かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

ほんの軽い気持ち出始めた話でも、楽しめる話になったんじゃないかと思います。

2009-07-19 22:35:25 | Weblog
 もうすぐ学校は夏休みに入ろうと言う時期なのに、まだ梅雨が明けません。今日も一日雲が多く、蒸し暑い昼間でしたが、夜になって雨が降り出し、ずいぶんしっかりと、本格的な降りになってきました。天気予報を見ると、どうやら明日の昼まで降るのだそうです。その後も雨マークが目立つ週間天気予報になっていて、まだ当分梅雨が明けそうにありません。あんまり雨が降った、と言う記憶も無い梅雨ではありましたが、こういつまでも雨続きと言うのは、ちょっと気になる夏になりそうです。そういえば、初めて奈良に引っ越した平成5年の夏は、いつまでも雨が続き、結局梅雨明けしないまま夏が過ぎていった珍しい年でしたが、今年はそれに習うような年になったりするのでしょうか?

 さて、連載小説「アルケミックドリーム 向日葵の姉妹達 第9章 亀裂」 が終わりました。ここまで比較的のんびりゆっくり進行してきたお話も、この後は急転直下の大活劇に移行して行きます。いよいよクライマックスですね。少し直したい部分もところどころありますので、気合を入れなおして見落としなど無いようにしっかり固めて行きたいです。
 一方、「亀裂」の中でもこの最終節は、ほとんど直しが必要ありませんでした。原作設定どおり、「命」を理解できない「お姉さま」の仕打ちに初めて反発するシェリーちゃん。話が行き詰っていたときに思いついた本作の主題を浮き彫りにする今日の話は、恐らくこの作品全体の中で、一番検討に検討を重ね、何度も書き直しを繰り返した部分だったからでしょう。といって、けして筆が進まなかったのではなく、少しでも主題が浮き彫りになるよう、かえってどんどん進んでしまう筆を抑えつつ、一字一句大事に書くようにしたつもりの部分だったために、今見てもほぼ直し無しでそのままアップできたのだと思います。
 それにしても、私がそもそもシェリーちゃんを話の軸にすえようと考えたのは、単に「ローマの休日」を大阪を舞台にやってみたかった、というごくごく単純な動機からスタートしたのですが、その相手役に「お姉さま」を選んだのは、比較的年齢が近く、行動的な性格で、背景設定からも色々お話を作りやすいだろうと思ったからです。もともと原作シリーズにはシェリーちゃんに近い年齢の男性キャラはほとんどいませんし、それにそもそも「マリみて」をやってみたかったわけですから、「ローマの休日」だからと言って男女のカップルにしようと言う発想ははなからありませんでした(笑)。それがこれだけ自分にとってのお気に入りの話になるのですから、きっかけと言うのはなかなか馬鹿に出来ないものです。
 次の小説も、できればそういうお話に成長してくれたらいいな、と思うのですが、こちらは想像以上に筆が進まず、難航を重ねているのが困ったところです。

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09 亀裂 その4

2009-07-19 09:50:49 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
「これを?」
「今日一日付き合ってくれたお礼よ」
 お姉さまは、私の手にビニールの口を絞っているピンクの紐をかけようとした。私はその手を一旦拒んで、お姉さまに言った。
「でも、私いただいても困ります」
「どうして?」
「私、飼ってあげられないし、第一持って帰ることもできないわ」
 私は旅行者なのだ。食べ物ならともかく、生き物を連れて歩くわけには行かない。その事を説明すると、お姉さまは耳を疑うことを言った。
「なんだそんなこと? 邪魔になったら、捨てちゃえばいいのよ」
「えっ?!」
 私が目を丸くしてお姉さまの言葉を受け止めかねていると、更にお姉さまは私に強烈な一撃を見舞った。
「それに、夜店の金魚って弱いからすぐ動かなくなるわ」
「そ、それって、死んじゃうって事?」
「うーん、良く判んないけど……。どうしたの暗い顔しちゃって?」
 私はさっき円光さんに顔色が悪いと言われたが、きっと今はもっと悪化しているだろう。それに加えて金魚のことを思うと、気分が落ち込んでくるのを止められない。
「……そんなの、可哀想だわ……」
 でも、お姉さまには一向に私の気持ちは通じそうになかった。お姉さまはきょとん、としたまま、なんで? と私に言ったのだ。私はつい意地になって、お姉さまに言った。
「だって狭いところに押し込められて、散々子供達に追い回されて、あげくにすぐ死んじゃうなんて、可哀想と思わないの?」
 でも、お姉さまの関心は、私とは随分ずれていた。
「シェリーちゃん、この金魚がそんなに大事なの? それなら動かなくなったら、クローンでも作ってまた動かしてあげるわよ」
「違うよ、そんなのじゃない。判らないのお姉さま。死んじゃうのよ。おもちゃの電池が切れるのとは訳が違うのよ」
「同じじゃない。壊れたら直す。直せなくなったら捨てる。そんで、必要なら同じ設計図と部品でまた作る。生物もおもちゃも、理屈は同じよ」
 お姉さまの屁理屈に、私は次第に気分が高ぶってきた。
「同じじゃない! 命はそんな簡単なものじゃないわ! じゃあもし私がここで死んだら、お姉さまは悲しくないの?」
「びっくりはするけど……、すぐ細胞を採取してクローンを作るから平気よ」
 あまりに平然と答えられ、私は絶句した。そんな私にお構いなく、お姉さまは呟いた。
「ま、それはともかく、シェリーちゃんはこれいらないって事ね。私も別に欲しい訳じゃないし」
 お姉さまは金魚の入った袋の紐に人差し指を通すと、突然ぐるぐる大車輪のように袋を回し、勢いが付いたところで袋を放り投げた。
「あっ!」
 思わず悲鳴を上げた私は、その袋がどんぴしゃりですぐ側に設置されたゴミ箱へ飛び込むのを見た。私は思わず駆け寄って、ゴミ箱の中に手を突っ込んだ。汚れた割り箸や発泡スチロールのトレイがあふれる中、重量のあった袋は結構奥まで飛び込んでしまったらしい。私は必死でゴミを掻き分け、そのピンクの紐の付いた袋を求めた。
 あった!
 私は袋の紐を掴んで引っ張った。でも、私の努力は及ばなかった。袋の中身は飛び込んだときの衝撃で既にゴミ箱に飛び出し、肝心の金魚は、その下にたまたまたまっていたソースの海に飛び込んで、二、三度尻尾を跳ねていたのである。
 私は改めて手を入れて金魚をゴミ箱から救い出したけれど、私の掌でぴくぴくしていた金魚はすぐに動きを止め、揺すっても叩いてももう二度と動くことはなかった。
「駄目じゃない。汚れるわよ」
 お姉さまはのんびり私に呼びかけた。その様子に、私の頭は、たちまち血が上った。
「お姉さま、何て事を……」
「いらないって言うから捨てただけじゃない。ちゃんと分別は守ったわよ」
「そんなこと言ってるんじゃない! この子はこれでも一生懸命生きていたのよ? それを、それを貴女は勝手に無理矢理止めちゃったのよ! それがどれだけ罪深いことか、判らないの?!」
「わ、判らないわよ!」
 とうとうお姉さまも怒鳴り返してきた。私は、私の言葉がお姉さまの地雷を踏んだことに気づかなかったのだ。
「さっきも言ったでしょ! 死んじゃったのが惜しいなら、クローン再生でも何でもして生き返らせればいいのよ!」
 でもこの時、私も疲れで余裕を無くし、怒りで心が暴走して、お姉さまの突然の変化に驚いたり訝しく思ったりすることが出来なかった。私はお姉さまの声に倍する勢いで、言い返した。
「じゃあこれまでこの子が生きてきた時間は?! 楽しかったり悲しかったりした記憶や経験は?! この子の生きてきた価値は取り戻せると言うの?! そのクローンがお友達やお父さん、お母さんに会ったときに、前に生きていたときと同じように仲良く出来るの?!」
「そ、そんなこと……、そんな、事……」
 お姉さまの様子がおかしい、と気づいたのは、言いたいことを叫んでようやく私の心が余裕を取り戻したときだった。でも、それは少し遅かった。ひょっとしたら、電車の中で叫んでいた麗夢さんは、このことを教えてくれていたのかも知れない。もう、文字通り後の祭りだけれど……。
 お姉さまは見る間に狼狽し、頭を抱えてしゃがみ込んだ
「そんなこと判んない……。判らないわ……。私……、私……」
 冷静さを取り戻した私が、お姉さま? と呼びかけようとしたとき、お姉さまの様子が変化した。それは、まるで電気のスイッチをぷつん、と切り替えたかのような、劇的な変化だった。
「私の捜し物はお前だ」
 お姉さまはすっくと立ち上がると、抑揚のない平板な声で私に言った。何時もはじけるような笑顔を浮かべていた顔も目も、今は全く笑っていない。いや、あらゆる感情がその表情から抜け落ちた、仮面のような顔で私を見つめている。
「もらうぞ、そのデータ」
「な、何を……」
 思わず後ずさりした私の背後で、切迫した円光さんの声がはじけた。
「シェリー殿離れるんだ!」
 しかし、私の視界はその瞬間漆黒に塗りつぶされ、お姉さまも円光さんも見えなくなっていた。
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