【社説・05.10】:川辺川のダム 住民理解得る努力続けよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.10】:川辺川のダム 住民理解得る努力続けよ
1966年に計画が発表されて以来、国策のダム計画にずっと翻弄(ほんろう)されてきた地域である。地元の理解を得ないままダムの建設を急ぎ、分断や対立を深めてはならない。
熊本県南部を流れる球磨川の支流・川辺川に国が計画する流水型ダムについて、水没予定地がある五木村の木下丈二村長が建設を容認する考えを初めて表明した。
先月の村民集会で「流水型ダムを前提とした村づくりに向けて新たなスタートラインに立つべきだ」と述べた。
これで地元の理解が得られたと捉えるのは早計だ。集会では、ダムを前提としない振興策や住民投票を求める声が上がった。建設容認は村民の総意とは言い難い。
そもそもダム本体の建設予定地がある相良村の吉松啓一村長は、流水型ダム建設への賛否を明らかにしていない。現時点では表明する予定はないとしている。
両村は半世紀以上、ダム問題に振り回された。分断や対立をあおりたくない、として県は相良村に同意を求めない意向という。曖昧にしたまま事業を進めれば、将来にしこりを残しかねない。
ダム建設の手続き上、地元の同意は必要ないとはいえ、大規模プロジェクトを円滑に進めるには欠かせない。国と県は住民の理解を得る努力を重ねるべきだ。
川辺川のダム計画は曲折を経て今に至る。両村は下流域の人命を守るために当初のダム建設を受け入れたが、2008年に当時の蒲島郁夫知事が反対を表明したため、旧計画は中止された。
状況を一変させたのは20年7月の熊本豪雨だった。球磨川の氾濫で甚大な被害が出ると、蒲島氏は川辺川に流水型ダムを造ることを容認した。国は球磨川水系河川整備計画に流水型ダムを盛り込み、建設準備を進めている。
ダムがあれば被害を抑えられたのではないか、という思いだったのだろう。方針転換で影響を受ける地元住民の心中は察するに余りある。
ダムによる治水効果の検証は十分とは言えない。
国や県、流域12市町村による検証では、仮に川辺川にダムが存在した場合、熊本豪雨の洪水水位が最大で2・1メートル程度低下すると推定した。全ての被害を防ぐことはできないとの結果も出た。
検証は国主導で、効果が過大になりがちだ。第三者を交えた検証が不可欠である。
流水型ダムは豪雨などの増水時にだけ貯水し、流量を調節する治水専用ダムだ。環境への影響は旧計画より小さいというものの、県民の宝である清流を守るのは難しい。
国は、流水型ダムと河川整備で熊本豪雨級でも越水による被害は防げると説明する。それでも人間の力で自然災害を防ぐには限界がある。
流域では今なお「ダムによらない治水」を求める声が少なくない。県はこうした声にも耳を傾けるべきだ。
元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年05月10日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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