「老人タイムス」私説

昭和の一ケタ世代も高齢になりました。この世代が現在の世相をどう見て、考えているかーそのひとり言。

戦争裁判の不条理

2013-06-08 06:14:08 | Weblog
戦後オランダのマカッサル裁判で終身刑に処せられた秋山尚之海軍薬剤大尉の自分史「海軍薬剤官の想い出」を再読し、改めて戦争の不条理さを痛感した。オランダ側の訴状によると、秋山大尉はマカッサルにあった和蘭軍収容所で赤痢が発生した際、適当な措置をとらなかったというものである。その一例として秋山大尉は患者に”炭の粉”を与えたとある。

秋山氏(故人)によると”炭の粉”といってもただの粉ではなく活性炭素という薬品で、当時の日本では赤痢が発生すると、まず硫酸マグニシアで下剤し、絶食したあと活性炭を与えて下痢を止めるのが普通の療法であった。にもかかわらず、秋山氏は裁判の結果、終身刑を言い渡され戦後昭和31年まで、巣鴨プリズンに戦犯として収容された。

戦争中釜石の連合軍捕虜収容所の所長だった稲木誠陸軍中尉(故人)は、20年7月14日と8月9日の連合軍による二度にわたる艦砲射撃で捕虜を死なせたという理由で横浜法廷で7年間の刑を言い渡されている。この艦砲射撃で釜石市民472人が犠牲になっている。捕虜たちは稲木所長の命で、収容所近くの裏山のトンネルに避難したが、砲撃で山が崩れ生き埋めになってしまった。

戦後のBC級裁判の記録を調べると、上の二例に似たケースが多い。福岡県の炭鉱で強制労働させられていた捕虜たちの訴えで裁判にかけられたケースは、木の根を食べさせられたというものだったが、木の根は牛蒡であった。生活習慣の違いや言葉の障壁から沢山の方が犠牲になっている、戦争の不条理である。