原題は"Post Corona: From Crisis to Opportunity"。邦題からは前作『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界 』の続編的な位置づけのようであるが、GAFAについての記述は前半だけ。むしろコロナ禍がGAFA+Xなどのテクノロジー業界や米国社会へ与えた影響を考察したエッセイ。全体を通じては、コロナ中・後のビッグテックの動きや米国社会情勢を知るには良いが、目を開かれるような新しい情報や分析は多くはなかったというのが正直なところである。
そんな中で、3点、個人的に興味を引いた点をメモしておく。
1つは、GAFA+Xに代表されるビッグテックのビジネスモデルを「赤」と「青」で2分していること。
「青」は商品を製造コストより高い値段で売るモデル。アップルのiOSに代表される「高品質でブランド力あり高価格だが、裏で(ユーザの)データ利用されることが少ない」。「赤」は商品を無料で配り(あるいは原価以下で売り)他の企業に利用者の行動データを有料で提供するモデル。グーグルのアンドロイドのように、「まずまずの品質で初期費用が安いが、ユーザのデータとプライバシーを広告主に差し出さねばいけない」モデルである。動画サイトで言えば、青はNetflix、赤はYoutubeである。ほとんどのSNSは赤だ。筆者は「青」のモデルに期待を寄せ、X(ツイッター)も青のモデルに移行すべきと主張する。(マスク氏のXの有料化構想は、筆者の主張に沿う)。
2点目は、コロナの影響の見立てだ。GAFA+Xの支配は加速し、「少数のアメリカ企業による支配の始まり」が進んでいる。筆者は、テック企業の支配力の高まりが社会に及ぼす悪影響について警鐘を鳴らす。ビッグテックは「何も悪いことは起きてない」と自分たちの悪影響に対して無視を決め込む一方で、対立と分断をあおっている。様々なメディアで、米国の貧富格差の拡大や中間層の没落(普通に頑張って普通に豊かな生活を送れる時代の終焉)が指摘されるが、本書も指摘もその流れに沿ったものだ。
3つ目は、こうしたビックテックの暴走への歯止め策だ。筆者は、政府の役割を見直し、強力な政府が必要と主張する。教育など公共サービスの充実、独禁法規制の強化などとともに、一般市民は選挙を通じて、「政府を信じ、特定の個人に権力が集中することの脅威を理解し、科学を尊重する人」を選ぶことが主張される。ビジネススクールの教授が、政府の役割強化を主張するのも珍しいのではないかと思うが、そのこと自体が、事態の深刻さを物語っている。
これからの数十年で世界はどう変わっていくのだろう。明るい未来は想像が難しい。そんな感想を持たざるを得ない米国の今がある。
目次
イントロダクション
新型コロナは「時間の流れ」を変えた
「GAFA+α」はパンデミックでより強大になった
極小のウィルスが「特大の加速装置」になったわけ
危機はチャンスをもたらすが、それが平等とはかぎらない
痛みは「弱者にアウトソーシング」された
第1章 新型コロナとGAFA+X
強者はもっと強くなり、弱者はもっと弱くなる。あるいは死ぬ
危機を生き残れた企業がやったこと
ポスト・コロナで勃興する新ビジネス
「他人を搾取するビジネス」は危機にも最強
パンデミックはすべてを「分散化」させる
「ブランド時代」が終わり、「プロダクト時代」がやってくる
プロダクト時代を支配する「赤」と「青」のビジネスモデル
「赤」と「青」に分岐する世界
第2章 四騎士GAFA+X
加速する「GAFA+X」の支配
「GAFA+X」の3つの力の根源
搾取:GAFA+Xだけが持つ最強の装置「フライホール」
メディアはGAFA+Xの次なる主戦場
テック企業が大きくなれば問題も大きくなる
GAFA+Xに対抗する
GAFAが自らにかけた「成長」という呪い
最強の騎士アマゾン
青の騎士アップル
赤の2大巨頭、グーグルとフェイスブック
第3章 台頭するディスラプターズ
ディスラプタビリティ・インデックス
「加熱」の一途をたどるスタートアップ業界
ユニコーンの誕生
カリスマ創業者が語る「ヨガバブル」というたわごと
カネ余りとGAFAがディスラプターに力を与える
「最強のディスラプター」が持つ8つの特徴
勃興するディスラプターズ
第4章 大学はディスラプターの餌食
ディスラプションの機は熟している
大学に大変革を起こす力
パンデミックがディスラプションの引き金を引いた
大学を襲うディスラプションの大波
大学の改善に向けた提言
第5章 資本主義の暴走に対抗する
あまりにも無力になった政府
資本主義の功罪
資本主義のブレーキを握る政府の役割
資本主義(社会の階段を登る場合)+社会主義(社会の階段を降りる場合)=縁故主義
縁故主義と不公平
アメリカで生まれた「新たなカースト制」
搾取経済
政府のことを真剣に考えよ
政府がパンデミックですべきだったこと
ディスラプターズとの闘い
いましなければならないこと