随筆紹介 ピロリ菌 K.Kさんの作品です
ピロリ菌とはヘリコバクターピロリという細菌で、胃の粘膜に好んで住みつき傷つける。発がん毒素を注入し、そこから炎症をおこす。慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍を引き起こす。胃がんのリスクが高いとされる。
日本人の五〇%以上が感染していて、五〇代以降は七〇%に達する。感染経路は免疫力が弱い幼少期までの不衛生な水や、家族からの食事の口移しが原因らしい。一度感染してしまうと、薬で除菌しない限り自然治癒はない。現在はインフラ整備が整い、若者たちは少ない。
夫は健康診断のオプションで検査結果が陽性だった。昭和十九年生まれの夫が感染していたのは、戦後二歳のころ、満洲からの引きあげで生活環境が悪かったのが原因かもしれない。あの頃は食べていくのが大変で、井戸水、川の水などや、下水道も完備されてなかったのだから。
ピロリ菌の除菌は、薬を一日二回、一週間服用する。その後八週間後に検査をする。これを繰り返す。ほとんどの人は一回目で七十%~八十%除菌できる。二回目は九七%~九八%成功している。二回目までは保険が適用される。その後は自己負担で一万円~二万円になる。
二回目で菌が減ったので様子見中だったが、吞気にしていられなくなった。胃潰瘍からの出血で下血になり、唇まで白くなり貧血で倒れた。一週間の入院、輸血までした。血液サラサラの薬の副作用らしい。「黒い便ですか?」医者の問いに初めておそるおそる見てびっくり。タール状の真っ黒だったらしい。胃からの出血は黒くなるとか。それからは確認するようになった。この機会にピロリ菌の除菌もしっかりやり直しそう。
夫のはかなりしつこかった。三回目の挑戦でもまだ駄目でガックリ、「こうなったら徹底抗戦だ」と意地になって四回目に臨んだ。だが、さすがに疲れてきた。疲れる原因は、薬を服用中は禁酒、禁煙だから。毎晩の晩酌を楽しみにしている夫にしてみればかなりの我慢だ。普段は四十分くらいかけてゆっくりと夕食を楽しむ。お酒を飲まない一週間は十分くらいで終わり、物足りなさにイライラが募る。
今回でとれなかったら諦めようと、ふうーとため息を大きくついて、足取りも重く結果を聞きに行った。なんと基準値内におさまった。いつもは厳しい看護師さんも一緒に「良かったですね」と、喜んでくれたとか。夫から「万歳! 万歳! やっと合格したよ」弾んだ声が聞こえるようなメールが届いた。