にものリズムギターも素敵ですよ。
 ちょいと短いのが勿体無いほどですが、流石はアルバムタイトルになった曲だと思います。
 終盤でのエレピソロが新主流派になるのは、ご愛嬌というよりも、本音の吐露!?

B-2 Change
 これまたチャカポコリズムが効いたニューソウル風の演奏ではありますが、ボーカルパートからは1980年代後期のサンタナような産業ロック味が滲み出たりする、なかなか面白い仕上がりが侮れません。
 つまりは狙いが多すぎて的が絞れなかったのかもしれませんが、ジャック・ミルズの今となっては情けないギターソロも憎めませんし、バンドアンサンブルのミエミエの仕掛けとか、これはこれでニンマリしてしまうのがファンの心理じゃないでしょうか。
 贔屓の引き倒しではありますが、後半に出てくるブライアン・オーガーのオルガンに免じて、ここはそう納得しています。

B-3 You'll Stay In My Heart
 オーラスは再びAOR丸出しの歌と演奏とはいえ、これをパクッた歌手やバンドが大勢存在していることを忘れてはならないでしょう。尤もブライアン・オーガーだって、どこからかパクッてきたのは明白なのかもしれませんが……。
 それはそれとして、心地良い曲メロを歌うボーカルと浮遊感に満ちたエレピの素敵な味わいは、一度聴いたら決して忘れられないものだと思います。

ということで、これもまたアメリカを中心に売れまくり、いよいよブライアン・オーガーとオブリヴィオン・エクスプレスは全盛期を迎えたのです。そして以降、強烈に素晴らしいライプ盤を含む傑作アルバムを連続して発表していきます。

しかし今日の歴史では既に明らかになっているとおり、それは決して長続きは……。

ですからファンは、この時期に残れされた音源をひたすらに愛聴するわけですが、このあたりのロックジャズやフュージョンを新たに愛好されんとする皆様にとっても、掛け替えの無いものだと思います。

最後になりましたが、このゲゲゲなイラストのジャケットは当時、私の周囲では妖怪列車と呼んでいたことを付記しておきます。

まさに霊界的なグルーヴは快感♪♪~♪

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個人的壁となったイエス

2010-12-18 15:35:24 | Rock Jazz

■Close To The Edge / Yes (Atlantic)

一般的にイエスの最高傑作とされる名盤ではありますが、サイケおやじにとっては、発売された1972年当時から、全くついていけないアルバムでした。

何故ならば、完璧すぎて、スキが無いというか、聴いていて疲れるんですよねぇ……。

 A-1 Close To The Edge / 危機
     a) The Soled Time Of Change / 着実な変革
     b) Total Mass Retain / 全体保持
     c) I Get Up I Get Down / 盛衰
     d) Seasons Of Man / 人の四季
 B-1 And You And I / 同志
     a
) Cord Of Life / 人生の絆
     b) Eclipse / 失墜
     c) The Preacher The Teacher / 牧師と教師
     d) Apocalypse / 黙示
 B-2 Siberian Khatru

ご存じのとおり、イエスは所謂プログレ最高峰のバンドとして、前作「こわれもの」でその地位を完全に固めたわけですが、それはメンバー各々の超絶的なテクニックと幅広い音楽性に裏打ちされた中にも、ロックジャズ特有の躍動感があって、そこにサイケおやじはシビれていたわけです。

そして「危機」と邦題が付けられた次なる新作は、まさに偽り無しのアブナイ作品だと思います。

もちろん発売前から評判が高かったのは言うまでもなく、我国の洋楽マスコミも挙っての大絶賛でしたから、理解出来ない自分が情けないという落ち込みさえありましたですね……。

実は当然というか、その頃のサイケおやじは経済的な問題からLPは買えず、しかし国営FM放送で丸ごと流されたエアチェックのテープで聴いていたというハンデ(?)もありましたが、それは言い訳に出来ないでしょう。

つまりは自分の感性に合っていなかったんですよねぇ。

それは収録演目から一目瞭然、LP全体での収録曲が僅か3曲であり、しかも組曲形式による歌と演奏は、そのタイトルからして突き放された雰囲気ですし、これまでのイエスの音楽性からして、怖いものが先立つというのが悪い予感でした。

そして実際、LPのA面全てを使ったアルバムタイトル曲の「危機」からして、様々なメロディやリフが執拗に絡み合い、一応は4バートに分かれているとはいえ、それが自然に流れるというよりも、ある意味では順列組み合わせ!?

う~ん、確かにジョン・アンダーソン(vo,per)、スティーヴ・ハウ(g,vo)、クリス・スクワイア(b,vo)、ビル・ブラッフォード(ds,per,vib) という全盛期のメンバーは物凄いテクニックを駆使して、それこそ圧倒的な音楽を構築しています。

しかし、それゆえでしょうか、サイケおやじには極めて窮屈に聞こえてしまうんですよねぇ……。特にビル・ブラッフォードのドラミングからは自由度が著しく失われている感じがしますし、クリス・スクワイアのベースプレイも奔放が足りません。

なによりもアドリブの応酬という、サイケおやじが最も好むパートが皆無に近く、これは好きだったロックジャズになっていないっ!?

そうです、それで正解というか、当時はこういう演奏を称して、シンフォニックロックなぁ~んて呼んだんですよ……。

じょっ、冗談じゃねぇ~~~~!

それがB面に入っても継続されているのは言わずもがなでしょう。

まあ、それでもこっちは、多少なりともロック的なノリを感じたんですが、極言すれば、このアルバムの曲はライプじゃ出来ねぇだろうなぁ……。

と、リアルタイムでは不遜にも間違った事を思っていたんですよ。

しかし、ご存じのとおり、イエスはライプの現場でも、きっちりとこれを再現していた事実は、後に発表される3枚組大作LP「イエス・ソングス」に記録されています。

そしてサイケおやじが、やっぱりこの「危機」を乗り越えなければならない壁としてレコードを買い、真っ向から聴くという修行に入ったのは、その「イエス・ソングス」を体験して後からなのです。

その意味で「危機」の最初のパートや「Siberian Khatru」がメタリック期のキング・クリムゾン風だった事は、このアルバム制作直後にビル・ブラッフォードが脱退し、そこへ走った現実と妙に符合するあたりが意味深だと思います。

ということで、サイケおやじの本音では、今でも楽しくないアルバムとして、イエスの中では筆頭格の1枚なんですが、後に聴いたライプバージョンやブートにおけるリハーサル音源等々を楽しんでみれば、この作品の存在意義も侮れません。

これも、やっぱりロックジャズ!?!?

う~ん、ど~してもイエスから逃れられない運命を感じましたですねぇ……。

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