やっぱり休み明けは調子が出ないもんです。
こういう時には弛緩したグルーヴ物が似合いますね――
■Move Your Hand / Lonnie Smith (Blue Note)
ジミー・スミスで当りを取ったブルーノートは以降、積極的に個性的なオルガン奏者のリーダー盤を製作していきますが、中でも特にイナタイ雰囲気だったのがロニー・スミスだと思います。
それはズバリ、弛緩したグルーヴというか、例えばラリー・ヤングあたりの積極性とは対極にあるユルユルなノリ♪ これが私にはジャストミートしています。
モダンジャズというよりはソウル、ソウルというよりはスワンプという、つまり真剣に聴いているとダサダサで確実につまらないでしょう。我国のジャズ喫茶で無視され続けたのも間違いではありません。
しかし悪く言えば「ながら」聴きというか、例えば日活ニューアクション映画の劇伴とか、昭和末期からのクラブ系、あるいは昭和40年代の歌謡曲グルーヴあたりが好きでたまらない私なんかには、これが無くてはならないものなんですねぇ。もちろん仕事の合間とかドライブには欠かせません♪
で、このアルバムは1970年頃に発売されたとおぼしきライブ盤♪ モロに日活調のファッションでキメたジャケ写もイカシていますね。
録音は1969年8月9日、ニュー・ジャージー州の「クラブ・ハーレム」という店のセッションから、メンバーはロニー・スミス(org,vo)、ラリー・マギー(g)、シルヴェスター・ゴシェイ(ds)、ルディ・ジョーンズ(ts)、ロニー・キューバ(bs) という、これは多分、当時のレギュラーバンドだと思われます――
A-1 Charlie Brown
黒人コーラスグループのコースターズが、1959年に大ヒットさせた楽しいノベルティR&Bを演奏するあたりに、このバンドの基本姿勢が表れています。原曲の味わいを大切にしたグルーヴのミソはオトボケ色というか、これがファンキーのひとつの要素かもしれません。黒人音楽は深いです。
しかし、それにしてもバンド全体のノリがイナタイとしか言えません。ユルユルのグルーヴと重いビート感♪ これがロニー・スミスの持ち味だとしたら、決して一流の技巧派とは言えないメンバーの人選は、これで大正解でしょう。バタバタしたドラムス、些かゴマカシが目立つギター、山場を作れないホーン陣のアドリブは逆に親しみ易くて、憎めません。
聴いているうちに、完全に下半身から力が抜けていきます♪ でも身体は確実に揺れていくのでした。
A-2 Laying In The Cut
アドリブ中心に聴かせようとする目論見が見え隠れするロニー・スミスのオリジナル曲で、それはワンコード系の演奏に近くなりますから、本当は火の出るような、と書きたいところなんですが……。
モダンジャズ的な意味合いはほとんどありません。メンバー各人が漫然とアドリブっぽい事をしているだけなんです。しかし、それが実に気持ち良いという、なんか悪い女に引っ掛かったような快楽があります。
特にラリー・マギーのギターソロのバックでバタバタするドラムス、執拗なロニー・スミスの伴奏が、もう最高です! クセになりますねぇ~、これはっ♪ もちろんロニー・スミスのアドリブパートでも、同様の快感がっ♪
B-1 Move Your Hand
今やレアグルーヴの聖典曲となったイナタイR&B♪ 溜息まじりみたいなロニー・スミスのボーカルは、ちょっとハスキーな高い声ですから、好き嫌いがあるかもしれませんが、クセになる魅力も秘めています。私は好きですねっ♪
演奏は正体不明のパーカション奏者も加わって熱いグルーヴが噴出し、ラリー・マギーのギターがヘタウマの極北という味わいです。もちろんホーン隊も良い仕事をしていますが、やはりロニー・スミスのボーカルには独特の怠惰な雰囲気があって、聴くほどにヤミツキ状態♪
ちなみにロニー・スミスが以前に来日した時、私はライブへ行ったんですが、何故かこの曲はやってくれませんでした……。この仕打ちには、私以外のお客さんも不満だったみたいですよ。それほどの人気曲というわけです。
あぁ、チャカポコのパーカッションと緩いグルーヴが、辛抱たまらん状態なのでした。
B-2 Sunshine Superman
イギリスのフォークロック歌手で、当時はポップサイケ色のヒット曲を連発していたドノバンの代表曲が、またまた弛緩したソウルファンクに焼きなおされた演奏ですから、グッとシビレが止まりません。
蒸し暑い日の昼間っからビールでも飲んで、女とイチャイチャしている雰囲気とでも申しましょうか、全然、ビシッとしていないバンドのノリは、それでいて妙に粘っこいのです。メンバーのアドリブソロだってダラダラですから、山なし、オチなし、意味なしという、元祖やおい系でしょう。もちろん現代とは語句の使い方が異なるのは時代の流れというものですが、これがなかなか良い感じ♪
ということで、決して一般的なジャズ者からは好意的な扱いはされない作品でしょう。実際、1970年代には捨て値でも売れ残っていたアルバムでした。それが今では局地的とはいえ、聖典扱いになっているのですから、時の流れとは恐いものです。もちろん私も中古の捨て値で買ったひとりなんですが……。
ちなみに1969年度のダウンビート誌ではナンバーワンのオルガン奏者にランクされたそうで、見開き中ジャケの写真では、それが堂々と告知された店の看板の前で、自信たっぷりに写っているスタアその人に苦笑いさせられますよ♪
アルバムの作りとしては、前述したように正体不明の打楽器奏者が居たりして、このあたりはオーバーダビングの疑惑も濃厚ですし、演奏トラックにも編集が入っているようです。
このあたりは製作現場の事情でしょうが、実際のライブの迫力や熱気、怠惰なグルーヴは存分に楽しめると思います。