良い話を読むことが出来た。胸が温かくなって、コトコト鳴ったほど。朝日新聞本日号33面、生活欄の、「男のひといき」で、伊丹市の加藤学さんという方の文章である。
還暦にして、モスクワへ1ヶ月語学留学。行く前に「靴底がはがれそう」な革靴に不安があったが、お連れあいさんの「はがれたら、むこうで修理してもらったら」の一言で、出発。以下本文。
【 現地で生活し始めて1週間ほどしたころ、靴底が案の定、ガバッとはがれた。毎日、モスクワの街を1時間以上歩いているのだから、無理もない。
幸い、私の住む寮の近くに小さな靴屋を見つけた。400ルーブル(約1500円)ですぐに直せるという。ほかの靴屋にもあたってみた。550ルーブルで、すぐには無理とのこと。
最初の靴屋に戻った。すると今度は500ルーブルだという。猛然と抗議した。靴屋は折れ、私を狭い店内に招き入れた。彼の出身地を聞くと、アルメニアだという。異国で小さな靴屋を営むこの男性は、非常に丁寧に修理してくれた。
その仕事ぶりを見てわたしは50ルーブルを上乗せし、450ルーブルを差し出した。彼は「なぜだ」と厳しい顔をした。そしてすぐに、にこりとして「200ルーブルでいい」。それ以上は決して受け取らなかった。
何が、彼の心に起きたのだろう。資本主義になり、「何事も金」とも見えるモスクワの街。この不思議な靴屋との出会いは、忘れがたいものとなった】
モスクワは70年代半ばに行ったことがあるが、既にかなり荒れていた。最近行った連れ合いに聞くと、さらにその数十倍の荒れよう。こんなとき他人事ならず胸が痛くなるのは、僕の性分。そんなこともあって、この話が特に「応えた」らしい。僕も、シドニー滞在旅行の時、パン・肉製品・サラダなどのちっぽけなお店で、似た体験がある。別のホームステー先に移り住んでからも、その店までわざわざサイクリングで尋ねていった覚えがある。「もうすぐ日本へ帰るから」と挨拶に行ったのだが、とても喜んでくれた。中東系で30ちょっと、背は低いが品のある店主だった。
還暦にして、モスクワへ1ヶ月語学留学。行く前に「靴底がはがれそう」な革靴に不安があったが、お連れあいさんの「はがれたら、むこうで修理してもらったら」の一言で、出発。以下本文。
【 現地で生活し始めて1週間ほどしたころ、靴底が案の定、ガバッとはがれた。毎日、モスクワの街を1時間以上歩いているのだから、無理もない。
幸い、私の住む寮の近くに小さな靴屋を見つけた。400ルーブル(約1500円)ですぐに直せるという。ほかの靴屋にもあたってみた。550ルーブルで、すぐには無理とのこと。
最初の靴屋に戻った。すると今度は500ルーブルだという。猛然と抗議した。靴屋は折れ、私を狭い店内に招き入れた。彼の出身地を聞くと、アルメニアだという。異国で小さな靴屋を営むこの男性は、非常に丁寧に修理してくれた。
その仕事ぶりを見てわたしは50ルーブルを上乗せし、450ルーブルを差し出した。彼は「なぜだ」と厳しい顔をした。そしてすぐに、にこりとして「200ルーブルでいい」。それ以上は決して受け取らなかった。
何が、彼の心に起きたのだろう。資本主義になり、「何事も金」とも見えるモスクワの街。この不思議な靴屋との出会いは、忘れがたいものとなった】
モスクワは70年代半ばに行ったことがあるが、既にかなり荒れていた。最近行った連れ合いに聞くと、さらにその数十倍の荒れよう。こんなとき他人事ならず胸が痛くなるのは、僕の性分。そんなこともあって、この話が特に「応えた」らしい。僕も、シドニー滞在旅行の時、パン・肉製品・サラダなどのちっぽけなお店で、似た体験がある。別のホームステー先に移り住んでからも、その店までわざわざサイクリングで尋ねていった覚えがある。「もうすぐ日本へ帰るから」と挨拶に行ったのだが、とても喜んでくれた。中東系で30ちょっと、背は低いが品のある店主だった。