その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

新国立オペラのフィレンツェ2部作:「フィレンツェの悲劇」(ツェムリンスキー)/「ジャンニ・スキッキ」(プッチーニ)

2025-02-09 07:36:55 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

今年の初オペラ。フィレンツェを舞台にした作品2本立てです。

前半、ツェムリンスキー〈フィレンツェの悲劇〉は初めてのオペラ。登場人物は、夫婦と妻の恋人の3名のみ。不倫関係を軸に展開する重苦しく陰鬱な物語です。

外国人歌手3名の迫力あるパフォーマンスが強い印象を残しました。グイード役ポメロイの低い歌声は地響きのよう。世間にもまれる、プライド高い商人を重厚感たっぷりに演じ、存在感が圧倒的でした。

ビアンカ役のヴァイスバッハも芯あって力強いソプラノ。ラストシーン、決闘後に再び夫の元に戻るシーンでの表情は複雑で、一筋縄ではいかない女性心理が表出されていたように見えました。

シモーネ役のマイヤーは今回が初ロールということです。ちょっと貴族の御曹司という感じは全くしないのにはちょっとずっこけましたが、厚みある美しいテノールです。

沼尻さん率いる大編成の東響の演奏も重厚感あふれ、舞台を大いに盛り上げました。舞台も美しく設計され、物語の世界に没入できるものでした。

オスカー・ワイルド原作で、「サロメ」的な女性の倒錯した愛が描かれているようです。ただ私には、家柄から筋肉へあっさりと愛を切り替えてしまうビヤンカの心理は全く理解できず、共感はちょっと難しかった。

後半はプッチーニの〈ジャンニ・スキッキ〉。このオペラは何度か見ています。プッチーニらしい、耳馴染みよい音楽が、前半とは180度雰囲気を変えてくれます。物語も真面目に取れば、遺産相続をめぐる人間の卑しさが表出されるドラマですが、本作品では無邪気なコメディとしての扱いで、それがとってもユーモラスで楽しい。

題名役のスパニョーリの振舞い、演技が絶品でした。コメディは主役の印象で特に大きく変わりますから、もう彼あってのこの舞台という感じです。

題名役以外は日本人歌手で固めていますが、その中ではラウレッタ役の砂田愛梨が群を抜いていました。アリア「私のお父さん」を声量たっぷりの美声で歌い切り、うっとり。

本作でも舞台が美しく、サイズを大きくした小道具も、人や騒ぎを矮小化して見せる効果もあるのかと楽しめました。両編通じて、原作を損なわずに、舞台イメージを膨らませてくれる素晴らしい演出。

フィレンツェを舞台にした悲劇・喜劇の組合せも、鑑賞者は両極端を味わえて、後味も良い。満足感一杯で劇場を後にしました。

(2025.2.6 観劇)

2024/2025シーズン
アレクサンダー・ツェムリンスキー
フィレンツェの悲劇
Eine florentinische Tragödie / Alexander Zemlinsky
全1幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉

ジャコモ・プッチーニ
ジャンニ・スキッキ
Jianni Schicchi / Giacomo Puccini
全1幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
公演期間:2025年2月2日[日]~2月8日[土]

予定上演時間:約2時間20分(フィレンツェの悲劇 60分 休憩 25分 ジャンニ・スキッキ 55分)

Staff&Castスタッフ・キャスト
【指 揮】沼尻竜典
【演 出】粟國 淳
【美 術】横田あつみ
【衣 裳】増田恵美
【照 明】大島祐夫
【舞台監督】CIBITA斉藤美穂

『フィレンツェの悲劇』
【グイード・バルディ】デヴィッド・ポメロイ
【シモーネ】トーマス・ヨハネス・マイヤー
【ビアンカ】ナンシー・ヴァイスバッハ

『ジャンニ・スキッキ』
【ジャンニ・スキッキ】ピエトロ・スパニョーリ
【ラウレッタ】砂田愛梨
【ツィータ】与田朝子
【リヌッチョ】村上公太
【ゲラルド】髙畠伸吾(2・4)、青地英幸
【ネッラ】角南有紀(2・4)、針生美智子
【ゲラルディーノ】網永悠里
【ベット・ディ・シーニャ】志村文彦
【シモーネ】河野鉄平
【マルコ】小林啓倫(2・4)、吉川健一
【チェスカ】中島郁子
【スピネッロッチョ先生】畠山 茂
【アマンティオ・ディ・ニコーラオ】清水宏樹
【ピネッリーノ】大久保惇史
【グッチョ】水野 優

【管弦楽】東京交響楽団

2024/2025 SEASON
Eine florentinische Tragödie
Music by Alexander Zemlinsky
Opera in 1 Act
Sung in German with English and Japanese surtitles

Gianni Schicchi
Music by Giacomo Puccini
Opera in 1 Act
Sung in Italian with English and Japanese surtitles

OPERA PALACE

2 Feb - 8 Feb, 2025 ( 4 Performances )

CREATIVE TEAM
Conductor: NUMAJIRI Ryusuke
Production: AGUNI Jun
Set Design: YOKOTA Atsumi
Costume Design: MASUDA Emi
Lighting Design: OSHIMA Masao

CAST
Eine florentinische Tragödie
Guido Bardi: David POMEROY
Simone: Thomas Johannes MAYER
Bianca: Nancy WEISSBACH

Gianni Schicchi
Gianni Schicchi: Pietro SPAGNOLI
Lauretta: SUNADA Airi
Zita: YODA Asako
Rinuccio: MURAKAMI Kota
Gherardo: AOCHI Hideyuki
 (On Feburary 2 and 4, TAKABATAKE Shingo takes on this role.)
Nella: HARIU Michiko
 (On Feburary 2 and 4, SUNAMI Yuki takes on this role.)
Gherardino: AMINAGA Yuri
Betto di Signa: SHIMURA Fumihiko
Simone: KONO Teppei
Marco: YOSHIKAWA Kenichi
 (On Feburary 2 and 4, KOBAYASHI Hiromichi takes on this role.)
La Ciesca: NAKAJIMA Ikuko
Maestro Spinelloccio: HATAKEYAMA Shigeru
Ser Amantio di Nicolao: SHIMIZU Hiroki
Pinellino: OKUBO Atsushi
Guccio: MIZUNO Yu

Orchestra: Tokyo Symphony Orchestra

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする