【社説】:首相が長男更迭 地位の私物化を猛省せよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:首相が長男更迭 地位の私物化を猛省せよ
親も子も公私の分別がついていなかったということだ。けじめをつけるのが遅れたのは、身内に甘いからにほかならない。
首相公邸で親族と忘年会を開き、赤じゅうたんの階段で組閣の時のような記念撮影をするなどしていた。翔太郎氏は首相が立つ位置で表情を緩めていた。
公邸は首相が生活する私的空間であると同時に、賓客の接遇や執務にも使われる公的な場所である。そこで悪ふざけとしか言いようのない写真に納まっていた。公私混同も甚だしい。危機管理の面でも問題となりかねない。
翔太郎氏の軽率な行動が問題となったのはこれが初めてではない。
今年1月に首相の欧米訪問に同行し、公用車で観光地を回り、土産を買っていたことも激しい批判を浴びた。
岸田事務所に入って3年程度の32歳が秘書官に起用された理由は、首相の息子である以外になかろう。
ただでさえ身を律するべきなのに、特権的立場をかさに着るような行動に弁解の余地はない。退職手当などの返納を申し出たのは当然だ。
首相の責任も免れまい。忘年会に顔を出し、あいさつもしたという。外遊中の土産購入も「公務」と擁護した。
首相自身、祖父から続く3代目の世襲政治家だ。将来を見据え、息子をそばに置いて政治的経験を積ませようとしたことは容易に想像できる。地位の私物化ではないか。
忘年会が報じられた先週、国会で野党が翔太郎氏の更迭を求めても首相は厳重注意にとどめた。突如方針転換したのは今週に入ってからだ。
直近の世論調査で、先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)開催の効果で上昇が見込まれた内閣支持率は低下や横ばいもあった。
国民の厳しい視線にようやく気付いたということか。翔太郎氏をかばった当初の判断の誤りは明白だ。最高権力者としての資質に疑義を抱かれていることも深刻に受け止めてもらいたい。
政治家の親から地盤、看板(知名度)、かばん(資金)を引き継げる世襲候補が優位に立てるのが日本の選挙の現状だ。岸田内閣の閣僚も世襲政治家が少なくない。
政治家として重視されるのは個人の能力や見識でなくてはならない。世襲の場合も例外ではない。
家系によって政治に携わる人材が固定され、庶民感覚から懸け離れるようでは民主主義が劣化するばかりだ。岸田首相親子の問題は世襲の弊害を露呈したといえよう。
岸田内閣は防衛力増強や異次元と称する少子化対策を掲げる。財源は国民に痛みを求めなくてはならない。その折にリーダーがこれでは説得力を欠く。猛省を求める。
元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【社説】 2023年05月31日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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