子供の頃、岡本仁という指揮者が「オーケストラと合唱をやると、合唱がどうしても遅れて出てきて困るんだ。特に東京カテドラルみたいに響くと、もう大変」みたいなことを、盛んにおっしゃっていて、ふーんそうなのか、と思っていた。
それ以降、類似の現象は多々経験し、まぁそんなもんだ、と思ってとりかかるしかないな、と割り切ると、大して大変でもなくなった。
遅れるパートがあるならば、そのパートに早く合図を出すだけで遅れなくなる。当たり前田のマーシャ・クラッカワー。
ここで気になるのは、早く合図を出すと、正しく演奏しているパートも必要以上に早く飛びだしてしまうのではないか、ということ。
この心配は杞憂に終わる。
なぜならば、遅れるパートは、指揮者から遠い場所にあるパートであるからだ。近い場所にあるパート、つまり弦楽器は、指揮者をあまり見ていない。なので、意表をついて早めの合図などがあっても、幸か不幸か対応しないのである。
それで、パートの「入り」は解決できる。で、その後、淡々と進む弦楽器に照準を合わせて振っていくと、またもや遠くのパートは遅れはじめる。早めの合図で「正常に」出たパートに対しては、あくまでも早め早めに振り続けないとダメだったりする。
ではどうするのか?
向こうのパートとこちらのパート、二つのテンポを同時に振る、なんてことはできないので、拍がわからないようにグルグル手を回す。するとどうだ、ぴったり合ってくるではないか!
かくしてオーケストラも合唱も平和だが、不安なのは指揮者である。こんなんでええの?誰でもできるやん?
でも、大抵は、これでいいのだ、これでいいのだ、ボンボンバカボン・・・。
今度指揮する合唱団は、いくつかの合唱団の合同だが、年齢層がかなり高い。反応もかなりゆっくりだ。そのせいかどうか定かではないが、指揮棒を使うと歌えなくなり、素手で振ると歌えるようになる。
また、拍をはっきり出して振ると遅くなり、出さなくなるとちょうど良いテンポになる。だから、合唱団だけだと、拍を出さない振り方の方が断然良くなる。
この振り方でオーケストラは大丈夫なのか、少々不安はある。
でも、オケ側も「拍を出さない」振り方の方が、うまくいく時が結構ある。以前にも書いたが、ロシアのオーケストラは、拍を出すと音が濁るのだそうだ。
かくして、合図はしても拍を出さない一見風変りな振り方が誕生する。あとは念力。これしかないだろう。
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