■Europe '72 / Grateful Dead (Warner Bros.)
さて、暴挙と言えば、我らがグレイトフル・デッドも外してはいけないでしょう。
なにしろ1967年春の公式レコードデビュー以前から活動していたライプ音源のほとんどが、しっかりバンド側によって録音され、その膨大な音源は最初こそブートやマニア間のテープトレードで流通していたものが、ついにはグレイトフル・デッド公認の形で発売されるに及び、ほとんどが3時間前後という長尺ステージで本領を発揮していたグループの本質を伝える最良の手段になったのですから、結果的にCDでも2~3枚セットなんてのが所謂当たり前田のクラッカー!
そして極みつきが、1972年春に敢行されたグレイトフル・デッドの初めての欧州巡業22公演をきっちりと収めた「コンプリートの72枚組」という、まさに暴虐のCDセットです。
もちろんグレイトフル・デッドのライプが大好きなサイケおやじは、円高のメリットもありますが、その450ドルを気持良く支払いながら、しかしこれは自分が最期の時を迎えるまで聴き終えることが出来るのだろうか……?
そういう情けない疑問に囚われているばかりですし、実際問題として、未だ初日の音源すら聴き通すことが出来ていないのですから、全くのお笑いです。
ただし、言い訳なのは百も承知なんですが、これとて昨日書いたビーチボーイズの「スマイル音源集」と同じで、持っていないと不安だし、そういう精神衛生にお金を投じることは、決して無駄遣いでは無いと自分に言い聞かせているんですよねぇ。
まあ、このあたりも、周囲からすれば、完全に呆れの極北だと自覚しております。
そこで居直りの気持を込め、本日のご紹介は件の欧州巡業から最初に世に出た3枚組LPです。
A-1 Cumberland Blues
A-2 He's Gone
A-3 One More Saturday Night
B-1 Jack Straw
B-2 You Win Again
B-3 China Cat Sunflower
B-4 I Know You Rider
C-1 Brown-Eyed Women
C-2 It Hurts Me Too
C-3 Ramble On Rose
D-1 Sugar Magnolia
D-2 Mr. Charlie
D-3 Tennessee Jed
E-1 Truckin'
E-2 Epilogue
F-1 Prelude
F-2 Morning Dew
当時のグレイトフル・デッドはジェリー・ガルシア(g,vo)、ボブ・ウィア(g,vo)、ピッグペン・マッカーナン(org,vo)、フィル・レッシュ(b)、ビル・クルーツマン(ds) のオリジナルメンバーに、キース・ゴドショウ(p) とドナ・ゴドショウ(vo) の夫婦が新参加、そして曲作りやステージ進行に協力していたロバート・ハンターやローディというよりも仲間という存在の周辺スタッフを含めると、かなりの大所帯になっていたそうです。
そしてグループの欧州巡業には大型バスが使われ、宿泊はモーテルとか、時にはキャンプのような事もあったそうですから、今日のようにロックがそれなりにビジネス化する以前とはいえ、モロにヒッピー共同体のイメージが強く、それもまた人気の秘密だったのかもしれません。
しかし、それゆえにと言うか、やっぱりどこかしらドンブリ勘定だったんでしょうか、結果的にバンドは多額な赤字を計上……。
実はサイケおやじが、そうした逸話を知ったのは後の事だったんですが、このアルバムが日本で発売された昭和48(1973)年のリアルタイムでは、既に2枚組ながら名盤認定されていた「ライブ・デッド」が如何に素晴らしかろうとも、高価で買えない3枚組LPという仕打ちには、きっとグレイトフル・デッドも集金が必要なのか???
なぁ~んて、不遜な事を思いましたですねぇ。
まあ、このあたりの相関関係は、我国では「高値」になるレコード価格もアメリカでは1枚物とそれほど変わらない値段で販売される状況を知ってみれば、全くサイケおやじの不明であったわけですが、グレイトフル・デッドの本来の魅力が一番発揮されるのはライプステージである以上、それも納得する他はありません。
ただしラッキーだったのは、当時の国営FM放送には洋楽の新譜LPをノーカットで流すという太っ腹な番組があり、それをエアチェックして楽しむファンが大勢いましたから、サイケおやじも友人からテープを借りて聴きまくり、忽ち3枚組の真価に感涙♪♪~♪
もちろん輸入盤のバーゲンでは最初に狙う獲物となり、首尾良くゲット出来た時の高揚は本当に忘れていません。
つまりグレイトフル・デッドの魅力は、アドリブとバンドアンサンブルの瞬間芸的コントラストの素晴らしさであると同時に、良い演奏ならば、繰り返してトリップ出来る充足感にもあると思います。
その意味で前述したような長期間の巡業ステージで録られた音源から、選び抜いたであろう演奏ばかりを収めたアルバムが、悪いはずもありません。
軽快なカントリーロックの「Cumberland Blues」や「One More Saturday Night」における温故知新の楽しいR&Rなムード、またデッド流儀のフォークロックというか、実はブルースロックの進化系のような「You Win Again」、その前段の「Jack Straw」やユルユルの成り行きまかせが心地良い「He's Gone」あたりには、当時流行の西海岸ロックのエッセンスが滲んでいます。
しかし元祖ジャムバンドの片鱗を強く証明する「China Cat Sunflower」あたりから、いよいよグレイトフル・デッドの本領が発揮され、ジェリー・ガルシアとボブ・ウィアのギターアンサンブルにフィル・レッシュが執拗に絡み、しかもこのステージには、ついついモダンジャズなピアノを演じてしまうキース・ゴドショウが参加していますから、もはや言わずもがなのフィール・ソー・グッドな時間は「お約束」ですよっ! 続くカントリーロックがモロな「I Know You Rider」へのメドレー的な進展も、最高です。
あぁ、こういう緊張と緩和の妙こそが、グレイトフル・デッド中毒の要因なんでしょうか、射精前の快感を何時までも与えてくれるような素晴らしさには、感謝の念しか浮かびません♪♪~♪
そしてそれが最高度に楽しめるのが、最終3枚目のLP両面を使った「Truckin'」「Epilogue」「Prelude」「Morning Dew」の4連発大団円というわけですが、実はその前に置かれたC&D面の正統派ロックバンドとしてのグレイトフル・デッドにも捨て難い魅力があって、時にはソウルフルに、またある時にはブルースにどっぷり浸りながら、どこか宇宙的な広がりを感じせる演奏はデッドフリークには絶対の人気曲「Sugar Magnolia」で見事に収斂していますよ♪♪~♪
ですから、デッドが十八番のリフを使い回す「Mr. Charlie」や「Tennessee Jed」を、なんだぁ、またかよ……、とは絶対に言ってはいけませんっ! そうしたマンネリの気持良さだって、これまたグレイトフル・デッドの大きな魅力であって、それを許容出来なければ、例えばマイルス・デイビスのモダンジャズだって楽しめないでしょう。
「燃えよドラゴン」でのブルース・リーの名言に「考えるなっ! 感じろっ!」というのがありましたが、それは音楽鑑賞にも適用されるんじゃないでしょうか、特にグレイトフル・デッドにおいては!?
ということで、どんな暴挙であっても、グレイトフル・デッドのライプ音源であればこそ、許せるファンは数知れず!
それが現在の世界の大勢!
ですから、前述した「コンプリートの72枚組」から再編集されたと思われる新篇「ヨーロッパ72」が、この3枚組LPとは完全別テイクをウリとして、2枚組CDセットで発売されるのも当然の流れでしょう。
それは「グレイトフル・デッドのライプ」という「快楽」の布教でもあります。
以前も書きましたが、グレイトフル・デッドがこれまでに残したアルバムや音源集は膨大で、初めて聴こうとする皆様には、その巨大な山脈へのルートが分かりづらいかもしれませんが、とにかく何かひとつ、ライプソースに接してみれば、後は自ずと奥の細道を辿る旅へ出ることが可能となります。
例えば、この3枚組LPは既にボートラ入りの2枚組CDになっていますし、件の新篇も最良のきっかけになることは請け合い!
ハッと気がつけば、自分の周囲がグレイトフル・デッドのレコードやCDの山になっているはずですが、絶対に許せますよ。
ぜひとも、お楽しみ下さいませ。