【まちかどの民主主義】:キーワードは「話し合いをあきらめない」 みんなが社長で従業員 協同労働は民主主義の原点
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【まちかどの民主主義】:キーワードは「話し合いをあきらめない」 みんなが社長で従業員 協同労働は民主主義の原点
<まちかどの民主主義>①協同労働
民主主義が機能していない、と言われるようになってから久しい。国会では自民党一強が続き、野党は対立軸を示せない。しかし、私たちの周りには、政治家の力を借りずに自分たちの手で民主主義を高めていこうという動きも広がっている。従来の方法に新しい工夫を加え、熟議の末に合意を目指す取り組み。民主主義を取り戻すヒントは、私たちの身近なところにあるのかもしれない。春の統一地方選も視野に、まちかどで見つけた民主主義再生の動きを全7回で伝えていく。
学童保育の施設内でゲームを楽しむ児童と職員たち=昨年12月28日、東京都国分寺市で(平野皓士朗撮影)
◆一人一人の意見尊重、地域食堂実現に半年かける
「冒険だけどやってみようか」
「いや、どこかで行き詰まるんじゃない」
昨年12月下旬、東京都国分寺市の学童保育所「ふじSUNクラブ」で月に1度開かれる団会議。地元の人に安価な手作り弁当を販売するイベント「地域食堂」の運営で、支援団体の助成を受けずに実施するかどうかが話し合われた。職員は30〜70代の男女8人。常勤もいれば非常勤もいるが言葉に遠慮はない。全員が意見を出し合った会議は2時間に及んだ。
学童を運営する事業所は、働く人が入る時に同額を出資し、1人1票の議決権を持って経営に関わる協同労働を実践する。所長はいるが対外的な肩書だけで、職員同士に上下関係はない。いわば全員が社長であり従業員でもある。トップダウンの指示は避け、全員の合意形成を大切にする。団会議は一般の会社なら取締役会に当たる。
「一人一人が主人公で自由に意見を出し合える」。協同労働を推進する「日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)連合会・センター事業団」の田中羊子理事長(60)はこう意義を強調する。
ただ、一人一人の意見を尊重する話し合いは時間がかかる。ふじSUNクラブの地域食堂も2021年10月の会議で話が持ち上がってから、実現できたのは22年4月と半年かかった。「なぜ学童の職員なのにやらなくてはいけないのか」。非常勤の職員が投げかけた疑問を解消する話し合いに時間をかけたためだ。
田中さんは「協同労働は対立も生まれるが、語り合えば一致点は見いだせる。キーワードは『話し合いをあきらめない』だ」と話す。話し合いに不可欠な他者を尊重し理解しようとする姿勢こそ、民主主義の原点といえる。
◆できないと否定するより、どうしたらできるかを考える
丁寧な合意形成で決めた事柄には全員の納得感があり、事業の推進力となる。地域食堂を発案した常勤職員の加藤真深さん(34)は「大変だけどみんなの合意形成ができると、目標に向かって歯車が合い、勢いよくできる」と実感する。
同じように協同労働で、障害者の就労支援のカフェを運営する「こみっとプレイス」(東京都豊島区)は、スタッフと障害のある利用者が共に参加する会議で、カフェをよりよくするアイデアを考えている。
所長の神戸川歩さん(42)は「できないと否定するより、どうしたらできるかを考える」と話す。意見が反映されると、利用者もより積極的に運営に関わるようになるという。
協同労働は昨年10月に法律が施行されて制度化され、会社員でもフリーランスでもない新しい働き方として注目を集めている。制度に詳しい明治大の大高研道教授(53)は「協同労働の会議は、一方的に誰かが話す場ではなく誰もが安心して話し合える空間。一方で、社会には安心して意見を言えない時代の空気がある。協同労働のように話し合える場を地域や社会にも広げていくことができるかが問われている」と話す。(寺本康弘、山口登史)
■協同労働
働く人全員が出資して事業を立ち上げ、運営も全員で議論して決める働き方。2022年10月、労働者協同組合法が施行され、法人格を取得することが可能になった。労協組合の組合員は、出資額、性別、在籍期間、障害の有無に関係なく、1人1票の議決権が与えられる。労働者派遣事業を除くあらゆる事業を展開できるが、会社のように出資に応じた配当はできず、利益は組合員の労働量に応じて分配される。厚生労働省によると、労協組合の登記は22年12月27日現在、全国で10件にとどまるが、年度が替わる4月以降に大幅に増加する見通し。
【関連記事】初めの一歩は家庭や職場から ボトムアップの民主主義運動を 『人新世の「資本論」』書いた斎藤幸平さんに聞いた
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 政治 【政局・連載「まちかどの民主主義」】 2023年01月01日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。