【社説①・12.31】:国内/「安定」が大きく揺らいだ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・12.31】:国内/「安定」が大きく揺らいだ
さまざまな分野の「安定」が大きく揺らいだ1年だった。
元日の能登半島地震は、日本列島が活断層の巣であることを想起させた。8月には南海トラフ地震の臨時情報が初めて発表され、防災・減災対策の重要性を再認識した。
能登は記録的豪雨にも見舞われた。酷暑や大雨が各地で続き、農作物の不作が目立った。前年の猛暑は「令和の米騒動」も引き起こした。気候変動が暮らしの安定をも脅かしつつある。
政治も安定には程遠い。自民党は裏金問題で国民が納得できる改善策を示せず、岸田文雄前首相は退陣した。後任の石破茂首相は衆院解散・総選挙を断行したが大敗し、30年ぶりの少数与党政権となった。与野党伯仲の国会で熟議を重ね政策を練り上げられるか、注視したい。
民主主義の根幹である選挙の在り方も揺らいだ。4月の衆院補選では他候補の街頭演説を妨害するなど公選法違反事件が摘発され、7月の東京都知事選では選挙掲示板の掲示枠を売買する行為や品位を欠くポスターの掲示などが問題になった。
告発文書問題を受けた11月の兵庫県知事選では、交流サイト(SNS)が有権者の投票行動に影響した。SNSや動画を用いた誹謗(ひぼう)中傷や真偽不明の情報拡散が問題視された。選挙の公平・公正の確保へ、公選法の見直しも検討する必要がある。
国民の不安を高めたのは「闇バイト」が絡む高齢者宅への強盗事件の多発だ。SNS上の募集に応じた実行犯が逮捕されても、計画を主導する主犯格を摘発し組織的な背景を解明しない限り根絶できない。徹底捜査が求められる。
一方、社会の安定を守る検察や警察の威信も揺らいだ。
58年前の強盗殺人事件で死刑判決が確定した袴田巌さんの再審公判で無罪を言い渡した裁判所は、強引な捜査を批判し証拠捏造(ねつぞう)と断じた。38年前の殺人事件で服役した前川彰司さんの再審でも、裁判長は捜査の不正を指摘した。信頼回復へ組織体質を抜本的に改めねばならない。
阪神・淡路大震災の発生から30年が目前に迫る。来年は戦後80年の節目でもある。災禍で失われた命を悼み、社会の安心と安定を築き直す年にと願う。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月31日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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