第6回群馬小児アトピー性皮膚炎学術講演会(2016.6.30)に参加し、アトピー性皮膚炎に対するプロアクティブ療法の伝道師である福家辰樹先生のお話を聴いてきました。
<参考>
■ 「アトピー性皮膚炎の外用療法-プロアクティブ療法」 (Clinical Derma, 2014年冬号)
■ 「小児アトピー性皮膚炎」(第9回 日本小児耳鼻咽喉科学会)
相変わらずまじめで腰の低い先生だなあと感心した次第です(^^)。
講演で印象に残った事項を2つ。
1.異所性汗疱
中等症以上のアトピー性皮膚炎に対するプロアクティブ療法中に、全身の皮疹は軽快したタイミングで手掌/足底にとてもかゆい皮疹が出ることが報告されています。
なかなかやっかいで、ステロイド外用薬の副作用を疑って治療を弱めると、手湿疹として難治化・遷延化するとのこと。
福家先生の勤務先である国立成育医療センターでは、II群(Very Strong)をしっかり使って押さえ込むことでしのいでいるそうです。
私は汗関係の皮疹が遷延した場合、漢方薬を処方しています。漢方医学では、汗が出やすい状態を「表虚」と捉え、皮膚の機能が落ちていると考えます。その表虚には黄耆という生薬が有効です。多汗症で手の皮が剥けやすい患者さんに黄耆入りの方剤(黄耆建中湯、桂枝加黄耆湯)を飲んでいただくと、汗の出方が変わり改善する例が多く、リピーターが結構います。
実はこの汗疱、私自身経験があります。中学生〜大学生時代に、夏が近づくと手の指の付け根付近に小さな硬い水疱がいくつかでき、たまらなく痒いのでした。あまりにも痒いので近所の皮膚科も標榜している外科系病院を受診したところ、担当医師は皮膚科の本をペラペラめくって「うん、これが一番近い」と指さしたのが「Hebra湿疹」という、現在は消えてしまった怪しい皮膚病でした(^^;)。何回か通って注射を打ちましたが、効いたような効かないような・・・でドロップアウト。1-2ヶ月くらいで萎んで皮が剥けて自然に治ることがわかり、それ以降は医者に行かずにいます。
2.フィラグリン遺伝子変異による手のしわ(hyperlinearity)
手掌のしわが多い(掌紋増強、hyperlinearity)患者さんはフィラグリン遺伝子変異が見つかる頻度が高いということを、写真を交えて提示されました。とてもわかりやすい。
ぜひ診察に取り入れて、手のひらをよく観察したいと思います。
実は約1年前に、小児難治喘息・アレルギー疾患学会で彼の講演を聴いたことが、当院でプロアクティブ療法を導入するきっかけになりました。
紆余曲折を経て、最近ようやく手応えを感じつつあります。
特に生後2ヶ月前後で湿疹の相談にみえる赤ちゃんにしっかりスキンケアを指導するとともに反復遷延例にプロアクティブ療法を導入すると、肌がキレイになってしまうので、アレルギー検査の必要性を忘れてしまうのですね。
ただ、プロアクティブ療法を勧める課程で、いろいろな疑問が発生しました。
そのうちのいくつかを講演終了後に質問させていただきました。
□ ステロイド外用薬塗布間隔を開けていく過程で、塗る範囲と塗る量は初期のまま維持すべきか?
ステロイド外用薬を2週間ほどしっかり塗るとほとんどの皮疹が消えてキレイな肌になります(寛解導入)。
その後1日おき、2日おきと塗布間隔を開けていくことになりますが、キレイな皮膚にたっぷりステロイド外用薬を塗ることに、どうしても患者さんは抵抗感を覚えてしまいます。相談しながらそれなりに減らしていくのですが・・・しかし、範囲と量を減らしていいとはっきり書いてある文献が見当たらず、困っていました。
福家先生に質問したところ、「皮疹の改善に伴い、塗布範囲と量が自然に減っていくのはかまわない。FTUの半分位までは大丈夫」との回答をいただき、自分たちの方針が間違っていないことが確認できました。
□ 眼周囲のプロアクティブ療法
目の周りはステロイド外用薬の副作用による緑内障のリスクがあるので、できるだけ使わないのが原則です。
しかし、プロアクティブ療法では、湿疹が治った後も定期的に長期間塗ることになり、どうしても副作用が気になってしまいます。
この質問に、「100%安全と言い切れないが、自分たちの施設ではプロアクティブ療法中のステロイド緑内障の経験はない、2歳以降は緑内障のリスクがないプロトピック軟膏へ変更している」との回答。
□ プロアクティブ療法は何年も続けても安全?
プロアクティブ療法の維持療法は週2回治療薬を塗る方法です。そこまでたどり着いた患者さんは、どれだけ続けるべきなのか・・・何年続けても安全なのか、疑問がありました。
福家先生の回答は、「文献では1年以上経過を追った報告はない。アメリカでは、1年以上の処方が許されていないステロイド外用薬もある。ただ、自分たちの施設では年余にわたるプロアクティブ療法中に皮膚萎縮を来した例は経験していない。」とのこと。
講演終了後は、群馬大学小児科アレルギーグループの先生方と旧交を温めて、帰路につきました。
充実した一夜になりました。
明日からの診療に役立てたいと思います。
<参考>
■ 「アトピー性皮膚炎の外用療法-プロアクティブ療法」 (Clinical Derma, 2014年冬号)
■ 「小児アトピー性皮膚炎」(第9回 日本小児耳鼻咽喉科学会)
相変わらずまじめで腰の低い先生だなあと感心した次第です(^^)。
講演で印象に残った事項を2つ。
1.異所性汗疱
中等症以上のアトピー性皮膚炎に対するプロアクティブ療法中に、全身の皮疹は軽快したタイミングで手掌/足底にとてもかゆい皮疹が出ることが報告されています。
なかなかやっかいで、ステロイド外用薬の副作用を疑って治療を弱めると、手湿疹として難治化・遷延化するとのこと。
福家先生の勤務先である国立成育医療センターでは、II群(Very Strong)をしっかり使って押さえ込むことでしのいでいるそうです。
私は汗関係の皮疹が遷延した場合、漢方薬を処方しています。漢方医学では、汗が出やすい状態を「表虚」と捉え、皮膚の機能が落ちていると考えます。その表虚には黄耆という生薬が有効です。多汗症で手の皮が剥けやすい患者さんに黄耆入りの方剤(黄耆建中湯、桂枝加黄耆湯)を飲んでいただくと、汗の出方が変わり改善する例が多く、リピーターが結構います。
実はこの汗疱、私自身経験があります。中学生〜大学生時代に、夏が近づくと手の指の付け根付近に小さな硬い水疱がいくつかでき、たまらなく痒いのでした。あまりにも痒いので近所の皮膚科も標榜している外科系病院を受診したところ、担当医師は皮膚科の本をペラペラめくって「うん、これが一番近い」と指さしたのが「Hebra湿疹」という、現在は消えてしまった怪しい皮膚病でした(^^;)。何回か通って注射を打ちましたが、効いたような効かないような・・・でドロップアウト。1-2ヶ月くらいで萎んで皮が剥けて自然に治ることがわかり、それ以降は医者に行かずにいます。
2.フィラグリン遺伝子変異による手のしわ(hyperlinearity)
手掌のしわが多い(掌紋増強、hyperlinearity)患者さんはフィラグリン遺伝子変異が見つかる頻度が高いということを、写真を交えて提示されました。とてもわかりやすい。
ぜひ診察に取り入れて、手のひらをよく観察したいと思います。
実は約1年前に、小児難治喘息・アレルギー疾患学会で彼の講演を聴いたことが、当院でプロアクティブ療法を導入するきっかけになりました。
紆余曲折を経て、最近ようやく手応えを感じつつあります。
特に生後2ヶ月前後で湿疹の相談にみえる赤ちゃんにしっかりスキンケアを指導するとともに反復遷延例にプロアクティブ療法を導入すると、肌がキレイになってしまうので、アレルギー検査の必要性を忘れてしまうのですね。
ただ、プロアクティブ療法を勧める課程で、いろいろな疑問が発生しました。
そのうちのいくつかを講演終了後に質問させていただきました。
□ ステロイド外用薬塗布間隔を開けていく過程で、塗る範囲と塗る量は初期のまま維持すべきか?
ステロイド外用薬を2週間ほどしっかり塗るとほとんどの皮疹が消えてキレイな肌になります(寛解導入)。
その後1日おき、2日おきと塗布間隔を開けていくことになりますが、キレイな皮膚にたっぷりステロイド外用薬を塗ることに、どうしても患者さんは抵抗感を覚えてしまいます。相談しながらそれなりに減らしていくのですが・・・しかし、範囲と量を減らしていいとはっきり書いてある文献が見当たらず、困っていました。
福家先生に質問したところ、「皮疹の改善に伴い、塗布範囲と量が自然に減っていくのはかまわない。FTUの半分位までは大丈夫」との回答をいただき、自分たちの方針が間違っていないことが確認できました。
□ 眼周囲のプロアクティブ療法
目の周りはステロイド外用薬の副作用による緑内障のリスクがあるので、できるだけ使わないのが原則です。
しかし、プロアクティブ療法では、湿疹が治った後も定期的に長期間塗ることになり、どうしても副作用が気になってしまいます。
この質問に、「100%安全と言い切れないが、自分たちの施設ではプロアクティブ療法中のステロイド緑内障の経験はない、2歳以降は緑内障のリスクがないプロトピック軟膏へ変更している」との回答。
□ プロアクティブ療法は何年も続けても安全?
プロアクティブ療法の維持療法は週2回治療薬を塗る方法です。そこまでたどり着いた患者さんは、どれだけ続けるべきなのか・・・何年続けても安全なのか、疑問がありました。
福家先生の回答は、「文献では1年以上経過を追った報告はない。アメリカでは、1年以上の処方が許されていないステロイド外用薬もある。ただ、自分たちの施設では年余にわたるプロアクティブ療法中に皮膚萎縮を来した例は経験していない。」とのこと。
講演終了後は、群馬大学小児科アレルギーグループの先生方と旧交を温めて、帰路につきました。
充実した一夜になりました。
明日からの診療に役立てたいと思います。