路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

 路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

【社説①】:3・11から12年 ランドセルは忘れない 

2023-03-12 06:59:50 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【社説①】:3・11から12年 ランドセルは忘れない

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:3・11から12年 ランドセルは忘れない

 写真家の菊池和子さん(77)=東京都品川区=が福島県双葉町にある「あいちゃん」の家を訪れたのは、東京電力福島第一原発の事故から五年、二〇一六年五月七日のことでした。

 福島第一原発が立地する双葉町には、町中に大量の放射性物質が降り注ぎ、全住民が町外への避難を強いられました。
 
 発生時小学校六年生だったあいちゃん一家が避難したのは、同県会津若松市。その日、菊池さんはあいちゃんの父親の「一時立ち入り」に同行し、留守宅を取材させてもらうことになったのでした。
 
 
 ひんやりとほこりっぽい室内。お父さんが雨戸を開けると一筋の光が差し込んで、ソファの上に残された赤いランドセル=写真=を照らし出しました。すかさずシャッターを切った菊池さん。ランドセルのつぶやきが聞こえてくるようでした。
 
 <あの日、あいちゃんが、おじいちゃんとおばあちゃんに連れられて避難所へ行った日から、私はずっとソファーの上であいちゃんの帰りを待っています。もう少しで卒業式だったので、あと二週間は一緒に学校へ行けたのに…>(写真絵本「私はあいちゃんのランドセル」より)
 
 あいちゃんは今、福島県内で教職に就いていますが、まったくの偶然ながら、菊池さんも小学校の教員でした。子育てを終えて夜間の写真学校に通い、五十四歳の時に教職を辞して、写真家としての活動を開始しました。
 
 震災直後から三年間は、三陸の津波被災地に、一四年からは福島に、毎月のように足を運んで、津波や原発事故でふるさとを失った人々と、失われたふるさとの風景を記録し続けています。

 ◆「記録」から「伝承」へ

 記録することと同様、あるいは、それ以上に力を入れているのが伝承です。原発災害の実相を一人でも多くの人に伝えておきたいと、首都圏を中心にしばしば開く写真展にはスライドトークを組み合わせ、内容を更新しながら原発災害の現状を報告しています。
 
 二〇年には、親子でひもといてもらおうと、写真絵本を出版しました。「ふるさとで過ごすモノたちのひとりごと」というサブタイトルが付いています。
 
 ランドセルのほか、「中学校の体育館に取り残されたグランドピアノ」(大熊町)「農機具小屋のトラクター」(同)「雑木林と化した田んぼ」(浪江町)…。取材時に感じた「モノたち」のつぶやきを、文章にして添えました。
 
 原発が爆発し、大量の放射能が放出されて拡散すると、「日常」が根こそぎ奪われる。そこに人がいなくなる。原発事故の本質が、凝縮されているかのような作品群。菊池さんは訴えます。「日本中、どこでも起こりうることです。ひとごとではありません」
 双葉町では昨年の八月に、JR双葉駅周辺の避難指示が解除され、一部ではありますが、人が住めるようにはなりました。
 ところが、現時点で避難先から戻った人は、避難した七千人のうち1%にも満たない約六十人。復興庁が二二年度に実施した住民意向調査では、「戻らないと決めている」と答えた人が六割近くに上っています。
 
 そんな被災者の思いを尻目に原発回帰を急ぐ政府に、憤りと危機感を覚えた菊池さんは、音楽家の大島左千子さん(65)と共同で、風化にあらがう新たな取り組みを進めています。
 
 菊池さんの写真絵本をモチーフにして大島さんが作った歌をちりばめた「朗読と合唱による上演台本」を公開し、学校や地域で広く演じてもらおうという試みです。
 
 「聴く人、見る人だけでなく、演じる人が増えてほしい。自ら語ろうとする人たちの存在が、原発回帰の雲間から差す一筋の光になると信じています」と菊池さん。
 
 楽譜付きの台本はすでにできあがり、大島さんの音楽仲間に公募の市民が加わって、今月三十一日に、品川区立総合区民会館での初演が決まっています。

 ◆原発回帰の流れの中で

 ♪放射線は目に見えない/においもしないけれど/放射線は力がある/ダメージをくらわせる/原子力緊急事態/今も発令中なんだ/解決しない/たくさんのこと/忘れないでいよう/忘れないでいよう/忘れないでいよう(上演台本より、合唱曲「マイクロシーベルト」)
 
 忘れないでいよう。原発回帰の流れの中で、私たちが今、いつにも増して訴えたいのも、そのことです。

 元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】  2023年03月12日  06:59:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。


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