前澤氏が月旅行に行くという。
子供の頃に月を見て、イマジネーションを膨らませていたという。
それを聞いて、私も子供の頃の事を思い出した。
何十年も昔、私が子供の頃、私の住んでいる村は、本当に貧しかった。
テレビも無い時代。小さい私には、山々に囲まれた村が世界の全てだった。山の向こうの世界なんて想像も付かなかった。
今は一人で海外へも行く私を知っている友達は、信じられないと言うけど、小さい頃私は、人とあまり話が出来なかった。いつも下を向いて隠れているような、何か言われても思うように答えられない、父や母にもはっきりと自分の気持ちも言えない子だった。
だから、小学校に上がっても先生の質問にもまともに答えられない、音楽のテストで皆の前で歌えない、体操のテストでも跳び箱も鉄棒もダメ。でも、それなりにはテストの成績は良かった。
友達はいなかっけど、今と違っていじめられはしなかったし、寂しいとも思わなかった。
外から見れば、何を考えているか分からない子だっただろうけど、心や頭の中は、私だけの世界が一杯に広がっていた。
学校では図書館でたくさんの本を読んだ。
家で、手伝いの無い時には、窓から山や空や雲を見て自分の世界で遊んでいた。
夜の真っ暗な中、よく空を見上げて星座で物語を考え、宮沢賢治の銀河鉄道に乗って宇宙を旅した。
黄金に輝く満月を見上げながら、「いつか、私はあそこに帰って行く」と。
今でも、小さい私が、蛍がたくさん飛んでいる田んぼの傍で空を見上げている姿を、時々思い出す。
今住んでいる所は、私の一目惚れだった。
その時の稲城の駅の周りには、何も無かった。本当に何も無かった。
あるのは、どこかの田舎の駅に降りたのかと思われるような里山に囲まれ、でも、眼下には広い空の下に遠く都心が広がっていた。
満月の夜、仕事から帰って来て電車を降り、ホームから階段を上がって、改札を出ると、目の前に、どーーーんと大きな黄金のお月様が浮かんでいた。
どんなに感激した事か。
今は、改札の前にはお店が出来、里山も2/3が無くなってしまったが。
でも、満月の夜には、6階の私の家の玄関を開けると、目の前に大きな黄金のお月様が浮かんでいる。
真夜中、ふと目が覚めて、その満月の光を全身に浴びている事に気が付き、「あっ、変身するかも」と。
お月様は、私にも、イマジネーションを掻き立てる存在だった。
いつか、前澤氏が月旅行から帰って来て、その経験を語ってくれる事を楽しみにしている。