小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「診療所でみる子どもの皮膚疾患」(中村健一Dr.著)

2016年06月30日 07時33分55秒 | アトピー性皮膚炎
診療所でみる子どもの皮膚疾患」(中村健一著)
 日本医事新報社、2015年発行

 小児科を開業している私にピッタリの内容です。
 中村先生は以前から「日経メディカル」で連載を担当し、現場で実際に困っていることを丁寧に教えてくれるのでファンでした。
 その先生が連載を元にまとめた本(小児も診たい皮膚科医向け)を書いてくれたことを知り、早速購入して読んでみました。

 系統だった堅苦しいテキストと異なり、小児科医の日常診療でも役立つ情報が満載。
 縁がないけど知りたいダーモスコピー、日進月歩のレーザー治療の記述は勉強になりました。
 なかでも皮膚の所見の取り方は基本中の基本、繰り返し読み返したい項目です。
 「巻き爪の原因は深爪である」と言い切る所なんて小気味よい!

 補助金のない開業医には必須の知識である保険診療も考慮されています。
 アトピー性皮膚炎の項では「皮膚科外来の中でも最も時間のかかる診療となるため、覚悟する」と前置きし、本音トークが炸裂(^^;)。

「アトピー性皮膚炎の治療には時間がかかります。恐ろしく非効率的で“儲からない”患者です」
「時間をかけて、相手の話を聞いて、こちらの治療方針を細かく説明・実技指導していると、今の診療報酬では圧倒的に安すぎます。」

 ああ、だから近隣の皮膚科医は軟膏を渡すだけの治療になりがちなんだ・・・これは国の保健行政による誘導であり、医師の責任ではありませんね。

<メモ> 〜自分自身のための備忘録

■ 丘疹、結節、腫瘤、局面の相違点 ・・・すべて「盛り上がる皮膚」の名称
・丘疹:直径10mm以下
・結節:直径10-20mm
・腫瘤:直径30mm以上で増殖傾向があるもの
・局面:幅広く扁平に隆起する状態、おおむね30mm以上の大きさ
→ 上記から外れる、「20-30mm」のものはなんと呼ぶべきか?
さらに個性的な形容詞が加わります。
 半球状、ドーム状、広基性、扁平隆起性、尖圭状、有茎性、臍窩状、など

■ 原発疹のいろいろ
・平らである:斑
・盛り上がる:丘疹、結節
・水分で盛り上がる:水疱
・閉鎖された何かによるもの:膿疱、嚢腫
・真皮の浮腫によるもの:膨疹(膨隆は医学用語ではありません)
※ 続発疹:鱗屑、びらん、胼胝、萎縮など

■ 皮膚所見を表現する皮膚科医のテクニック
・赤鬼様顔貌:アトピー性皮膚炎患者にみられる顔面のびまん性発赤
・牡蛎殻状鱗屑:牡蛎(食べるカキ)のような、ボコボコの硬い鱗屑
・ドーム状隆起:東京ドームのような隆起
・堤防状隆起:周囲が盛り上がっている隆起
・ターゲット状紅斑:多形滲出性紅斑の時に見られる
・貨幣状:コインのような形の湿疹

■ 軟膏は「安全」
 塗りごごちはローション>クリーム>軟膏だが、
 安全性(刺激の少なさ)は軟膏>クリーム>ローション

 軟膏はワセリン(油)を基剤とし
 クリームは水と油を乳化して混合したもの(さらにO/W型とW/O型に分かれる)
 ローションはアルコールなど液体の基剤と主剤を混合したもの

■ 薬疹を疑ったとき、「粘膜のびらん」と「眼脂」は見逃してはいけない重症化兆候

■ ステロイド外用で治らない皮疹、新たに出る皮疹
 ステロイドは抗炎症作用を発揮するとともに、同時に細菌の増殖も生じ、(多発性)毛包炎ができることがある。
 この場合の治療は抗菌薬軟膏(アクアチムクリーム®、フシジンレオ®)を使用する。

■ 突発性発疹
 HHV6/HHV7というウイルスによる感染症。2回罹ることがある(不顕性感染率30%)。ほとんどの小児が2-3歳頃までに抗体陽性となる。
 治った後も体の中に潜伏し、唾液から常に排出し続ける
 薬剤性過敏症症候群(DIHS:drug induced hypersensitivity syndrome)という薬疹ではこのウイルスが再活性化する。

■ EBウイルス感染症の年齢依存性の表現形
 3歳まで:ジアノッティ・クロスティ症候群
 3歳以降:伝染性単核球症かジアノッティ・クロスティ症候群のどちらか
 中学生頃:伝染性単核球症
※ 伝染性単核球症の発疹出現率は10-20%。ペニシリン系/セフェム系の薬疹を高率に合併する。
※ 2016年7月のNHKラジオ「健康ライフ」では、「伝染性単核球症の原因はEBウイルスが最多でサイトメガロウイルスのこともあり、近年HIVも無視できなくなってきた」とのことです。

■ おむつ皮膚炎
 「糞便・尿による刺激性の接触皮膚炎」「皮膚にとって最悪の“浸軟”状態」「摩擦」がキーワード。
 対策はサトウザルベ®(亜鉛華単軟膏)をべったりと分厚く塗り保護すること。
 ステロイド外用薬は“アレルギー性接触皮膚炎”と判断したときに使用する最後の切り札であり、刺激性の接触皮膚炎レベルのおむつ皮膚炎には必要ない。カンジダや膿痂疹ではない、手足口病でもない、でも治らないな・・・アレルギー性接触皮膚炎があるのかもしれない・・・ここでようやくステロイド外用薬の出番(使用期間は上限4-5日)。

■ 乳児の脂漏性皮膚炎
 マラセチアという常在真菌に対する反応。
 乳児の顔面にできる湿疹は、脂漏性皮膚炎であるのか、アトピー性皮膚炎であるのか区別がつかない。強いていえば、アトピー性皮膚炎は湿潤傾向が強く、授乳時に顔面を母親にこすりつけるような仕草がある。
 乳児の脂漏性皮膚炎は「待てば治る」(3-6ヶ月程度で自然に治る)、治らない場合はアトピー性皮膚炎を考える。
 脂漏性皮膚炎・長引く新生児ざ瘡、それに汗疹などが加わると何が何だかわからなくなり、皮膚科医は「乳児湿疹」という言葉で解決しようとする。つまり「乳児湿疹」とは乳児期に発症する湿疹の総称である。が、最も多い疾患はおそらくこの脂漏性皮膚炎だと考えられている。
 治療はスキンケアとヘパリン類似物質軟膏で十分である。脂漏部位に保湿剤というのは変に聞こえるが、生後3ヶ月を過ぎると脂漏が治まり乾燥肌になるので、早めに保湿し予防すると考える。
 記念撮影用にIV群ステロイド軟膏を使用するのは可。

■ 手湿疹
 小児の手湿疹は刺激性接触皮膚炎が大半。掻痒感が激しい場合は、アトピー性皮膚炎、疥癬を鑑別する。
 ステロイド外用薬(III群)とハンドクリーム(W/O型クリームのパスタロンソフト軟膏など)でコントロールする。

■ 皮脂欠乏性湿疹
 小児はほぼ全員、乾燥肌で小学校低学年まで続く。
 多少、掻痒感があっても保湿剤をたっぷり外用すればコントロールできる。
(例)ヘパリン類似物質軟膏、尿素軟膏(W/O型)、ビタミンA油(ザーネ®)軟膏、白色ワセリン(プロペト®)、亜鉛華単軟膏(サトウザルベ®)

■ 舌なめ皮膚炎
 IV群のステロイド外用薬(アルメタ®軟膏など)で十分。
 注意すべきは食物によるアレルギー性皮膚炎を生じ、やがて魚介類などの食物アレルギーに陥ってしまう可能性があるので積極的に治すべきである。

■ 汗関係の湿疹/皮膚炎
□ 汗疱:掌蹠、手指足蹠側縁などに生じる小水疱ないしは鱗屑の集まりで、炎症がない単なる水疱を汗疱といい、炎症がある発赤鱗屑などが目立つものを異汗性湿疹と呼ぶ。かゆみはピンキリ。一部の症例で金属(クロム、ニッケル、コバルト)の摂取で発症することがある。治療は吸収の悪い部位なので、やや強めのIII群を使用。
※ 長い間、「汗の貯留によるもの」なのか、それとは関係のない「単なる湿疹」なのか、論争が続いていたが、最近、ダーモスコピー、光コヒーレンストモグラフィーの活用により「汗と関わりのある病態でしょう」との結論に近づきつつある。
□ 汗疹:できる場所により名前が違う・・・角層内は水晶様汗疹、表皮内は紅色汗疹、真皮内は深在性汗疹。水晶様汗疹は治療不要。紅色汗疹/深在性汗疹で掻痒を伴う場合はIV群ステロイド外用薬で十分。

■ じんましん
 皮膚科開業医の外来で経験するじんましんは、ほとんど(9割)が「原因がわからない」もの。
※ 血管性浮腫:じんま疹の特殊型で、口唇が腫脹し2-5日間持続する。
 治療は抗ヒスタミン薬の内服で、外用薬は補助的(レスタミンコーワ®で十分)、ステロイド外用薬は膨疹には無効(ただし掻破した二次的な湿疹には有効)。

■ 薬疹
 小児の薬疹はまれであり、薬疹を疑う症例のかなりの部分がウイルス感染症の可能性が高い。
 粘膜症状(口腔内、眼球/眼瞼結膜)は重症化兆候、見逃してはいけない。失明の危険がある。
 内服開始と皮疹出現の時期の関係:T細胞の感作まで、通常は5日間かかる。初めての薬剤ならば内服してから5日以上で感作が成立し、その日以降、だいたい1-2週間で薬疹が出る。すでに感作されている場合は、再内服後2日程度で皮疹が出る
 確定診断は「内服試験」であるが、当然危険が伴う。
 治療は原因薬剤の中止と抗ヒスタミン薬内服。かゆみが強ければステロイド外用(III/IV群)。
 抗ヒスタミン薬が無効の際は、倍量投与、それでもだめならステロイド内服となるが、「免疫再構築症候群」の問題もあるので基幹病院へ紹介すべし。

■ わかりにくい「母斑」と「メラノサイト」の関係
 母斑細胞:神経堤由来の細胞。神経堤からメラノサイトかシュワン細胞に分化する予定の細胞が、そこまで分化しないで途中下車してしまったのが母斑細胞。
□ 母斑細胞母斑:メラノサイト系の増殖、あるいはメラノサイト系の良性腫瘍であり、決して「メラノサイトそのもの」ではない。どの細胞の概念にも当てはまらない奇形的な細胞。よくある「ほくろ」はこれで、母斑細胞が集団で増殖している状態。
□ 太田母斑:真皮のメラノサイト増殖と表皮基底層のメラニン沈着。Qスイッチレーザー(ルビー、アレキサンドライト)による治療が保険適用となったため、ほぼ完全に治癒できる。1回の照射で治るものではなく、数ヶ月間隔で行う場合もあり、満足のいく状態になるまで数年ないしそれ以上の年数を要することがある。
□ 脂線母斑:皮膚脂腺を含むいろいろな成分の奇形的増殖。母斑細胞はない。

■ イチゴ状血管腫
 毛細血管内皮細胞の良性増殖。母斑の中の「血管性母斑」であるとともに「血管系腫瘍」の性格もある。
 1歳頃にピークを迎え、以後徐々に消退する(学童期前に消失する例が多い)。
 かつては「経過観察」であったが、消退後も瘢痕が目立つ例が多いので、今は早期に発見し色素レーザーで治療する方向となっている。

■ 赤あざ(単純性血管腫)
 毛細血管奇形、つまり母斑である。
 サーモン・パッチ:2歳頃までに自然消退する。
 ウンナ母斑:一旦消失後、成人に舏るとまたするすると出現する。
※ 欧米ではウンナ母斑は「項部に生じたサーモン・パッチ」と表現されているらしい。
 ポートワイン母斑:自然消退しない。経過を慎重に観察し、色素レーザー治療を行う(成人になり盛り上がることがあるため)。
※ 顔面三叉神経領域のポートワイン母斑では Sturge-Weber症候群を疑う。

■ 脂線母斑
 頭部の黄色調脱毛斑。「脂腺」という名が誤解のもとであり、「類器官母斑」と表現するのが妥当。
 従来、教科書には「将来基底細胞癌が発症?」との記載されてきたが、現在では悪性度の低い腫瘍の発生がほとんどであることがわかってきた。
 良性腫瘍の発生する確率:15%
 悪性腫瘍の発生する確率:1%以下

■ 稗粒腫
 目の周りによくある白い嚢腫。軟毛の表皮嚢腫。放置可。

■ 異所性蒙古斑
 メラノサイト系母斑。真皮に存在するメラノサイトが増殖した状態。
 蒙古斑は通常消退するが、異所性で色調の濃いものは消退しないことがある。Qスイッチ(ルビーあるいはアレキサンドライト)レーザーで治療する。

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