小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「麻疹が流行する国で新型インフルエンザは防げるのか」

2009年06月07日 12時16分53秒 | 感染症
岩田健太郎著、亜紀書房、2009年発行。

著者は新進気鋭の感染症学者です。
現在騒いでいる新型インフルエンザへの政府の対応は端で見ていてもやきもきするレベルでしたが、岩田先生がブレインになって少し落ち着いてきたとの噂もあります。

小児科の開業医を受診する患者さんの約8割は風邪を含めた感染症です。
しかし、医学生時代の講義は珍しい代謝異常などの解説がメインで、感染症にあまり重きを置かれていませんでした。
なぜなんだろう?
その答えの一つがこの本に書かれていました。
それは感染症の「あいまいさ」。
「病原微生物に触れたからといって感染するとは限らない。感染したとしても必ずしも発症しない。発病したとしても極めて大きな個人差がある」ということ。
一方、先天性代謝異常疾患では発症の確率が数字で出せますし、疾患のメカニズムも解明され、治療法も明確です。

実際、感染症に関する知識は、医者になって現場で患者さんと対峙しながら勉強して知識を増やしていく要素が大きいのです。
小児科医の私自身、自分の診療内容が5年前、10年前とは少しずつ異なってきていると自覚しているくらい。
抗生物質の処方率も随分減りましたし、西洋医学では解決できない訴えには漢方薬の力を借りるようにもなりました。

され、本書は日本における矛盾に満ちた感染症治療の現場からの報告、といった内容です。
日本以外での診療経験もある著者は、日本の感染症行政の欠点も見事に指摘しています。
現場の私には「ウンウン」と頷けることばかりで「よくぞ言ってくれた!」と拍手したいところも多々あります。
一般読者の他、感染症治療に関わるすべての医師に読んでいただきたいお薦めの本です。


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