アンダンテのだんだんと日記

ごたごたした生活の中から、ひとつずつ「いいこと」を探して、だんだんと優雅な生活を目指す日記

「誰も知らない」の「誰も」というのはつまり

2011年04月13日 | 生活
この映画が公開されたのって、2004年なんですね。もうずいぶん経ってしまっていますが、ようやく見ました。

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下敷きになったのは「巣鴨子供置き去り事件」(参考:「誰も知らない巣鴨子供置き去り事件」)だということで、それを聞いただけでちょっと見るのに勇気がいるというか、結局私は、DVDを家で見ないで、ポータブルプレーヤーに入れて一人で見たわけですが。

でも、この映画は悲惨さを描いたものではなく、別に社会問題を世間に訴えようとしたものでもないようです。どちらかというと、ただ映画として「良いもの」を撮りたかったんじゃないだろうかという感じがしました。

この映画の描写は非常にたんたんと進んでいき、目線は世間ではなくて子ども(本人)に近いところにあります。子どもの養育をせず置き去りにする母を「とんでもない」と思うのは世間の見方であって、子どもからはほんとに慕われている存在なのです。

面と向かって行われる虐待であれば、映画的にも「きれいに」描きようがないですが、これはネグレクトですから、暴力シーンとか罵倒するとか、そういうのがありません。むしろ、母と子がいっしょにいるときは、ほのぼのした交流があり、母が子どもたちをかわいがっている様子が描かれています。

家の中の家事、家計というものはほとんど長男(第一子)に任されていて、それを長女(第二子)が助けています。長男は、子どもとしてできる範囲で、とてもきょうだいの面倒をよく見ていますし、思いやりの深さは痛いほどです。そして、この子どもたちの家の整え方は非常にきちんとしていて、母がときどきでも帰ってお金を渡している間は、それなりの秩序が保たれています。

滞納によりライフラインが止まり、さらに食料品を買うお金にも事欠く状況になると、家の中もぐちゃぐちゃになってきますが、それまでは、食器を洗ったり、洗濯をしたり干したり、ごみを片付けたりという営みがまっとうに行われています。

それはたぶんとても現実離れしている部分で、子どもの出生届も出さず学校にも行かせず、帰ってきたり帰ってこなかったりの母が、そうやってまともに「生活力」を持った子どもを育てられるというのはどうもありそうにないことに思われます。実際どうだったのかわかりませんが。

さらに、事件の最も「肝」の部分だった死亡事故も、映画中では単なる事故として描かれていますし、現実には兄を含む数人による折檻死だったわけですから、映画用にきれいに作っただけ…というかまぁ、事件にインスパイアされて別の話を作ったと思うほうがいいかもしれません。

で、映画としては非常によくできています。母親役のYOUさんはほんとにハマリ役で、大人として母としての責任はまったく果たしていないけれども、ふんわりした存在感で、少なくともいるときはやさしい…友だちみたいなノリ…というのが無理なく演技されています。主役の男の子は、カンヌ映画祭で賞を取ったそうですが確かにすばらしい。そして年下の子どもたちのかわいさと自然さは出色の出来で、どんな環境にあってもそこでできる範囲で遊びを見つけて過ごしていく様子が丁寧に描かれています。

私がこの映画を見て一番感じたことは、子どもたちは、自分の置かれている境遇の異常さに気づかず、助けを求める声も上げないものだということです。つまり、タイトルにある「誰も知らない」の「誰も」の中には本人も含まれるというか、まず本人が含まれるということです。

子どもは、自分が育てられている環境のことしか知らないのがふつうで、ましてや家に閉じ込められて生活し、幼稚園・保育園・小学校に通うこともない場合には、家庭環境がよそと違うことを認識できません。そういう意味で、せめて学校というもうひとつの環境があって、そこで「ふつう」「世間並み」は何なのかを知ることができれば…いや、学校に通っていてさえあまり気づかないこともあるものですが、でも、せめて、学校に行けていれば。

監督もそういう気持ちで、「いつになったら学校に行けるの」「学校に行きたい」というようなセリフを入れているのだと思いますが、実際のところ、学校に行ったことがない子どもがそんなセリフを言ったかどうかははなはだ疑問です。

子どもは親を選べないし、親が構築した家庭環境がいくらおかしくても、それに気づくのは人生のずっとあとのことになります。怖いことです。

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コメント (4)
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