シリーズ歴史総合を学ぶの最終巻(のはず)。歴史実践(歴史を日常生活の中で考える対象にしてその考えをもとに行動すること)の指南書である。筆者の歴史実践に対する熱意や使命感が痛いほど現れた力作。読みごたえたっぷりの新書だ。
歴史実践の考え方や方法論について紹介した後、新しく導入された「歴史総合」の具体的授業プランの一例として、「近代化」について人種主義の歴史、「国際秩序の変化や大衆化」については不戦条約の歴史、「グローバル化」については強制追放の歴史を取り上げる。歴史的出来事に対しての、比較や問いを通じて、テーマに関連させて、歴史的事実の意味合いや現代とのつながりを思索し、今を生きる読者に思考や行動のヒントを与える。
例えば「近代化」については、アメリカ合衆国での黒人奴隷、第2次大戦時のドイツのユダヤ人へのスタンス、近代日本のアイヌ人への人種主義等を比較し、それと国民国家の形成とクロスさせて歴史を考えると言った具合だ(第3講)。「歴史総合」の授業を受けるはずの一般の高校生にはレベルが高すぎるのではと思うが、私自身、筆者の歴史授業を受けてみたい。
本書の執筆にあたっては、言いたいこと、書きたいことが山のようにあるなかで、紙面の都合で相当の取捨選択があったのではと思わせる。私も読者として、一度の通読では筆者の思いは受け止められるものの、とても内容の十分な理解までは追いついていない。再読要の一冊となった。
(目次)
はじめに
第1講 私たちの誰もが世界史を実践している
1 どうしても世界史を学びたかった経験
2 私たちの歴史実践と二つの世界史
第2講 世界史の主体的な学び方
1 歴史実践の六層構造
2 世界史という歴史実践の再検討
3 歴史対話の五つの方法
第3講 近代化と私たち
1 奴隷や女性を主語にした歴史叙述の試み
2 人種主義に着目して国民国家を再考する
第4講 国際秩序の変容や大衆化と私たち
1 不戦条約を世界史に位置付ける
2 戦争違法化の歴史から「問う私」を振り返る
第5講 グローバル化と私たち
1 二〇世紀後半の民族浄化と強制追放を見つめる
2 ガザ回廊から二一世紀の日本へ
まとめ 世界史の学び方一〇のテーゼ
おわりに