平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

頭文字D

2007年03月16日 | コミック・アニメ・特撮
 「頭文字D」の主人公・藤原拓海。
 実に昼行灯、ぼんやりとしたキャラクターだ。
 そんな拓海が実はすごい走り屋、そのギャップがキャラとして惹きつける。

 峠での高橋啓介との闘い(ハチロク対FD-3S)はこう。
 まず啓介のFDは350馬力にチューンアップしたもの。
 絶妙のクラッチミートのせいもあり、スタートの直線では「ハチロクのフル加速など止まっている様にしか見えない」形で引き離す。
 さらにFDは国産最強のコーナリングマシーン。
 カーブでもハチロクを引き離すだろうとみんなが思う。
 啓介も「遠慮はしねーぜ。二度とバックミラーに映ることはねえ」と思う。
 しかし拓海はガードレールのライン5センチと離れていない曲がりでカーブをクリア。
 啓介のFDとの距離を縮める。
 先入観を裏切った時、キャラが立つという見本だ。
 それは他の人物たちのリアクションで描かれる。
「すんげー、なんだ。あのハチロク!すごいスピードでケツ流しながら突っ込んできて、わけわかんない速さで抜けていく」
「見ている方がゾッとするぜ。いつすっとんでもおかしくねぇ。秋名にあんなハチロクいたっけ?」
「あいつ、つっこみ重視のとんでもねえカミカゼ走法だ。下りの恐怖を感じる感覚が欠けているんじゃないのか?あのドライバー」
 闘っている啓介も焦る。
「追いつかれた……。何が起こっているんだ。気が変になりそうだ」
 そして啓介の兄・涼介のリアクション。
 啓介よりも格上の人、ゲームで言えばラスボスだ。
 ひとしきりハチロクの戦力分析を語らせておいて、涼介にこうコメントさせる。
「だからといって啓介が負ける理由は見つからない。そんなことがあるとすれば、ハチロクのドライバーはオレの理解を遙かに超えたところにいるというわけか?」
「モンスターなのはクルマではなく、ドライバー」
 最高の賛辞だ。
 こうして賛辞をどんどん増幅させて語らせると、キャラクターが立ってくる。
 いかにリアクションを描き分けることが出来るか?
 これは作家の力量に関わる。
 描き分けが様々にできる作家がやはりヒット作を描ける。

 そんなふうにまわりがヒートアップする中、「モンスター」の拓海。
 いつもと変わらない。
 ぼんやりしている。
 拓海は前を走る啓介を見てこう思うだけだ。
「前よりスキがなくなっている。ずいぶん上手くなったな、このドライバー」
 通常なら、対戦相手やまわりが熱くなるに従って、主人公も熱くなるものだが、この主人公・拓海は変わらない。
 これが拓海を個性的な主人公にしている。
 そして、拓海は「抜かねーと、やっぱ勝ったとは認めてくれねえだろうな、あのクソおやじ。しょーがねー、アレをやるか」とボツリと言って、あっと驚く得意技で啓介を抜き去る。
 この得意技・必殺技を持っているというのもヒーロー型主人公の条件だが、やはりここで重要なのは、なかなか心に火のつかないヒーロー像だ。
 啓介との闘いを終えて、ガールフレンドと海に来ていた拓海は思う。
「前を走るRXー7がどんどん近づいてきて、気がついたらワクワクしながら追かっけていた。……クルマって結構いいよな」
 側にいたガールフレンドには「失礼だよねー、拓海くんて。こんなカワイイ子がとなりにいるのに放っておいて、自分の世界に行くぅ?」と言って注意されるが、拓海の心に火がついたのは、「……クルマって結構いいよな」程度である。
 まわりは拓海を倒すのはオレだ、と熱く燃え上がっているのに。

 主人公の立て方に定石はあるが、その定石を崩したところに新しさが生まれる。
 実に面白い。


コメント
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