その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

「アラベッラ」 (R.シュトラウス) @新国立劇場

2014-05-26 20:38:28 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)


 プロダクションは実に美しい、歌手陣も良い、音楽は変化に富み、オケも悪くない・・・、でもどうも舞台への自分の投入度が弱く、感情移入できない・・・。そんな不思議なオペラ体験でした。

 フィリップ・アルローさんによる青を基調とした舞台は、非常に洗練されていて美しいです。森英恵さんの衣装によるタイトルロールのアラベッラのドレスも青で、舞台にとっても映えます。(舞台写真はこちらをご覧ください→)

 歌手は、私が座った劇場最後部である4階4列までガンガンに響くマンドリカ役のヴォルフガング・コッホさんの凄い声量に圧倒される一方で、アラベッラ役のアンナ・ガブラーさんとその妹ズデンカ役のアニヤ=ニーナ・バーマンさんの美声にはうっとりです。アンナ・ガブラーさんはアラベッラ役は初めてということで、細かい歌唱や演技はまだまだ良くなると思いましたが、声量十分のソプラノや舞台映えする容姿は、プライド高い貴族の娘アラベッラにぴったり。更に、嬉しかったのはズデンカ役のアニヤ=ニーナ・バーマンさん。これぞズボン役と言っても良い短髪がお似合いの顔立ちと体形、そして少年のような動きで、舞台が実にイキイキとしていました。

 音楽は、優美なウイーン風のメロディから、シリアスで劇的なところまで多種多様。シュトラウスの重層的で変化がある音楽は、聴く者の耳を大きくします。東フィルも頑張っていました。

 が、が、・・・何か、物足りない・・・。「画竜点睛を欠く」ような、そして、その「点睛」が何かを、具体的に言葉で説明できないのが、万年素人の私のオペラ観劇の悲しさなのですが、個々のパーツを統合した一体感、求心力のようなものを感じ取れなかったのです。歌手とオケ、歌手どおしの相乗効果が薄く、個々の独立したパフォーマンスのような印象を受けました。稽古に時間を十分に取れなかったのかなあ~と思ったり、またこのオペラそのものがやや冗長で引っ張り過ぎのところも感じるし・・・、そもそも私の体調も十分で無く、特に一幕ではウトウトしてしまったところもあったし・・・、などなど色んな仮説が頭をよぎりますが、何が本当のところかは分かりません。カーテンコールは大きな拍手でしたが、指揮者のベルトラン・ド・ビリーさんに大きくブーイングしていた方がいらっしゃいましたので、指揮者に難ありと思った方もいらしたようです。

 でも、逆説的なのですが、こういう議論を呼ぶような公演は個人的に「好き」です。日本では、批評を専門とされている方だけでなく、ツイッタ―とかの意見も、比較的「褒めて伸ばす」風、悪く言うと「褒め殺し」コメントが多い気がするのですが、しがらみの無い我々一般愛好者は、感じたことをストレートに舞台にも、ネットにも表出したいですね。それが、日本のオペラやクラシック界を盛り上げると思います。そういった意味で、この公演も「素晴らしかった」発言が95%のようなので、もっと意見が割れても良い気がしますが、単に私がマイノリティなのか?

 私にとっては、この公演で新国立オペラの13-14年シーズンは終了(公演としてはまだ「鹿鳴館」があります)。このシーズンは、コルンゴルト「死の都」、ベルクの「ヴォツェック」、今回のシュトラウス「アラベッラ」と、私にとって初見の作品を3つも観ることができて大満足です。来シーズンは、プログラム的には定番メニュー中心のようですが、音楽監督さんも飯守さんに交代になりますので、どんな変化、変革が起こるかとっても楽しみです。日本のオペラも十分、欧州に肩を並べるレベルになって来ていると思うので、是非、欧州後追いでなく新しい挑戦や試みを期待したいです。


≪第2幕終了後≫


 2014年5月25日 14:00開演


スタッフ
指揮:ベルトラン・ド・ビリー
演出・美術・照明:フィリップ・アルロー
衣裳:森 英恵

キャスト
ヴァルトナー伯爵: 妻屋秀和
アデライデ: 竹本節子
アラベッラ: アンナ・ガブラー
ズデンカ: アニヤ=ニーナ・バーマン
マンドリカ: ヴォルフガング・コッホ
マッテオ: マルティン・ニーヴァル
エレメル伯爵: 望月哲也
ドミニク伯爵: 萩原 潤
ラモラル伯爵: 大久保光哉
フィアッカミッリ: 安井陽子
カルタ占い: 与田朝子

合 唱 新国立劇場合唱団
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団


Staff

Conductor:Bertrand de BILLY
Production, Scenery, Lighting Design: Philippe ARLAUD2
Costume Design: MORI Hanae

Cast

Graf Waldner: TSUMAYA Hidekazu
Adelaide: TAKEMOTO Setsuko
Arabella: Anna GABLER
Zdenka: Anja-Nina BAHRMANN
Mandryka: Wolfgang KOCH
Matteo: Martin NYVALL
Graf Elemer: MOCHIZUKI Tetsuya
Graf Dominik: HAGIWARA Jun
Graf Lamoral: OKUBO Mitsuya
Die Fiaker-Milli: YASUI Yoko
Eine Kartenaufschlagerin: YODA Asako
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする