目の前にある現実をどう解釈するか?
この作品はそういう小説。
小田理美の目の前で起こる奇怪な殺人事件。
ひとつは理美が子供の頃。
雪の降る神社の境内で父親が死んだ。
死因は転落死。警察がそう判断理由は、雪の上の足跡。
雪の上の足跡は父親のものと、第一発見者の理美のものだけだった。
しかし、生前に父親が何かに怯え逃げようとしていたことから他殺の可能性も捨てきれない。
2番目の事件は連続殺人事件。
場所は理美の自宅の地下。
実はそこには巨大な地下研究所が存在した。
それは旧日本軍が作った研究のための地下施設(ここで旧日本軍は人体実験を行なった)。
幼かった理美は知らなかったが、ある研究をしていた理美の父親はこの地下施設に目をつけ、その上に自宅を建て、地下で自分の研究をしていたのだ。
そして十年後。
理美が大人になった時、弁護士と父親の同僚だった男たちが現れ、「地下室にお父さんの残した研究資料があるかもしれないから」と言って、地下研究所を調べ始める。
そこで連続殺人事件が起こる。
物語はこれらの事件をどう解釈するか、という形で描かれていく。
まずは合理的解釈。
理美の友人でもある探偵役の安藤は、理美の語る事実の断片を繋ぎ合わせて、父親殺しと地下での連続殺人事件を解釈する。
ネタバレになるのでその詳細は書かないが、それはかなりの奇想。
空を飛ぶ理美の父親。
動く地下通路の階段。
他にもあった隠し部屋。
その推理自体がぶっ飛んでいて実に楽しい。
だが、作者はそうした合理的解釈の他にもうひとつ別の解釈を提示する。
それは透明人間がすべてやったこと。
理美の父親は「人を透明にする」研究を行っており、透明人間が一連の殺人を行ったことという解釈だ。
推理小説は目の前の現実をどう解釈して犯人を特定するかという小説ジャンルだが、探偵役の安藤が提示したものとは別に、実に空想的な解釈を提示した所が面白い。
そのふたつの解釈のどちらを選ぶかは読者に委ねられる。
そして主人公の理美。
彼女は透明人間説を信じる。
理美は孤独な女性であったが、透明人間が自分の側にいて守ってくれていると思うことで救われる。
自分には見守ってくれている人がいると思えることで救われる。
作者はこの透明人間説を提示することによって、理美の心のドラマを描き出すことが出来た。
この点が実に興味深い。
思えば、人間の精神の営みもこれと同じ様なものである。
例えば、ある自然現象を物理現象として捉えるか?神が起こしたものとして捉えるか?
例えば、恋人との出逢いを数学的な確率の結果生まれた偶然と捉えるか、運命によって導かれたものとして捉えるか?
例えば、何かの判断をする時、合理的な理由で結論を出すか?占いの様なもので結論を出すか?
そして多くの場合、理美がそうであった様に合理的でない後者の方が人の心は救われる様だ。例えば恋人との出逢いを数学的な確率の問題と捉えるよりは運命の出逢いと捉えた方がワクワクする。
この様に合理と空想といった視点から、殺人事件を解釈してみせたこの作品。
ある意味、推理小説の新機軸であるとも言える。
★追記
自宅の地下に存在した地下施設というのは実にロマン溢れる設定だ。
★追記
主人公の理美は孤独で誰にもその存在を認められない人間。
その孤独ゆえ彼女は何度も自殺を企て、また人に顧みられない自分を「透明人間」ではないかと思ってしまう。
作品中、こんなエピソードがある。
理美が歩いているとティッシュを配っている人がいる。
自分が透明人間ではないかと思っている理美はティッシュをきっともらえないだろうと思ってしまう。
果たして理美はもらえないのだが、こんな何気ない日常の出来事で主人公の心象を描いてしまうのは優れた作家の感性だ。
この作品はそういう小説。
小田理美の目の前で起こる奇怪な殺人事件。
ひとつは理美が子供の頃。
雪の降る神社の境内で父親が死んだ。
死因は転落死。警察がそう判断理由は、雪の上の足跡。
雪の上の足跡は父親のものと、第一発見者の理美のものだけだった。
しかし、生前に父親が何かに怯え逃げようとしていたことから他殺の可能性も捨てきれない。
2番目の事件は連続殺人事件。
場所は理美の自宅の地下。
実はそこには巨大な地下研究所が存在した。
それは旧日本軍が作った研究のための地下施設(ここで旧日本軍は人体実験を行なった)。
幼かった理美は知らなかったが、ある研究をしていた理美の父親はこの地下施設に目をつけ、その上に自宅を建て、地下で自分の研究をしていたのだ。
そして十年後。
理美が大人になった時、弁護士と父親の同僚だった男たちが現れ、「地下室にお父さんの残した研究資料があるかもしれないから」と言って、地下研究所を調べ始める。
そこで連続殺人事件が起こる。
物語はこれらの事件をどう解釈するか、という形で描かれていく。
まずは合理的解釈。
理美の友人でもある探偵役の安藤は、理美の語る事実の断片を繋ぎ合わせて、父親殺しと地下での連続殺人事件を解釈する。
ネタバレになるのでその詳細は書かないが、それはかなりの奇想。
空を飛ぶ理美の父親。
動く地下通路の階段。
他にもあった隠し部屋。
その推理自体がぶっ飛んでいて実に楽しい。
だが、作者はそうした合理的解釈の他にもうひとつ別の解釈を提示する。
それは透明人間がすべてやったこと。
理美の父親は「人を透明にする」研究を行っており、透明人間が一連の殺人を行ったことという解釈だ。
推理小説は目の前の現実をどう解釈して犯人を特定するかという小説ジャンルだが、探偵役の安藤が提示したものとは別に、実に空想的な解釈を提示した所が面白い。
そのふたつの解釈のどちらを選ぶかは読者に委ねられる。
そして主人公の理美。
彼女は透明人間説を信じる。
理美は孤独な女性であったが、透明人間が自分の側にいて守ってくれていると思うことで救われる。
自分には見守ってくれている人がいると思えることで救われる。
作者はこの透明人間説を提示することによって、理美の心のドラマを描き出すことが出来た。
この点が実に興味深い。
思えば、人間の精神の営みもこれと同じ様なものである。
例えば、ある自然現象を物理現象として捉えるか?神が起こしたものとして捉えるか?
例えば、恋人との出逢いを数学的な確率の結果生まれた偶然と捉えるか、運命によって導かれたものとして捉えるか?
例えば、何かの判断をする時、合理的な理由で結論を出すか?占いの様なもので結論を出すか?
そして多くの場合、理美がそうであった様に合理的でない後者の方が人の心は救われる様だ。例えば恋人との出逢いを数学的な確率の問題と捉えるよりは運命の出逢いと捉えた方がワクワクする。
この様に合理と空想といった視点から、殺人事件を解釈してみせたこの作品。
ある意味、推理小説の新機軸であるとも言える。
★追記
自宅の地下に存在した地下施設というのは実にロマン溢れる設定だ。
★追記
主人公の理美は孤独で誰にもその存在を認められない人間。
その孤独ゆえ彼女は何度も自殺を企て、また人に顧みられない自分を「透明人間」ではないかと思ってしまう。
作品中、こんなエピソードがある。
理美が歩いているとティッシュを配っている人がいる。
自分が透明人間ではないかと思っている理美はティッシュをきっともらえないだろうと思ってしまう。
果たして理美はもらえないのだが、こんな何気ない日常の出来事で主人公の心象を描いてしまうのは優れた作家の感性だ。