たんぽぽの心の旅のアルバム

旅日記・観劇日記・美術館めぐり・日々の想いなどを綴るブログでしたが、最近の投稿は長引くコロナ騒動からの気づきが中心です。

2014年『モーツァルト』-Wヴォルフガング語る

2020年10月16日 23時24分48秒 | ミュージカル・舞台・映画
2014年帝国劇場公演プログラムより-Wヴォルフガング語る井上芳雄

「🎶その時々で、自分自身の人生をぶつけて演じてきた

 12年前の初演は、僕にとって『エリザベート』に続く2作目のミュージカルでした。当時の自分にはあまりにもハードルが高く、途方に暮れていたことを思い出します。技術も経験も足りていなかったですし、自由奔放でエネルギッシュなヴォルフガングは、『エリザベート』のルドルフと違ってそのままの自分で演じられる役ではなかった。一方で、ダブルキャストの中川晃教君は、僕の目には力まずそのままの彼で演じているように見えて・・・。彼の公演の拍手のほうが僕の時より大きく聞こえたり、彼が賞を取ったころを気にしたりして、「自分はダメなんじゃないか」とまで思っていました。

 ハードルを乗り越えられた気がしたのは、2回目の公演。初演からの3年間、「もう一度自分なりのヴォルフガングを演じたい」という思いがずっとあって、ウィーンを訪れたりして準備を重ねていました。それで挑んだ時、自分でも初年とは全然違う演じ方ができたと思いましたし、賞もいただいて。もちろん賞が全てではないですが、これであっきー(中川)と同じところにいけたのかな、自分もこの役をやっていいのかなって、やっとスタートラインに立てたような気がしたんです。その後は2回目で得たことをバージョンアップさせながら、その時々、自分の生きている上でのテーマをぶつけるように演じてきました。決め事が少なく、感じたままに動けるのがこの役の面白さなのかもしれない、とも思えるようになりましたね。」

「🎶世の中の厳しさも優しさも、ヴォルフガングが教えてくれた

 モーツァルトが亡くなったのと同じ35歳で卒業しよう、と思ったのは実はただの思いつきだったんですが、稽古が始まって、「今回が最後で良かったんだ」と感じています。12年前はトイレに行ったらもう戻りたくないくらい怖かった稽古場で、今は「芳雄先生」なんて呼ばれて質問されたりするわけですよ。居心地が良いからこそ、これ以上いたら違う自分になってしまう気がします。12年間で僕をここまで変えたのは、間違いなくこの作品。挫折からのスタートでも、頑張ればここまでこられるんだって思いますし、そのためには毎回必死にやるしかないことも分かった。世の中の厳しさも優しさもヴォルフガングが教えてくれたんです。」

「🎶モーツァルトとの新しい関係がこれから始まる


 ヴォルフガングがいつも片隅にいる日々とも、この公演でお別れ。僕はこの12年、モーツァルトの音楽をほとんど聴いていませんでした。半ば自分がつくった曲ぐらいに思っているので、聴くと疲れちゃうんですよ。でも役と距離ができれば、きっとまた聴けるはず。千穐楽も、僕はいつもと同じ気持ちで舞台に立っていることと思いますが、終わったらモーツァルトとの新しい関係が始まるんじゃないかなって、今はそれが楽しみですね。」