なぜ、私に話しかけてきたのか。
驚いてその声の方を見上げると、
年配のご婦人だった。
互いの病状について触れることはない。
そこから先はなんとなく
当たり障りのないことをぽつぽつ話しながら
順番を待った。
あの時、ご婦人とどんな言葉を交わしたのか
覚えていないが、今日限り二度と会うことはないだろう
という安心感の中、互いに言葉ではないもので
励まし合っていたあの時間を
心の交流と言ってもいいのではないかと思う。
施術前の不安と緊張からだろう。
ご婦人の顔をはっきり思い出せない。
記憶の中でぼやけていくその顔を
「愛顔」と言うのはおかしいのかもしれない。
けれど、不安で体が冷え切っていた私に
あたたかいお茶をくださった、
あの沁みゆくお茶を忘れることができず、
柔和な雰囲気をまとったご婦人は、
確かに上品な「愛顔(えがお)」だった。