【社説①・03.02】:生殖医療法案 「出自知る権利」満たすべき
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・03.02】:生殖医療法案 「出自知る権利」満たすべき
「出自を知りたい」という子どもの権利が、より尊重されるべきだ。
第三者から提供された精子や卵子を使う不妊治療のルールを定める目的で議員立法の「特定生殖補助医療法案」が今国会に提出された。
遺伝上の親の情報を知ることができる範囲や条件が限定的だとして、第三者の精子提供で生まれた当事者グループなどから再考を求める声が上がっている。
法案は自民、公明、日本維新の会、国民民主4党の超党派議員連盟がまとめた。精子や卵子の提供者の情報を国立成育医療研究センターが100年間保存する。18歳になった子どもが希望すれば個人が特定されない範囲で情報開示する。身長や年齢、血液型が想定されている。
だが、氏名など個人の特定につながる情報は、提供者の同意が必要としている。子どもの権利条約で保障された「出自を知る権利」が、提供者の意向次第で左右される仕組みである。
断片的な情報を開示しても、出自を知ることにつながるとは言い難い。これでは権利が保障されない、との当事者の訴えは理解できる。
精子提供による人工授精は1948年に始まり、1万人以上が誕生したとされる。不妊に悩むカップルに希望をもたらしたが、誕生した人の中には自らのルーツをたどることができず、悩みや無力感を抱える人も少なくないという。
法案で開示情報を絞った背景には、拡大すれば提供者が減るとの懸念があるが、実際の提供者の多くは子どもが将来希望すれば面談や手紙などに応じるとの調査もある。提供者の負担にならない方法を探るべきだ。
スウェーデンやオーストラリアなどでは、子が希望すれば提供者の個人情報にアクセスできる仕組みがあるが、提供者は減っていないという。
そもそも提供者の情報開示については、厚生労働省の審議会が2003年に「15歳以上の子に氏名や住所も含む情報」としていた案から後退している。
議連は法案の策定過程で産婦人科医や学者、関係者から意見聴取したが、当事者は入れていなかった。
当事者団体は開示の範囲拡大や請求年齢の引き下げなどを求め、「子どもたちが何を望んでいるか、もっと知ってほしい」と語っている。重く受け止める必要がある。
法案が医療の対象を「法律婚の夫婦」に限り、事実婚や同性のカップルを除外しているのも極めて疑問だ。
法律婚と同様に扱う社会的な取り組みが広がる中で、あえて線引きをする必要があるだろうか。
排除された人が認定や許可のない医療施設やあっせん業者に流れて提供者を求めれば、医療リスクも高まりかねない。
元稿:京都新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月02日 16:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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