平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

太陽を盗んだ男~目的を失った青年の漂流

2012年10月02日 | 邦画
 原子爆弾を作ってしまった男・城戸誠(沢田研二)。
 職業は中学の物理の教師。
 この城戸の行動が面白い。
 何しろ自分が何をしたらいいかわからないのだ。
 普通、原爆という圧倒的な力を持ったら、国家を脅迫して金を求めるとか、獄に繋がれている仲間を釈放しろとか、何らかの目的を持った要求をするはず。
 しかし、城戸に目的はない。要求は行き当たりばったり。
 たとえば最初の要求は<9時で終了する野球中継を最後まで放送しろ>。
 何というか日常的な要求だ。
 二度目の要求はDJ・沢井零子(池上季実子)の意見を取り入れて<ローリングストーンズの日本公演を行うこと>。
 ここに自分の意思はない。
 三度目の要求でやっと<5億円をよこせ>という実利的なものになるが、これも城戸が借金取りの取り立てにあって、たまたまお金が必要になったから。

 このように城戸の行動は無軌道でハチャメチャだ。
 そこにあるのは、目的を失って漂流している孤独な若者の姿だ。
 彼にはイデオロギーも理想も夢もない。金や地位や女といった現世利益も求めない。
 ただ目の前に起きることに流されて生きているだけ。
 唯一、彼が求めていることと言えば、生きている実感か?
 だから城戸は刑事・山下満州男(菅原文太)との対決を求める。
 山下と追いつ追われつの攻防をしている時だけ、目を輝かせる。刺激を感じる。
 城戸は完全な虚無だ。
 そんな彼だから、ラストの行動もうなずける。
 ネタバレになるので書きませんが、彼がラストに行うのは究極の虚無の行動。

 しかし、それにしても城戸の虚無はどこか心地よい。行き当たりばったりには自由な感じがある。
 お金やイデオロギーの目的の行動は、すでにお金やイデオロギーに縛られているということ。
 行動に<意味>を求めた時点で、人は自由でなくなる。


※追記
 この作品のベースにあるのは、ゴダールの『勝手にしやがれ』だろう。
 そう言えば、沢田研二さんの歌にも同名のものがあった。
 それから水谷豊さんや西田敏行さんがチョイ役で出ているが、彼らもあの頃は若かった!


コメント
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