かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

4.死神現る。その2

2007-10-08 23:04:41 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
 夢の中で、早くも鬼童は麗夢が来るのを待っていた。
「お待ちしてましたよ、麗夢さん」
 情景は、今し方入ったばかりの鬼童研究所睡眠実験室のそれと寸分変わらない。レム睡眠波動の強力なエネルギーを覚えなければ、まだ寝てないと言われればそう信じ込んでしまうくらい、その様子は良くできていた。
「すごいじゃない、鬼童さん。自分の夢の中で自由に動けるなんて!」
「ええ、おかげさまで大分コントロールできるようになりましたよ」
 麗夢の驚きも無理はない。通常、人は夢を見ている最中、非常に明瞭な知覚を維持する一方で、それを客観的に感じる能力は著しく低下する。これは脳内で合成される化学物質の影響で、大脳の、知覚を担当する部分の活動が活発になる一方で、判断力や認識力を担当する部分の活動が抑え込まれるためである。この、思考を司る部分が抑制されるため、夢の中では人はまともに考えることが出来ないし、自分の周りで生じている異常事態を異常である、と認識する事もできない。つまり夢に呑み込まれている状態になる。だが、訓練によってこの抑制を制御出来れば、夢に居ながらにして、その事を自覚し、理性的かつ客観的に夢を観察できるようになる。これが、明晰夢である。鬼童は早くからその訓練に勤しみ、いまや、自分の夢をかなり自由にコントロールできるまでになっていた。この、自分の夢を自分で制御する力を究極的に発動できる人が、麗夢のようなドリームガーディアン能力を持つのではないか、と鬼童は考えている。そこで麗夢に自分の夢を提供する見返りに、麗夢から、この夢の中で得られるだけのデータを得ようと、わざわざ夢を自分の実験室に塗り替えたのである。夢の中とは言え、この部屋ならばあらゆるセンサー類が鬼童の知る通りの性能を発揮し、そのデータはコンピューターで処理されてモニターに表示させることができる。その数値を見て記憶しておけば、目覚めた後でも内容の吟味が可能になるのだ。
 鬼童は、麗夢の賞賛に笑顔を閃かせながら言った。
「取りあえず、始めて下さい。その間、麗夢さんやアルファ、ベータのデータを収集させて貰いますから」
 鬼童は白衣を翻して、壁際の装置端末に取り付いた。麗夢も頷いて足元のアルファ、ベータに呼びかけた。
「じゃあ、アルファは美奈ちゃん、ベータはハンスさんの波動を探して。私は夢見さんのを探してみるわ」
「にゃん!」
「ワン!」
 威勢良く返事した二頭が、記憶にあるそれぞれの人物の精神波動を拾うべく、目をつぶって軽く頭を下げた。麗夢も意識を夢見小僧に集中し、鬼童の夢から、無形のアンテナをゆっくりと外へと伸ばしていく。やがてアルファとベータがほぼ同時に耳をぴくっと動かし、二人の波動を捉えた事を麗夢に告げた。麗夢も、一瞬遅れて夢見小僧らしき波動をキャッチした。だが、それらはあまりに弱く、場所を特定するところまでは難しかった。アルファ、ベータもしきりに鼻を鳴らして波動を鮮明に捉えようと躍起になったが、その場で得られる情報には限りがあるようだった。
「ちょっと出てみましょう。方角だけでもつかめたら、もう少し何とかなるわ」
 麗夢は、こくりと頷く二頭から、鬼童の方に視線を移した。
「ちょっと外に出てきます。鬼童さん、何かあったら教えてね。叫ぶとか念じるとかしてくれたらすぐ判るから」
「判りました。気を付けて下さいよ、麗夢さん」
 夢見の前に危険の可能性を指摘されていた鬼童は、少し緊張した表情で麗夢に言った。麗夢はにっこり微笑むと、そのまま軽く床を蹴った。途端に麗夢の身体がふわっと浮き上がりながら、透明感を増して宙に溶けていく。アルファ、ベータも後に続いて、次々と宙に消えていった。鬼童はそれを見送りながら、一緒についていきたい衝動を抑えるのに苦労した。麗夢と一緒に、と言うのも重要な一点だが、それよりもいわゆる夢の世界の外側がどのようになっているのか、純粋な好奇心をかき立てられたのである。いわゆるユングの唱える集合無意識へのルートが、あの麗夢達が消えていった向こう側にある。宗教的に言えばそれは、神への道にも繋がるだろう。そこに一体何があり、どんな事象が渦巻いているのか。知りたい。たとえどんな犠牲を払っても・・・。
「そんなに見たいのか? 死の世界が」
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そろそろ本格的な連載企画に挑戦するべきときが来ているのかもしれません。

2007-10-08 23:03:49 | Weblog
 今日は雨の1日だったようですが、ほとんど外に出なかったためにどれほど降ったのか、あるいは降らなかったのかを知ることもありませんでした。昨日思いつきで遠出したためか、今日は一日怠惰に過ごすことを心身が要求したようです。明日から10月中旬の忙しい日々が始まるわけですが、その前に走りきるためのエネルギー充填期間、ということで、今日の怠けぶりを自分なりに許可した次第です。
 とは言え何もしないというのは結構辛いものがあるので、結局積んどいた本を読んだりコミックスを開いたり録りっぱなしのビデオを観たりすることで過ごしたのですが、そうなると今度は時間が不足気味で、忙しいのか暇なのかよく判らなくなるような按配になるのが、貧乏性というものなのでしょうか。
 それはそれとして、とりあえず3連休でしたので、「ドリームジェノミクス」を今日も更新してみました。序盤から中盤に差し掛かる、起承転結で言うところの承の部分の導入部、物語が動き始めるあたりになります。ただ、分量が多いため、この第4章はおよそ2千字づつ4分割することにしました。こうしてわけた方が読みやすいのか、あるいはもう少し内容をまとめた方がいいのか判りませんが、もともと分割連載を意識して書いたわけではありませんので、やっぱり読み物としては少し無理のあるやり方なのかもしれません。昔々、新井素子がデビューしたての頃に連載モノをやることになって、連載など全く未知の領域だったために結局1本丸々書き上げてから分割して出していった、というような話を、その本のあとがきだったか、あるいは他のエッセイか何かだったかで読んだことがあるのですが、ちょうどこれまでの私はそんな状態を続けている、といえるでしょう。その後新井素子も次第に書くことに慣れて連載企画もこなせるようになったそうですが、そろそろ私もこういう過去の遺産で食いつなぐだけでなく、新作を連載するようなことも考えていくべきなのかもしれません。
 連載というのは基本的に直しをいれにくいですし、分量も一回一回適度にそろえていく必要があり、このように一本書き上げるのと比べ、同じクオリティを維持しようとすれば、かなりハードルが高いというか、今の自分にはほとんど不可能じゃないかと思ったりもいたします。でも、そういうのにも挑戦していくことがステップアップにもつながるのでしょうし、その為にこうして毎日一定量の文章を書き綴ってきたともいえますし、そもそも失敗してもそう怖くないという面もあり、ともかくもやる価値はあるように思います。
 とりあえずもう少し態勢を整え、今年最後の試みになるか、あるいは来年の新企画になるか、という予定で新作の設計を固め、本気で挑戦してみようと思います。
ちと無責任ですが、乞うご期待! と今のうちは言わせていただきましょう。

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