「アメリカ帝国の終焉 勃興するアジアと多極化世界」(進藤榮一筑波大学名誉教授著、講談社現代新書、2017年1月刊)の要約・書評第5回目、最終回になった。今回は、全4章「勃興するアジア」の第3節「太平洋トライアングルからアジア生産通商共同体へ」と最終章「同盟の作法──グローバル化を生き抜く智恵」の要約である。
東アジアの生産通商状況が世界一の地域激変ぶりを示している。80年代中葉から2000年代中葉にかけて一度、2000年代中葉から後にもう一度。前者は太平洋トライアングルから東アジア・トライアングルへ、後者は「三様の新機軸」という言葉で説明がなされている。
太平洋トライアングルというのは、日本、東アジア、アメリカの三角関係だ。日本が東アジア(主として韓国、台湾)に資本財、生産財などを輸出してそこの物作りを活発にし、日本、アジアがそろって米国に輸出した時代である。その「日本・アズ・ナンバーワン」の時代が、世紀の終わり20年程でこう換わったと語られる。アジアの生産、消費両方において、アメリカとの関係よりもアジア域内協力・互助の関係が深まったと。最終消費地としてのアメリカの役割がカジノ資本主義・超格差社会化によって縮小して、中国、東南アジアの生産と消費が急増し、東アジア自身が「世界の工場」というだけでなく、「世界の市場」にも変容したと述べるのである。
例えば日本の東アジアへの輸出依存度を見ると1985年、2000年、2014年にかけて17・7%、29・7%、44・5%と増えた。対して対米国の同じ依存度は、46・5%、29・1%、14・4%と急減である。
ちなみに、世界3大経済圏(の世界貿易シェア)という見方があるが、東アジアはアメリカを中心とした北米貿易協定をとっくに抜いて、EUのそれに迫っているのである。2015年の世界貿易シェアで言えば、EU5兆3968億ドル、東アジア4兆8250億ドル、北米2兆2934億ドルとあった。
次にさて、この東アジアが2000年代中葉以降には更にこう発展してきたと語られる。
東南アジアの生産性向上(従って消費地としても向上したということ)と、中国が主導役に躍り出たこと、および、インド、パキスタンなどの参加である。
この地域が世界で頭抜けて大きい工場・市場に躍り出ることになった。
例えば、世界からの直接投資受入額で言えば2013年既に、中国・アセアンの受入額だけで2493・5億ドル、EUの受入額2462・1億ドルを上回っている。
これらの結果リーマンショックの後には、世界10大銀行ランクもすっかり換わった。中国がトップ5行中4つを占め、日本も2つ、アメリカは1つになった。
さて、こういう世界経済の流れを踏まえてこそ、日本のあるべき発展、外交、防衛策も見えてくる。最終章「グローバル化を生き抜く智恵」というのは、そういう意味なのだ。世界経済発展の有り様と東アジア経済の世界的隆盛とを踏まえれば、日本の広義の外交の道はこうあるしかないだろうということだ。
最初の例として、中国への各国直接投資額が、2011年から2015年にかけてこう換わったと指摘される。増えたのが、韓国、フランス、ドイツ、EU4か国などからの投資額で、それぞれ、58・0%、58・4%、38・0%、24・4%の増加。減ったのがアメリカ(11・8%減)と、日本に至っては49・9%減なのである。
次に、新たな外交方策として、アジア重視のいろいろが提言される。アジア各国の生産と消費との良循環を作ることを通して得られる様々なものの指摘ということだ。今のアジア各国にはインフラ充実要求もその資金もあるのに日本がこれに消極的であることの愚かさが第一。この広域インフラ投資を進めれば、お互いの潜在的膨張主義を押し留めるという抑止力が働くようになるという成果が第二。こうして、アジアが経済的に結びつくことによって不戦共同体が出来るというのが、最後の意義である。
最後に述べられるのがこのこと。日本が見本とすべきだと、日本と同じアメリカの同盟国カナダの対米外交史を示していく。アメリカと同盟関係にありつつも、中国との国交回復では米国に先行してきた。この時の元首相トルドーはアメリカのベトナム戦争に反対したし、その後のカナダもまたアメリカのシリア軍事介入に反対した。このように、カナダの対米外交は対米同盟絶対主義ではなく、国民民生重視の同盟相対主義なのだと解説される。その対中累積投資額は580億ドルとあって、カナダにとって第2位の貿易パートナーが中国なのである。アメリカ帝国の解体と日本の対中韓孤立状況を前にして、カナダのこの立場は極めて賢いものと述べられる。
さて、この書の結びに当たるのは、こんな二つのテーマだ。英国のEU離脱とは何であり、現在のグローバル化は過去とは違うこういう積極的なものであると。
英国のEU離脱を引き起こした『(EUの難民)問題はだから、(エマニュエル・トッドが語るような)EUではない。中東戦争の引き金を引いた米欧の軍事介入だ。それを支える米国流“民主化”政策だ」
そして、現在のグローバル化とはもはや、米英流金融マネーゲームのそれではなく、こういうものだと語られる。
『一方で先進国の不平等を拡大させながらも、他方で先進国と途上国間の不平等を限りなく縮小させているのである』
(終わり)
東アジアの生産通商状況が世界一の地域激変ぶりを示している。80年代中葉から2000年代中葉にかけて一度、2000年代中葉から後にもう一度。前者は太平洋トライアングルから東アジア・トライアングルへ、後者は「三様の新機軸」という言葉で説明がなされている。
太平洋トライアングルというのは、日本、東アジア、アメリカの三角関係だ。日本が東アジア(主として韓国、台湾)に資本財、生産財などを輸出してそこの物作りを活発にし、日本、アジアがそろって米国に輸出した時代である。その「日本・アズ・ナンバーワン」の時代が、世紀の終わり20年程でこう換わったと語られる。アジアの生産、消費両方において、アメリカとの関係よりもアジア域内協力・互助の関係が深まったと。最終消費地としてのアメリカの役割がカジノ資本主義・超格差社会化によって縮小して、中国、東南アジアの生産と消費が急増し、東アジア自身が「世界の工場」というだけでなく、「世界の市場」にも変容したと述べるのである。
例えば日本の東アジアへの輸出依存度を見ると1985年、2000年、2014年にかけて17・7%、29・7%、44・5%と増えた。対して対米国の同じ依存度は、46・5%、29・1%、14・4%と急減である。
ちなみに、世界3大経済圏(の世界貿易シェア)という見方があるが、東アジアはアメリカを中心とした北米貿易協定をとっくに抜いて、EUのそれに迫っているのである。2015年の世界貿易シェアで言えば、EU5兆3968億ドル、東アジア4兆8250億ドル、北米2兆2934億ドルとあった。
次にさて、この東アジアが2000年代中葉以降には更にこう発展してきたと語られる。
東南アジアの生産性向上(従って消費地としても向上したということ)と、中国が主導役に躍り出たこと、および、インド、パキスタンなどの参加である。
この地域が世界で頭抜けて大きい工場・市場に躍り出ることになった。
例えば、世界からの直接投資受入額で言えば2013年既に、中国・アセアンの受入額だけで2493・5億ドル、EUの受入額2462・1億ドルを上回っている。
これらの結果リーマンショックの後には、世界10大銀行ランクもすっかり換わった。中国がトップ5行中4つを占め、日本も2つ、アメリカは1つになった。
さて、こういう世界経済の流れを踏まえてこそ、日本のあるべき発展、外交、防衛策も見えてくる。最終章「グローバル化を生き抜く智恵」というのは、そういう意味なのだ。世界経済発展の有り様と東アジア経済の世界的隆盛とを踏まえれば、日本の広義の外交の道はこうあるしかないだろうということだ。
最初の例として、中国への各国直接投資額が、2011年から2015年にかけてこう換わったと指摘される。増えたのが、韓国、フランス、ドイツ、EU4か国などからの投資額で、それぞれ、58・0%、58・4%、38・0%、24・4%の増加。減ったのがアメリカ(11・8%減)と、日本に至っては49・9%減なのである。
次に、新たな外交方策として、アジア重視のいろいろが提言される。アジア各国の生産と消費との良循環を作ることを通して得られる様々なものの指摘ということだ。今のアジア各国にはインフラ充実要求もその資金もあるのに日本がこれに消極的であることの愚かさが第一。この広域インフラ投資を進めれば、お互いの潜在的膨張主義を押し留めるという抑止力が働くようになるという成果が第二。こうして、アジアが経済的に結びつくことによって不戦共同体が出来るというのが、最後の意義である。
最後に述べられるのがこのこと。日本が見本とすべきだと、日本と同じアメリカの同盟国カナダの対米外交史を示していく。アメリカと同盟関係にありつつも、中国との国交回復では米国に先行してきた。この時の元首相トルドーはアメリカのベトナム戦争に反対したし、その後のカナダもまたアメリカのシリア軍事介入に反対した。このように、カナダの対米外交は対米同盟絶対主義ではなく、国民民生重視の同盟相対主義なのだと解説される。その対中累積投資額は580億ドルとあって、カナダにとって第2位の貿易パートナーが中国なのである。アメリカ帝国の解体と日本の対中韓孤立状況を前にして、カナダのこの立場は極めて賢いものと述べられる。
さて、この書の結びに当たるのは、こんな二つのテーマだ。英国のEU離脱とは何であり、現在のグローバル化は過去とは違うこういう積極的なものであると。
英国のEU離脱を引き起こした『(EUの難民)問題はだから、(エマニュエル・トッドが語るような)EUではない。中東戦争の引き金を引いた米欧の軍事介入だ。それを支える米国流“民主化”政策だ」
そして、現在のグローバル化とはもはや、米英流金融マネーゲームのそれではなく、こういうものだと語られる。
『一方で先進国の不平等を拡大させながらも、他方で先進国と途上国間の不平等を限りなく縮小させているのである』
(終わり)