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新たな書評、要約本のこと① 文科系

2017年02月10日 08時07分47秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
 ここの11年で、どれだけ多くの書評をやって来たろうか。僕の場合はほぼすべてかなり詳細な要約が中心だから、苦労も多かったが、その分勉強になった事!
 さて、今度の書評対象に僕が選んだのは、この本。フランス人エマニュエル・トッド著『問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論』(文春新書 16年9月第一刷発行)。
 このグローバリズム時代に世界史や外国のことを知らずに近未来日本を論じられると考えているかのネット右翼諸君もここを多く訪れる。よって、こういう「世界各国比較の歴史人口学者」という珍しい人の書をいつものように何回かに分けて紹介していく意味はとても大きいはずだ。是非最後までお付き合い願いたい。
 
 同書の帯を見るとこう書いてある。
「的中した予言ーーソ連崩壊、リーマン・ショック、アラブの春、ユーロ危機、そして英国EU離脱 (などの)予言はいかにして可能なのか?」
 このような著者は以下のような人物であるが、ここ数年の日本でも大評判の学者だ。文春がこういう人物を取り上げているという点も面白いが、まず、フランス、イギリス両方を母国としてきたように両国に通じている人類学者と言うのが興味深い。フランスの「歴史人口学」者ということだが、英国にも半分国籍があるような人だ。自身ケンブリッジ大学で博士号を取り、同じくケンブリッジを出た長男が英国籍に換わったことによって孫二人が英国人という人物でもある。フランスを愛しているとは言うが、今流行の狭い愛国主義には陥りようがないということだろう。

 若い頃のトッドはマルクス主義者を自認していたそうだが、今は中道左派の学者なのだそうだ。また、マルクス主義者にはこんな人物だと紹介することもできる。彼の母の父が往年のフランス共産党員として超有名なポール・ニザンである。作家、哲学者であって、1940年に、第二次世界大戦のダンケルクの闘いにおいて戦死した人物である。ヒトラー・ドイツ相手に英仏連合軍が敗れた闘いであった。こんな祖父を持った彼もその「歴史人口学」知見から、今は、マルクスの骨子理論をいくつも批判している。たとえば、こんなふうに。
『中産階級がどうなるかが歴史の帰趨を決します。マルクスはこの点を見誤りました。プロレタリア階級の勢力が増しても、何も起こらず、歴史は動かなかったのです。イギリスでも、フランスでも、革命は、「ストーンの法則」の通り、中間層の識字率が高まることによって起きたのです!「アラブの春」も、中国の革命も同様です』(108ページ)
 その彼がまた、別の所ではマルクスについてこうも述べている。
『私にとってマルクスは重要な存在です。マルクスは、ドイツ、イギリス、フランスというヨーロッパ文化の三大潮流の交差点に位置し、ヨーロッパ・ユダヤ人の典型です。「マルクス主義」ではなく、そのような存在としてのマルクスが私にとっては大事なのです』(102ページ)
 こういう思考からマルクス主義などを経済主義として批判する彼は、経済学ではこんな人物を取り上げている。グローバリズムを生んだ供給サイド経済学には反対らしく、需要不足にこそ現在の世界経済危機問題を見ている経済学者たちばかりだ。この点は僕がここで述べてきた理論に非常に近い。
『経済危機それ自体は、ここでは取り上げません。これについては、トマ・ピケティ、クルーグマン、スティグリッツといった人々の著作を読めばよいわけで、世界で格差が拡大していることは様々に確認できます。世界的に需要不足が顕著で、これが経済危機の原因であることも確かです』(163ページ)

 さて、「日本の読者へ 新たな歴史的転換をどう見るか?」という「はじめに」から全7章を、今後、いつものように順を追ってご紹介していきたい。この極めて体系的な著者の興味深い方法論なども随所に紹介してある各章の表題を紹介すると、こんな調子である。
『 1 なぜ英国はEU離脱を選んだのか?
2 「グローバリゼーション・ファティーグ」と英国の「目覚め」
3 トッドの歴史の方法・・・「予言」はいかにして可能なのか?
4 人口学から見た2030年の世界
5 中国の未来を「予言」する・・・幻想の大国を恐れるな
6 パリ同時多発テロについて・・・世界の敵はイスラム恐怖症だ
7 宗教的危機とヨーロッパの近代史・・・自己解説「シャルリとは誰か?」 』 
コメント
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