その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

普通に良い公演: 新国オペラ、R.シュトラウス<サロメ>

2023-06-05 07:20:18 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

日頃、Twitterの音楽愛好家の皆さんのコメントを拝見していると激賛コメントに目に留まり勝ち(かくいう自分もポジティブに書きがちなので、気持ちはわかる)なのですが、「普通に良い公演」というのも多いかと思う。今回のサロメは、このプロダクションで相当長い間やっていて私も幾度も観ていることもあるかもしれないが、まさに「普通に良い公演」だった。

ただ「普通に良い」と言ってもサロメなので、終盤に向けての緊迫感や緊張感は胸をつぶされるようで、この作品の凄さを再認識させられる。毎度味わうこのドキドキ感は麻薬的だ。

今回、そのドキドキ感を特に引き立ててくれたのはコンスタンティン・トリンクスの指揮と東フィルの演奏。事前に「管弦楽が三管編成に縮小」とのアナウンスをHPで目にしていたので、小ぶりの演奏になるのではと不安だったのだが、全く見当違い。時折、歌手陣の歌をかき消すほどのパワーと緊迫感あふれる演奏だった。トリンクスの指揮は、細かくコントロールされたというよりは、おおらかに東フィルを鳴らさせるリードに取れたのだが、どうだろう。東フィルの書くプレイヤーの健闘が光った。

歌手陣は、このところ「エレクトラ」や「リゴレット」でかなり際立った歌い手を聴いていることもあってか、今回は全般的に小ぶりにまとまった感があった。題名役のアレックス・ペンダは尻上がりに狂気が増し迫力出てきたが、全体的にサロメとしてはキャラが立ってない気がした。特に、演技に表現の幅を感じることが少なく、サロメの成長感ももう一歩で、そこはちょっと残念。

ヨナハーン役のトマス・トマソンは、昨年のノット/東響のサロメでも同名役で出ていた際に、その威厳ある姿と迫力ある低音に魅せられた。今回もしっかりした低音は健在だったが、あの時の迫力と比べると声の通りも普通であった。演奏会方式と劇場の違いというのもあるのかなあ。

演技の点では、ヘロデ役のイアン・ストーレイのエロおやじぶりやヘロディアス役のジェニファー・ラーモアのはつらつとした悪親ぶりは舞台に躍動感を与えていた。

もう何度も観ている演出だが、アラビアンナイトのようなテントを王宮にみたた舞台は、特に色彩が淫靡で、作品の雰囲気にマッチしていて、私的にも好み。

今回唯一のソワレということもあってか会場は満員で、終演後は大きな拍手が寄せられた。学生さんも多かったように見え、劇場にはフレッシュな雰囲気も漂ってように感じられた。帰路に「全然わかんなかったよ~」という声も聞かれたが、まあ、そりゃそうだと思う。でも、オペラを若い人が体験するってとっても良いことで、いろんな意見で劇場全体が多様化、進化しながら、次の世代・時代に引き継がれるのだと思う。私がよく良く行くオーケストラとかは、明らかに年齢層が偏っていて、将来がとっても心配だ。若者割など、いろんなマーケティング施策が行われているが、とっても大事なことだと思う。

(2023年6月1日観劇)

 

2022/2023シーズン
リヒャルト・シュトラウス
サロメ
Salome / Richard Strauss
全1幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉
公演期間:2023年5月27日(土)~6月4日(日)
予定上演時間:約1時間40分(休憩なし)

スタッフ
【指揮】コンスタンティン・トリンクス
【演出】アウグスト・エファーディング
【美術・衣裳】ヨルク・ツィンマーマン

キャスト
【サロメ】アレックス・ペンダ
【ヘロデ】イアン・ストーレイ
【ヘロディアス】ジェニファー・ラーモア
【ヨハナーン】トマス・トマソン
【ナラボート】鈴木 准
【ヘロディアスの小姓】加納悦子
【5人のユダヤ人1】与儀 巧
【5人のユダヤ人2】青地英幸
【5人のユダヤ人3】加茂下 稔
【5人のユダヤ人4】糸賀修平
【5人のユダヤ人5】畠山 茂
【2人のナザレ人1】北川辰彦
【2人のナザレ人2】秋谷直之
【2人の兵士1】金子慧一
【2人の兵士2】大塚博章
【カッパドキア人】大久保光哉
【奴隷】花房英里子

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

 

2022/2023 SEASON
Music by Richard STRAUSS
Opera in 1 Act
Sung in German with English and Japanese surtitles
OPERA PALACE
27 May - 4 Jun, 2023 ( 4 Performances )

CREATIVE TEAM & CAST

CREATIVE TEAM
Conductor: Constantin TRINKS
Production: August EVERDING
Set and Costume Design: Jörg ZIMMERMANN

CAST
Salome: Alex PENDA
Herodes: Ian STOREY
Herodias: Jennifer LARMORE
Jochanaan: Tómas TÓMASSON
Narraboth: SUZUKI Jun
Ein Page der Herodias: KANOH Etsuko
5 Juden 1: YOGI Takumi
5 Juden 2: AOCHI Hideyuki
5 Juden 3: KAMOSHITA Minoru
5 Juden 4: ITOGA Shuhei
5 Juden 5: HATAKEYAMA Shigeru
2 Nazarener 1: KITAGAWA Tatsuhiko
2 Nazarener 2: AKITANI Naoyuki
2 Soldaten 1: KANEKO Keiichi
2 Soldaten 2: OTSUKA Hiroaki
Ein Cappadocier: OKUBO Mitsuya
Ein Sklave: HANAFUSA Eriko

Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra

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