随筆紹介 店仕舞い S.Yさんの作品です
行きつけの美容室が今月末に閉店するという。飽き性の私が珍しく十年以上も通っていた店であった。当時は男性スタッフが多かったが、この七年ほどは私の担当は、四十代前半のベテランの女性で、技術もトークも上手くて美人、なにより明るくて笑顔が良かった。ここで働く総勢二十名以上のスタッフが全員辞職とは、晴天の霹靂だったと想像がつく。
それにしてもこの地方にいくつもの店舗を持つこの店は、たいそう流行っていた。客層も三十代から四十代が多く、私のような年配者もけっこういた。店内にはヘッドスパ室、ネイル室、託児室まであって充実していた。スタッフ同士の雰囲気も良かった。
「なんで閉店するの? 順風満帆って感じだったのに」私には閉店の意味が理解できない。この辺りは美容室の激戦区と言われるほど多くて、その中でも勝ち残ってきていたのに。
「経営者は店の若返りを目的としているのですよ。今のままでは目新しい客を呼び込めないので。店の内外を全て改装して、店名も変え、スタッフも総入れ替えしたいそうです」私担当の彼女は悔しそうに言った。私を含めた彼女の常連客は多い。彼女は次の美容室の採用が決まって、そこへ私の今度の予約を入れてくれた。
経営者は、スタッフ各自の客はどんどん連れて行ってくれと言っているらしい。なんか腹立つ。もう来ないでほしいということか。年取った客は要らないということか。若者を育成するのはいいだろう。でも、ベテランを首にしたり、今までの客をないがしろにしたり、若者だってそのうち歳をとるのだよ。それに今や、高齢化社会まっしぐらだよ。